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第88話.新タナ力
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「あの木の洞(うろ)が見えるか?あの向こうの木だ。少し遠いが」
「うん。木の穴だろ、ウサギの巣かな。今は使ってなさそうだけど」
うん?目がいいな。ウナもこの距離から見えるのか、視力が良いのは私だけの特権かと思っていたが、そうでも無いようだ。
「目が良いな」
「うん。集落でも一番だった、昼でも星が見えるのは俺だけだったよ」
ほう、と適当な返事をしつつ準備する。
二脚銃架(バイポッド)を雪面の奥の地面の突き立てて、銃口を標的に向けた。5、600メートル離れた木の洞(うろ)が今回の的である。
さて、この雪兎2000メートル先でも命中させるという触れ込みだが、実際は難しいだろう。
当然大口径の銃弾ならば、その距離でも有効な打撃を与える事ができる。しかし、人間大の目標に命中させるとするならば非常に難しい。
1000メートルを超えるような長距離狙撃となると弾が着弾するまでに数秒の時間を要する。その間に重力の影響で銃弾は落下する上に銃口の向き、温度や湿度のような外的要因によって着弾点は大きく動くのだ。
地面に伏せて、伏射の姿勢を取る。
雪兎(ライフル)の重量の殆どを二脚が支え、その二脚は大地が保持する。この姿勢での射撃は最も正確な射撃が行える上に、強大な反動も大地が吸収してくれる。
「洞(うろ)を狙う。少し下がっていろ」
真剣な声に集中している事を悟ったのだろう。ウナは無言で二歩下がってその場にしゃがんだ。目線の先はそのまま彼方の木の中央を見つめたままだ。
若い彼だが狩猟の経験があるのだろうか、身を低くして居場所が露見するのを低減しているのだ。
静かに照準を合わせる。
一般的には狙撃といえば片目を瞑って行うというイメージがあるが、戦場では両目を開けて狙うのが普通だ。
スコープを右目で覗くのならば、逆側の左目も開けておく。こうしておけば標的をスコープの視野の中から外した場合でも、肉眼の視野で追いかける事ができる。
全てを銃口の向こう側に集中する。
世界から音が消えた。引き金を引いた。
瞬間、爆ぜた。轟音と衝撃。大地に肩代わりして貰ってなお、反動による大きな衝撃。
視界にうす白い煙がぱっと広がったかと思えば、同時に向こう側で標的が砕けたような手ごたえ。
「あたった。でも、ちょっと上だ」
ウナの声。
改めて確認すると、たしかに標的の木の中央にある洞(うろ)の、そのいくらか上に着弾したようだ。
「なるほどな、大体わかった。もう一発いくぞ」
雪兎はボルトアクション式のライフルである。いつもの小銃と同じだ、手慣れた手つきでボルトを操作する。少し重いが許容範囲だ。排莢と装填を行なって、再び射撃姿勢を取る。
再び発砲。
「やった!ちょうど真ん中」
ウナが自分の事のように嬉しそうに報告する。よし、とばかりにもう一射。
最初の上に逸れた一発を合わせて合計三発の弾丸を放った。
確認するぞ、と声をかけて標的となった木の様子を見に行く事にした。
しばらく歩いて、到着した。そして驚いた、雪兎の威力と精度に。
間近で見る事によって、はっきりわかる。
一発目は木の幹に大きな弾痕、深く樹皮を抉っている。竜に噛み付かれたかのような威力だ。
二発目、三発目はほぼ同じ位置を通過したらしい。木の空洞内部に侵入して、向こう側に貫通。後ろの樹木まで大きな弾痕が残っていた。
「……」
「すごい」などと形容する言葉を述べることも忘れていた。
「なあ、こんなので何を射つんだ?」
ふとウナが問うた。何かに違和感を感じたようで、単純な質問。
これならば、遮蔽物に隠れた敵兵を防御の上から無力化する事も可能だろう。敵機関銃の射手を、土嚢を貫いて撃ち抜くような。
また敵将官を敵射程外から狙撃することも十分に可能である。こんなものが人間に直撃すれば穴があくどころではない、どこに当たっても吹き飛ぶような威力である。
しかし。こんなもので何を撃つ、か。
「敵だ」
「ふぅん」
そう言って、ウナは砕けた木にもう一度視線を戻した。
彼も鉄砲は見たことがある。それで感じたのだろう。自分達が使っていた物と、この雪兎の差を。狩猟に鉄砲を使うこともある、それは獲物を取るための道具だ。毛皮を取るため、肉を取るために、獲物を射つ道具。
目的はそれらを得ることにある。
これは道具じゃない。
雪兎は兵器である。兵器は目標を破壊、殺傷するためのものだ。砕き、殺す事自体が目的の装置なのだ。
同じようで、まるで違う。無垢な彼は敏感にそれを感じとったのであろう。
「うん。木の穴だろ、ウサギの巣かな。今は使ってなさそうだけど」
うん?目がいいな。ウナもこの距離から見えるのか、視力が良いのは私だけの特権かと思っていたが、そうでも無いようだ。
「目が良いな」
「うん。集落でも一番だった、昼でも星が見えるのは俺だけだったよ」
ほう、と適当な返事をしつつ準備する。
二脚銃架(バイポッド)を雪面の奥の地面の突き立てて、銃口を標的に向けた。5、600メートル離れた木の洞(うろ)が今回の的である。
さて、この雪兎2000メートル先でも命中させるという触れ込みだが、実際は難しいだろう。
当然大口径の銃弾ならば、その距離でも有効な打撃を与える事ができる。しかし、人間大の目標に命中させるとするならば非常に難しい。
1000メートルを超えるような長距離狙撃となると弾が着弾するまでに数秒の時間を要する。その間に重力の影響で銃弾は落下する上に銃口の向き、温度や湿度のような外的要因によって着弾点は大きく動くのだ。
地面に伏せて、伏射の姿勢を取る。
雪兎(ライフル)の重量の殆どを二脚が支え、その二脚は大地が保持する。この姿勢での射撃は最も正確な射撃が行える上に、強大な反動も大地が吸収してくれる。
「洞(うろ)を狙う。少し下がっていろ」
真剣な声に集中している事を悟ったのだろう。ウナは無言で二歩下がってその場にしゃがんだ。目線の先はそのまま彼方の木の中央を見つめたままだ。
若い彼だが狩猟の経験があるのだろうか、身を低くして居場所が露見するのを低減しているのだ。
静かに照準を合わせる。
一般的には狙撃といえば片目を瞑って行うというイメージがあるが、戦場では両目を開けて狙うのが普通だ。
スコープを右目で覗くのならば、逆側の左目も開けておく。こうしておけば標的をスコープの視野の中から外した場合でも、肉眼の視野で追いかける事ができる。
全てを銃口の向こう側に集中する。
世界から音が消えた。引き金を引いた。
瞬間、爆ぜた。轟音と衝撃。大地に肩代わりして貰ってなお、反動による大きな衝撃。
視界にうす白い煙がぱっと広がったかと思えば、同時に向こう側で標的が砕けたような手ごたえ。
「あたった。でも、ちょっと上だ」
ウナの声。
改めて確認すると、たしかに標的の木の中央にある洞(うろ)の、そのいくらか上に着弾したようだ。
「なるほどな、大体わかった。もう一発いくぞ」
雪兎はボルトアクション式のライフルである。いつもの小銃と同じだ、手慣れた手つきでボルトを操作する。少し重いが許容範囲だ。排莢と装填を行なって、再び射撃姿勢を取る。
再び発砲。
「やった!ちょうど真ん中」
ウナが自分の事のように嬉しそうに報告する。よし、とばかりにもう一射。
最初の上に逸れた一発を合わせて合計三発の弾丸を放った。
確認するぞ、と声をかけて標的となった木の様子を見に行く事にした。
しばらく歩いて、到着した。そして驚いた、雪兎の威力と精度に。
間近で見る事によって、はっきりわかる。
一発目は木の幹に大きな弾痕、深く樹皮を抉っている。竜に噛み付かれたかのような威力だ。
二発目、三発目はほぼ同じ位置を通過したらしい。木の空洞内部に侵入して、向こう側に貫通。後ろの樹木まで大きな弾痕が残っていた。
「……」
「すごい」などと形容する言葉を述べることも忘れていた。
「なあ、こんなので何を射つんだ?」
ふとウナが問うた。何かに違和感を感じたようで、単純な質問。
これならば、遮蔽物に隠れた敵兵を防御の上から無力化する事も可能だろう。敵機関銃の射手を、土嚢を貫いて撃ち抜くような。
また敵将官を敵射程外から狙撃することも十分に可能である。こんなものが人間に直撃すれば穴があくどころではない、どこに当たっても吹き飛ぶような威力である。
しかし。こんなもので何を撃つ、か。
「敵だ」
「ふぅん」
そう言って、ウナは砕けた木にもう一度視線を戻した。
彼も鉄砲は見たことがある。それで感じたのだろう。自分達が使っていた物と、この雪兎の差を。狩猟に鉄砲を使うこともある、それは獲物を取るための道具だ。毛皮を取るため、肉を取るために、獲物を射つ道具。
目的はそれらを得ることにある。
これは道具じゃない。
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