【完結】【R18】断り続けた見合い『まさか17回目で捕まるなんて……』

えるろって

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第33話「王国からの牽制、偽りの噂が再燃」

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「殿下、少々よろしいでしょうか」

お披露目の祝宴がひと段落し、会場の隅で一息ついていた私たちのもとに、厚みのある書類を抱えた男性が近づいてきた。見るからに官吏か文官のような風貌で、真面目そうな顔をしている。

「何だ?」

ロイ王子が短く尋ねると、男は一礼して口を開く。

「実は、隣国クレインとの婚約話が取り沙汰されていると聞きまして。そのことで、王家の一部から“殿下が変わってしまった”と心配する声が上がっているのです」

「変わった……?」

王子は一瞬怪訝そうに眉をひそめる。私も隣で耳を傾けながら、何やら嫌な気配を感じ取っていた。以前、ロイ王子は国同士の同盟強化に尽力していると聞いたことがある。もしかすると、私との婚約がその外交に影響すると思われているのではないか。

「はい。殿下はもともとクレイン王国との縁談を拒んでいらっしゃいましたが、最近の外交情勢を考えると、クレイン王家から改めて縁組を提案されてもおかしくありません。ところが、殿下はすでにグレイメリア令嬢と婚約なさった。そのことを快く思わない勢力がいるようで……」

「ふむ」

王子の表情が険しくなる。私たちの国とクレイン王国は大きな協力関係を築いているらしいが、結婚という形でさらに関係を深めようと考える人がいても不思議ではない。だが王子自身は、そんな縁談にまったく興味を示していなかったという話だ。

「要するに、俺がシルヴィアを選んだことに不満を持っている者がいるのだな」

「そのようです。加えて、“グレイメリア令嬢は悪名高い”という噂を、都合よく利用しようという動きもあるようで……」

私は思わず息を呑む。やはりまだあの“悪役令嬢”のレッテルが外交問題として扱われているのだ。政治的に見れば、王子が悪い噂の多い令嬢と結婚するのはデメリットと捉えられることもあるかもしれない。

「……くだらない話だ」

王子は低く呟き、ぎゅっと拳を握りしめる。男は苦い顔をしながらも続ける。

「殿下、私はあくまでも伝達役です。ただ、事実として、一部の貴族や官僚が“グレイメリア令嬢は不適切”と声を上げていることは確かです。近いうちにそれらの意見がまとめられ、王家に提出される可能性もあるかと」

「ありがとう。報告感謝する」

男性が去ったあと、私は複雑な思いを抱えたまま王子と顔を見合わせる。王子の瞳には苛立ちと焦燥感が入り混じっているのがわかった。

「……ロイ王子、私のせいで困らせてしまってますね」

「馬鹿を言うな。おまえが悪いなどと一度でも言ったか」

王子は険しい顔のまま、きっぱりと否定する。その姿勢は変わらないけれど、現実問題として王家にとって余計な負担が増えているのは明らかだ。そこにリリアンがさらに嫌がらせを仕掛けてくれば、事態はますますややこしくなるだろう。

「……僕が先ほど耳にした話では、ノースバレー伯爵家が“グレイメリア令嬢は危険な存在”と吹き込んでいるらしい」

後ろからひょいと顔を出したのはミハイル。彼も状況を察しているようで、表情が曇っている。

「やはりリリアン……」

こないだの件で懲りたはずと思いたいが、伯爵家自体が動くとなると簡単には止まらないかもしれない。王子は唇を一文字に結び、低い声で続ける。

「外交問題に絡めて“シルヴィアは悪役だ”と注目させるのが狙いか。……許せんな」

「ごめんなさい」

思わず謝罪してしまう私。すると、王子は眉を寄せて首を横に振った。

「いつまでそんな言葉を言う気だ。何があろうと、おまえを諦めるつもりはない」

ミハイルも「殿下がそこまで言うなら、我々も動きやすい」と頷いてくれる。とはいえ、簡単に解決しないのが国家間の事情だ。私とロイ王子の個人的な想いだけで押し通すには、障害が多い。

「……うまく乗り越えられるといいけれど」

小さく呟くと、王子は私の手を探し当ててぎゅっと握る。その手の強さが、私の心を奮い立たせるようだった。

「大丈夫だ。一緒にすべて乗り越える。おまえは心配するな」

その言葉を信じたい。どんなに大きな壁があろうとも、彼となら――そう思いかけた矢先、新たな不安が胸をよぎるのを感じてしまう。もし本当に私が“邪魔者”と判断されれば、王子の立場も危ういではないか。そんな思考が、私の心を揺さぶりはじめていた。
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