温もりカフェで夢を見る

あや

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20.雨と広場と原因現場(サイドフーリア)

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 最初に見た時からその違和感に、全身が粟立つのを感じた。

 これで原因がここではないと思う奴がばかだ。

 この町に入ってから違和感はひしひしと感じていた。ここで普通に過ごしている町の人間は本当に魔力が少ないのだろう。私はずっと入った瞬間から背筋がゾワゾワするのを止められないというのに。ずっと落ち着きなくなってしまったのはそのせいだ。

 ロゼニアの町をこえてモンテールとの中間地に至った時には間違いなく山の中に原因があると肌で感じていた。早速荷物を置いたら必要な物を持って、ランド君に山に入る旨を伝えた。そうすると、焦ったようにランドくんがレクター君を呼んでいた。

 一人で山に入ることなんてお茶の子さいさいなのに。心配性なのだ。ランド君は。

 山を登ること数刻。

 魔素の感覚を肌で感じる方向へなるべく進んでいく。レクター君も顔が引き攣っているので何か感じているのだろう。

 そして唐突に現れた場所は、綺麗で歪だった。

 無理矢理掘り起こされたような広場。その周りを覆う自然の美しい姿。見入ってしまって息を呑んだ。

「なんなんですか、あれは…?」

 レクター君が声を振り絞る。なんだろう?

「私にもわからないけど、これは、なかなかに近づけないね。」

 思わず笑みが溢れてしまう。

「君にはあれはどう見えるの?」

 あの現場から目を離さずに横に問いかけると、レクター君は少し考え込むようにしながら前を凝視しているようだった。

「…あの周りには黒いモヤが渦巻いているように見えます。」
「黒い靄、か。」

 
 成る程成る程。
 でもそんな生やさしいものじゃないと思う。

 私には黒い稲妻と青い稲妻が周りを取り巻いて見えている。

 バチバチと音を鳴らしているのに、見方ですらも個人の魔素の量によって変わるのか。普段はその差はそんなに感じないのに今回は顕著だ。

 とても興味深い。

「あれには近づいたらダメだからね。」
「はい。」

 そういうと、レクター君を連れて抉れている土地の周りをぐるりと一周した。
 本当に突然現れたかのように、地面には境目もしっかりとあった。苔は切り取られたように無くなっている。砂と岩石。

 逆に周りはどうだ?

 研ぎ澄ましていると、ここの中心からの邪魔は入っているようで、煙が空気に混じるが如く息苦しさを感じた。が、中心以外から禍々しさはあまり感じないので、周りの息苦しさは中心からの影響だろうと憶測した。

「ほんと、これ、なんなんだろうね。あ、君は真似しないでね。」

 そういうと、ゆっくりと手をばしてシールドを貼った。体を囲むように三重にすると、腕を突き出して前にゆっくりと進む。

「フーリオ調査部長!!おやめください。」
「いいのいいの、大丈夫。そのまま見てて。なんかあったらヒールよろしく。」

 そんな軽い返事をしながら枯れた大地の上を一歩、また一歩と進んでいく。

 五歩進むと一つ目のシールドに影響が出た。
 次は十歩進むと二つ目がダメになった。
 さらに十歩進むと、革手袋を焼くような焦げ臭さが現れる。

 そこで限界を感じ、急いでレクター君のいるところに下がっていった。レクター君は急いで焦げた指先に火イールをかけてくれた。

「ふふ、楽しくてちょっと止めるの遅くなっちゃった。」
「何してるんですか!あー、手袋もこれ、ダメじゃないですか。」

 お小言を言いながらも指先を綺麗にしてくれる。

「こんな原因場所が簡単にわかるなんて思わなかったよ。あんなでっかい魔素溜まりは初めて見た。」

 魔素溜まりは実はそこそここの世界にあったりする。
 と言っても魔素が発生しやすいところで少し濃い魔素がある程度だ。時間がたてば空気に混じって薄まってしまう。

「これ、魔素溜まりなんですか??」
「だと思うけどどうかな。自然発生したようにはどうも思えないんだよね。それに、中心部は想像以上に危険だ。」
「そうなんですか…。」
「私だけじゃなんともできない!あーー、もどかしいね。」

 楽しくてモジモジしてしまう。

「もどかしい…」

 レクター君はあまりこの気持ちを分かってはくれなさそうだ。

 初めての遭遇!どうにもならない未知への世界!これを解決できたらどんなに快感だろう。でもこれ以上近づけない。もどかしい!

「仕方がないから戻ることにしよう。あー、本当はもうちょっといたいけど。僕だけでも残りたいけど。」
「分かってるならそんなこと言わないでください。他の隊員にも迷惑になります。」
「そうかなー。」
「そうですよ。」

 不満を全面に出してもレクター君はめげない。そうか、えー、残りたいけども。

 後ろ髪を引かれる用に私たちはその場を後にした。

 次の日、大人数で昨日の道を戻っていった。道がぬかるんで気持ちが悪いが、早くあの場所に行きたいと気持ちが急いた。

 昨日の夜まで考え事をしていたが、あそこに近づくための算段は出てこなかった。やはり宝具を借りることが手っ取り早いだろう。それも自分の手で作れれば即座に作ることを試みたいのにできないことが悔やまれる。

 自分の使役している妖精ではあの魔素を散らせることはできない。できないどころか飲み込まれてしまう可能性もあるから、そんな危険を冒すわけには行かなかった。

 なんだかんだで自分の仕事の相方で情もある。

 なぜ、我々には魔素を出すことはできても吸収することはできないのだろう。
 まだまだできないことが多いのが悔やまれる。

 太古の宝具はそれができるものがあるらしい。

 逆になんで昔の人間はそんなことができたのだろう?
 そしてなんで今はそれができなくなってしまったのだろう?

 歴史にも載る以前の昔のことだから、誰も答えは知るよしもない。
 妖精たちに聞いたら答えを知っているだろうか。
 そんな技術が大昔にあったのだとしたら、それを無くすなんて人間はとても浅はかだ。

 ひとまず自分ができうる限りのことをするしかない。
 私は目を閉じると、コリガンの視界を共有した。
 上空から見る景色には慣れないし、膝の裏がスーッとするような恐怖感も感じるがそれは我慢した。

「やはり、原因は中心でしょうね。真っ黒です。」
「そうですか。やはり…。」
「昨日途中までは歩み寄ったんですけどね。」
「え?」
「シールド三重でもやけ切れちゃいました。やっぱり魔素散らすしかないですよねー。」
「え、聞いてませんよそれ。え?」
「あ、新しい手袋発注しておいてください。」
「いや、それ今いうことじゃないですよ?ちゃんと報告しないとダメですよ?」

 目を閉じたままで喋ると、ランド君が驚いた声を出していた。多分、ひどい顔をしているだろう。

 無視をしてもう少し近づいてみる。小さな中心に嵐のように黒い稲妻と青い稲妻が渦巻いていた。

「腹立たしいですね。見るしかできないなんて。」

 そういうとコリガンを自分の元に戻した。

「とりあえずですが、シールドを貼っていけるところまでの土なんかを採取しておきましょーかね。ランド君、手袋貸してくれますか?」
「…私ので良ければ。」

 そういうとランド君の手袋をはめて昨日のように三重にシールドをかけた。少しガバガバするが仕方ない。

 試験管に砂を入れて、それを他の隊員に手渡すと、ラベルを記入していた。場所ごとに幾つか採取を終えると、今度は周りの草花。雨も一応採取しておいた。

「何かわかるといいんですけどね。ひとまずキャンプの方で調べるようにしましょうか。」

 そういうとランド君が下山の号令をかけた。

 
 ここからは私の腕の見せ所ですね。

 
 ご機嫌で笑っているのに、そんな不気味そうなめでこちらを見ないでもいいのに。
 失礼な人です、ランド君。
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