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第二章 変動
35話 花に込めた想い
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王国へその知らせが届いたのは、突然だった。
廃墟となっているリンガル帝国跡地の側にある小国の一つ、ファデッド王国が魔族に襲撃されたというのだ。ディルケイド公国と元リンガル帝国の間に挟まれていた国だった。位置的に魔族らの居城に最も近い場所にあったため、狙いやすかったと思われる。
そればかりではなく、各地で魔族が動き始めていた。
いつも通り第二邸で朝食を終えたシアリィルドは、日課となっている庭のベンチへきていた。数冊の本を傍に置き、一冊の本を手に座る。部屋の中で読むよりも、外の空気を吸いながらの方が心地よい。そうして読み耽ること1時間程度。休憩にしようかと顔を上げれば、ナタリアとオリヴァーがティーセットを持って歩いてきていた。ちょうどいいタイミングだ。
「シアリィルド様、お茶をお持ちしました」
「あぁ。タイミングが良かったみたいだな」
服に入れていた押し花の栞を本の間に挟み、積まれた本の上に置いた。すると、目ざとく反応したのはナタリアだった。
「シアリィルド様、そのような栞お持ちでしたか?」
「栞? あぁ、これか」
たったいま置いた本を手に取り、開くと押し花の栞が見える。花の種類がわからないシアリィルドとは違い、女性である二人は興味があるのだろう。
「オリヴァーさん、この花って」
「えぇ、ブッドレアの押し花よ。とても上手にされていて綺麗ね。シアリィルド様は、どうしてこれを?」
問いかけられて、シアリィルドは一瞬戸惑った。やましいことがあるわけではないので、どうということではない。それに、ルリアと手紙のやり取りをしているのは侍女である彼女たちは知っている。
「ルリア嬢からだ。お礼にと、いただいた」
「フォーニック伯爵令嬢様からでしたか……ならば納得ですが、やはりシアリィルド様は花言葉はご存知ないのですよね?」
「花言葉?」
花言葉自体は知っているが、花にこめられた意味までは知らない。意味があるとは考えもしなかったので、普通に驚いたのだが、オリヴァーには呆れたように息を付かれ、ナタリアは本気ですか、と信じられないという体で驚かれた。知らないのだから仕方ないだろうと思ってしまうが、それではだめらしい。
「その花、どんな意味があるんだ?」
「私たちに聞きます? それを」
「ルリア嬢に聞くわけにはいかないだろう。ひと月近くも前の話だ」
「……それは、気の毒と言いますか……フォーニック伯爵令嬢様も気落ちされたでしょうね」
「そうね、ナタリア。でも、今でも手紙を書いてくださっているのだから、シアリィルド様が気が付いていないのはお見通しなのかもしれないわ。フォーニック伯爵令嬢様の姉君は、王子殿下の乳姉弟ですし」
「あ、そうですね」
何やら二人で納得しているようだが、恐らくは間違っていないだろう。シアリィルドの性格はカレンが良く知っている。意味を含めたものだというのなら、それに対するシアリィルドからの返答がないことをカレンは必ずフォローする。問題は、今なおシアリィルドには意味がわからないということだ。
「オリヴァー、ナタリア」
「どうしますか、オリヴァーさん」
「私たちから教えるのは、あまり気が進みませんが……フォーニック伯爵令嬢様も直接言えないからこそ、花に意味を込めたのでしょうし、伝わっていないのなら誰かが知らせるべきなのでしょうね」
「わかりました……シアリィルド様、ちゃんと覚えていてください。ブッドレアの花言葉を」
「……わかった」
やけに念押しすることが気にかかるが、シアリィルドは頷く。
「……貴方をお慕いしています」
「え……?」
何を言われたのかわからなかった。困惑しているシアリィルドを他所に、ナタリアは説明を続ける。
「これが、この花の意味です。若い女性の間では、常識です」
「女性から想いを伝えることは、はしたないと言われています。ですから、秘めた想いを花にこめて渡すのです。気が付いてほしい、と。シアリィルド様、お判りになられますか?」
「……まぁ……わかるが」
慕っている。それは、そういう意味なのだろう。
オリヴァーの言う通り、世間一般的には女性から伝えることは推奨されていない。貴族女性ならばなおさらだ。だから、言葉ではない手段が女性の間では流行っているのだという。アプローチすることはできても、決定打である言葉を女性からは伝えられないもどかしさを解消するためらしい。理解はできる。
「あとは、シアリィルド様がお考え下さい」
「わかっている」
この件は終わりとでもいうように、手際よく紅茶を入れ始めるオリヴァー。それを手伝うナタリアの二人を見ながら、シアリィルドはルリアに対してどう返答すべきかを考えていた。
想いに答えられないと告げるべきか。このまま知らない振りをするべきか。だが、教えてもらった以上は、返事をするのが礼儀だろう。
正直に言えば、ルリアに対してそういった感情は抱いていない。綺麗な人だとは思うし、どこか庇護欲を掻き立てられるような存在ではある。出会った時のような状態のルリアは、守らなければと思ってしまうし、これからも守ってあげたいと思う程度には気に入っていると思う。だが、それだけだ。はっきりと伝えるべきなのかもしれないが、それで傷つくルリアを見たくないとも思ってしまう。
(……我ながら勝手だな……)
どちらにしても、こちらの事情に巻き込むことが出来ない以上、想いを受け入れるという選択肢はシアリィルドにはなかった。
廃墟となっているリンガル帝国跡地の側にある小国の一つ、ファデッド王国が魔族に襲撃されたというのだ。ディルケイド公国と元リンガル帝国の間に挟まれていた国だった。位置的に魔族らの居城に最も近い場所にあったため、狙いやすかったと思われる。
そればかりではなく、各地で魔族が動き始めていた。
いつも通り第二邸で朝食を終えたシアリィルドは、日課となっている庭のベンチへきていた。数冊の本を傍に置き、一冊の本を手に座る。部屋の中で読むよりも、外の空気を吸いながらの方が心地よい。そうして読み耽ること1時間程度。休憩にしようかと顔を上げれば、ナタリアとオリヴァーがティーセットを持って歩いてきていた。ちょうどいいタイミングだ。
「シアリィルド様、お茶をお持ちしました」
「あぁ。タイミングが良かったみたいだな」
服に入れていた押し花の栞を本の間に挟み、積まれた本の上に置いた。すると、目ざとく反応したのはナタリアだった。
「シアリィルド様、そのような栞お持ちでしたか?」
「栞? あぁ、これか」
たったいま置いた本を手に取り、開くと押し花の栞が見える。花の種類がわからないシアリィルドとは違い、女性である二人は興味があるのだろう。
「オリヴァーさん、この花って」
「えぇ、ブッドレアの押し花よ。とても上手にされていて綺麗ね。シアリィルド様は、どうしてこれを?」
問いかけられて、シアリィルドは一瞬戸惑った。やましいことがあるわけではないので、どうということではない。それに、ルリアと手紙のやり取りをしているのは侍女である彼女たちは知っている。
「ルリア嬢からだ。お礼にと、いただいた」
「フォーニック伯爵令嬢様からでしたか……ならば納得ですが、やはりシアリィルド様は花言葉はご存知ないのですよね?」
「花言葉?」
花言葉自体は知っているが、花にこめられた意味までは知らない。意味があるとは考えもしなかったので、普通に驚いたのだが、オリヴァーには呆れたように息を付かれ、ナタリアは本気ですか、と信じられないという体で驚かれた。知らないのだから仕方ないだろうと思ってしまうが、それではだめらしい。
「その花、どんな意味があるんだ?」
「私たちに聞きます? それを」
「ルリア嬢に聞くわけにはいかないだろう。ひと月近くも前の話だ」
「……それは、気の毒と言いますか……フォーニック伯爵令嬢様も気落ちされたでしょうね」
「そうね、ナタリア。でも、今でも手紙を書いてくださっているのだから、シアリィルド様が気が付いていないのはお見通しなのかもしれないわ。フォーニック伯爵令嬢様の姉君は、王子殿下の乳姉弟ですし」
「あ、そうですね」
何やら二人で納得しているようだが、恐らくは間違っていないだろう。シアリィルドの性格はカレンが良く知っている。意味を含めたものだというのなら、それに対するシアリィルドからの返答がないことをカレンは必ずフォローする。問題は、今なおシアリィルドには意味がわからないということだ。
「オリヴァー、ナタリア」
「どうしますか、オリヴァーさん」
「私たちから教えるのは、あまり気が進みませんが……フォーニック伯爵令嬢様も直接言えないからこそ、花に意味を込めたのでしょうし、伝わっていないのなら誰かが知らせるべきなのでしょうね」
「わかりました……シアリィルド様、ちゃんと覚えていてください。ブッドレアの花言葉を」
「……わかった」
やけに念押しすることが気にかかるが、シアリィルドは頷く。
「……貴方をお慕いしています」
「え……?」
何を言われたのかわからなかった。困惑しているシアリィルドを他所に、ナタリアは説明を続ける。
「これが、この花の意味です。若い女性の間では、常識です」
「女性から想いを伝えることは、はしたないと言われています。ですから、秘めた想いを花にこめて渡すのです。気が付いてほしい、と。シアリィルド様、お判りになられますか?」
「……まぁ……わかるが」
慕っている。それは、そういう意味なのだろう。
オリヴァーの言う通り、世間一般的には女性から伝えることは推奨されていない。貴族女性ならばなおさらだ。だから、言葉ではない手段が女性の間では流行っているのだという。アプローチすることはできても、決定打である言葉を女性からは伝えられないもどかしさを解消するためらしい。理解はできる。
「あとは、シアリィルド様がお考え下さい」
「わかっている」
この件は終わりとでもいうように、手際よく紅茶を入れ始めるオリヴァー。それを手伝うナタリアの二人を見ながら、シアリィルドはルリアに対してどう返答すべきかを考えていた。
想いに答えられないと告げるべきか。このまま知らない振りをするべきか。だが、教えてもらった以上は、返事をするのが礼儀だろう。
正直に言えば、ルリアに対してそういった感情は抱いていない。綺麗な人だとは思うし、どこか庇護欲を掻き立てられるような存在ではある。出会った時のような状態のルリアは、守らなければと思ってしまうし、これからも守ってあげたいと思う程度には気に入っていると思う。だが、それだけだ。はっきりと伝えるべきなのかもしれないが、それで傷つくルリアを見たくないとも思ってしまう。
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