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第93話
散々吸い付かれた唇がひりついてきた頃に、ようやく解放されて必死に胸を上げ下げして酸素を身体に取り入れる。
ほ、と油断している時に、ずっとむずむずとさせていた指先が、ちり、と一瞬だけ胸元の尖りを撫でた。びくっ、と身体が跳ねて、高い声が出る。
「あぅ、っ!」
驚いて刺激のもとに目線を下げると形のきれいな爪先が、見たこともないほどそそり立っている桃色の乳首の周りを優しく撫でていた。
「依織先輩…、かわいい…もっと…」
「とお、あっ、あ!」
重い吐息が肌を撫でて、戸惑っている間に、透の熱い口内に片方の尖りがぱくり、と食べられてしまう。ぬるついて溶けてしまいそうなほど熱いそれに吸われると、むずがゆいような刺激があって、そこからざり、と舌の表面で、散々焦らされて敏感に主張している先端を押しつぶされるように舐められると味わったことのない強い電流が身体の中にうまれる。
「ひゃ、あ、っ…んあ、あ、だ、だめ、だめぇ…っ!」
ちゅ、ちゅ、と先端を軽くキスをされると、その度に淡い信号に物足りなさを感じて、浅ましく透の頭を抱き寄せてしまいたくなる。その前に、透がまたしゃぶりついて、器用な舌がにゅるにゅる、と纏わりついて側面を舐めあげて、柔らかな舌裏で押しつぶされると強い快楽に神経が焦げ付いてしまう。
「あ、あっ、っ、んうう、やぁっ」
もう片方の突起は、羽毛で撫でられているかのような繊細な触り方でずっと周囲をなぞられる。あまりにも対照的な愛撫に、片側は物足りなくてたまらないのに、もう片側はおかしくなるほどの快感を与えられて、頭の中がぐちゃぐちゃに歪んでいく。
いつも土をいじり黒く汚れているような優しい指先が、こんなにもいやらしく、見下ろした瞳は熟れてぎら、と光るアルファのものになる一面を僕は知らなかった。植物園での彼は、まるでこんなこととは無縁な様子だったのに、あまりにも巧みな夜の姿を持っていることが信じられないのに、異常なほど僕の身体を熱くさせる。
「ん…、ぅあっ!」
唾を飲み込むのと同時に身体の熱も落とし込もうとすると、強く、ぢゅ、と周囲の柔らかな皮膚ごと吸われて、先端がかすかに立派な歯に挟まれる。強烈な刺激にばち、と脳内で電気が弾けるような感覚があって、身体が何度も、びくん、びくん、と跳ねる。その衝撃が収まると共に、股間にじわ、と嫌な感覚がしてくる。
「依織先輩…」
僕の様子をうかがうように、汗で張り付いた前髪を避けて、額にキスをする。透に重い瞼を何度もまたたいて、なんとか見上げると、目元に、ぽた、と尖った精悍な顎先から汗が落ちる。それから、顔を赤くさせた透が、ゆる、と瞳を溶けさせて僕の唇に軽く吸い付く。
「かわいい…、かわいいです…依織先輩、好き…」
「ん…、ん…」
その言葉と優しい甘やかなキスに身体はまたぶるり、と震える。温かな波にのまれるように心地よいのに、内腿はびりり、と痺れている。
広い背中を抱き寄せると汗で張り付いたシャツが邪魔だった。それを引っ張ると透が、顔を持ち上げて、どうしました? と世界で僕にしか聞こえないような囁きで尋ねる。それすらも、うなじがむずついて、僕は小さく、ん、と声を漏らしてしまう。
「透も…」
汗で濡れたこめかみを撫でて、筋張った首を撫でて、シャツの襟ぐりから指を指し込んで、鎖骨に触れる。びく、と身体が動いて、小さく息をつまらせた透は、顎先を僕の目の前に寄越した。現れたそれに、僕は軽く歯を立てる。
「っ、く…」
小さい呻いた透は、次の瞬間には身体を起して、早急にボタンを外してばさり、とシャツを脱ぎ捨てた。想像よりもはるかにたくましく、隆起した筋肉に身を包まれた透は、勇ましいアルファそのものだった。ぎゅう、と身体の奥の熱の発生源がきつく絞られるように痛む。その身体を凝視していると、透が、ふ、と笑った。気づかれてしまった、と恥ずかしくて急いで目をそらすが、頬に軽く唇が吸い付く。
「もっと見ていいんですよ…」
依織先輩のものですから。
「ん、う…ぁ、あ…」
ゆったりと熱い吐息が耳を撫でながら低く囁かれて、びりり、とうなじから背筋を通って全身が甘く疼く。それから、くちゅ、と温かな舌が耳の中に侵入してきて、目を見張る。ぐしゅ、ぢゅ、と卑猥な水音が脳内に響き、逃げ場がなくなる。
「あ、あっ…や、…んっ」
押し返そうと手を伸ばすと、しっとりとして、ふわ、と柔らかなものに触れて、それが透の胸元だと視線を渡してから気づく。透はまなじりを赤くして、僕と目があうと、とろり、と微笑んだ。僕の手を上から握りしめて、柔らかな胸筋に押し当てる。そこから、透の力強くて、速い鼓動が皮膚から伝わって、僕の全身へとめぐっていく。僕の心音よりも速くて、ど、ど、と確かに動いている。
「大好きです…」
透は眉を垂らして、目を細めて囁いた。あまりにもしあわせを噛み締める笑みで、僕は唇を噛んで、鼻の奥が痛んで涙があふれるのを堪える。
透の首に腕を回して、ぴったりと胸元を合わせる。僕たちのお互いの鼓動は、速く、力強く、お互いの薄い皮膚を通して交じり合う。汗ばんだ身体はしっとりと合わさって、溶けていくように心地よい。擦り寄った首筋からは絶えず甘い香りがして、より濃度を増していく。
愛しくて、涙があふれてしまいそうで、たまらなくて、そこに小さい唇で吸い付いた。ちゅ、と音がして唇が離れる。
「僕も、大好き…」
消え入りそうな頼りなく薄い声だったけれど、わ、と透のフェロモンが強さを増して、僕の神経を焦がす。透が深く息を吸いこんで手のひらで包んでいる背中が大きく膨らむと、ゆっくりと息が吐かれる。
そ、と顔があがってきたと思えば、唇が触れ合う。淡く舌先が唇を舐めて、睫毛をあげる。赤い眦の瞳はたゆたう水面のように揺れていて、じ、と僕を見つめている。穏やかな波の奥には、激情に溺れる強い欲が見える。そこから僕は目をそらすことが出来ずに吸い込まれていく。
「早く、依織先輩と一つになりたい…」
あまりにもまっすぐで、強くて、熱烈な告白だった。
下唇を噛んで、小さく唾を飲み落とす。瞳を見つめながら、かすかに首を縦にうなずいた。
透は、顎に吸い付き、喉仏を優しく食み、鎖骨を舐めて、谷間を唇でなぞる。その一つひとつの動作が淫猥なのに、どこまでも愛おしくて涙が溢れてしまいそうになる。
かさついた長い指先が、そ、とスラックスの狭間に入る。は、と視線を落とすと、透が下腹部に強くキスをした。ナカが、ぎゅう、と反応して、頭の中が不明瞭に犯されていく。僕を上目で見つめて、優しく目を細め、何度もキスをしてくる。その度に後ろがむずむずと落ちつかなくなっていって、足の爪先が丸まってしまう。
ジ、と静かな部屋にジッパーを下げる音がやけに大きく聞こえて、その振動にすら、息が漏れる。
「…ゃ、あ…」
スラックスと下着を一緒にずらされると、ふるり、と立ち上がり濡れた自身が現れる。それを愛おしそうに微笑み見下ろしながら、透は僕の足をゆっくりとそれらから脱ぎ落した。ベッドの外でばさり、と音を立てて落とされて、透は僕の太腿をゆっくりと撫でる。
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