碧ヶ岳の気まぐれな短編特集

碧ヶ岳雅

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雪の夜

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 雪が深々と降り積もる。もう二月だというのに、今宵も此処等一帯は寒くなりそうだ。とある邸に住んでいる少女は何を思ってか窓を開け放ち、一寸の光も見出されない曇り空に、憂いを帯びたその眼差しを向けた。
 少女の美しさは、月光に照らされなくてもわかり、あと十年も生きたらこの都市で一番の美女になるだろう、と誰もが思うであろう容姿である。儚げな印象の碧い瞳の中には、まるで天才画家が描いたような雪景色が埋め込まれており、その瞳を縁取る長い睫毛は、いささか尋常ではないーそう、「白睫毛」と呼ばれるような色をしていた。同じく一雫でも水滴を落としたら消えてしまいそうな薄い金髪の髪には、深い藍色をしたヘアーバンドが収まっており、肩まである、今にも踊り出しそうなくるくるの癖っ毛をなんとかまとめていた。
(どうして雪って、こんなにも儚げなのかしら)
 この世の惡い事を一切映さない少女の眼に、ふわふわと宙を舞う雪が映る。少女が少し目を止めたその雪は、そのまま重力に誘われ、クリスマスローズの花弁に落ちていった。
 今宵は眠れそうにもない。少女は窓枠に置いていたココアを一気に飲み干し、履物の音を立てないよう慎重に慎重に階下へ降りていった。
 人気のない邸の廊下を少女の履物の音が木霊す。少女は、頑固なメイド長にこの「悪事」ー少女にとっては、だがーがばれやしないかひやひやしながら、ヘアーバンドと同じ色をした寝巻きを着た腕を抱き抱えた。
 キィ…と音を立てて軋む、重い扉を押して外に出た。途端に寒さが少女を襲う。少女は一度邸の中に入って、傍にあった姉の暖かそうなコートを羽織って再度「悪事」に勤しんだ。
「わぁ…!」
 思わず声を出す。美しい景色が、美しい少女の瞳に映った。
 少女はまず、自身の一番近くにあった噴水のそばに駆け寄った。凍るように冷たい水がまだ凍っていないのは、ずっと噴水から水が流れているからだ。少女は古い陶器のように艶やかで白い肌をいくらかあからめ、噴水の周りに植えてある、春になると美しくその花を咲かせるラベンダーの葉に触れた。霜と雪が混ざった冷たい結晶がとけ、雫となり雪が積もった芝生の上に落ちる。雫が落ちたところを中心に、円形の形で雪が溶けた。まだ小さい子葉が顔を出す。少女は微笑み、少女の父親が好んで作らせた池に向かった。水面が凍っている。まるで白い陶器に色がついたかのような、赤くなった自分の鼻頭に少女が驚く。池のほとりで綺麗に咲いたアネモネの花を一輪とり、少女は自身の髪に差した。アネモネのそばの雪をどけると、霜が降りたクローバーが顔を覗かせた。四葉のクローバーがある。少女は顔を輝かせ、ポラロイドカメラを取りに邸に戻った。
 四葉のクローバーをレンズに収めた後、かわいらしく花を咲かせていたアイスランドポピーも一枚写真を撮った。最後、少女が庭の全景を撮る。パシャ。シャッター音が、いくらか満足したような少女の耳にも届いた。
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