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俺の恋心
しおりを挟むこのままずっと玄関に居るわけにもいかず、リビングへとその男を通し席に座らせた
飲み物を持ってその向かい側に俺は腰を据える
色々と思うことはあったが、多分この男はこの子が俺との子だと確信をえてここに来ている
いや、名前を聞いてそれがより確実なものとなったというべきか?
ここで考えられることは、もしかしたら我が子をとられるかもしれないということ。それは絶対に阻止しなければならない、とは言え力でも財力でも勝てるわけがない。力とは物理的にも経済的にもだ。
それにこいつはあの誰もが知る大企業の長男で、俺の知る限りではこいつにとって我が子が長子である可能性が高い
こいつも長男で我が子も男の子だ。
だからと言ってそう易々と引き渡しはしない。
俺の生きがいであり無理に引き離されることになれば、俺は生きることを諦めるだろう
では全力で情に訴えるか?いや、それは無理だな。俺のことはもうとっくの昔に見限っているだろう
それくらいのことをした自覚はある
それなら...と駆け巡る考えの中には、どれも目の前の男を食い止めてだし抜けるような手札は1枚もなかった
見つかってしまった時点で、圧倒的不利な状況だった
負け確の、ただプライドまでズタズタに引き裂かれるようなそんな試合
ここまで考えて、やはり最悪の結果を受け入れなくてはないかもしれない。
そして、もう二度とこの子と会うこともできなくなるかもしれないということも。
もう一度抱き上げた我が子を見る
そしてギュッと抱きしめて、抗える術が見つからない目の前の男へと視線を戻した
さて最後の悪あがきをしてみましょうか。
無様でもなんだってやってやる。
男と出会ったのは今から13年前の高校入試の発表の時だった
高校の入試発表でもそいつは目立っていて、男女問わず見惚れているものが多かったのを覚えている
俺もその中の1人で随分とカッコいいやつがいたもんだと思った。今思えばあれは一目惚れだったなぁ
話しかける猛者なんかもいて、その人も合格したんだと言っているのをそばで聞いていた
春から同じ高校に通えるんだな、と密かに入学する楽しみが増えた瞬間でもあった
そして迎えた入学式
新入生代表の挨拶で壇上の上に立った時、こいつは顔がいいうえに頭もいいんだと世の中の不公平さを憎んだ
多分それはこの学年の男子全員が思ったことだろう
名前は神無月陽斗harutoというらしい
運がいいのか悪いのか、同じクラスの隣の席にそいつは座っていた
名前に相応しい陽キャで、たかだか隣の席の俺には縁がないだろうとたかを括っていたがそうではなかった
始まってわかったことだがこの学校の授業では、ペアワークというものが頻発している
そしてそのペアワークの相手というのが、隣の席ということだ
必然的に喋る機会も多くなり、つるむようになった
恋心を自覚するのも時間はかからなかったが、その好意がこちらへと向くことがないことは早々に理解した
それは男同士だからとかいう理由ではない。
性別は関係なく、世の中にもたくさんの形でパートナーとしての在り方は様々だ
昔はどうしてなのか、とやかく言われていたらしいのだがそれを世間でどうこう言われる時代でもない
それなら何故?と思われるかもしれないがこの男、陽斗は優しすぎるんだ
見た目はチャラくあるがそれでいて誰にでも優しいし、恋人も途切れている期間がないに等しい
ただしその優しさが自分だけに向かないことが、相手は悔しくて物足りなくなって長続きはしないらしいが。
ふと聞こえてくる会話の中ではアッチの方は相当極上らしくフリーであれば来るもの拒まずなスタンスの為、一夜限りのカラダの関係だけでもという人があとをたたないらしい
そういう噂や本人からその手の話を聞いても、何故か陽斗への嫌悪感とかは感じなかった
もちろん恋心を失くすということも。
これがすごく厄介な気持ちだということに気づいたのは、俺が突然陽斗の前から姿を消した半年前のことだったのだから結構手遅れにはなっていたけれども
というか相当のバカで、治ることのない重症だった
そうして過ごした高校時代はいつしか、親友という立場に収まっていた
高校卒業を機に陽斗と離れて、未来では高校時代の青春として思い出に残るだろうと思っていたが、何故だか陽斗とは同じ大学に通うことになっていた
そこでも結構つるんでいたため、友人からは授業以外の時に陽斗が隣にいなければ不思議がられることが多かった
そうして過ごした4年、案の定恋心は消えず燻り続けることとなった
もう既にここまでで7年ちょっとという月日が経っていたことになる
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