21 / 42
20.雨と広場と原因現場(サイドフーリア)
しおりを挟む最初に見た時からその違和感に、全身が粟立つのを感じた。
これで原因がここではないと思う奴がばかだ。
この町に入ってから違和感はひしひしと感じていた。ここで普通に過ごしている町の人間は本当に魔力が少ないのだろう。私はずっと入った瞬間から背筋がゾワゾワするのを止められないというのに。ずっと落ち着きなくなってしまったのはそのせいだ。
ロゼニアの町をこえてモンテールとの中間地に至った時には間違いなく山の中に原因があると肌で感じていた。早速荷物を置いたら必要な物を持って、ランド君に山に入る旨を伝えた。そうすると、焦ったようにランドくんがレクター君を呼んでいた。
一人で山に入ることなんてお茶の子さいさいなのに。心配性なのだ。ランド君は。
山を登ること数刻。
魔素の感覚を肌で感じる方向へなるべく進んでいく。レクター君も顔が引き攣っているので何か感じているのだろう。
そして唐突に現れた場所は、綺麗で歪だった。
無理矢理掘り起こされたような広場。その周りを覆う自然の美しい姿。見入ってしまって息を呑んだ。
「なんなんですか、あれは…?」
レクター君が声を振り絞る。なんだろう?
「私にもわからないけど、これは、なかなかに近づけないね。」
思わず笑みが溢れてしまう。
「君にはあれはどう見えるの?」
あの現場から目を離さずに横に問いかけると、レクター君は少し考え込むようにしながら前を凝視しているようだった。
「…あの周りには黒いモヤが渦巻いているように見えます。」
「黒い靄、か。」
成る程成る程。
でもそんな生やさしいものじゃないと思う。
私には黒い稲妻と青い稲妻が周りを取り巻いて見えている。
バチバチと音を鳴らしているのに、見方ですらも個人の魔素の量によって変わるのか。普段はその差はそんなに感じないのに今回は顕著だ。
とても興味深い。
「あれには近づいたらダメだからね。」
「はい。」
そういうと、レクター君を連れて抉れている土地の周りをぐるりと一周した。
本当に突然現れたかのように、地面には境目もしっかりとあった。苔は切り取られたように無くなっている。砂と岩石。
逆に周りはどうだ?
研ぎ澄ましていると、ここの中心からの邪魔は入っているようで、煙が空気に混じるが如く息苦しさを感じた。が、中心以外から禍々しさはあまり感じないので、周りの息苦しさは中心からの影響だろうと憶測した。
「ほんと、これ、なんなんだろうね。あ、君は真似しないでね。」
そういうと、ゆっくりと手をばしてシールドを貼った。体を囲むように三重にすると、腕を突き出して前にゆっくりと進む。
「フーリオ調査部長!!おやめください。」
「いいのいいの、大丈夫。そのまま見てて。なんかあったらヒールよろしく。」
そんな軽い返事をしながら枯れた大地の上を一歩、また一歩と進んでいく。
五歩進むと一つ目のシールドに影響が出た。
次は十歩進むと二つ目がダメになった。
さらに十歩進むと、革手袋を焼くような焦げ臭さが現れる。
そこで限界を感じ、急いでレクター君のいるところに下がっていった。レクター君は急いで焦げた指先に火イールをかけてくれた。
「ふふ、楽しくてちょっと止めるの遅くなっちゃった。」
「何してるんですか!あー、手袋もこれ、ダメじゃないですか。」
お小言を言いながらも指先を綺麗にしてくれる。
「こんな原因場所が簡単にわかるなんて思わなかったよ。あんなでっかい魔素溜まりは初めて見た。」
魔素溜まりは実はそこそここの世界にあったりする。
と言っても魔素が発生しやすいところで少し濃い魔素がある程度だ。時間がたてば空気に混じって薄まってしまう。
「これ、魔素溜まりなんですか??」
「だと思うけどどうかな。自然発生したようにはどうも思えないんだよね。それに、中心部は想像以上に危険だ。」
「そうなんですか…。」
「私だけじゃなんともできない!あーー、もどかしいね。」
楽しくてモジモジしてしまう。
「もどかしい…」
レクター君はあまりこの気持ちを分かってはくれなさそうだ。
初めての遭遇!どうにもならない未知への世界!これを解決できたらどんなに快感だろう。でもこれ以上近づけない。もどかしい!
「仕方がないから戻ることにしよう。あー、本当はもうちょっといたいけど。僕だけでも残りたいけど。」
「分かってるならそんなこと言わないでください。他の隊員にも迷惑になります。」
「そうかなー。」
「そうですよ。」
不満を全面に出してもレクター君はめげない。そうか、えー、残りたいけども。
後ろ髪を引かれる用に私たちはその場を後にした。
次の日、大人数で昨日の道を戻っていった。道がぬかるんで気持ちが悪いが、早くあの場所に行きたいと気持ちが急いた。
昨日の夜まで考え事をしていたが、あそこに近づくための算段は出てこなかった。やはり宝具を借りることが手っ取り早いだろう。それも自分の手で作れれば即座に作ることを試みたいのにできないことが悔やまれる。
自分の使役している妖精ではあの魔素を散らせることはできない。できないどころか飲み込まれてしまう可能性もあるから、そんな危険を冒すわけには行かなかった。
なんだかんだで自分の仕事の相方で情もある。
なぜ、我々には魔素を出すことはできても吸収することはできないのだろう。
まだまだできないことが多いのが悔やまれる。
太古の宝具はそれができるものがあるらしい。
逆になんで昔の人間はそんなことができたのだろう?
そしてなんで今はそれができなくなってしまったのだろう?
歴史にも載る以前の昔のことだから、誰も答えは知るよしもない。
妖精たちに聞いたら答えを知っているだろうか。
そんな技術が大昔にあったのだとしたら、それを無くすなんて人間はとても浅はかだ。
ひとまず自分ができうる限りのことをするしかない。
私は目を閉じると、コリガンの視界を共有した。
上空から見る景色には慣れないし、膝の裏がスーッとするような恐怖感も感じるがそれは我慢した。
「やはり、原因は中心でしょうね。真っ黒です。」
「そうですか。やはり…。」
「昨日途中までは歩み寄ったんですけどね。」
「え?」
「シールド三重でもやけ切れちゃいました。やっぱり魔素散らすしかないですよねー。」
「え、聞いてませんよそれ。え?」
「あ、新しい手袋発注しておいてください。」
「いや、それ今いうことじゃないですよ?ちゃんと報告しないとダメですよ?」
目を閉じたままで喋ると、ランド君が驚いた声を出していた。多分、ひどい顔をしているだろう。
無視をしてもう少し近づいてみる。小さな中心に嵐のように黒い稲妻と青い稲妻が渦巻いていた。
「腹立たしいですね。見るしかできないなんて。」
そういうとコリガンを自分の元に戻した。
「とりあえずですが、シールドを貼っていけるところまでの土なんかを採取しておきましょーかね。ランド君、手袋貸してくれますか?」
「…私ので良ければ。」
そういうとランド君の手袋をはめて昨日のように三重にシールドをかけた。少しガバガバするが仕方ない。
試験管に砂を入れて、それを他の隊員に手渡すと、ラベルを記入していた。場所ごとに幾つか採取を終えると、今度は周りの草花。雨も一応採取しておいた。
「何かわかるといいんですけどね。ひとまずキャンプの方で調べるようにしましょうか。」
そういうとランド君が下山の号令をかけた。
ここからは私の腕の見せ所ですね。
ご機嫌で笑っているのに、そんな不気味そうなめでこちらを見ないでもいいのに。
失礼な人です、ランド君。
0
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~
村雨 妖
恋愛
森で1人のんびり自由気ままな生活をしながら、たまに王都の冒険者のギルドで依頼を受け、魔物討伐をして過ごしていた”最強の魔法使い”の女の子、リーシャ。
ある依頼の際に彼女は3匹の小さな黒竜と出会い、一緒に生活するようになった。黒竜の名前は、ノア、ルシア、エリアル。毎日可愛がっていたのに、ある日突然黒竜たちは姿を消してしまった。代わりに3人の人間の男が家に現れ、彼らは自分たちがその黒竜だと言い張り、リーシャに自分たちの”番”にするとか言ってきて。
半信半疑で彼らを受け入れたリーシャだが、一緒に過ごすうちにそれが本当の事だと思い始めた。彼らはリーシャの気持ちなど関係なく自分たちの好きにふるまってくる。リーシャは彼らの好意に鈍感ではあるけど、ちょっとした言動にドキッとしたり、モヤモヤしてみたりて……お互いに振り回し、振り回されの毎日に。のんびり自由気ままな生活をしていたはずなのに、急に慌ただしい生活になってしまって⁉ 3人との出会いを境にいろんな竜とも出会うことになり、関わりたくない竜と人間のいざこざにも巻き込まれていくことに!※”小説家になろう”でも公開しています。※表紙絵自作の作品です。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる