温もりカフェで夢を見る

あや

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13.まさかのオネエサン

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 どうしても違和感がすごかった。

 歩き方が女性なのだ。セクシーな女性の歩き方と言えばわかるだろうか?

 でも大きいのだ。自分の身長がそんなに大きくないからかも知れないが、普通に見上げる大きさだ。ロルフさんとそんなに変わらないかもしれない。そしてロルフさんより線は細いが、肩幅とかは完全に男性のそれだ。

 待って、キース、どういうことなの?

 ポカンと目を見張っていると、その人は目の前でお辞儀をした。反射的にこちらもお辞儀を返すが、多分自分の表情は変わっていないだろう。ギギギ…と軋むようにゆっくりとキースの方を見るとキースは面白いものを見るように口元を押さえていた。

「やっぱり脅かしちゃったじゃない。キースくん。こういうのはあまり好きじゃないわ。」

 キースを見ているとその男性(?)が声を発した。うん、男性の声だ。キースはブハッと笑い声と共に息を吐くと

「ごめんごめん!」

 と笑っていた。こちらは笑うこともできずに呆けて二人を見るしかない。

「こちらはアマディオ。心は女性だ。」
「初めまして、店長さん。アマディオ・ドルファーノよ。アマンダって呼んで。」

 とてもいい笑顔のアマディオさんは輝いていた。顔つきが整っていて、化粧もバッチリだ。女子力も高そうに見える。

「あ、アマンダさん、すみません取り乱しました。エレノア・ウィルソンです。」

 そう言って握手をした。爪も綺麗に整えられた長い指だ。しかしどうしても骨張っている分男性的な手だと思う。

「ここで立ち話もなんだから、店内でも大丈夫か?」
「もちろん、っていうか、むしろ最初からお店に連れてきてよ!こんなところで待たせたら失礼でしょ!?」
「いや、どんな反応するかなーって。」

 最低か。そして私もやってしまった。別に偏見とかそういうものはないのに、びっくりした態度で見てしまった。

「ほんとすみません。」
「いえ、こういうのは慣れてるから大丈夫ですよ。」

 アマンダさんはそう言って笑ってくれたけど、

「ダメですよ、こんなことに慣れちゃ![#「!」は縦中横]…と言っても私も失礼な態度でした、申し訳ありません。キースがいるということはお店の手伝いについてですよね。どうぞお入りください。」

 と頭を下げて店内に案内しようとした。

 そうすると今度はアマンダさんが驚いた顔をしている。どうしたのだろう?

 店へ笑顔で促すと一緒についてきてくれた。店に入る時、キースには一度肘でどついておいた。
 アマンダさんは入り口で一旦止まり、店内を見回していた。その横を通って、奥のテーブル席まで行ってそこに座って待ってもらうように伝えた。キースもそれについていってアマンダさんの横に座る。私はひとまずカウンターに戻った。

「お客さん?別件の用事?」
「すみません、ちょっと私話を聞きにいくので帰る頃には声かけてください。あ、カフェオレサービスです。お時間があるならのんびりしてくださいね。」
「気を遣わせっちゃってごめんね。ありがとう。食後に美味しくいただくねー。」
「はい、ごゆっくり。」

 そういうとチャチャっと三つコーヒーをセットしてキースとアマンダさんが待つ席へと向かった。コーヒーをセットしながらアマンダさんを見たが、やはり美人さんだな。と感じた。まつ毛が長い。そして色が白い。赤茶色の髪の毛は肩よりも長くて、一つにまとめて右肩から前に流している。 

「すみません、お待たせしました。コーヒーでよかったですか?」
「ありがとう。いただきます。」
「ん、ありがと。」

 二人はそういうとコーヒーに一口口をつけた。

「先月、モンテールの方で討伐があっただろ。この人が勤めていた飲み屋…と言ってもレストランに近いかな。そこの店長の本業がその討伐対象のフェンリルの被害にあってな。店は大丈夫なんだが、本業の方の復旧作業で、臨時休業になってるんだ。店の中にも他に影響を受けて休まざる得ない人とかが運悪くたくさん居たらしくて。ただ、アマンダはそういう影響がなかったにもかかわらず、お店が休みらしくてちょっと困っててな。それで一時的にでも働けないかってことだったんだ。」
「ある程度なら接客も調理もできますよ。」
「そんなところに影響が…アマンダさんも大変でしたね。」

 そういうと、ほんと、こればかりは災害だからどうしよもないわ、と困った顔でため息をついていた。

「モンテールの近隣の街で、そういう困ってる人の救済処置をいくつか行ってたんだけど、アマンダは元々俺の知り合いでもあってな。救済処置も行なっていたんだけど、ここで働くのならアマンダのこれまでのスキルも使えるかと思って。」
「それはとてもありがたいです。こちらも急に人員が必要になったので助かります。業務内容はキースから聞きましたか?」

 アマンダさんの資料を受け取りながらそう尋ねると、アマンダさんは頷いた。

「街から少し距離がありますが大丈夫ですか?」
「問題ありません。今は街の入り口近くの部屋を借りて生活しているので、ここまでの距離はそう遠くはないわ。」

 アマンダさんはモンテール出身で、私よりも二つ年上だった。大学を出てすぐに今いるレストランで働いているというらしい。

「今働いているところっていうのはよくあるレストランですか?」
「そうね。ただ、私みたいな人間が多くいるのが特徴かも。心が女性だったり、逆も然り。獣人も多いわね。そういうのはあまり気にしていないお店なのよ。店長も私みたいな感じの人だから、門戸が広いのよね。取りまとめるのも大変だと思うけどね。」
「とても素敵な店長さんなんですね。」

 アマンダさんの目を見てそういうと、嬉しそうに目を細めた。

「ええ、尊敬しているわ。私もいつか店長のようになって自分の店を持つのが夢なの。」
「いいですね!そしたら私もそこにお邪魔します。」

 そう言ってふふっと二人で笑いあった。

「一週間ほど試用期間を設けさせてください。業務のこととか、接客のことで確認したいので。キースの友人で、ギルドを介しての紹介ですので信頼はしているのですけど、アマンダさんがやりづらいと思うことあるかもしれませんし、私もあう合わないとかを考えてみたいので。構いませんか?」
「ええ。もちろんよ?」
「そんじゃ。ひとまず一人人員確保の方向で動くってことでかまわねぇかな?」
「うん、キース。こんなに早く対応してくれてありがとう。」
「運が良かったよな。」

 本当にとんとん拍子だ。とてもありがたい。運が味方についている気がする。

「こちらの要望としては、できるだけ騎士団の調査が終わるまでは安定的に忙しいと思うので、調査が終わるまでは手伝って欲しいです。ただ、アマンダさんの考えもあると思うので、もし仕事をやめないといけない場合には相談してください。ギルドにヘルプを頼むこともできると思うので。」
「わかったわ。」
「給与や雇用形態については、多分バックアップ事業との絡みになるので…」
「ああ。さっき渡した資料の中にそれに関連する文書もあるから確認してくれ。問題なければエレノアの支払いと国の補助分でアマンダに支払いできると思う。」
「ちょっと待って。確認するね。」

 渡されているバックアップ事業の書類を見ると、国から半額は補助が出ると書かれている。この街の相場を渡すとしてもだいぶ助かりそうだ。

「ひとまず了承したよ。」
「それではアマンダ、エレノア、書類にサインよろしく。」
「わかった。」
「ええ。」

 そうしてアマンダは明日からお手伝いに来てくれることになった。

 

 
「それじゃ、明日渡した紙のものを準備したらお昼前ぐらいに来てください。ちょっと早めだと嬉しいです。」
「わかったわ!またね。店長。」
「店長だとわかりにくいので、エレノアでいいですよ。」
「ありがとうエレノア。また明日ね。」

 軽く投げキッスをして、アマンダはキースと帰っていった。そう言えばキースはどうしてアマンダと知り合いだったのだろう?また今度聞いて見ることにしよう。

 見送って店内に戻ると、ボアも身支度をしているところだった。

「あまりお話できなくてすみません。」
「いいよいいよー。お構いなく。ほっこりしたよ!これからの仕事も頑張れそう。」
「ならよかったです。」
「騎士団に卸すのとは別に。普通にここに食べにくるよ。」
「ありがたいです。他の方もぜひ連れていらしてくださいね。副団長様とは知りませんでした。」
「あー、ここでは堅苦しい感じはなしで。疲れるんだよーあれ。」

 思い出して言葉を丁寧にすると、ボアはとても嫌そうに頭をかきながらそういった。

「あ、もし白騎士団だったら丁寧にしたほうがいいかもね。俺ら叩き上げはそんなんいらないから!それじゃまたね!」

 そういお金を支払うと、ボアも大きく手を振って去っていった。





店から少し離れて、
「とてもいいひとね。しっかりしてる。」
とアマンダはキースに声をかけた。
「昔はもっとどこか抜けてる感じがあったんだけどな。」
そういうキースは少し懐かしむように丘の上を振り返った。
「ま、助けてやってくれよ。」
「助けてもらったのはこちらだわ。」

初めてあったときのあの態度をすぐ誤り、すぐに自分の自己を認めてくれた。
それだけでアマンダにはエレノアが好ましく思えた。
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