異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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※さて囚われ日和4









ぼんやり微温い湯に浸かっていると監視役としてなのか、ナインがバスタブへと足を入れてきた。
薄暗い浴室の中、ほのかな灯りで褐色の肌が何とも艶かしい。

伸ばしてきた手を眺めていれば、触れられる頬。
驚く此方を気にせず、指先が顎から首にと移動していく。濡れた唇が近づいてくる。

「…んっ」

重なる唇に抗うことも無く、柔らかな感触を楽しむ。目を閉じたナイン。唇の隙間から覗く赤い舌が此方の口内に侵入する。自然と絡み合う舌同士が、厭らしい音を響かせる。

どちらとも無い荒い呼吸が聞こえ始めた頃、ナインの指先が此方の手に触れた。
口付けに夢中になっていたアルフレッドを引き戻すのは、手の平をなぞる感覚。指でゆっくり同じ動きを繰り返している。

これは、何かの文字か?

舌を絡ませ合いながら、思案を続ける。
離れた唇を繋ぐ透明の一筋。情欲を煽る赤みの差した頬、意味あり気な視線に首を横に振る。

まだ、文字を理解していない。
でも、相手の意図は読める。性行為を盾に、何かを伝えようとしてくれているらしい。

…えーっと。何の字だ?動きに集中しろ。
うっ…エロ過ぎる。

こんな状況でだが、身体は勝手に興奮してきていた。
内心でハレムの者達に謝りつつも、芯を持ち上向く陰茎に気付き自嘲しそうだ。

指の動き…いや、何か擽ったいな。
待て待て。頑張ってくれてるんだ、集中しろ。
バルディオスっぽい気がする。
よし、一文字目は分かった。

繰り返してきた動きに一度頷き、今度は此方から口付ける。顎を掴み深く舌を絡ませた。
二人の息遣いと水音が響く中、少し強めに胸元を押されて抵抗を示される。「ごめん」と慌てて唇を離すと、肩で息をしながらキッと此方を睨んでくる。

え…可愛いな。

ナインは眉を吊り上げ怒ったまま、また手の平に文字を指で形作り始める。
微温いお湯の温度など気にならない程、相手の火照った顔と身体を眺める。指で文字を書くのに夢中で気付いていないようだが、胸の中心で色付く桃色を視界で堪能していたりする。

うんうん、絶景ぜっk…集中しろ俺!

文字を理解したら頷き、理解出来ていない時には頭を横に振りもう一度繰り返してもらう。
入口の見張りや監視している者へ誤魔化す手段として、触り合いをしながらそれを行っていく。

ふむ。大体分かったかも。
『おまえはれむのものがいる』

お前ハレムの者が居る。
え。それって。

ナインから手を離す。昂っていた身体の熱が、温度が下がった気がした。じっと此方を見つめる相手に、聞きたい事を声に出してはならないのだと思い出す。

ファビアンは居ないと言っていた。
エドウィン?ラティーフ?
人質として利用するなら、ジレスとチコじゃないよな。
そういえばネコの人質を分かっていなかった。
昨日世話をしに来た子に、もう一度聞いてみるか?

『手伝ってくれてありがとう、そろそろ上がるよ。』
『ワカッタ。』

バスタブから上がると、手触りの良くないタオルで身体を拭かれる。

「っ待った!自分で出来るから!」
『…ナニデ嫌ガテル?ダマアテ拭カレエロ。』

共通語が通じない事を忘れていた。
タオルを奪おうとするが、憮然と此方を見上げられる。拒んだ事で、無表情気味のナインの雰囲気が変化する。だが、流石にそこまでされるのは恥ずかしさがあった。

『自分で拭くから離してくれ。』
『サワグナ。ナニモシナイカラ、動クナイテル。』

あーもう!何か勘違いしてるのか?!
確かに、自分で自分の事をするタチは少ない。世話をされるのは当たり前だ。でも、俺は基本的に人の手は借りない。それが一般のネコの認識とズレるのだろう。

諦めて抵抗を止める。
丁寧に拭われる全身。終えるとその場で座らせられ、後ろから髪を拭かれていった。優しい手付きは、自分の状況が不思議に思える程。…因みに尻は割と痛い。

『オエタ。』
『ああ、ありがとう。』

感謝の言葉に反応は無く、服を着ようと立ち上がりかける。腕を引かれ、また床に引き戻された。うん?
振り返る間も無く、後ろから回された腕。後ろの首筋に埋められる顔の感触。唇の感触の柔らかさに心臓が跳ねる。

何も言わずに相手の様子を伺う。
ぐりぐりと顔を押し付けられる。一回、二回…と唇が首から耳へと押し付けられる。

まだ、伝えたい事があるのか?
背中に回された腕の力が強まり、耳の近くで息遣いを感じた。

『シヌノ…ダメ。』
「?!」

か細く吐き出された声。
驚く暇も無く、素早く立ち上がったナインは常と変わらぬ無表情だった。アルフレッドの衣服を手に取り、無言で着替えの手伝いを始めてしまう。
目を合わせようとするが、徹底して合わない視線。

『あの、』
『オエタ。牢ニモドル。』

さっさと入口へ向かう背中に、分かった…とだけ返す。

待機していた監視役が姿を現し、行きと同様に火傷痕のネコが先導する。暗闇の道、背後に居るだろうナインの態度を思い返す。
あの声だけは、本心かもと思う。

うん。…死なないように頑張るか。

元の場所に戻り、大人しく錠を繋がれる。
目で何やら訴えてくるフレデリクに気付かぬ振りで、監視役が去ったのを確認しておく。

うん?何か視線を感じるな。

側に居る火傷痕の子と目が合うついでに、柔らかい笑顔を意識して問いかける。

『そういえば、昨日来たフェムは次いつ来るんだ?』
『…っ。』

目を見開き一瞬言葉に詰まる相手。
次の瞬間には、感情の無い淡々とした口調で返してくる。

『モウコナイデス。』
『?そっか。』

役割が変わったのかな。深く追求せずに頷く。
この子の火傷痕や身体も痛々しいが、フェムの目玉が無いのも気になった。
もしもどうにか此処から出られたら、あの子だけでも一緒に連れ出せないかな。





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