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「……どうして! どうして皆、あの女の話ばかりするのよ!」
王宮の一室。可憐なはずのミリアは、手近にあった高級なクッションを床に叩きつけていた。
鏡に映る自分の顔は、怒りと焦りで「聖女」とは程遠い形相になっている。
「パルメ様がいなくなれば、リュント様は私だけを見て、私は王妃として贅沢三昧できるはずだったのに……!」
現実は非情だった。
パルメがいなくなった後の王宮は、魔法が解けたかのように機能不全に陥っている。
予算は足りない。書類は終わらない。おまけに、パルメがばら撒いた「赤いソース」のせいで、王宮のシェフまでもが「パルメ様のソースがないと、料理を作る情熱が湧かない」とボイコットを始める始末。
「ミリア様、その……少し落ち着いてください。リュント殿下が、ド・ラ・メール領への視察準備を急がせております」
侍女が恐る恐る声をかける。
「視察!? あんな女のいる田舎に、どうしてわざわざ行くのよ!」
「殿下は『パルメの惨めな姿を確認し、王室の慈悲を見せてやる』と仰っていますが、側から見れば、単にパルメ様に会いたくて震えているようにしか……」
「黙りなさい! あんな可愛げのない、性格のひん曲がった、穴掘りしか取り柄のない女のどこがいいっていうのよ!」
ミリアは、パルメの真実の姿(ただのニート志望)を知らない。
彼女にとってパルメは、自分を冷たく見下し、何でも完璧にこなして自分を惨めにさせる「敵」だった。
「いいわ、私も行く。リュント様に同行して、パルメが泥にまみれて泣き叫んでいる姿を、特等席で笑ってやるんだから!」
ミリアは、引きつった笑みを浮かべた。
彼女には秘策があった。
パルメが領地で「聖具」を使い、奇跡を起こしているという噂。
ミリアはそれを「パルメが魔法薬か何かで領民を洗脳している」と思い込んでいた。
「パルメ様は、自分の罪を隠すために領民を騙しているんですぅ……って、リュント様に泣きつけばいいのよ。あいつのやってることは、全部ペテンだって証明してやるわ!」
数日後。
ミリアは、気合の入りすぎたフリルだらけのドレスに身を包み、リュントの馬車に乗り込んだ。
「リュント様ぁ、ミリアも一緒に行きますね。パルメ様が、もし殿下に何か呪いでもかけていたら大変ですからっ!」
「……ああ、ミリアか。勝手にしろ。ただし、邪魔だけはするなよ」
リュントの返事は、以前の甘いトーンとは打って変わって、酷く乾いたものだった。
彼の目は、窓の外……パルメが去っていった方向を、じっと見つめている。
「(……ちっ、あいつの名前を出しただけでこれよ。パルメ、本当に死ねばいいのに)」
ミリアの心の声が、黒い霧となって馬車の中に充満する。
しかし、ミリアはまだ知らなかった。
パルメの領地に向かっているのは、自分たちだけではないということを。
「殿下、例の『隣国の王子』ですが……。現在、パルメ様の屋敷に居座り、エプロン姿でカボチャの裏ごしを手伝っているとの続報が入りました」
御者の報告に、リュントが「はあぁぁ!? 裏ごしだと!?」と椅子から転げ落ちる。
「裏ごし!? あのセドリックが!? ……あいつ、私よりも先にパルメの手料理を食うつもりか!」
「リュント様! 食いつくところが違いますぅ!」
ミリアの叫びも虚しく、馬車はガタガタと音を立てて進んでいく。
その行き先には、伝説のスコップを片手に「焼き芋パーティー」の準備を整えた、無敵の元悪役令嬢が待ち構えている。
ミリアの焦りと、リュントの後悔。
二つのドロドロした感情を乗せた馬車は、平和なド・ラ・メール領へと突き進むのであった。
王宮の一室。可憐なはずのミリアは、手近にあった高級なクッションを床に叩きつけていた。
鏡に映る自分の顔は、怒りと焦りで「聖女」とは程遠い形相になっている。
「パルメ様がいなくなれば、リュント様は私だけを見て、私は王妃として贅沢三昧できるはずだったのに……!」
現実は非情だった。
パルメがいなくなった後の王宮は、魔法が解けたかのように機能不全に陥っている。
予算は足りない。書類は終わらない。おまけに、パルメがばら撒いた「赤いソース」のせいで、王宮のシェフまでもが「パルメ様のソースがないと、料理を作る情熱が湧かない」とボイコットを始める始末。
「ミリア様、その……少し落ち着いてください。リュント殿下が、ド・ラ・メール領への視察準備を急がせております」
侍女が恐る恐る声をかける。
「視察!? あんな女のいる田舎に、どうしてわざわざ行くのよ!」
「殿下は『パルメの惨めな姿を確認し、王室の慈悲を見せてやる』と仰っていますが、側から見れば、単にパルメ様に会いたくて震えているようにしか……」
「黙りなさい! あんな可愛げのない、性格のひん曲がった、穴掘りしか取り柄のない女のどこがいいっていうのよ!」
ミリアは、パルメの真実の姿(ただのニート志望)を知らない。
彼女にとってパルメは、自分を冷たく見下し、何でも完璧にこなして自分を惨めにさせる「敵」だった。
「いいわ、私も行く。リュント様に同行して、パルメが泥にまみれて泣き叫んでいる姿を、特等席で笑ってやるんだから!」
ミリアは、引きつった笑みを浮かべた。
彼女には秘策があった。
パルメが領地で「聖具」を使い、奇跡を起こしているという噂。
ミリアはそれを「パルメが魔法薬か何かで領民を洗脳している」と思い込んでいた。
「パルメ様は、自分の罪を隠すために領民を騙しているんですぅ……って、リュント様に泣きつけばいいのよ。あいつのやってることは、全部ペテンだって証明してやるわ!」
数日後。
ミリアは、気合の入りすぎたフリルだらけのドレスに身を包み、リュントの馬車に乗り込んだ。
「リュント様ぁ、ミリアも一緒に行きますね。パルメ様が、もし殿下に何か呪いでもかけていたら大変ですからっ!」
「……ああ、ミリアか。勝手にしろ。ただし、邪魔だけはするなよ」
リュントの返事は、以前の甘いトーンとは打って変わって、酷く乾いたものだった。
彼の目は、窓の外……パルメが去っていった方向を、じっと見つめている。
「(……ちっ、あいつの名前を出しただけでこれよ。パルメ、本当に死ねばいいのに)」
ミリアの心の声が、黒い霧となって馬車の中に充満する。
しかし、ミリアはまだ知らなかった。
パルメの領地に向かっているのは、自分たちだけではないということを。
「殿下、例の『隣国の王子』ですが……。現在、パルメ様の屋敷に居座り、エプロン姿でカボチャの裏ごしを手伝っているとの続報が入りました」
御者の報告に、リュントが「はあぁぁ!? 裏ごしだと!?」と椅子から転げ落ちる。
「裏ごし!? あのセドリックが!? ……あいつ、私よりも先にパルメの手料理を食うつもりか!」
「リュント様! 食いつくところが違いますぅ!」
ミリアの叫びも虚しく、馬車はガタガタと音を立てて進んでいく。
その行き先には、伝説のスコップを片手に「焼き芋パーティー」の準備を整えた、無敵の元悪役令嬢が待ち構えている。
ミリアの焦りと、リュントの後悔。
二つのドロドロした感情を乗せた馬車は、平和なド・ラ・メール領へと突き進むのであった。
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