媚薬をアイツに試してみたら

万実

文字の大きさ
上 下
6 / 12

笑顔

しおりを挟む
クリスは私の腕を外し向き直ると、赤い薔薇の花束を手渡してきた。

受け取ってはみたものの、なんなのこれ?

とても素敵な花束なんだけど、何でこんなものを私に渡すのかと首を傾げる。

意味が分からない。



「今日は話があって来たんだ。だから帰れと言われても帰らない」



···そうですか。

うう、困った。追い返す作戦は失敗だ。

私は花束を抱えてクリスの手を引きソファーまで連れて来ると隣り合わせに腰をおろす。

自分で思うより先に体が勝手に動くのが恐ろしい。



「シルフィ、単刀直入に聞くけど、お前は俺の事をどう思ってる?」



へっ?

いやあ、どうって別に、ねえ···



「私は小さな頃から貴方の事が好きだったの」



うあーーー!!ついに言ってしまったじゃないか。

クリスの行動に腹を立ててはいたけど、そう嫌いって訳でもないよ。けどこんな状態で言いたくないよ。

もうやだ。恥ずかしくて死ぬ。

頬を真っ赤に染めて涙目になりながらちらりとクリスの方を見る。

するとクリスは私の顔をまじまじと見つめ、花咲くように美しく笑った。



えっ!?笑顔!!

驚いた。

こんな顔のクリス、見たことがない。今までずっと一緒にいたのに思い出す事ができるのは、クリスの世話を焼いて怒ってる顔とかイライラした顔とか、余所余所しい顔とか。

幼馴染みのとても綺麗な笑顔を初めて間近で見て、心を持っていかれたように感じた。

ドキドキと高鳴る私の心臓。

慌てて顔を背け胸を押さえる手が震える。頭の中でけたたましく鐘がなっている。うーん、これは何かを知らせているのだろうか?私の頭のなかはクリスの笑顔でいっぱいになってしまった。

これってきっと〖媚薬〗の効果なんだよね、強力な。

そうよ、そうに違いない。
しおりを挟む

処理中です...