拾いモノが酷い件

冬派こたつ

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「新たなる扉への道は開かれた! 魔王を倒すため立ち上がるのだ!」
 狂信者――ライオスが謎の口上を叫ぶと、漸くギルド会館を警備する傭兵が現れ、早々に摘み出した。
「……何だったんだ?」
 ポツリと呟かれたデイビスの台詞に、事の事態は全て集約されている。まるで、嵐か台風が過ぎ去った後だ。尽くとっ散らかっている。
「さあ? レッド、お前ライオスと知り合いだったか?」
「いや? 初めて見た」
 医者の疑問は、明らかに答えがわかっていた代物で、同情が含まれていた。
 実際、俺の生活基盤は、この人里とは離れた参道の自宅であり、傭兵としての稼ぎ場所は里とは反対側にあるポッケ村だ。こっち側に来るのは週に2、3日あるかないか程で、交流があるのはギルド内の知人ぐらいである。それは、この医者も今いるデイビスも周知だ。
「そりゃ災難だな」
 ウンザリした顔でデイビスがため息と共に吐き捨てる。
「何かあるのか?」
「ああ。直接は知らねぇ。噂で聞いた」
「噂?」
「隕石が落ちる日がどうのってやつだ」
 意味が分からず、医者の方を伺うもお面はデイビスを向いているだけだった。
「1週間ぐらい前に、神の粛清が人々に降り注ぐとか? 街中で散々喚き散らしたけど、結局、隕石どころか雨すら降ら無かった。殆ど同時期に、町外れに用があったヤツが、ヤツの近くを通ったら悪魔呼ばわりされて塩とか投げられたらしい」
「迷惑なのはそれだけじゃねぇよ? コーク医師が見兼ねた近所の連中に、ライオスの精神鑑定で引っ張られて行ったんだ。調べたが、どこも異常がなく、正常判定だったとか」
 医者も頷きながらデイビスに続く。
 話を聞く限り、まさに、関わりたくない人種と言うやつだ。
「ま。レッドなんて名前、他にもいるだろうが、変なのに呼ばれたんだ気をつけろよ」
 医者の言葉にデイビスが頷いた。デイビスはチラリと壁掛けの時計を確認する。
「おっと。時間だ」
「出るのか?」
「おお。門の前で待ち合わせして、ディー達の故郷に向かう予定だ」
「ご苦労さん」
「道中も気を付けろよ」
「わかってる。まあ、暫くは顔も見れねぇが、旦那もロゼットさんも元気でな」
 デイビスは立上る。俺と医者はそれぞれ手を上げ、トレイを持って去るデイビスを見送った。
「で、話は変わるが、オルトロスの片首落としたの、お前なんだって?」
「ああ。だが、剣はあの男……」
「タカキか?」
「ああ。そうだ。余程の名刀なのだろうな。近接殺しの毛皮オルトロスのけがわを無視して難無く切り落とせた。そう言えば、必中の剣とかアイツは言っていたな」
 医者が考え込むように仮面の顎に手を当てて黙り込んだ。コレがひょっとこのお面でなければ、さぞ真面目な雰囲気が出ていただろうに、ひどく残念だ。
「あの剣……恐らく神器の類だ。タカキが眠った後、ちょっと調べさせてもらった。何処で手に入れたのかは不明だが、なかごに古の英雄ライリーが持っていたものと同じ名と年代が彫られていた」
「ライリーの剣? 王都の博物館に展示されているアノ巨大な剣か?」
 随分昔に訪れた展示品を思い出す。古の英雄ライリーは、この国――土地の開拓者である。元々は魔物の巣窟だったこの土地を、神から与えられた剣一本で戦い抜き開拓した。伝説ではライリーは2メートルを越える巨体で、剣は刃が太く斧に近い。戦い方もパワー型で、敵を何度も斬りつけて撲殺の様に殺したと記録が残っている。
 対して、タカキの剣は軽く薄いが、切れ味はオルトロスを斬った事でもわかるほどに鋭い。
「少なくとも、同時代に作られた同一の作者のモノだろう。伝説では神から与えられたとある以上、同一作者であるならば、ソイツも神ということになる」
「便宜上の"神"か。しかし、タカキの剣を打ったヤツが、その名義等を使って作ったって事も考えられるぞ?」
「可能性はある。が、オルトロスの件は偽の"神"では説明がつかん。あれだけの物を打てるならば、わざわざ偽物になる必要はないだろ?」
――確かに。
 言葉を飲み込む。
「アイツ、どこから来た? ホントに何も考えず拾ったのか?」
 医者はお面を被ったまま、コチラをじっと見つめる。
「それに、腕についている時計……だいぶ使い古されていた。しかし、あの技術は近未来的だ。いずれ作られるようになると予想出来るが、現時点。細かいパーツは、懐中時計が関の山だ。それでも金額的には高いだろ? 一銭も持っていないアイツが、どうやって手に入れた? 身なりは新品の物で、高く売れそうな剣や時計を持っていながらだぞ? 盗賊に襲われたのなら、身ぐるみ全て剥がされているはずだ。金だけないなんて可笑しいだろ?」
 医者の言葉を聞きながら、俺は押し黙った。彼の疑問はもっともだ。そして、その疑問の答えとなるモノを俺は男から聞いている。
 しかし、それはとてもじゃないが信じられるものでは無い。頭のおかしな話だ。医者に話したところで、俺自身が信じられないソレを、頭の良い彼が信じるとは思えない。
 医者の視線は逸れるどころか、唐突に俺の肩を押した。
「なあ? 聞いてんのか?」
「……嘘かホントか、分からない。が、アイツは、異世界転生をしたと、そう言っていたよ」
「…………………何だ、それは」
 医者が座っていた椅子の背に全体重を預け、ダラリと座る。
「ロゼット、俺はこの話を信じてはいない。ただ」
 医者は仮面を外し、改めて片手で顔を覆った。それは、俺の妻によく似た顔立ちだが、右頬には描かれた目があり、その瞳に1と数字が刻まれている。
 昔見た時は、瞳は閉じており、このカウントは4だった。
 俺は何も言えず、開きかけた口を閉じた。
――魔王の呪い。 
 古くからある双子の呪いだ。二卵性双生児でありながら、同じ顔を持つ者がいずれ魔王になると言う。巫山戯たものだ。
 そもそも、魔法使いは皆、双子である。魔法使いと言う種族は存在せず、普通の人間の中で稀に現れる。片方が魔力を持ち、片方は角が生えた異形の姿で生まれる。研究が進んだ現代では、遺伝子異常の一つとして知れ渡ったが、異業種は昔、魔物と同一視され狩りの対象にされたと言う。
 魔力を持つ方に見開く瞳魔王へのカウントダウンが付き、0になる時に異形の双子と融合し、完全な魔王へ変貌する。この呪いは、魔王が亡くなる度に、カウントが減る。
 生まれた魔王の性格は、双子の時の性格が引続くようだ。前魔王は、この国の王子達だった。自身の呪いを知るため、その前の魔王を倒した事で、カウントが0になり「魔王の呪い」が発動し変貌した。
 皮肉なことに、それによって、魔王の呪いが、何なのか、理解を広める事となった。彼らは英雄とし、討伐されることは無かったが、人里を離れ、ただただゆっくり亡くなった。
 その間に、カウントが1になった魔法使いが自殺し、この医者の数字が減ったとは聞いている。
――今の魔王が死んだら、次は……。
「…………決めた。俺、医者辞めるわ」
「………………………………は?」
 パッと顔を上げ、医者は前を向いた。
「え? いや、何をいきなり?」
「今の話を聞いて、納得した」
 医者は素早くひょっとこの仮面を被り直し、立ち上がる。何処ぞへ出掛けようとするので、俺も慌てて立ち上がった。
「納得? 何を? わかるように説明してくれ」
「何でだよ?」
「お前の魔王化は、俺の妻にも関わることだ」
「……なら、来るか?」
「どこに?」
「ライオスの所だ」
 あまりの事態だが、俺は意を決して無言で頷いた。
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