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第一章 始まり
18話 お茶会開始
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奥宮にある庭へ案内されれば、そこには既に招待主である王妃、サレーテヌが待っていた。金髪碧眼でふんわりとした雰囲気を纏ったその姿は三人の子どもがいるようにはとても見えない。
「待っていましたよ、シアリィルド」
スッと座っていた椅子から立つと、そのまままっすぐにシアリィルドの前へと歩いてくる。目の前で止まると、サレーテヌは優しくシアリィルドを抱きしめた。顔をシアリィルドの胸元に当てている様子は、まるで心音を確認しているようにも見える。
「サレーテヌ様?」
「……ジークから話を聞いた時は、心臓が止まるかと思いました。本当に、無事で良かった……目が覚めたと聞くまでは、気が気でありませんでしたから……」
「ご心配をおかけしました。本当に」
ゆっくりとシアリィルドから身体を離したサレーテヌは、見上げるようにシアリィルドの顔を見る。瞳は揺れており、涙が今にも零れ落ちそうだった。だが、シアリィルドが拭うわけにもいかない。困ったように、マナフィールを見ると、肩を竦めるだけだ。
「うふふ、あまり困らせるわけにもいきませんね」
「いえ、その……まぁ……」
「ふふ。マナフィール殿も、わざわざありがとうございますね」
漸くシアリィルドから身を離すと、目元を拭ってから少し下がっていたマナフィールへと声をかけた。今回、マナフィールはシアリィルドの付き添いという立場だ。シアリィルド一人では、万が一何かあった場合に困るだろうということで、兄として付き添っている。シアリィルドほど王家との関りがないマナフィールだが、公爵家嫡男として顔を突き合わすことはあるため、初めて会うわけではない。
「ルリア、ダリアも案内ありがとう。さぁ、シアリィルドもマナフィール殿も座ってください」
「はい」
「……ありがとうございます、王妃殿下」
こうして、異例のお茶会は始まった。
三人が席に着くと同時に、お菓子が運ばれてくる。今回はシアリィルドら男性がいるということで、甘いものだけでなく軽食も用意されていた。注がれる紅茶を口に含むと、香りがふっと広がる。こうしてゆっくりと紅茶を楽しむことが出来るお茶会は、あまり記憶にないことだ。
「お口に合いました?シアリィルドは、これが好きだったでしょう」
「えぇ……覚えていてくださって嬉しいです」
「勿論よ。マナフィール殿もどうですか?」
「とても美味しいです」
「良かったわ」
ずっと笑みを浮かべているサレーテヌを見ていると、シアリィルドはジークランスのことを考えてしまう。そっくりというわけではなくとも、やはり母子であるため面影があるのだ。会おうと思えばできるだろうが、ルトギアスより止められている状態だった。今回は王妃からのものということで渋々承諾した感じだ。シアリィルドを外出させたくないらしい。だから、この機会に会えればいいと思うのだが、今のシアリィルドにジークランスの宮まで移動するのは難しいと言わざるを得ない。
「シアリィルド、どうかしたのかい?」
「……いえ、何でもありません」
「もしかして、ジーク、かしら?」
「っ!?」
考えていることを当てられ、驚きに目を見開く。
「ジークも……同じだもの、わかります」
「……そう、ですか」
「でも大丈夫ですよ。直に来ますから」
「え?」
その時だった。まるでタイミングを計ったように、庭へかけてくる足音が届いた。シアリィルドらが、音がする方向を見れば、汗をかきながらも走っているジークランスの姿がそこにはあった。思わず、シアリィルドはその場に立ち上がる。
「ジーク!」
「シア!!」
その走った勢いのままジークランスはシアリィルドへ抱き着いた。勢いを殺しきれず、そのまま庭へと倒れこんでしまう。
「痛っ……」
「シアリィルドっ!」
「シア、悪いっ!」
背中を打ち、呻き声をあげたシアリィルドに、マナフィールも慌てて立ち上がった。同じく押し付けた形になったジークランスも直ぐにシアリィルドの上から避け、手を掴んだ。促されるようにしてシアリィルドも立ち上がる。
「済まなかった……シア、大丈夫か?」
「あぁ。驚いただけだ」
「ジーク、シアリィルドはまだ体調が万全ではないのです。また寝込んでしまったらどうするのですか? 若い娘ならまだしも、貴方のような人に抱き着かれてはシアリィルドも嬉しくないでしょうに。全く……」
「申し訳、ありません、母上。シアも……悪かった」
悪いのは自分だと認めているので、ジークランスも素直に謝る。しかし、その行動はシアリィルドを案じるものなのだ。責めるはずがない。シアリィルド自身も、会いたいと思っていたところなのだ。任務中だというのに倒れて、公務を切り上げさせてしまった。謝罪をしなければならないのは、シアリィルドの方だ。
「俺は大丈夫だ。ジーク……悪かった。お前の公務中に負傷して、ランドルフ卿にも迷惑をかけてしまった」
「公務のことは気にしなくていい。レッドウルフが出るなんて思わなかった。想定外のことだ。お前の体の方が重要だからな。しかし……その、本当に大丈夫なのか?」
「まぁ、まだ剣を振るうことは出来ない。ここに来るのでやっとだな」
取り繕っても仕方のないことだ。シアリィルドは正直に事実を話す。報告は聞いていたのか、ジークランスは驚くことはなかった。ただ、そうか、というだけで。
「こうして、領地に戻る前に話ができて良かった。お前が気に病んでいたら、休んでいられないから」
「……私もだ。ちゃんと身体を治せ。私は、待っているからな。私だけじゃない。お前の部下たちも、心配している。正直、鬱陶しいほどだ……お前、愛されているな」
「俺が最年少だからじゃないのか?」
「あはは、それもあるかもしれないが……副隊長、あいつには何か伝えておくか? お前をいち早く手当したのはあいつだ。相当、不安にしているはずだからな」
ケイオスのことだ。ちらりとマナフィールを見れば、目を逸らすように明後日の方向をみる。ケイオスを責めたと言っていたのはマナフィールだ。ならば、ちゃんと今の状態の報告もしているかと思ったが、この様子だとしていないらしい。兄の行動に、シアリィルドは呆れていた。
「兄上……ちゃんとケイオスに伝えてください」
「……わかっているよ。近いうちに、話はする」
「……」
「嘘は言わない。仕方ないからね……」
どうにも少し過保護気味な兄に、シアリィルドは心の中で被害者であるケイオスに謝った。あとで、手紙でも書いておこうと思いながら。
「待っていましたよ、シアリィルド」
スッと座っていた椅子から立つと、そのまままっすぐにシアリィルドの前へと歩いてくる。目の前で止まると、サレーテヌは優しくシアリィルドを抱きしめた。顔をシアリィルドの胸元に当てている様子は、まるで心音を確認しているようにも見える。
「サレーテヌ様?」
「……ジークから話を聞いた時は、心臓が止まるかと思いました。本当に、無事で良かった……目が覚めたと聞くまでは、気が気でありませんでしたから……」
「ご心配をおかけしました。本当に」
ゆっくりとシアリィルドから身体を離したサレーテヌは、見上げるようにシアリィルドの顔を見る。瞳は揺れており、涙が今にも零れ落ちそうだった。だが、シアリィルドが拭うわけにもいかない。困ったように、マナフィールを見ると、肩を竦めるだけだ。
「うふふ、あまり困らせるわけにもいきませんね」
「いえ、その……まぁ……」
「ふふ。マナフィール殿も、わざわざありがとうございますね」
漸くシアリィルドから身を離すと、目元を拭ってから少し下がっていたマナフィールへと声をかけた。今回、マナフィールはシアリィルドの付き添いという立場だ。シアリィルド一人では、万が一何かあった場合に困るだろうということで、兄として付き添っている。シアリィルドほど王家との関りがないマナフィールだが、公爵家嫡男として顔を突き合わすことはあるため、初めて会うわけではない。
「ルリア、ダリアも案内ありがとう。さぁ、シアリィルドもマナフィール殿も座ってください」
「はい」
「……ありがとうございます、王妃殿下」
こうして、異例のお茶会は始まった。
三人が席に着くと同時に、お菓子が運ばれてくる。今回はシアリィルドら男性がいるということで、甘いものだけでなく軽食も用意されていた。注がれる紅茶を口に含むと、香りがふっと広がる。こうしてゆっくりと紅茶を楽しむことが出来るお茶会は、あまり記憶にないことだ。
「お口に合いました?シアリィルドは、これが好きだったでしょう」
「えぇ……覚えていてくださって嬉しいです」
「勿論よ。マナフィール殿もどうですか?」
「とても美味しいです」
「良かったわ」
ずっと笑みを浮かべているサレーテヌを見ていると、シアリィルドはジークランスのことを考えてしまう。そっくりというわけではなくとも、やはり母子であるため面影があるのだ。会おうと思えばできるだろうが、ルトギアスより止められている状態だった。今回は王妃からのものということで渋々承諾した感じだ。シアリィルドを外出させたくないらしい。だから、この機会に会えればいいと思うのだが、今のシアリィルドにジークランスの宮まで移動するのは難しいと言わざるを得ない。
「シアリィルド、どうかしたのかい?」
「……いえ、何でもありません」
「もしかして、ジーク、かしら?」
「っ!?」
考えていることを当てられ、驚きに目を見開く。
「ジークも……同じだもの、わかります」
「……そう、ですか」
「でも大丈夫ですよ。直に来ますから」
「え?」
その時だった。まるでタイミングを計ったように、庭へかけてくる足音が届いた。シアリィルドらが、音がする方向を見れば、汗をかきながらも走っているジークランスの姿がそこにはあった。思わず、シアリィルドはその場に立ち上がる。
「ジーク!」
「シア!!」
その走った勢いのままジークランスはシアリィルドへ抱き着いた。勢いを殺しきれず、そのまま庭へと倒れこんでしまう。
「痛っ……」
「シアリィルドっ!」
「シア、悪いっ!」
背中を打ち、呻き声をあげたシアリィルドに、マナフィールも慌てて立ち上がった。同じく押し付けた形になったジークランスも直ぐにシアリィルドの上から避け、手を掴んだ。促されるようにしてシアリィルドも立ち上がる。
「済まなかった……シア、大丈夫か?」
「あぁ。驚いただけだ」
「ジーク、シアリィルドはまだ体調が万全ではないのです。また寝込んでしまったらどうするのですか? 若い娘ならまだしも、貴方のような人に抱き着かれてはシアリィルドも嬉しくないでしょうに。全く……」
「申し訳、ありません、母上。シアも……悪かった」
悪いのは自分だと認めているので、ジークランスも素直に謝る。しかし、その行動はシアリィルドを案じるものなのだ。責めるはずがない。シアリィルド自身も、会いたいと思っていたところなのだ。任務中だというのに倒れて、公務を切り上げさせてしまった。謝罪をしなければならないのは、シアリィルドの方だ。
「俺は大丈夫だ。ジーク……悪かった。お前の公務中に負傷して、ランドルフ卿にも迷惑をかけてしまった」
「公務のことは気にしなくていい。レッドウルフが出るなんて思わなかった。想定外のことだ。お前の体の方が重要だからな。しかし……その、本当に大丈夫なのか?」
「まぁ、まだ剣を振るうことは出来ない。ここに来るのでやっとだな」
取り繕っても仕方のないことだ。シアリィルドは正直に事実を話す。報告は聞いていたのか、ジークランスは驚くことはなかった。ただ、そうか、というだけで。
「こうして、領地に戻る前に話ができて良かった。お前が気に病んでいたら、休んでいられないから」
「……私もだ。ちゃんと身体を治せ。私は、待っているからな。私だけじゃない。お前の部下たちも、心配している。正直、鬱陶しいほどだ……お前、愛されているな」
「俺が最年少だからじゃないのか?」
「あはは、それもあるかもしれないが……副隊長、あいつには何か伝えておくか? お前をいち早く手当したのはあいつだ。相当、不安にしているはずだからな」
ケイオスのことだ。ちらりとマナフィールを見れば、目を逸らすように明後日の方向をみる。ケイオスを責めたと言っていたのはマナフィールだ。ならば、ちゃんと今の状態の報告もしているかと思ったが、この様子だとしていないらしい。兄の行動に、シアリィルドは呆れていた。
「兄上……ちゃんとケイオスに伝えてください」
「……わかっているよ。近いうちに、話はする」
「……」
「嘘は言わない。仕方ないからね……」
どうにも少し過保護気味な兄に、シアリィルドは心の中で被害者であるケイオスに謝った。あとで、手紙でも書いておこうと思いながら。
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