41 / 50
第41話「改めて向き合う、私と王子のスタートライン」
しおりを挟む
「シルヴィア、こっちに来られるか」
ロイ王子の落ち着いた声が、中庭を吹き抜ける風の音とともに耳に届く。私と王子は先日の衝突を乗り越え、ようやく“本当の気持ち”を確かめ合った。それなのに、まだやるべきことは山積みのままだ。
「はい」
私がそっとうなずき、彼の手に導かれるように一歩を踏み出すと、王子は隣で目線を合わせてくれる。
「まずは、リリアンやノースバレー伯爵家に対する処遇。それからクレイン王国との縁組を推進したがっている勢力の説得も必要だ。……こないだ話したように、俺は本格的に動くつもりだが、おまえはどうしたい?」
「私は……私のできる範囲で協力したいです。ずっと王子に頼りっきりだったから、今度は私も前に出て戦います」
そう答えると、王子は満足そうに口角を上げる。
「よし。おまえがそう言ってくれるなら心強い。……ただし、危険な場面に飛び込むのは許さない。わかったな?」
「はい、わかってます」
その“危険な場面”というのが具体的に何かはわからないが、リリアンは引き続き陰謀を巡らせる可能性が高い。事態が大きくなれば、クレイン王国の使節団や国内の反対派から狙われることもあるかもしれない。
「公爵家のほうにも根回ししておく。おまえの父上が、『シルヴィアはもう自分の殻に閉じこもるつもりはない』と話してくれたそうだ」
「え……父が?」
驚く私に、王子は「そうだ」と頷く。
「おまえが“悪役令嬢”として噂されていた頃から、父君は何かと守ってくれていたみたいだな。噂を払拭するのは難しくても、せめて不利益を最小限に抑えようとしていたのだろう」
言われてみれば、父は私の勝手な縁談拒否を大目に見てくれていたし、表立って私を叱責するようなこともしてこなかった。自分の意思を尊重してくれていたのだ。今更ながらにその事実を思い出すと、胸が熱くなる。
「私、全然父に恩返しできてないかも」
「ならば、今のうちに結果を示してやれ。自分の力で“悪役”の汚名を晴らし、堂々と王太子妃へと歩む姿を見せるんだ」
王子の言うとおりだ。私が本気で変わる姿を見せれば、父に対しても姉に対しても、きっと“娘が成長した”と喜んでもらえるだろう。
「……はい、やってみます」
そこでふと、王子が私の方へ身を寄せてきた。その距離の近さに思わず胸が高鳴る。
「シルヴィア、おまえはまだ眠そうにも見えるが、しっかり目は覚めているか?」
「今は眠くなんてありません。大丈夫です」
「ならいい。……眠り姫みたいなおまえが、本気で戦う姿を見てみたいものだ」
「からかわないでください」
口ではそう言いながらも、私は王子の言葉にくすぐったい嬉しさを感じていた。いつも眠そうだと言われる私だけれど、自分の意志で行動しようと決めた今、少しは目が冴えているのかもしれない。
「時間が惜しい。早速アーネスト公爵と話し合おう。俺も一緒に行く」
そう宣言する王子の表情は、決意に満ちていた。私もその横顔を見つめ、心を一つにして歩き出す。ここからが新しいスタートライン――悪役令嬢という噂は過去のものにして、真っ当に生きる道を切り拓くために、私はもう一度自分の足で立つと誓った。
ロイ王子の落ち着いた声が、中庭を吹き抜ける風の音とともに耳に届く。私と王子は先日の衝突を乗り越え、ようやく“本当の気持ち”を確かめ合った。それなのに、まだやるべきことは山積みのままだ。
「はい」
私がそっとうなずき、彼の手に導かれるように一歩を踏み出すと、王子は隣で目線を合わせてくれる。
「まずは、リリアンやノースバレー伯爵家に対する処遇。それからクレイン王国との縁組を推進したがっている勢力の説得も必要だ。……こないだ話したように、俺は本格的に動くつもりだが、おまえはどうしたい?」
「私は……私のできる範囲で協力したいです。ずっと王子に頼りっきりだったから、今度は私も前に出て戦います」
そう答えると、王子は満足そうに口角を上げる。
「よし。おまえがそう言ってくれるなら心強い。……ただし、危険な場面に飛び込むのは許さない。わかったな?」
「はい、わかってます」
その“危険な場面”というのが具体的に何かはわからないが、リリアンは引き続き陰謀を巡らせる可能性が高い。事態が大きくなれば、クレイン王国の使節団や国内の反対派から狙われることもあるかもしれない。
「公爵家のほうにも根回ししておく。おまえの父上が、『シルヴィアはもう自分の殻に閉じこもるつもりはない』と話してくれたそうだ」
「え……父が?」
驚く私に、王子は「そうだ」と頷く。
「おまえが“悪役令嬢”として噂されていた頃から、父君は何かと守ってくれていたみたいだな。噂を払拭するのは難しくても、せめて不利益を最小限に抑えようとしていたのだろう」
言われてみれば、父は私の勝手な縁談拒否を大目に見てくれていたし、表立って私を叱責するようなこともしてこなかった。自分の意思を尊重してくれていたのだ。今更ながらにその事実を思い出すと、胸が熱くなる。
「私、全然父に恩返しできてないかも」
「ならば、今のうちに結果を示してやれ。自分の力で“悪役”の汚名を晴らし、堂々と王太子妃へと歩む姿を見せるんだ」
王子の言うとおりだ。私が本気で変わる姿を見せれば、父に対しても姉に対しても、きっと“娘が成長した”と喜んでもらえるだろう。
「……はい、やってみます」
そこでふと、王子が私の方へ身を寄せてきた。その距離の近さに思わず胸が高鳴る。
「シルヴィア、おまえはまだ眠そうにも見えるが、しっかり目は覚めているか?」
「今は眠くなんてありません。大丈夫です」
「ならいい。……眠り姫みたいなおまえが、本気で戦う姿を見てみたいものだ」
「からかわないでください」
口ではそう言いながらも、私は王子の言葉にくすぐったい嬉しさを感じていた。いつも眠そうだと言われる私だけれど、自分の意志で行動しようと決めた今、少しは目が冴えているのかもしれない。
「時間が惜しい。早速アーネスト公爵と話し合おう。俺も一緒に行く」
そう宣言する王子の表情は、決意に満ちていた。私もその横顔を見つめ、心を一つにして歩き出す。ここからが新しいスタートライン――悪役令嬢という噂は過去のものにして、真っ当に生きる道を切り拓くために、私はもう一度自分の足で立つと誓った。
1
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる