サンダーバードを捕まえた

野守

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第1話 足を引っ張られた男

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 ツチノコが発見されたそうだ。どこぞの農村地帯で畑を荒らしているところを捕まったらしい。発見した農家の男性曰く、「変な生物を見かけたので追い払おうとしたら、ぴょんぴょん飛び跳ねながら襲い掛かってきた。噛まれないよう必死だった」とのこと。捕獲されたツチノコは現在、国立の研究機関で飼育されており、近く一般公開も検討されている。

「ふうん」

書店の店主が鼻息荒く突き出してきた新聞記事に対して、私の感想はその一言に尽きた。もっと興奮した反応をしてあげたいのはやまやまだが、あいにく気の利いた言葉が出てこない。この人は素直だなとは思ったけど。

「そうか、志織しおりちゃんは世代じゃないからなぁ」

新聞を引っ込めた店主殿は、興奮しているというより感慨深そうな口調である。出てきた奥さんが呆れたように溜息をついた。

「あなただって世代じゃないでしょ。お待たせ、約束の本ね」
「ありがとうございます」
「分からないかなぁ。これはロマンの問題なのになぁ」

私は黙ってカウンターに置かれた分厚い植物辞典を確認する。もう数十年前から店で売れ残っている年代物だとかで、処分する予定だったのを安く譲ってもらう約束をしていたのだ。それを引き取りに来たらツチノコの話に捕まってしまった。

「重っ! これが歴史の重み⁉」
「そのせいもあって、今まで処分されずにホコリ被ってたんだと思うのよ。持って帰れる?」
「が、頑張ります。外まで出れば自転車なので」

仕事しろと怒られた店主が運んでくれることになった。

「ツチノコかぁ。会いてぇなぁ」
「会う必要あります?」
「大アリだよ!」

のどかな庭に出た途端、店主の足元には丸々と太った白い鳥が三羽すり寄ってくる。相変わらず良く懐いているペットだ。鋭いくちばしでサンダルの隙間から見える肌を容赦なくつつき、一方では尾羽の代わりに生えている蛇も大口を開けて、シャーシャー言いながら足首に噛みつく隙を狙っていた。

「この子たちがいるんだから、わざわざツチノコなんて求めなくても。今日もよく懐いてますねぇ」
「どこがだよ。的確に弱点狙ってんじゃねぇか! 毎日狂暴なコカトリスの相手してたら、可愛いツチノコでも飼いたくなるってもんだ」

自転車の前かごに本を収めながら、まだそんなことを言っている。頭の中はUMAでいっぱいでも本を扱う手つきは丁寧だった。

「普通にニワトリとして孵せば良かったのに。わざわざコカトリスなんかに孵化させるからですよ」
「懐けば膝乗りになるって聞いたんだよ。あーあ、騙された」
「そんなこと言ってるから懐かないんじゃないですか」

隙あり! とばかりに鳥のくちばし側で小指に噛みついたコカトリスは、すさまじい顎の力で指というか足を引っ張り始めた。引っこ抜くつもりだろうか。

「そういえば揶揄からかうって、英語でpull 〇〇’s legって言うらしいですよ」
「どうでもいいから助けてくれ! 痛っ、痛ってぇよ!」
「ツチノコも噛みつくらしいですけどね」

やっと狂暴なくちばしから逃れた店主が、鳥相手に腕を広げて威嚇しながら後ずさってゆく。このまま店内に逃げ込む算段らしい。

「ちょっと前までツチノコ探しを開催してる自治体だってあったんだぞ。懸賞金二億なんてところもあったし。政府の経済政策で都道府県に一億円がバラ撒かれたとき、ツチノコ探しに使ったところもあった。ほうっ、ほうっ!」

店主の変な雄叫びを聞きながら、私も会計をしに店内へ戻る。さて、店主殿が記事の最後の一文、「このニュースは冗談です」に気づくのはいつになるだろうか。

「げっ、今日エイプリルフールじゃんか!」

ようやく現実を認識した声が店内に響く。こうした小さな嘘を耳にするたび、私の頭に浮かんでくる人物がいた。今日からこの島にやってくる予定のヤツ。

「じゃあ帰りますね。今日から新入りが来るので忙しくて。本、ありがとうございました」
「こちらこそ、買い取ってくれてありがとねぇ。新入りさんが来たら紹介してよ」
「はい。そのうちご挨拶に連れてきます」

ショックのあまりカウンターに崩れ落ちた店主が、ひらひらと力なく手を振った。

「その新入り、何か面白いもの連れてきてくんねぇかなぁ。ツチノコとかさぁ」
「ツチノコは無理ですけど、そいつ自身が面白いかもしれませんよ。なにせホラ吹きなので」
「そうかい。気ぃつけてな」

私は本のせいで重心の取りづらい自転車を頑張って漕いで、穏やかな朝の道を走り抜ける。右に広がるのは湯気の立つ畑、左に広がるのは鈴の音を立てる果樹園。その周囲にはキラキラした煙を吐き出す煙突の工房や、雷の落ち続ける湖や、庭の池で透き通った魚が飛び跳ねる民家なんかが見える。ここが私の暮らす「朧島おぼろしま」。別名、魔女の島とか錬金術師の島とか呼ばれる場所だ。
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