殿下、ゴミの分別はお済みですか? 私は今日から、推しと生きていきますわ!

鏡おもち

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「……はぁ。やっと見つけたぞ、リリアーヌ。こんなところで何を……」


ジークフリート殿下は、王宮の裏庭にある人目につかないガゼボ(あずまや)の影に、愛する女性の姿を見つけました。


復縁宣言をバッサリと断られ、民衆の前で「生理的に無理」とまで言われた彼の心は、今やボロボロの雑巾のよう。


せめてリリアーヌに癒やしてもらおうと彼女を探していたのですが……。


「あら、おじ様。そんなに焦らなくても、わたくしの愛は『お財布の厚み』に比例して無限大ですわよ?」


ガゼボの中から聞こえてきたのは、鈴を転がすような、しかし猛毒を含んだリリアーヌの声でした。


「ふふふ、可愛い令嬢だ。あの落ちぶれた王太子の代わりに、この私が最高の宝石を用意してあげようじゃないか」


聞き慣れない、脂ぎった声が応えます。それは、王都でも指折りの強欲な成金商人のものでした。


「……っ!?」


ジークフリート殿下が息を呑み、茂みからその光景を覗き込みました。


そこには、商人の膝の上で甘えるように寄り添い、新作のダイヤの指輪をうっとりと眺めるリリアーヌの姿がありました。


「ジーク様? あんな前髪しか取り柄のない男、もうおしまいですわ。アステリア公爵家からの援助が止まって、今やただの『借金まみれの王子』ですもの。わたくし、泥舟と一緒に沈む趣味はありませんの」


「ははは! 全くだ。ミナモル嬢という金の卵を産むガチョウを自分から捨てるとは、愚かの極みだな」


「本当に。あんなにチョロい男、初めてでしたわ。ちょっと涙を流して『怖いんですぅ』って言えば、勝手に公爵令嬢を悪者にして追い出してくれるんですもの。おかげで良い暇つぶしになりましたわ!」


二人は下品な笑い声を上げました。


ジークフリート殿下は、あまりの衝撃に膝から崩れ落ちました。


(……嘘だ。リリアーヌ、君との愛は、運命に導かれた『真実の愛』ではなかったのか……!?)


「――あら。あんなところに、粗大ゴミが不法投棄されていますわよ。クラリス様」


その時、ガゼボのすぐ近くで、別の涼やかな声が響きました。


「本当ですわ、ミナモル。しかも、随分と湿気っていて、再利用も難しそうですわね」


茂みの反対側から現れたのは、バケツとモップを装備した私と、なぜか軍手をしてやる気満々のクラリス王女でした。


「ミ、ミナモル……!? 聞いていたのか……今の話を……」


ジークフリート殿下が、涙目で私を見上げました。


「ええ、バッチリと。裏庭の排水溝の詰まりを直していたら、嫌でも聞こえてきましたわ。……殿下、あちらをご覧になって? あなたの『真実の愛』が、今まさにダイヤモンドと交換されていく瞬間を」


私が指を指した先で、リリアーヌ様が商人と熱い抱擁を交わしていました。


「あ……あ……あああああぁぁぁっ!」


ジークフリート殿下の絶叫が、静かな裏庭に響き渡りました。


「リリアーヌ! 貴様、私を裏切ったのか! 私の愛を、献身を、踏みにじったのか!」


殿下がガゼボに突っ込んでいきましたが、リリアーヌ様は怯むどころか、冷ややかな視線を彼に投げました。


「裏切った? 人聞きの悪いことを言わないで。わたくし、最初から『あなたの地位とお金』にしか興味がありませんでしたわよ? それが無くなった以上、あなたに用はありませんわ。さあ、警備員を呼んでちょうだい。不審者に絡まれて怖いですわぁ」


「き、貴様ぁぁ!」


そこへ、報告を受けた近衛騎士たちが駆けつけてきました。


「殿下、お引き取りを。……リリアーヌ様、及びこちらの商人の方。王宮内での不適切な交友、並びに贈収賄の疑いで事情を聴かせていただきます」


カイン団長が、威風堂々と姿を現しました。


「カイン! 助けてくれ! 私は……私は騙されていたんだ!」


ジークフリート殿下がカイン様の足元に縋り付こうとしましたが、カイン様は一歩下がってそれを避けました。


「自業自得です、殿下。……ミナモル嬢。この『ゴミ』の処分はどうする?」


カイン様が私に問いかけました。


私は、手に持っていた強力な消臭スプレーを空中にひと吹きしました。


「処分も何も、もはや価値のない廃棄物ですわ。……カイン様、あんなものは放っておいて、早く執務室の窓拭きをいたしましょう! 殿下の情けない声で、私の耳が汚れてしまいましたもの!」


「……そうだな。それが一番だ」


カイン様は私の肩を抱き、泣き崩れる殿下と、連行されるリリアーヌ様を一度も見ることなく、その場を立ち去りました。


ジークフリート殿下を支える者は、もう誰もいません。


金も、愛も、地位も。そして自分を心から(掃除のついでに)案じてくれた唯一の女性も。


彼は、自ら磨き上げた「孤独」という名の暗い部屋に、一人取り残されたのでした。
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