なあ、一目惚れって信じる?

万実

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坂本家

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一体これからどうすりゃいいの?


玄関から顔を出した柚希先輩は、こちらを見るなり、目を大きく見開き驚いた顔をして固まった。

まさか、すぐそこに父親の再婚相手の親子がいるなんて思いもしないから、驚くのも無理のないことだ。

先輩は暫く呆然としているように見えたけど、はっと我に返った。そして、顔を引きつらせながら私達親子を家に招き入れた。

反対していたのに、どうしたんだろう?
速攻で追い出されるかと思っていただけに、なんだか拍子抜けすると同時に、申し訳ない気分になる。
できればここからすぐに消え去りたい気持ちを抱え、私は先輩の後について家に入った。

「いらっしゃい、よく来たね美保。それに美結ちゃん、はじめまして」

美保というのは母の名前だ。
母の結婚相手は和之さんというそうだ。親子だけに柚希先輩によく似てる。
あ、こういう場合は逆か。
先輩が父親似なんだ。

「はじめまして、桜井美結です。よろしくお願いします」

消え入りそうな声で挨拶をすれば、母が私の背中をポンと叩いて「任せなさい」と言い、柚希先輩と向き合った。

「柚希くん、美結は自慢の娘なの。可愛いでしょう?」

「は?はあ、まあ······」

「美結のこと、頼むわね」

「···はい」

うわぁ!

何いってんのー!

私はあわてふためき、母と先輩を交互に見た。
可愛いって、あんたそれは親の欲目ってもんでしょう。誰だって子供は可愛いものだ。
もう、恥ずかしい。
恥ずかしさのあまり、私は赤面しているんだけど、なぜか柚希先輩の顔も赤くて。

ああ、わかった。
母が強引に頼むわねとか言うから怒ったんだ。それで顔が赤いとか。
うう、もう嫌だ。
誰かどうにかしてよ。

「さあみんな、お腹が空いただろう。御飯にしようか」

和之さんに案内されて席についた。
テーブルには豪華な握り寿司やオードブルが並ぶ。

「今日は僕らの結婚祝いと、美結ちゃんの誕生祝いを兼ねたパーティーだ。思う存分食べて飲んでくれ」

「えっ!?」

その「えっ!?」はなんですか?先輩。そう呟いて私をまじまじと見るのは止めてもらえませんか?

はっきり言って、こんな時に誕生日とか祝って欲しくない。
失恋で辛くて、さっきから胃がキリキリと痛むんですけど。

目の前に私の大好物の握り寿司が並ぶのに、どうやったって喉を通りそうにない。

悲しすぎる。

「あのね、柚希君に美結。私達は結婚式は挙げないけれど、新婚旅行には行こうと思ってるの」

「そうなの、いつ行くの?」

「このあとすぐに出発するわ。8日間ヨーロッパに行ってくるから、後は二人で仲良くやってちょうだい」

「「はあ??」」

こんな時は気が合うのねって、ちょっと!どういう事?

まさか、この家で8日間先輩と二人きり?!

「あの、嘘だよね。ビックリさせようと思ってるんだよね」

「冗談キツイ」

私達の言葉に、和之さんと母は首を横に振り言った。

「冗談なもんですか!あ、そろそろ出たほうがいいわね、和之さん」

「もうそんな時間?そうだね。行こうか、美保」

二人は微笑み合ってそそくさと出掛けていった。
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