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第2章
【大学生・それぞれのふたり17】
しおりを挟む土曜日の午後。
翔真は堤防の上に座って海を眺めていた。散歩をする人もいない12月の海の、身を切るような冷たさの中、こうして今みたいに司が来るのを待っていた中学2年生の夏の日を、翔真は思い出していた。
あのときの自分は、司を取り巻く環境から救い出すなんて大層なことは考えていなくて、ただ自分がそばにいる、ということが伝わればいいと思っていた。
あの頃の自分たちは、心も身体も毎日少しずつ変化していて、声変わり真っ只中にはころころと裏返る声が出るたびにただ可笑しくて楽しくて、他愛のないことで笑い合っていたのだ。
だけど、時は流れるものなのだ。どんなに願っても、あの頃のままではいられないことなどわかっている。想いも、感情も変化する。だから自分は今、ここにいるのだ。司に想いを伝えるために、跪いて愛を乞うために。
「なんか、デジャヴみたいだな」
翔真の後ろの方で司の声がした。翔真はすぐには振り向かず、海を眺めながら覚悟を決めるように潮風を胸いっぱいに吸い込むと、ゆっくりと吐き出した。吐き出した息が微かに震えていた。
「……オレもそれ思った」
そう言うと翔真はゆっくりと司の方へ振り返った。堤防下の通路に、明るいキレイな色のグレーのロングコートを羽織った司が立っていた。
「ここはもう、何回来たかわからない」
司が呆れたように笑いながら、ひとりごとのように話した。
「中学の時、金子くんと3人で来たこともあったな……オレがダメなときも、司がダメなときも、ここに来た」
翔真も言葉を繋げた。
司はそれ以上翔真に近付こうとはしなかった。
「……司、あのさ……」
「西澤。オレも話したいことがある。オレから話してもいい?」
司はコートのポケットに両手を入れたまま視線を外していた。
「……いいよ」
ふたりの間にしばらく沈黙が流れた。時折垣間見える司の苦悶の表情に、今から言おうとしていることへの恐れ、葛藤が滲み出ていた。不安な気持ちになってこの重苦しい空気感に押し潰されそうになりながらも、言い淀んでいる司に翔真が無理に明るく声をかけようとしたとき、それは突如発せられた。
「オレにもう……関わらないでほしい」
翔真は何を言われたのか、一瞬理解が出来ないでいた。
「…………え?」
「友達でいることも、これから先も。もうここで、終わりにしたい」
荒い波の音が、司の声を奪っていく。
「え? ちょっと待って……マジで今、頭のなか回ってない」
そのまま黙り込む司を翔真は堤防の上から眺めた。
「……何言ってんの……司、何でそんなこと言うんだよ……」
「…………」
「黙ってんなよ! 何黙ってんだよ、何か言えよ」
「もうおまえとは友達でいたくないって言ってんだよ!」
司が波の音に負けぬほどの大きな声で叫んだ。
「だから理由を言えって!……司言ってたじゃん……オレたち何十年経っても一緒に飲みにいったりするんだろ?」
司は俯いたまま立ち尽くしていた。
「……何怒ってんの? 何にそんな腹立ててんの?」
翔真も司の姿を見ることが出来ず、言いようのない苛立ちを感じながら司の足元に視線を落とした。
ほどなくして、司が息を吐くように言葉を発した。
「……わかったんだよ……おまえの気持ち……」
「は?」
翔真は司を凝視した。
「……あの日、おまえのダンスを観て、おまえの気持ちを知ったんだ」
「オレ……オレの気持ちって……まさか……気付いたのか?……」
翔真の顔色は一変し、恐る恐る司に尋ねた。
「あんなパフォーマンス観せられたらわかるに決まってるだろ」
「オレが……好きだってこと?……オレの想いを?」
翔真の心臓はどくどくと激しく打っていた。
司が苦し気に頷いた。
「……オレは、西澤の想いに向き合うことは出来ない……悪いけど、本当に申し訳ないけど、西澤とは、もう友達ではいられない」
翔真は、心も、身体も、何もかもが凍っていく感覚がした。
まさか自分のパフォーマンスのせいで、自分の想いを言葉で伝えられぬまま失恋してしまうことになるとは思ってもいなかった。あまりの衝撃に平常心を保てないほど動揺してしまう。
「……オレは、女の子が、好きなんだ……」
そう言い放った司を、翔真はキッと睨み上げた。
狂おしい想いが、怒りに変わりそうになる。コントロール出来ない荒々しい感情が押し寄せ、羞恥と悔しさ、切なさに泣きそうになるのを滅茶苦茶に隠そうとして顔を歪ませた。
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