なあ、一目惚れって信じる?

万実

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学校へ行こう

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美味しく食べたあとに、準備しておいたお弁当を差し出す。

受け取ってくれるだろうかとドキドキしながら先輩に声をかけた。

「先輩、これお弁当。良かったら食べてね」

「俺の分まで作ってくれたんだ」

先輩は目を見開いて感激しているようだ。
お弁当を受け取ると、嬉しそうにカバンに入れ込んだ。

うわぁ!
良かったー!

受け取ってもらえたことにほっとしつつ、にこにこ顔の先輩の後について、私は家を出た。

そして、またしてもメモを用意し、書き込もうとした時、先輩がメモを取り上げてしまった。

「えっ?」

なんで?
首を傾げていると、先輩は目を細めて話し始めた。

「美結、朝は暫く一緒に行こう。だから気張ってメモしなくても大丈夫だ。気楽に歩こう」

「いいの?」

「ああ」

嘘!
めっちゃ嬉しい。
それなら苦もなく道を覚えることができる。

「先輩、ありがとう」

先輩を見上げながらそう言えば、先輩は微笑んでメモを返してくれた。

私が鞄にメモをしまっていると、生温かい風が通り過ぎるのを感じて顔を上げた。

「美結、危ない」

そう言って、先輩は私の腕を掴んで引き寄せた。

後方から自転車が猛スピードで通り過ぎてゆく。
あわや、接触しそうになったのを、先輩が助けてくれた。
すごく危なかったんだ。

「怖かったぁ」

「美結、怪我はない?」

「大丈夫だよ、びっくりしただけ」

「そうか、それなら良かった」

そう言うと先輩は、ホッと息を吐いて肩の力を抜いた。
そして、掴んだ腕をそっと離すと、するりと手を繋いできた。

私は驚いて、目を白黒させていると、先輩は口を開いた。

「危ないから学校まで手を繋いで行こう」

「ええっ?!」

いや、あの。
私、子供じゃないんだよね。

「私は平気だよ」

先輩を見上げつつ言うけれど、先輩は私を見て肩を竦めた。

「いや、俺が心配だからこのままで」

ええっ!
何それ。
ドキドキするでしょう。

手はしっかりと繋がれて離してくれそうもない。
なんだかとても緊張する。

道を覚えるどころではなくなってしまった!

この様子だと、このまま学校へ行くってことなのかな?

ひえぇぇ。
嬉しいやら恥ずかしいやらで、顔が赤くなりすぎて、上を向けないよ。

どこをどのように歩いたのか。
またしても道が分からず、私はこの先こんなんでやっていけるんだろうかと、少なからず不安になった。

ああっ!
気が付けば学校が見えてきた。

『トゥルルル』

そんな時、先輩のスマホが鳴り響いた。

「電話だ!美結、ごめん先行ってて」

「う、うん」

「帰りはバイト先に迎えに行くから!」

「お願いします」

やっと繋いだ手を離してもらい、ふうっと息を吐く。
電話中の先輩に手を振り、先に学校へと向かう。

校門を通り過ぎた頃、ダダダっと走ってくる足音が聞こえたかと思うと、誰かが飛びついてきた。

「みーゆ!おはよ」

「小糸ちゃん、おはよう」

今私に飛びついてきた子は皆川小糸。
私の親友。
ショートの茶髪で小柄な彼女は、目がくりくりしていてとても愛らしい。

密かに小動物みたいだと思っているのは、ナイショだ。

「小糸ちゃん、今日も朝から元気だね」

「まーね。あ、ねえねえ、今日はすんごいニュースがあるのよ!早く教室入ろう」

「わかったから、引っ張らないで」

半ば引きずられるようにして、教室に入った。
私達は席につくと、鞄を机の上に乗せたまま話し始めた。

「それで、すんごいニュースってなあに?」

「聞いてよ!ユズ先輩のニュースだよ」

「えっ!!」

ユズ先輩というのは、柚希先輩の事だ。
先程まで本人と一緒にいたので、ドキッとする。
一体なんのニュースだというのか?

「それがね、昨日の目撃情報が凄くて」

「······」

昨日というと、ほぼ私と一緒にいたよね。

「彼女ができたらしいよ」

「ええっ?!!」

か、彼女?
昨日、先輩は家にいたし、出掛けたのも私とだし、彼女の影なんて無かったように思うけど?

「美結。あんた、ファンだからショックでしょう」

「え?ああ、うん」

「何その気のない返事は?えーとね、なんだかその彼女とカフェでイチャイチャしてたらしいよ。何人も目撃してるから、この情報は間違いないはずよ」

「!!」

私は思わず吹き出し、驚きすぎて咳き込んだ。
その彼女って、もしかして、いや、もしかしなくても私のことだ。

ひぃっ!
噂とは恐ろしい。
どこが彼女か!
家族だよ!

って、説明したくても、複雑すぎて言うに言えない。

うー、どうする?
誤解を解く?
いやいや、ホントのことを言ったが最後、小糸ちゃんに言いふらされる。
今日の午後には全校生徒の知るところとなってしまう。

この子にだけは言うまい。

私はバレるまで黙っておくことにした。

「美結、いくらファンだからって落ち込まないでよね」

「あははは、大丈夫だよ」

おっと、余計なことを言ってはいけないし、バレないように気をつけなければならないのだ。
冷静にならなくては。
私はハートに手を当ててゆっくり呼吸した。

小糸ちゃんはうんうんと頷きながら話を続ける。

「あのね、ニュースはまだあるんだ」

「へぇ、今日は凄いね」

「でしょ!えーとね···」

話の途中で始業のベルが鳴った。

教室に担任教師が入ってきたので、私達は話を中断し、鞄を片付け席についた。

『美結、話はお昼にね』

『わかった』

私達はこそっと話して微笑んだ。
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