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薬草売りの少女は魔王を討伐するようですよ?

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 薬草、薬草は要りませんか?
 
 少女は、そう言いながら手にした籠の中の薬草を売っていました。
 ですが、誰も買ってくれません。

 ここは魔王城前、最後の町。
 そんな所で、薬草を売っても薬効が低すぎて誰も相手にしてくれませんでした。

 誰も相手をしてくれず、長い時が過ぎました。
 そうして、少女は思いました。

 なんで、薬草が売れない?
 
 少女の頭脳は答えを導き出しました。
 
 魔王がいるからだ。
 魔王がいるから、平均レベルが上がって薬草の需要が減るんだ。

 そう思った、少女は魔王狩りに出ました。
 ですが、町から一歩出た瞬間にタコ殴りに会いました。

 少女は、町の中に叩き返されました。

 ですが、少女は諦めようとしませんでした。
 自らを鍛え、薬草の有用性を示そうとしたのです。

 少女は、筋トレを開始しました。
 自らの口の中に薬草を大量に入れ、噛む事によって常時回復効果を得ました。

 薬効が無くなるたびに、薬草を大量に飲み込みました。

 筋肉が傷つくたびに、薬草によって癒しを得ました。
 そして、超回復によって少女の筋肉は発達していきました。

 鍛えていく途中で、どこぞの神の加護をもらいました。
 神からは、加護だけでは無く、道具とスペースをもらいました。

 神の加護により、薬草の栽培スペースを十分に確保が出来るようになりました。
 
 そうして、しばらくの時が過ぎました。

 少女は、成長しました。
 小さく、脆い体は捨て去りました。

 少女、いえ彼女といった方がいいでしょうか。

 彼女の肉体は、極限まで成長しました。
 身長は二メートルを超え、全身全てに筋肉が宿りました。

 彼女の鍛え上げた大胸筋は、とても女性の物とは思えませんでした。

 大量に栽培した薬草を、昔使っていた籠を改良した物の中に入れました。
 九十九個を一スタックとして纏めて十スタック分を籠の中に入れました。

 籠は膨れ上がりましたが、何とか詰め込めました。

 そして彼女は、再び魔王狩りに行きました。
 魔王には、四人の四天王がいました。

 彼女が魔王配下のザコどもを千切っては投げ、千切っては投げを繰り返し。
 彼女の前に、魔王配下のザコどもが誰も立ち上がらなくなった時。
 
 彼女の前に四天王の一人がやってきました。

 「私は、魔王四天王の一人ザッコー。」
 「いざ、尋常に勝負。」

 二人の勝負に、言葉はいりませんでした。
  
 彼女は、拳を引き絞り放ちました。
 全身の筋肉が躍動し、目の前の敵に打ち込まれました。

 二人の最強の技が交差し、お互いの体に突き刺さりました。

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 「ザコ神拳!!!」

 「薬草パンチ!!!」

 しかし、現実は残酷でした。
 自らの最強の技を最高の状態で繰り出しましたが、ザッコーは吹き飛ばされました。

 ザッコーはすぐに立ち上がれませんでした。

 彼女の薬草パンチは、痛みと衝撃はありましたが傷は一切残りませんでした。

 薬草パンチは、噛み締めた薬草から薬効を抽出し手に集める事で相手に傷を残さず倒す。
 それは、彼女の心を表したかのような癒しの拳。

 彼女に情けをかけられた。
 そう感じたザッコーは彼女を責めたてました。

 なぜ、殺してくれないのか。
 生き恥など晒したくは無かったと。

 そして、敗者に生きる価値は無いと自ら自害を選ぼうとしました。
 
 「無駄に命を落とす必要は無い。」

 ですが、彼女の説得もありザッコーは自害を辞めました。
 そして、彼女の人徳、鍛え上げられた筋肉に惚れ込み、彼女の仲間になる事を申し込みました。

 ですが、それは叶いませんでした。

 「ザッコーは、四天王最弱。」  

 その声が聞こえたのと同時に、ザッコーの体は爆散しました。
 
 彼女は、目の前で爆散したザッコーを見て嘆きました。
 なんで、ザッコーが死ななくてはならなかったのか。

 「許さない!!」

 彼女は、立ち上がりました。
 声の聞こえた位置から、おおよその相手の位置を逆算しました。

 相手の数は、三人。
 恐らく残りの四天王でしょう。

 薬草パンチにより、薬効を失った薬草を飲み込み。
 大量の薬草を口の中に改めて詰め込みました。

 さっきの薬草パンチは癒しの拳。
 しかし、今度の拳は違います。

 癒しは度を過ぎれば、害にしかなりません。
 癒しの力を限界まで込めたその拳は、彼女の怒りを表していました。  
 
 「凝縮薬草パンチ!!!!」

 ギャリギャリギャリギャリ!!!!!!
 
 その拳の拳圧は、辺り一面を叩き潰しながら残りの四天王に襲い掛かりました。

 「ギャァァァァ!!!!」

 そして、その後には何も残りませんでした。

 「後、一人。」
 
 あと残っている、彼女の相手にふさわしい人物は魔王のみ。
 
 彼女は、魔王城へと足を進めました。

 魔王城には数多くの魔物がいました。
 ですが、まったく彼女には歯が立ちませんでした。

 そして、誰も居なくなった時。
 彼女は叫びました。 

 「魔王!!!」
 「いざ、尋常に勝負。」

 魔王と彼女の戦いは熾烈でした。
 お互いの拳が、互いの肉体を削りました。

 彼女は、回復を繰り返しましたがとうとう限界が訪れました。
 薬草のスタックがなくなったのです。

 「ふっ、貴様の最後はこの魔王が見守っている。」
 「安らかに、死ぬといい。」

 彼女は、負けるしかないのか?
 もはや、彼女に勝機は無いのか?

 そんなことはありません。
 あってはなりません。

 例え、薬草が無くとも。
 諦めちゃいけない理由があります。

 彼女には、受け継がれた拳技がありました。
 彼女には、受け継いだ思いがありました。

 絶対に、諦めてはいけないんだ。

 彼女は、かつての強敵の拳技を思い出しました。
 そして、全力をもって拳を繰り出しました。

 「雑魚神拳!!!!!!!」

 「グワァァァァ!!!!」

 その拳は魔王の心臓を貫きました。
 そして、世界には平和が訪れました。

 しばらく時間経ち。

 村近くに、一人の墓が立てられました。
 そこに刻まれた名は、ザッコー。

 新鮮な花が、今日も墓前に供えられています。
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