公爵家次男の巻き込まれ人生

加賀りょう

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第一章 始まり

4話 初めての視察

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あれから数日が経過した。
変わらず多忙な日々を送っていたシアリィルドは、今日はジークランスの護衛として王家直轄領の視察に来ていた。王都から西に馬車で半日ほどの距離にあるコラールという街だ。
街に到着すると、一行を代官らが出迎えてくれた。

今回の視察で王族はジークランス一人。それ以外に侍従と執事が一人ずつ、残るはカレンを始めとする侍女五人。合わせて八人が護衛対象となる。第1から来ているのは、シアリィルドの部隊だが全員ではない。留守を守ることも必要なので、数人は残り宮の警護に当たっている。
出迎えられた代官とにこやかに言葉を交わすジークランスを見ながら、シアリィルドは周囲の気配を探る。公務として王都の外へ出てくるジークランスに付き添ったのは、今回が初めてだ。シアリィルド自身も来たことのない地である。地図として配置は頭に入っているものの、実際に見るとやはり違うものだ。

今回の視察では、シアリィルドは基本的にジークランスの傍にいることになる。街の規模は決して小さくないのだが、道は王都に比べれば狭い。しかし、人が多いのは王都の城下町の市場と大差ない。あとは、ジークランスの気まぐれが起きなければそう問題は起きないはずだ。

「シア」

ジークランスに呼ばれ、シアリィルドがジークランスの横に並ぶ。こうして代官としての対面は初めてだが、見たことがない相手ではない。シアリィルドを見ると、目元を和らげていた。その表情は、懐かしいということを物語っている。

「ランドルフ卿、私の護衛部隊隊長を務めているシアリィルドだ」
「ご紹介にあずかりました、護衛隊長のシアリィルド・ヴァル・フォン・ファルシースです。よろしくお願いします、ランドルフ卿」

紹介されると、騎士礼と共に頭を下げ名を告げる。既に知っている名だとしても、こうして役職として名乗ることに意味があるのだ。
頭を上げれば、笑みを浮かべた老紳士がいた。

「ご丁寧にありがとうございます。私が、コラールで代官をしておりますニジム・フォン・ランドルフでございます。お若い若様方にお会いできて光栄でございます。どうか、よろしくお願い申し上げます」


ニジムに案内されたのは応接室だった。ジークランスがソファーへと座り、その後ろにシアリィルドが立つ形だ。同様にケイオス、侍従や執事も傍で立っている。向かい側にはニジムが座っていた。

「改めまして、ジークランス殿下、ようこそコラールへお越しくださいました。大きくなられましたなぁ」
「そうだな、こうして公務として爺の前にいるのが多少気恥ずかしくもあるが」
「私は、とても嬉しゅうございます。それに……シアリィルド様も、本当にご立派になられた」

ジークランスの次はシアリィルドへと声をかけるニジム。そこにあるのは、且つての幼い頃の姿なのかもしれない。嬉しそうに話すニジムだが、護衛という立場上勝手に口を開くわけにはいかなかった。そのため、シアリィルドは苦笑することしかできない。
学園に入る前までニジムは王宮で統括執事をしていた。その縁で、今は代官をやっているが、近いうちに隠居する予定ということはシアリィルドも聞いている。その前に会うことが出来て嬉しいことは嬉しいのだが、ジークランスと同じく気恥ずかしい想いもあった。

「爺、昔話は後にでもゆっくりすればいい。そうすればシアも同席できるしな」
「……そうでございますね。では、殿下。まずは現状のご報告からさせていただきます」
「頼む」

真面目な話題へ帰れば、ニジムから笑みが消える。
公務としてジークランスは学園に通っていたことから多くのことを担ってきていたが、自分自身が足を運んで視察をするのは久しぶりだった。幼少期には、国王と一緒にいくつかの領地を見て回っていたからだ。しかし、己一人でこうして面と向かって話をするのは、初めてと言っていい。
知った相手であっても緊張するのは無理もない。そんな固くなっている幼馴染を、シアリィルドは後ろから見守っていた。


「この程度でしょうな。いかがでしたか?」
「……いや、正直に言えば疲れた……」
「ほっほっほ、初めてなのですから仕方ありません。ですが、私以外が相手ではそうもいかないでしょう」
「他国との交渉の方が楽な気がしたな」
「そちらは、殿下の得意分野でありますからな……さて、そろそろ夕食にしましょうか」
「あぁ……」

長かった時間が終わり、ジークランスは両手を伸ばしながら凝り固まった身体をほぐすと立ち上がった。

「よっと、あとシア」
「?」
「夕食はお前も付き合えよ」
「はぁ?」

思わず地が出てしまったのは仕方がないだろう。無論、傍に控えろというのなら仕事上指示に従うつもりだ。だが、共にするというのは違う。人目がある場所にも関わらず、口調は雑になる。友人の間柄なのを知らない者はいないので、それを咎める者はいないので、誰もいないが。

「今日のお前の仕事は、これで終わり。あとは自由だ。ってことで、私と一緒に行動しても構わないだろ、シアリィルド公子殿」
「……それはただの屁理屈だ」
「何とでもいえよ。それで、付き合ってくれるだろ?」

是以外の答えは求めていないというのに、敢えて選択させる。我がままといえばそれまでだが、これまでのストレスが溜まっているというくらいは理解できる。なので、応えるしかない。

「わかった……ケイオス、すみませんが」
「えぇ、後は任せてください。では、私は失礼します。今宵の配置から隊長は除外させますので」
「おう、頼む」
「では……」

ケイオスが出て行くに続いて、侍従たちも出て行った。残されたのは、シアリィルドとジークランス、そしてニジムの三人だ。

「これで、シアも休める」
「ジーク……」
「結局、あれからもあまり休んでいないのは知ってるんだ。お前、少し痩せただろ?」
「特に変わらない」
「お前さ……少し周りから見られていることを気にした方がいい。確かに、お前が危惧していることもあるだろうが、それ以外の目で見ている者もいる。わかっているはずだ。ウェルダン王国で3つしかない公爵家の息子。それだけで、寄ってくる連中は一杯いる。私へも、媚を売っているのか本音なのかわからないが、お前の情報を流してくる奴は多いからな」
「……わかっている」

常に注目されてきたのだから、ジークランスから言われずともその程度のことは理解できている。それでも、どこかで贔屓をされることを受け止められない己がいるのだ。既に隊長という立場になって二月以上経過していても、どこかでそれを嫌悪していた。それが、勤務に現れているのかもしれない。

「公爵が何を考えて配慮したのかはわからないし、配慮をしたのかもわからないが……シア。お前はお前らしくいろ。誰が何を言おうと、私は知っている。主従関係の前に親友、だろ?私たちは」
「……ジーク」

らしくない、と言われればシアリィルドは何も言えない。反論するものを持っていないからだ。確かに、直接父から便宜を図ったと伝えられたわけではないのだ。ということは、ジークランスの言う通りなのだろう。

「ゴホンっ」
「爺?」
「口を挟むようで申し訳ありませんが、シアリィルド様が部隊長となられたのはその実力があってのことでしょう。入隊時に、統括団長殿と試合をしたと聞いております。それが評価につながったのだと私は思っております」

ニジムの言う通り、統括団長と試合形式の立ち合いを行ったことは事実だ。結果は、引き分け。ただし、ハンデとして統括団長は攻め手を禁じていた。シアリィルドも剣技のみで戦ったが、引き分けだとしても相手は防戦一方だったことから、引き分けだとは考えていない。周囲もそう感じていると、シアリィルド自身は思っている。

「統括団長殿は、現時点における最高戦力でございますよシアリィルド様。その方と試合をして、負けなかった。それが証明なのです。と言いましても……日が浅い者たちにはわからないものなのでしょうが」
「忖度があったと言われていたな、確か。バカバカしい……」


統括団長は、珍しく平民からのし上がった実力者だった。相手が公爵子息ということで手を出せなかったというのが、大多数の意見だ。シアリィルドもハンデという形を与えられたことで、相手が遠慮したと考えている。そのため、他の意見と大差はない。
それがもし違うとすれば、どうか。単純に、公爵である父が何かをしたのだと考えていたが、間違いならば自惚れもいいところだ。いや、いずれにしても自惚れていることに変わりはない。
そう考えると、拘っていることこそが器が小さいと証明しているようだった。

(馬鹿馬鹿しい、か。そうだな……)

いつでも、ジークランスの視野は広い。その親友がいうのだから、割り切った方がいいのだろう。気になるのなら、統括へ確認をすればいいだけの話なのだから。今まで気が付かなかったということこそが、周りをよく見ていなかった証拠だろう。

「……ジーク、それにランドルフ公も。ありがとう」
「シア?」
「納得はいかないが……俺はまだ新参者だ。今は、それでいいのかもしれない。確かに、気負い過ぎていた。悪かった、ジーク」
「わかればいい。私は、お前が護衛隊長で嬉しかったからな。それを憂いられると、やりにくい」
「そう、だな……ごめん」

そこへ、コンコンとノックの音が届く。どうやら、夕食の準備が整ったので呼びに来たようだ。タイミングもちょうどいい。軍服のままだが、私的なものだということでジークランスに引っ張られる形でシアリィルドも食堂へと向かったのだった。

「何やら、王都もいろいろとありそうですなぁ。シアリィルド様、どうか道を見失わぬよう」

二人の後ろ姿をみながら、ニジムが呟いていた言葉は本人には届いていなかった。
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