【元幹部自衛官 S氏 執筆協力】元自衛官が明治時代に遡行転生!〜明治時代のロシアと戦争〜

els

文字の大きさ
35 / 135

第35話.孤独ナ捜索隊

しおりを挟む
足跡も何も殆ど見えない状態だが、細かな手がかりを集めながら高尾教諭を追う。時折吹く横殴りの風に邪魔されながらの捜索だ。

「おおーい!おおおーい!」

大きく声をあげながら、一歩づつ確実に歩を進める。気を抜くと強風に煽られて簡単に転んでしまう。転倒が大事に至ることもある、注意に越したことはない。
高尾教諭は学生を四人連れて、総勢五名で先行を試みたらしい。風が弱まった瞬間(とき)を狙って出発したと言うことだ。
しかし山地の風の流れというのは平地と違い、そう予測できるものでもない。歩きやすい道を歩いて進んでいるうちに、天候が悪化して後退困難となったのであろう。
彼らが吹雪を避けられる場所に避難できておれば良いが。

「おおーい!」

不安を搔き消すように、風に負けぬように。大きな声で呼びかけて歩く。

いかほど進めただろうか。いつしか樹林帯を抜け、開けた場所に出た。その瞬間、横殴りの風を受け、立って居られなくなった。
「前傾姿勢」というよりも、もはや四つん這いになり風を受け流す。

「これは厳しいな」

目を開けられない風の中、柄にもなくネガティブな言葉を口の中で唱えた。
この天候、この広い雪原で不明者を探すのは骨が折れそうだ。藁の中から針を探すようなものだろう。

最悪のシナリオが頭を過ぎった、その直後だった。降り積もった雪が強風に煽られて、舞い上がる。顔を上げた時、白いカーテンの隙間からちらりと何かが見えた。
雪山(しぜん)に似つかわしくない人工物。すらりと長いそれは、間違いない小銃だ。一つの小銃が、雪に突き立てられたまま放棄されていた。持ち主不在のそれは、吹きすさぶ風にも負けずに、その存在を示している。

間違いない。
彼らはそこにいたのだ。大きな手がかりに、にわかに希望と力が湧いてきた。

「捨てたのか、落としたのか」

どちらにせよ教諭の前で小銃を紛失したのだ。彼らは追い詰められていると見て良いだろう。であれば、万難を排してあの小銃の下に行って調べて見るべきだ。

強風により立って居られず、そのまま歩いて向かうのは無理だと判断。膝を立てて、匍匐前進で進む。
スピードは出ないが、転倒してそのまま斜面を滑落しては命に関わる。

「ぐっ」

何かが左目に入って目を閉じた、雪か氷かそれともゴミか。両手が塞がっているので擦る事も出来ず。二度三度まばたきをして、涙で洗い流した。

ゴォォという風の音だけが耳の横で渦を巻く。ほんの十数メートルの距離が、やけに遠く感じる。重い下半身を引き摺るようにして、ようやく小銃の下にやってきた。
墓標のように突き立っているそれを調べる。菊の紋が付いている、良く知る鉄砲だ。力を込めて引っ張ると、白に埋もれたその全てが姿を現した。

「誰の、など判別はできんが」

そうして、ほんの数瞬。考えを巡らせていると、風がぴたりとやんだ。舞い上がる地吹雪が収まり、視界がクリアになる。
信じられない好機に、すくっと立ち上がり辺りを見回した。
ぐるりと身体をひねって、三百六十度。その時、白い丘の向こうから何か声が聞こえたように思った。

「誰かいるのかー!」

出来うる限りの大声で呼びかける、しかし返事はない。
一瞬だけ立ち止まったまま考える、行くべきなのか。いや、ここまで来たからは。拾った小銃を握りしめ、声の聞こえた方向へ歩き始めた。

風雪の収まった斜面を軽快に進む。なだらかな登り坂ではあるが、風が無いのであれば問題は無い。そうして一段小高い場所に来た時、それを見つけた。
そう小屋だ。切妻屋根の小さな避難小屋のようだった。殆どが雪に埋もれているが、入り口の部分だけは雪掻きがされて露出している。つまり中に誰かいる可能性が高い。

「北部方面総合学校(ほくそう)の人間か!?中に誰かいるのか!」

小屋の中の何者かに向けて、声をかけながら中に入った。
火の気のない薄暗い室内では、黒い制服を着た男達が、お互いに身を寄せ合って小さく座っていた。四名、間違いない高尾教諭が連れて出た学生達だ。

「おい、大丈夫か!」
「……お、あ。寒いんだ寒い」
「ああ、ああ、ああ」

二人は辛うじて呼びかけに応じたが、残りの二人はだんまりだ。状態は良くない。火を起こそうとしたのだろう、囲炉裏のスペースに薪や新聞紙を並べてはいるが、火の気配は無い。どうしたことか。

「マッチが、マッチが摘めないんだ」

一人の男が、そう言って両の手を見せた。凍傷だろう、大きく手が腫れ上がっている。それで細かな動作ができないのだ、マッチが使えないらしい。

「ああ、良し貸してみろ。わしがやる」

手を摩擦して擦り合わせたあと、マッチを受け取り火をつけた。ぽっと小屋の中がオレンジ色に染められた。炎から出た暖かな光が広がる。
それで気が抜けたのか、ほぅと自然に息が漏れた。

「焚火に手を近付け過ぎるなよ。熱さを感じられないからな、炙られて火傷するぞ」
「助かったよ……助かった」

しきりに感謝の言葉を口にする男達。だんまりを決めている奴らも、脈を取ると正常であった。ショックを受けているだけかもしれない。
ひとまず背嚢を下ろして、荷物でぐるりと周りを囲む。火勢と室温が少し落ち着いた頃、気になっていた事を聞いた。

「それで、高尾教諭はどうした」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...