温もりカフェで夢を見る

あや

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2.小さなお友達

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「…小さなおともだちって言い方、かわいいなぁ。」

 祖母のメモを大事に横のデスクにまとめると、今度は祖父の日記のような手帳をぱらぱらとめくった。同じ単語が意外と良く出てくる。祖父母はそう呼んでいたのだろう。

 『今日は雨だったからか客足も少なく、店内も幾分静かだった。
  なのに小さいおともだちは元気いっぱいだ。
  明日は晴れるからといって明日の仕込みを手伝ってくれた。
  アンがいなくなってから寂しくないのはあの子たちのおかげだな。』

 『エレノアと小さなお友達たちは今日もせっせと手伝ってくれた。
 小さなエレノアを彼女たちは喜んで手伝っている。
 私やアンなんかよりもスムーズにいし疎通ができるんだろう。
 とても微笑ましかった。

 小さなおともだちは、さりげなくもよく出てきた。

「ビブリア、こういう日記って残してたらまずいのかな?」

 小さく呟くと、ふいに部屋が明るくなった気がした。
 窓のレースカーテンをひくと、不意に目の前にまた光が横切る。それは窓横にある本棚の一角にとまった。

「妖精って人に言わない方がいいんだよね?」
『違うよエレン、付喪神だって前言ったけどまーた同じ間違いしてる。』
「あ、ごめん!!」
『いいよ。うーん、別にみんな隠してることじゃないし、別にいいんじゃないかな。書かれていることだって“小さなお友達”でしょ?きっとわからないよ。』

 くるんとエレノアの周りを一周して机の隅に腰掛けると、ビブリアと呼ばれた付喪神は寂しそうに瞳を揺らした。チョコレート色のストレートをポニーテールにし、薄茶色の瞳を持った目はいつもは少し勝気に釣り上がっているが、今日は寂しそうだ。新聞紙を何枚も重ねて作ったようなロングドレスは動くたびにカサカサと紙の擦れる音がした。

「おじいちゃん、いなくちゃった。」
『アンと同じところへ行っただけだよ。またいつか会えるよ。そういうものよ。』
「…って言いながらもビブリアは寂しそうだね。」
『そりゃね。別れは寂しいよ。人って命の輝きが短いよね。』

 手のひらに乗るくらいの小さな体を隣に置いてある祖父の手帳に寄せると何か考えるように目を閉じた。

『また会えるって祈りは捧げたもの。大好きだったよ。アンも。ガイルも。』

 彼女たちが見える人間というのはとても少ない、と以前ビブリアは言っていた。

 “付喪神”というものはものについている精霊のようなものらしい。ただし、発生が違うらしく妖精はこの世界の魔力の元である魔素を元に発生しているが、付喪神はものに宿った想いに微量の魔素が関連して生まれるらしい。そのため、魔導士など魔力を使うものはその膨大な魔素のおかげで妖精を見る、使役するなどを行なっているらしいが、付喪神は魔素の少なさから魔導士に見られるという事は少ないらしい。妖精をいることができない一般人も尚のことだ。エレノアもいくつか文献を漁ったりしたが、街に売ってるような本屋図書館の本には記載はなかった。王都にある中央図書館や城の中にある図書館まではわからないが…。

 少なくとも、エレノアが知っている“付喪神を視える人”は自分の祖父母以外は知らなかった。

 彼女たちは自由奔放だ。目を凝らせばどこにでもいる。この店の中にだっていくつかいた。

 おしゃべりな本の付喪神のビブリア。
 祖母の大事にしていた包丁の付喪神クトー。
 窓辺のランタンにピッタリと寄り添い日向ぼっこが好きなリヒト。
 祖父が良く座っていた作りの良い椅子の付喪神のシャジャラ。
 その椅子と一緒に良く使っていた膝掛け織物の付喪神のナージュ。

 他にも形には見えたり見えなかったりする同居人もいる。それとなく生活を手伝ってくれたり話し相手になってくれたりしていた。おかげで《彼女にしかできないこと》もあったりする。これはまだ練習中でもあるのだけど。

「頑張らないとなぁ。」
『大丈夫だよ。私たちがついてるから!』

 手伝うこともあるけど邪魔をされることもあるのを知ってるのでなんとも言えないけど、そこはとりあえず笑顔で誤魔化した。

 書類や本を選別していきながら、エレノアは早く寂しい気持ちを切り替えないといけないと感じた。この居心地のいい空間を父はどうするのだろう?昔自分にはできない仕事だ、と言っていたことがある。だとしたら自分がここにいることは可能だろうか?時折ビブリアと喋りながらそんなことを同時に考える。きっと大変なことだ。

(でも・・・でもね?)

 ここにいなくてはいけない気がするのだった。

 そのために何ができるか、考えなくてはならない。自分が手伝ってきたこと、祖父母の情報をフル動員してここを守ろう。

 エレノアは小さく心にそう決めたのだった。
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