拾いモノが酷い件

冬派こたつ

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1 人間を拾いました

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 時は夕暮れ。久しぶりに大きな仕事をこなした帰り道のまさにその先、空から人らしき物体が落ちて行くのを目撃した。
 常ならば、迂回をしていただろうが、生憎、早々に帰宅したかったオレはそのまま道を辿ってしまった。後悔先に立たず。空から落ちたと思われる物体は、服装から冒険者と思われる男で、無様にも地面に伸びていた。
 無視して進めば良かったのだろうが、男の横を通り過ぎようとしたその時に、急に足を掴んできた。体幹は鍛えられているので、その程度でよろけたり等は無かったが、足で手を踏み潰す殆ど冷酷に慣れず振り返る。
「何のようだ?」
 問うと、男は顔を上げて「それよりも聞いて欲しい!」と叫んだ。
――コイツは、ホントに何なんだろう?
 心の内に留めた言葉は、しかし、声に出してしまっても良かった気さえする。特に返事を返さずに居たが、男は立ち上がり腕を組みながら話し始める。
「実は、さっきまで俺は死んでいたんだ」
――さっき? ああ。結構高い位置から落ちていたからな。
 男の言葉に落ちていく遠目の姿を思い出す。
「だが、神様と名乗るやつが、コッチの世界で魔王を倒してくれと頼んで来てな」
「はあ……」
 思わず相槌を打ってしまったが、別にこのへんな会話に付き合う必要は無いよなと思い直す。
「それなりに強くしてくれたんだが、一人では魔王を倒せないと言われた」
――まあ、そうだろうな。
 心の中で会話し、踵を返して帰宅を再開する。
「そこで、仲間を集めろとーって、ちょっと待てぇい!」
 早歩きで男から去ろうとしたが、男が声を上げながら追いかけてくる。尚も早足で距離を取ろうとしたが、男は急にペースダウンして立ち止まる。
「だから、ま、待って、て」
 振り返り、肩で息をしている姿を目視した。どうやら、相当体力が低いらしい。
「お前、冒険者だろ? 大丈夫か? その体力で」
 頑張って息を整えている様に、何故だか同情心が湧いてきた。コチラが一切息が上がっていないからか。いや、畑仕事する農家人でも、子の体力のなさは無い。下手すれば子供以下だ。
「大丈夫く、無い。良いから。話を、聞け……」
「風邪でも引いていたのか?」
 男は静かに首を振って否定する。そのまま地面に座り込み、俺を手招く。多少の距離を保ちつつ、男に近付いた。
「あのな。あー何処まで話した? いや、良いか。俺は異世界からコッチの世界に転生? して来たわけ。で、神様が言うには、最初に出会った人を仲間にすると良いと。で、お前を仲間にしたい。分かった?」
「全っ然わからん」
 ホントにコイツは何を言っているんだろう。
「うっそ。あー。神様から何か聞いてない?」
「生憎だが、無宗教だ」
 男は頭を抱える。
「取り敢えず、魔王退治がしたいなら他を当たれ。オレは家に帰る」
 男はパタリとその場に横になる。どうしたのかと駆け寄ると、地響きに似た腹の虫が男から鳴り響く。
「腹……減った」
「そうか」とその場を後にしようとしたところ、男は「何か食べ物ない?」と図々しくも尋ねてくる。
「冒険者なら非常食ぐらい持っているだろ」
 断るつもりでそう吐くも、男は否定する。
「神様からは、高火力の必中の剣と凄い防御力とかしか貰ってない」
 基礎能力が高いなら、それだけで相当な貰い物だろうに。言うに事欠いて「しか貰ってない」とは、相当な大物か大馬鹿野郎だ。それに手を貸したコイツの「神様」とやらは、何を考えているんだろう。いや、コイツ体良く追い払われただけなんじゃ……。
 だらしない男の姿に、捨てられたペットの姿が重なる。
――流石に人間は拾う気はないが。
 仕方なく、バックに入れていた非常用の肉を男に投げつける。
「無いよりはマシだろ。もう少し歩けば人里に出る。そこでギルドなりで、仲間でも集めろ」
 男は肉を手に匂いを嗅いでから口に含む。そして、「ギルド?」と咀嚼しながら、首を傾げた。
「冒険者なら基本的に登録するべき、仕事の斡旋場だ。それも知らないのか?」
 男は肉を食いながら頷いた。その姿に、まるで動物を手懐けている様に錯覚する。
「話すより、見た方が早い。それを食ったら、案内してやるから」
 男は瞳を輝かせる。この「神様」とやらに捨てられた男と、暫く行動を共にすることとなった自身の甘さに溜息が出た。


 辺りは殆ど暗くなり、落ちていく光が最後に線上に伸びていた。暫く普通に歩いていたが、男は疲弊していき、遂には仕事道具であり「神様」から貰った剣を杖代わりに、ノロノロと歩き始める。どこの老人だと言いたくなったが、何とか持ち堪えた。
「ちょっと、休憩しよ!」
 余りにも呑気な言葉に溜息が漏れる。
「今休むと魔物に襲われるぞ?」
「うへぇ。……あ。車とか無いの? いや、その前に車とかはわかる?」
 何をそんなに心配しているのか、男は奇妙な確認事項を口にする。
「馬車や荷車の一種だろ? ここから先は山道だ。車じゃ進めない」
 男は頭を垂れて「インフラ整備してくれー」と嘆く。インフラと言う言葉の意味はわからないが、概ね道の整備とかそんな事だろう。
「早く進まないと、人里の門が閉まるぞ」
「え? 門?」
「お前が今までどこで住んでいたのか知らないが、魔物が彷徨いているんだ。人里の警備はそれなりに厳重にしてあるし、門限が決まっている」
「うええっ!? それ、後、何分?」
 オレは上着の胸ポケットから懐中時計を取り出し、時刻を確認する。文字盤は暗闇でもわかるように蛍光塗料が塗られており、現刻を5時半と知らせる。
「後、だいたい2時間半だろう。このペースだとギリギリだ」
「おお! それ、時計? 結構大きなヤツだね」
 話を聞いているのかいないのか、男は懐中時計に興味を示した。
「大きい? 時計の中では比較的小さい方だろ?」
 不自然な疑問に首を傾げる。男は思考するように黙り込み、腕を見せてきた。そこには懐中時計よりも小さく平たい時計が着いていた。小さくも精巧な時計は、作り手の技術力が以下に優れているかハッキリと示している。中の部品も相当なモノだろう。
 ただし、時刻としてはだいぶズレて12時になるところだ。
「凄いな」
 思わず口を滑らすと、男は嬉しそうに胸を張る。
「お前が作った……わけじゃ無さそうだな。何故照れる」
「え? いや、褒められたから」
「褒めたのは時計そのモノであって、お前にじゃない」
 無駄な会話を打ち切り、さっさと進もうと徒歩を再開する。
「ま、そーかもしれないけどさー」
 男はトーンを落としながら後ろから着いてくる。日は完全に落ち、周囲が闇へ染まりながら満月を連れて来た。ある程度の道先が薄っすらと見える。
 この分なら携帯トーチを使う必要はなさそうだ。
「くっら! もう、前も後ろも何も見えないんだけど!」
 後ろの男が盛大に喚く。
「暗い? 満月も出てる。明るい方だろ」
「街灯とか無いの? 暗すぎるよ!?」
――喧しい。
「……お前が今までどこで育って来たかは知らんが、街灯は人里や街の中だけだ」
「うぅわ、最悪」
 男はブチブチと文句を垂れながら、剣を付きつつ後ろを着いてくる。今更ながら変なモノを拾ってしまった。体力も無ければ、地方等の知識も無い。余程の箱入り生活だったのだろうか?
 いや。そうなのだろう。「神様」とやらに捨てられたと思っていたが、服装や武器、時計の件を考えると大事にされていたと思われる。
 ちらりと男を見やると、野鳥が飛び立つ音に驚き慌てふためき、近くの木にぶつかっては喚いていた。
――大丈夫だろうか?
 見ている限り、この男がこれから一人で冒険者をやっていけるかは、中々難しそうだと思いながら歩みを進めた。
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