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第三章 浮遊霊たちは探索する
38.制服
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無事に大矢と合流できた僕と千代は、大矢が閉じ込められた経緯を聞いた。それ自体は同情するものであったけれど、それよりも重要なのはさっき大矢の父親達が話をしていたゆるキャラグランプリの事だ。
僕はここ数日は国道へ行っていたこと、家電量販店で見たテレビ番組にあの色付きの女の子が映っていたことを話した。大矢はとても驚き喜んでいたが、それは僕達も同じだ。なんといっても唯一の手がかりであるゆるキャラグランプリと、大矢の父親の部署で発行しているフリーペーパーに繋がりがあったのだから。
なんという偶然だろう。しかも大矢が閉じ込められて探しに来なければ、コンビニに貼ってあるポスターを見ることもなく、イベント内容や場所がわからないままだったかもしれない。今度の日曜にもう一度ゆるキャラたちが集まるらしいからそこへ行ってみる価値は十分にある。僕達は大人たちが黙々と仕事をしているすぐ脇で大騒ぎしていた。
もちろんこちらの声など聞こえないから気にする必要などない。でも気が付かれないという事実はやはり寂しいものだ。
「大矢さ、さっき千代ちゃんと相談してたんだけど、日曜になる前に一度荒波海岸まで行ってみようと思うんだけどどうかな?それとも別行動を続けるかい?」
「いやいやぁ、もう別々は勘弁だよぉ」
「うふふ、またいっしょにいられるね。千代、うれしいよ」
大矢が頭をかきながら照れている。
「ところで、さっき編集長が言っていた合同祭? の委員が来るって言うのはなんだかわかる?」
「うーん、わかんないなぁ。芸術祭なんて聞いたことないもんねぇ」
「まあ初めての開催って言ってたから知らなくて当然だけど、うちの学校や近所でも話題に上ったことすらないなんてね」
「とりあえずはその人達が来るまでここに居ようか」
「どうせぇ今は出られないしねぇ」
「そうだね……」
僕達三人は念のため出入り口近くで時間が過ぎるのを待った。千代は壁に貼ってあるポスターやシルクロードの表紙を見て笑ったり首を傾げたりしている。
時計が十二時を指した時チャイムが鳴った。きっとお昼休みの合図だろう。
「二人ともお腹は大丈夫かしら?」
編集長が問いかける。
「ぼ、僕は朝ご飯食べて来たので大丈夫です」
「私も平気です」
「いいわねぇ家庭持ちは。 あたしは小腹すいちゃったわ」
そう言うと机の中からゼリー飲料を取り出した。廊下ではざわざわと声が聞こえる。他の部署の人達が昼食を取りに外出するのだろう。家庭持ちと言えば大矢家はどうしているのだろう。以前大矢が言っていたように、両親はマンションを引き払い別々に住んでいるはずだ。
大矢の方をちらっと見ると特に気にしていない様子だ。聞いていなかったのかもしれない。
「ここを出たらさ、荒波海岸へ行く前に病院へ行っておいた方が良さそうだよね。何日閉じ込められてたんだっけ?」
「えっとぉ土曜からだからぁ五日目になるのかなぁ。もしかしたら危なかったかもねぇ」
まったく危なそうには聞こえない言い方に気が抜けてしまうが、とりあえず今は大丈夫そうだ。あと数時間もすれば病院で休息できるのだから問題ないだろう。
大矢の父は相変わらずパソコンのモニターへ向かって何やら作業をしている。編集長はゼリー飲料を飲み終えてから書類の山を次から次へと確認しているようだ。佐々木さんは応接セットに飲み物やお菓子を並べている。
十二時半を過ぎた頃ドアをノックする音がした。佐々木さんが急いで扉を開けるとそこには高校生だろう、女の子が三人立っていた。
「こんにちはー
「よろしくお願いします!」
「本日はありがとうございます!」
三人がほぼ同時に挨拶をして佐々木さんに促されソファへと向かった。編集長は立ち上がり向かい側のソファの脇に立ち女子生徒へ座るよう促し自分も腰かけた。
「今日はわざわざお越しくださってありがとう。シルクロード編集長の水嶋冬美です」
そう言って名刺を差し出す。続いて大矢の父と佐々木さんも名刺を差し出し挨拶をした。三人の女子生徒は制服が全部違っていた。一人は女子学園だが他の二人は見たことの無い制服を着ている。
ただ、どちらもあの色付きの女の子が来ていた制服とは違っていた。
「大矢はあの制服がどこの学校かわかるかい?」
「うーん、女子学園しかしらないねぇ。別に僕はぁ制服マニアなわけじゃないしぃ」
「いや、そんな風に思ってないよ。僕も知らないからさ。どちらにせよ例の女の子が来ていたものとは違うよ」
「そっかぁ残念だねぇ。もしかしたらここでばったりなんてぇ都合のいい展開があるかもと期待してたんだけどー」
「そううまくはいかないもんだね」
三人の女子生徒と三人の編集者たちは何やら話をしている。きっと芸術祭なるイベントの記事をシルクロードへ載せることについて話しているんだろう。
編集長は優しく快活な話し方で三人へ話しかけ、それに答える女子生徒の話を一緒に佐々木さんがメモを取っているようだ。大矢の父は白紙に何かを置いたり書き込んだりしながら話に参加している。レイアウトの確認でもしているのだろう。
「今日はもう一人の子は来られなかったのかしら?」
編集長が女子生徒へ聞いた。
「はい、四つ葉は交通機関が無いので途中で抜けるのは難しいんです。ほとんどの生徒は寮住まいで、通学している子は車での送迎みたいです。自転車も禁止だって聞きました」
なんだかすごい学校があるもんだ。四つ葉って言うらしいけど聞いたことが無い。中学の時の進学説明会でも出てこなかったから遠くの学校なんだろうか。
「英ちゃん、四つ葉って知ってるぅ?」
「いやぁ聞いたことないね」
「でもぉ車で送り迎えって言ってたねぇ」
「うん、その学校の可能性は高そうだな」
「本屋に進学ガイドがあると思うからぁ調べたらわかるだろうけどぉ……」
「ページをめくれれば、だね……」
芸術祭についての話し合いはどうやら終わったようで、大矢の父が出かける支度をしている。三人の女子生徒と編集長は楽しそうに話し込んでおり、さしずめガールズトークと言ったところか。
「大矢のお父さんに続いて出ようか」
「おっけぇい」
「はーい」
身支度の終わった大矢の父が席を離れた。
「それじゃ編集長、取材へ行ってから直帰しますね」
「はい、大矢さん、よろしく」
最後に女子生徒へ会釈をした大矢の父が扉を開けた。僕達も一緒に廊下へ出る。
廊下へ出た大矢の父が足を止めて首を左右に傾け、微笑みながら軽くため息をついて歩き出した。
僕はここ数日は国道へ行っていたこと、家電量販店で見たテレビ番組にあの色付きの女の子が映っていたことを話した。大矢はとても驚き喜んでいたが、それは僕達も同じだ。なんといっても唯一の手がかりであるゆるキャラグランプリと、大矢の父親の部署で発行しているフリーペーパーに繋がりがあったのだから。
なんという偶然だろう。しかも大矢が閉じ込められて探しに来なければ、コンビニに貼ってあるポスターを見ることもなく、イベント内容や場所がわからないままだったかもしれない。今度の日曜にもう一度ゆるキャラたちが集まるらしいからそこへ行ってみる価値は十分にある。僕達は大人たちが黙々と仕事をしているすぐ脇で大騒ぎしていた。
もちろんこちらの声など聞こえないから気にする必要などない。でも気が付かれないという事実はやはり寂しいものだ。
「大矢さ、さっき千代ちゃんと相談してたんだけど、日曜になる前に一度荒波海岸まで行ってみようと思うんだけどどうかな?それとも別行動を続けるかい?」
「いやいやぁ、もう別々は勘弁だよぉ」
「うふふ、またいっしょにいられるね。千代、うれしいよ」
大矢が頭をかきながら照れている。
「ところで、さっき編集長が言っていた合同祭? の委員が来るって言うのはなんだかわかる?」
「うーん、わかんないなぁ。芸術祭なんて聞いたことないもんねぇ」
「まあ初めての開催って言ってたから知らなくて当然だけど、うちの学校や近所でも話題に上ったことすらないなんてね」
「とりあえずはその人達が来るまでここに居ようか」
「どうせぇ今は出られないしねぇ」
「そうだね……」
僕達三人は念のため出入り口近くで時間が過ぎるのを待った。千代は壁に貼ってあるポスターやシルクロードの表紙を見て笑ったり首を傾げたりしている。
時計が十二時を指した時チャイムが鳴った。きっとお昼休みの合図だろう。
「二人ともお腹は大丈夫かしら?」
編集長が問いかける。
「ぼ、僕は朝ご飯食べて来たので大丈夫です」
「私も平気です」
「いいわねぇ家庭持ちは。 あたしは小腹すいちゃったわ」
そう言うと机の中からゼリー飲料を取り出した。廊下ではざわざわと声が聞こえる。他の部署の人達が昼食を取りに外出するのだろう。家庭持ちと言えば大矢家はどうしているのだろう。以前大矢が言っていたように、両親はマンションを引き払い別々に住んでいるはずだ。
大矢の方をちらっと見ると特に気にしていない様子だ。聞いていなかったのかもしれない。
「ここを出たらさ、荒波海岸へ行く前に病院へ行っておいた方が良さそうだよね。何日閉じ込められてたんだっけ?」
「えっとぉ土曜からだからぁ五日目になるのかなぁ。もしかしたら危なかったかもねぇ」
まったく危なそうには聞こえない言い方に気が抜けてしまうが、とりあえず今は大丈夫そうだ。あと数時間もすれば病院で休息できるのだから問題ないだろう。
大矢の父は相変わらずパソコンのモニターへ向かって何やら作業をしている。編集長はゼリー飲料を飲み終えてから書類の山を次から次へと確認しているようだ。佐々木さんは応接セットに飲み物やお菓子を並べている。
十二時半を過ぎた頃ドアをノックする音がした。佐々木さんが急いで扉を開けるとそこには高校生だろう、女の子が三人立っていた。
「こんにちはー
「よろしくお願いします!」
「本日はありがとうございます!」
三人がほぼ同時に挨拶をして佐々木さんに促されソファへと向かった。編集長は立ち上がり向かい側のソファの脇に立ち女子生徒へ座るよう促し自分も腰かけた。
「今日はわざわざお越しくださってありがとう。シルクロード編集長の水嶋冬美です」
そう言って名刺を差し出す。続いて大矢の父と佐々木さんも名刺を差し出し挨拶をした。三人の女子生徒は制服が全部違っていた。一人は女子学園だが他の二人は見たことの無い制服を着ている。
ただ、どちらもあの色付きの女の子が来ていた制服とは違っていた。
「大矢はあの制服がどこの学校かわかるかい?」
「うーん、女子学園しかしらないねぇ。別に僕はぁ制服マニアなわけじゃないしぃ」
「いや、そんな風に思ってないよ。僕も知らないからさ。どちらにせよ例の女の子が来ていたものとは違うよ」
「そっかぁ残念だねぇ。もしかしたらここでばったりなんてぇ都合のいい展開があるかもと期待してたんだけどー」
「そううまくはいかないもんだね」
三人の女子生徒と三人の編集者たちは何やら話をしている。きっと芸術祭なるイベントの記事をシルクロードへ載せることについて話しているんだろう。
編集長は優しく快活な話し方で三人へ話しかけ、それに答える女子生徒の話を一緒に佐々木さんがメモを取っているようだ。大矢の父は白紙に何かを置いたり書き込んだりしながら話に参加している。レイアウトの確認でもしているのだろう。
「今日はもう一人の子は来られなかったのかしら?」
編集長が女子生徒へ聞いた。
「はい、四つ葉は交通機関が無いので途中で抜けるのは難しいんです。ほとんどの生徒は寮住まいで、通学している子は車での送迎みたいです。自転車も禁止だって聞きました」
なんだかすごい学校があるもんだ。四つ葉って言うらしいけど聞いたことが無い。中学の時の進学説明会でも出てこなかったから遠くの学校なんだろうか。
「英ちゃん、四つ葉って知ってるぅ?」
「いやぁ聞いたことないね」
「でもぉ車で送り迎えって言ってたねぇ」
「うん、その学校の可能性は高そうだな」
「本屋に進学ガイドがあると思うからぁ調べたらわかるだろうけどぉ……」
「ページをめくれれば、だね……」
芸術祭についての話し合いはどうやら終わったようで、大矢の父が出かける支度をしている。三人の女子生徒と編集長は楽しそうに話し込んでおり、さしずめガールズトークと言ったところか。
「大矢のお父さんに続いて出ようか」
「おっけぇい」
「はーい」
身支度の終わった大矢の父が席を離れた。
「それじゃ編集長、取材へ行ってから直帰しますね」
「はい、大矢さん、よろしく」
最後に女子生徒へ会釈をした大矢の父が扉を開けた。僕達も一緒に廊下へ出る。
廊下へ出た大矢の父が足を止めて首を左右に傾け、微笑みながら軽くため息をついて歩き出した。
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