13 / 25
ノロイの人形
前編(2)
しおりを挟む「あ!メガネ!こんなところにいたのか!!」
後ろから大きな声が聞こえた。
振り向くと、3回生の美人先輩が立っていた。
「チビ王子!!」
まやちゃん、聞こえちゃうよ。
「…なんスか。先輩」
メガネ先輩、声のトーンがすっごい下がりましたけど。
「なんだじゃない!例の病院跡に行くって約束してただろう?」
「あ~…そういやそうでしたね。設楽先輩にこれ渡してからでいいスか?」
面倒くせぇ…メガネ先輩がボソリと呟いた。
な、仲良くないんかな?
「あぁ。いいぞ。でも、お前はなんで携帯に出ないんだ」
ぶつくさ美人先輩が文句を言っているのを無視して
先輩が僕に向き直って、再度プリンのお礼を言ってくれた。
「早くいくぞ!」
「へいへい」
美人先輩の後をかったるそうにメガネ先輩がついて行く。
「くっ付いて歩いているのは逆だったか…まさかチビ王子が金魚のふんだったとは…」
うん。僕もそう思ってた。
ごめんなさい。メガネ先輩。
「なんていうか、2人の印象が変わったね」
「うん。メガネ先輩、思った以上に感じが良かった。
できれば、あのハクちゃんのこともっと聞きたかったさぁ。あ!友達になっておけばよかったぁ~!」
友達って、そうやってなるもんだっけ?
ガシャーーーン!
学食中に、食器が床に落ちる派手な音がした。
「おい!大丈夫か?!」
慌てたような声がして、そっちを見ると、1人の男子学生が苦しがって床で悶えていて、
周りの友達が驚いて声をかけている。
「あげっ!あれ、しに(超)やばい!!」
まやちゃんの焦った声が聞こえた。
「え?なに?どういうこと?!」
顔が真っ赤からどす黒い赤になった男子学生が床で泡をふいてビクビクと痙攣している。
学食は騒然とした雰囲気になっていて、女子学生の悲鳴も聞こえる。
「ちょっと、行ってくる!」
まやちゃんが倒れている男子学生の輪の方へ走り出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
僕もまやちゃんの後を追いかけたけど、
ふと、異質な空気を感じてそこを見ると
女子学生が喧騒の輪から外れたところに1人立っていていた。
ぞくっとした。
だってその子、うっすらと笑っているんだもん。
目が離せなくてその子を見ていたら、視線を感じたのかこちらを見た。
ぞわぞわとしたものが背筋を這い上る。
だって、その子の目が真っ黒に見えたから。
その子が踵を返して去っていくまで僕は動けなかった。
「散!!」
まやちゃんが倒れた男子のそばで何かをしている。
慌ててそこへ駆け寄った。
ちょうどそこへAEDを持った人も到着した。
「いや。AEDはいらない。心肺停止したわけではない。
呼吸も少しずつ落ち着いてきている。医務室に運ぶのを手伝ってくれ」
「持ってきてくれてありがとうね。誰か運ぶのを手伝ってくれる?」
あれ?美人先輩とメガネ先輩だ。
倒れた男子の友達が数名、名乗りを上げた。
担架を持った人も駆けつけてきて、僕らは医務室へ向かった。
「あらあらあら。どうしたの?」
学校医の先生が僕らに聞いてきた。
誰も明確なことを言えずに、突然苦しんで倒れたとだけ友達が答えた。
「とにかく処置をするわね。君たちは戻っていいわよ」
医務室から出て、ぞろぞろと歩いているとき
彼の友達たちが驚いたなと話しているのを聞くとはなしに聞いていた。
「やっぱり、あいつの日ごろの生活じゃねぇ?」
「まぁ、悪くは言いたかないけど、色々乱れてるもんなぁ」
隣でうずうずした空気を感じた。
まやちゃん、気持ちは分かるけどパパラッチ根性はダメだよ?
「どういうことだ?」
美人先輩がしれっと聞いた。
彼らは質問されると思ってなかったから、ちょっとざわっとした。
「え?あーっと…あいつ、今の彼女と付き合ってから必死なんですよ。
彼女のライフスタイルに合わせて、夜な夜な朝まで遊び歩いてて。
最近は講義も欠席しまくってて。不健康な生活してるから…」
「ふぅん…あの男、誰かに恨まれてないか?」
みんなギョッとした。
先輩って、まやちゃんと同じ世界の住民だったんだ…。
ちょっと戸惑った空気が流れたけど、
おい、あれじゃないか?いやでも…
みたいな感じで友達がわさわさ話し合っている。
「あいつ、数ヶ月前に付き合ってた子をこっぴどく振ったんですよ。
今の彼女が学年でも高嶺の花っていうか、美人で人気の子で。
その子と付き合えて有頂天になったのか、元カノに対して酷い対応してて。
でも、それとなんか関係あるんですか?」
「いや。なんとなく気になってな」
友達は、はぁ…と言うと、釈然としない顔をした。
「ごめんね~。この先輩、ちょっと不思議ちゃんだから」
メガネ先輩がフォローにならないフォローをした。
「おい。なんだ?不思議ちゃんて」
先輩、もしかして天然ですか?
「先輩は黙ってて。ちなみに、その元カノさん大学きてる?」
「最近見るようになりましたよ。ちょっと気の毒になるくらい痩せちゃって、
俺らも見てて居たたまれないっていうか…」
「でも昨日みた時、ちょっと雰囲気変わってて不気味だったわ」
「あ。俺もみた。前は愛嬌ある感じで可愛らしい子だったのにな。
なんか、別人かってくらい雰囲気かわってた」
「そっか~。ありがと。ごめんね。お騒がせしました」
メガネ先輩がニコニコ笑って言って、美人先輩を促して立ち去ろうとした。
おい!僕はまだ話し終わってないぞ!!
とかって騒いでいる先輩に業を煮やしたメガネ先輩が、美人先輩をひょいと小脇に抱えた。
わーわー言いながら手足を振り回している先輩に
はいはい。行きますよ~と言いながら歩いていく。
残された僕らはポカンとして見送るしかなかった。
最初に我に返ったのはまやちゃんだった。
「聞きたいことあるってば!追いかけよう!!」
走りながら、僕はまやちゃんに聞いた。
「ねぇ、あの時さ、なんかしてたよね?」
「うん。あれ、呪い。あの人、呪い掛けられてる」
えぇぇぇぇぇぇ…。
「せんぱーーい!ちょっと待ってくださーーい!」
メガネ先輩はまだ小脇に美人先輩を抱えたままだった。
「ん?どうしたの?」
「メガネ先輩!あの人に呪いが掛かってるって分かったんですか?」
「メガネ…。まぁ、いいや。
うーん…ハッキリとではないけどね。気づいたのはハクと先輩だよ」
「え?チ…先輩も視えるんですか?」
まやちゃん、今、チビ王子って言いかけたでしょ。
「あぁ。視えるな。僕の場合は色で区別を付けている。お前たちも面白い色をまとってるな」
なんだか偉そうだけど、まだ小脇に抱えられたままだ。
「君、なんか面白いことしてたね。解呪ってやつ?」
メガネ先輩がまやちゃんに聞いた。
「一時的ですけど。あのままだと多分、あの人死んでました」
ぞっとした。
そんなに怖い呪いが掛かってたの?
「あと、最近、大学内なんか嫌な感じしませんか?変なぁニオイする人もいて」
「僕はニオイでは分からないが、黒いものをまとってる奴らが増えたな」
「俺も分からないけど、ハクが落ち着かないな」
「あのっ!!LIN交換しませんか!!!」
まやちゃん、それが目的だったでしょ。
唐突すぎるよ。
先輩たちはちょっと驚いた顔をしたけど、快くLIN交換をしてくれた。
まやちゃんに巻き込まれてなんでだか、僕も。
ほくほく顔のまやちゃんを促して、お礼を言って先輩たちと別れた。
美人先輩は結局最後まで抱えられたままだった。
仲良しなのかな?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる