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第二章 変動
27話 選定の儀
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別視点になります。
*************
ヴェルダン王国より西、海を渡った先にある大陸。面積は、ヴェルダン王国の半分程度しかない。その大陸唯一の国家、アルリア法国。女神を崇め奉る宗教国家でもあり、多くの巫女と神官がおり、その頂点に立つのが宗主だ。
国の中心にあるのが、アルリア聖院塔。空高く聳える塔は、階層が50フロアある。500年よりも前に建てられたことはわかっているが、建立されたのがいつなのかは未だ謎になっている建物である。
塔の上層階には、宗主や巫女とその護衛を担う天護士のみが立ち入ることが出来る。巫女は、魔法力が高い女性のうち、ある特異能力を身に着けた者のみが就ける職業だ。その特異能力とは、女神の力を扱うことのできる神力と呼ばれるもの。女神の力を借り受け、予知や治癒を行う。彼女らを守ることを専属とする者が天護士と呼ばれている。法国にいる者ならば、誰もが一度は憧れる職業だ。
そして、巫女の中でも最も優れている存在が、宗主と主席巫女である。
とされているが、現在はほぼ名誉職に近い。女神の力を借り受けることができる者などいない。巫女の人数も数人足らず。天護士も同様だ。権力者による統治が行われている状態で、宗主はお飾りの存在となっていた。
当代の宗主は、レーリア。代々受け継がれてきた宗主の名だ。
レーリアが宗主となってから7年。彼女が宗主になって以来の事件が、今まさに起きている。
「……選択の儀、ですか」
搭の第一層フロアにある大儀堂。現在は、そこに過去の英雄たちが残した武器が置かれている。各国より遣わされた者たちが、武器に触れその手に出来るのかを試しているのだ。
「国の代表を集めて、権威を示す、ですね。本当に、愚かなことを」
レーリアがいるのは、第五十層フロア。名ばかりの宗主であるレーリアには、何をすることも許されていない。ただ、時折人前に出て微笑むのみだ。
女神との繋がりが既にない法国だが、彼らが残した遺産である武器には、力がある。それを見せることで、世界に迫っている脅威を退けるための旗頭となるつもりなのだ。法国の力を示すだけの、ただの披露会でしかない。かつての法国のように、世界の頂点に立つことが、権力者らの野望。本心で世界の危機を何とかしようとは考えていないのだろうから。
「ごめんなさい……どうか、安らかに」
レーリアは一人、女神像の前で倒れ行く者へ祈りを捧げていた。
レーリアが一人、祈りを捧げているまさにその頃、第一層フロアでは、一人また一人と武器に触れその身を焼かれていた。
法国側が示した武器は、かつて英雄たちのリーダーが使っていたというもの。だが、意気揚々と剣を掲げると、剣が発火する。焔はその手、腕、更には身体全体を包み込み、やがてその命を奪っていく。
剣に触れることさえ出来なかった者は、命拾いしたと言っていい。
「マルクト様、これが選定の儀、なのですか? こんなの、ただの」
「口を慎め。あれが、普通の武器でないことはわかっている。それに……あれは茶番だ」
「茶番、ですか?」
「あぁ……胸糞悪い」
ヴェルダン王国の白騎士団長を務めているマルクト・フォン・シヴィルバーンは、国を代表してこの場に来ていた。協力を仰ぎ、体制を整えることを名目としているが、それは英雄の後継者を探すための表向きのものだ。それが今現在中央で行われている行為らしい。
マルクトが知る限り、命を散らした者の中に他国出身者はいない。恐らくは、法国側の関係者だ。英雄の後継者を自らの手駒から選び、主導権を握ろうという魂胆なのは明白だった。
世界の危機を前にする行動ではない。
犠牲者が四人となったところで、前に出る者が居なくなった。候補者らにあるのは、恐怖だ。死ぬかもしれないという恐怖に、足が震えて動けなくなっている。そんな中、一人の青年が声をあげた。服装は、搭の衛兵と同じものだ。
「オレがやる。お前らはどけ」
「なっ、何を馬鹿げたことを! 候補者でもない貴様などに扱えるわけがないっ! 下がれっ!」
「……うるせぇっ邪魔だ!」
前を塞ぐ法国側の連中を力任せに振り払う。払われた者たちが床へと叩きつけられる。だが、見向きもせずに青年は前へ進む。高い台座に刺さっている剣。柄を握ると、青年は力を込めて引き抜く。
「っと……重てぇな、流石だ」
「貴様っ、衛兵ごときが触れるなっ!」
「……熱い、か。これが、お前の力ってわけだな」
青年は喚いている周囲の言葉には反応せず、恍惚とした顔で剣を見下ろしていた。
これまでと同じく、剣が発火する。その腕に焔がまとわりついた。また同じことが起きると、悲鳴をあげ目や耳を塞ぐものも現れる。目の前で人が焼かれる光景など、もう見たくない。それは、マルクトも同じだ。だが、今回は違う。確信に近い形で、マルクトはそれを理解していた。
「あれは……魔力で抑えているのか」
「マルクト様?」
「見ろ……剣が持つ焔をあの青年は抑え込んでいる。余程、魔力が高いのだろう……なるほど、そういう手があるのか」
感心するマルクトの前では、焔にその身を焼かれることなく、剣を高々と掲げる青年の姿があった。この瞬間、青年が当代の英雄後継者の一人であることが立証された。その名は、アウグスト・カサラギという。
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ヴェルダン王国より西、海を渡った先にある大陸。面積は、ヴェルダン王国の半分程度しかない。その大陸唯一の国家、アルリア法国。女神を崇め奉る宗教国家でもあり、多くの巫女と神官がおり、その頂点に立つのが宗主だ。
国の中心にあるのが、アルリア聖院塔。空高く聳える塔は、階層が50フロアある。500年よりも前に建てられたことはわかっているが、建立されたのがいつなのかは未だ謎になっている建物である。
塔の上層階には、宗主や巫女とその護衛を担う天護士のみが立ち入ることが出来る。巫女は、魔法力が高い女性のうち、ある特異能力を身に着けた者のみが就ける職業だ。その特異能力とは、女神の力を扱うことのできる神力と呼ばれるもの。女神の力を借り受け、予知や治癒を行う。彼女らを守ることを専属とする者が天護士と呼ばれている。法国にいる者ならば、誰もが一度は憧れる職業だ。
そして、巫女の中でも最も優れている存在が、宗主と主席巫女である。
とされているが、現在はほぼ名誉職に近い。女神の力を借り受けることができる者などいない。巫女の人数も数人足らず。天護士も同様だ。権力者による統治が行われている状態で、宗主はお飾りの存在となっていた。
当代の宗主は、レーリア。代々受け継がれてきた宗主の名だ。
レーリアが宗主となってから7年。彼女が宗主になって以来の事件が、今まさに起きている。
「……選択の儀、ですか」
搭の第一層フロアにある大儀堂。現在は、そこに過去の英雄たちが残した武器が置かれている。各国より遣わされた者たちが、武器に触れその手に出来るのかを試しているのだ。
「国の代表を集めて、権威を示す、ですね。本当に、愚かなことを」
レーリアがいるのは、第五十層フロア。名ばかりの宗主であるレーリアには、何をすることも許されていない。ただ、時折人前に出て微笑むのみだ。
女神との繋がりが既にない法国だが、彼らが残した遺産である武器には、力がある。それを見せることで、世界に迫っている脅威を退けるための旗頭となるつもりなのだ。法国の力を示すだけの、ただの披露会でしかない。かつての法国のように、世界の頂点に立つことが、権力者らの野望。本心で世界の危機を何とかしようとは考えていないのだろうから。
「ごめんなさい……どうか、安らかに」
レーリアは一人、女神像の前で倒れ行く者へ祈りを捧げていた。
レーリアが一人、祈りを捧げているまさにその頃、第一層フロアでは、一人また一人と武器に触れその身を焼かれていた。
法国側が示した武器は、かつて英雄たちのリーダーが使っていたというもの。だが、意気揚々と剣を掲げると、剣が発火する。焔はその手、腕、更には身体全体を包み込み、やがてその命を奪っていく。
剣に触れることさえ出来なかった者は、命拾いしたと言っていい。
「マルクト様、これが選定の儀、なのですか? こんなの、ただの」
「口を慎め。あれが、普通の武器でないことはわかっている。それに……あれは茶番だ」
「茶番、ですか?」
「あぁ……胸糞悪い」
ヴェルダン王国の白騎士団長を務めているマルクト・フォン・シヴィルバーンは、国を代表してこの場に来ていた。協力を仰ぎ、体制を整えることを名目としているが、それは英雄の後継者を探すための表向きのものだ。それが今現在中央で行われている行為らしい。
マルクトが知る限り、命を散らした者の中に他国出身者はいない。恐らくは、法国側の関係者だ。英雄の後継者を自らの手駒から選び、主導権を握ろうという魂胆なのは明白だった。
世界の危機を前にする行動ではない。
犠牲者が四人となったところで、前に出る者が居なくなった。候補者らにあるのは、恐怖だ。死ぬかもしれないという恐怖に、足が震えて動けなくなっている。そんな中、一人の青年が声をあげた。服装は、搭の衛兵と同じものだ。
「オレがやる。お前らはどけ」
「なっ、何を馬鹿げたことを! 候補者でもない貴様などに扱えるわけがないっ! 下がれっ!」
「……うるせぇっ邪魔だ!」
前を塞ぐ法国側の連中を力任せに振り払う。払われた者たちが床へと叩きつけられる。だが、見向きもせずに青年は前へ進む。高い台座に刺さっている剣。柄を握ると、青年は力を込めて引き抜く。
「っと……重てぇな、流石だ」
「貴様っ、衛兵ごときが触れるなっ!」
「……熱い、か。これが、お前の力ってわけだな」
青年は喚いている周囲の言葉には反応せず、恍惚とした顔で剣を見下ろしていた。
これまでと同じく、剣が発火する。その腕に焔がまとわりついた。また同じことが起きると、悲鳴をあげ目や耳を塞ぐものも現れる。目の前で人が焼かれる光景など、もう見たくない。それは、マルクトも同じだ。だが、今回は違う。確信に近い形で、マルクトはそれを理解していた。
「あれは……魔力で抑えているのか」
「マルクト様?」
「見ろ……剣が持つ焔をあの青年は抑え込んでいる。余程、魔力が高いのだろう……なるほど、そういう手があるのか」
感心するマルクトの前では、焔にその身を焼かれることなく、剣を高々と掲げる青年の姿があった。この瞬間、青年が当代の英雄後継者の一人であることが立証された。その名は、アウグスト・カサラギという。
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