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一筋の光

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空に腹が立った。なんであんなに綺麗なんだよ。
街に腹が立った。なんでそんなに汚いんだよ。
君に腹が立った。なんで僕の気持ちに気付かないんだよ。
僕に腹が立った。なんでこんな僕になったんだよ。

いつも同じ時間に起きて、同じ道を歩いて、
同じ電車に乗る。
何も変わらない毎日。17の僕には刺激がなさ過ぎる。満員電車の中でみんな何を考えているんだろう。よく似合っている背広を着ているオトナは仕事について考えているのかな。ブランド品に身を纏ったおばさまは何を考えているんだろう。自分が幸せな理由を考えているのかな。僕は?僕は。僕は何を考えているんだろう。
君は?イヤホンもつけず、ずっと電車のドアのガラスから住宅街しか見えないはずの世界を君は何を考えているの?君だけは想像がつかない。多分僕と同じ年の、君は?
君を初めて見たときは、この電車の中だった。中吊り広告とか、よく光っている蛍光灯の下で、みんなグレーとか真っ黒の人しかいないこの電車の中で。この綺麗でも汚くもない、何も面白くない電車の中だった。君だけが白かった。光っていた。僕は君に毎日欲しがっていた刺激を全て奪われた。
どこの学校なのかな、どこに住んでいるのかな、名前はなんて言うのかな、どんな声なのかな、笑ったらどんな顔なのかな、彼氏はいるのかなとか。
知りたいし、聞きたいし、教えて欲しかった。でも君はその小さな口を開いたことは今まで一度もなかった。いつもドアのガラスの中に広がる同じような家たちをずっと見ていた。僕はガラスに反射する左右反対の君と、君本体をずっと見ていた。
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