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第五章 浮遊霊たちの転機
51.友達
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英介はどこからどこまで、一体何を話せばいいのかわからなかった。自分たちの境遇を説明するのが簡単ではない事、それに相手が同い年の女の子であることがその理由だ。
「英介君、あなた対人関係苦手なタイプでしょ」
胡桃が唐突に確信めいたことを言った。
「あ、は、はい……」
「だと思ったわ。私のことを横目で見てて話しかけたそうに感じたけれど、一向に話し始めないんですもの」
「すいません……」
「まあそれはいいわ、でも今日はあまり時間が無いの。海洋で反省会してから二十一時には迎えに来てもらわないといけないわ」
「くるみおねえちゃん、いそがしいの?」
「そうね、明日は学校だし帰ってから今日の事をまとめて予習もしないとね。あなた達は何か目的があって私を探していたのかしら?」
「目的と言うと大げさですけど、僕達は見えるものすべてが白と陰影のみなんですけど、えっと、百目木さんだけは色がついているんです。それをこないだ見かけて、あの、車に乗っていた時……」
「あなたが対向車にひかれていた時のことね。結構な勢いだったと思うけど、体は何ともないの?」
「ぼくたちはぁ、車にはねられたりドアに挟まってもなんともないんだよぉ。でも雨が降ると動けなくなっちゃうのとぉ、ドアを開けたり本をめくるのとかはぁできないんだぁ」
「あなた、大矢紀夫君! もっとシャキッとしゃべりなさいな。でもよくわかったわ、ありがとう」
「えへへぇ」
「見かけたからには探してみようということになりまして、そこで色々なところに探しに行っていたんです。それで、今日と同じゆるキャライベントが先週の日曜日に県民放送でやってまして、電気屋のテレビで偶然見かけました」
「それで今日ここへやってきたってわけね」
「はい」
「千代がね、みつけたんだよ。あかいおりぼんがみえたの」
「そうだったのね、千代ちゃん、見つけてくれてありがとう」
千代は満足げに笑っている。すっかり胡桃になついたようだ。胡桃は一見きつそうな性格に見えたが、千代への対応を見る限り必ずしもそうではないようだ。
「それで? 私に会ってどうしようと思ったのかしら。不覚にも気を失ってしまうし、恥かいちゃったわ」
「あ、あれは、突然すいませんでした……えと、会ってどうしようってことより、僕達幽霊と意思疎通ができる人がいるかもしれないと思っただけです」
「ふーん、まあいいわ。簡単に言えば友達になりたいということね」
「まっ、まあそうです」
胡桃は地味な見た目とは異なり快活な性格のようで、それは少し意外だった。どちらかと言うと苦手なタイプかもしれないとも思ったが、以前よりはそう感じないのは少し不思議だ。
見た目と言ったら僕も人のことをとやかく言えるほどではない。どこにでもいる何の特徴もない男子高校生の一人で、勉強も運動も人並以下だしそもそも何をするにも意欲に欠けていた。普段の過ごし方といえば家でマンガを読んだりゲームをしたり、たまに出かけるとしても行先は立ち読み目的の古本屋だ。
ごく当たり前に高校へ通ったままだったなら、胡桃のような女の子と出会うことは無かっただろう。もちろんそれがいいことと言うわけではなく、悪い出来事の中でのいいことだ。これは千代との出会いにも言えることだろう。
「もうすぐ着いちゃうから今後のことについて手早く話しましょ。私は結構忙しい身だからゆっくり時間を取るのは難しいわ。もしもっとあなた達のことを聞かせてくれるなら、お昼休みや放課後に学校まで来て頂戴」
「あの……四つ葉女子付属って聞いたことないんですけど、どこにあるんですか?」
「ああ、一般募集はしていない学校だからあまり知られていないかもしれないわね。阿波尾郡の山の中よ。荒波海岸からだと、海岸通りを南へ行くと阿波尾カントリークラブと書いてあるゴルフ場の看板がある交差点があるの。その交差点を右へ曲がってまっすぐ行ってからその先のY字路を左に、後はまっすぐ行けば妻戸村に入るわ。妻戸村の集落まで来たら山の方角にうちの学校が見えるからすぐわかるわよ。車だと四十分くらいの道のりかしらね」
「わかったような気がします……」
「もしわからなかったら、さっきの真ってお店があったでしょ。そのお店をやってる真子さんのお父さんが毎日送り迎えしてくれているから、車にしがみついて来たらいいかもね」
胡桃が意地悪そうに笑いながら言った。
「さてと、海洋についたわ。あなた達はどうするの?」
「特に予定はないですけどとりあえずいったん帰ろうかなと思ってます」
「そう、普段はどこにいるの?」
「僕は絹川沿いの橋の下です。物流倉庫駅より少し先で江原高校の手前です」
「ぼくはぁ絹原の総合病院にいまぁす」
「千代はいつもえいにいちゃんといっしょだよ」
「へぇなんで紀夫君だけ別の場所なの?」
「話せば複雑な事情がありまして……」
「あらそう、じゃあそれは今度聞かせてもらうわ。それじゃね、千代ちゃんばいばーい」
「くるみおねえちゃん、ばいばーい」
胡桃は手を振りながら振り向いて、まだ電気のついている荒波海洋高校の体育館へ小走りで去って行った。
「英介君、あなた対人関係苦手なタイプでしょ」
胡桃が唐突に確信めいたことを言った。
「あ、は、はい……」
「だと思ったわ。私のことを横目で見てて話しかけたそうに感じたけれど、一向に話し始めないんですもの」
「すいません……」
「まあそれはいいわ、でも今日はあまり時間が無いの。海洋で反省会してから二十一時には迎えに来てもらわないといけないわ」
「くるみおねえちゃん、いそがしいの?」
「そうね、明日は学校だし帰ってから今日の事をまとめて予習もしないとね。あなた達は何か目的があって私を探していたのかしら?」
「目的と言うと大げさですけど、僕達は見えるものすべてが白と陰影のみなんですけど、えっと、百目木さんだけは色がついているんです。それをこないだ見かけて、あの、車に乗っていた時……」
「あなたが対向車にひかれていた時のことね。結構な勢いだったと思うけど、体は何ともないの?」
「ぼくたちはぁ、車にはねられたりドアに挟まってもなんともないんだよぉ。でも雨が降ると動けなくなっちゃうのとぉ、ドアを開けたり本をめくるのとかはぁできないんだぁ」
「あなた、大矢紀夫君! もっとシャキッとしゃべりなさいな。でもよくわかったわ、ありがとう」
「えへへぇ」
「見かけたからには探してみようということになりまして、そこで色々なところに探しに行っていたんです。それで、今日と同じゆるキャライベントが先週の日曜日に県民放送でやってまして、電気屋のテレビで偶然見かけました」
「それで今日ここへやってきたってわけね」
「はい」
「千代がね、みつけたんだよ。あかいおりぼんがみえたの」
「そうだったのね、千代ちゃん、見つけてくれてありがとう」
千代は満足げに笑っている。すっかり胡桃になついたようだ。胡桃は一見きつそうな性格に見えたが、千代への対応を見る限り必ずしもそうではないようだ。
「それで? 私に会ってどうしようと思ったのかしら。不覚にも気を失ってしまうし、恥かいちゃったわ」
「あ、あれは、突然すいませんでした……えと、会ってどうしようってことより、僕達幽霊と意思疎通ができる人がいるかもしれないと思っただけです」
「ふーん、まあいいわ。簡単に言えば友達になりたいということね」
「まっ、まあそうです」
胡桃は地味な見た目とは異なり快活な性格のようで、それは少し意外だった。どちらかと言うと苦手なタイプかもしれないとも思ったが、以前よりはそう感じないのは少し不思議だ。
見た目と言ったら僕も人のことをとやかく言えるほどではない。どこにでもいる何の特徴もない男子高校生の一人で、勉強も運動も人並以下だしそもそも何をするにも意欲に欠けていた。普段の過ごし方といえば家でマンガを読んだりゲームをしたり、たまに出かけるとしても行先は立ち読み目的の古本屋だ。
ごく当たり前に高校へ通ったままだったなら、胡桃のような女の子と出会うことは無かっただろう。もちろんそれがいいことと言うわけではなく、悪い出来事の中でのいいことだ。これは千代との出会いにも言えることだろう。
「もうすぐ着いちゃうから今後のことについて手早く話しましょ。私は結構忙しい身だからゆっくり時間を取るのは難しいわ。もしもっとあなた達のことを聞かせてくれるなら、お昼休みや放課後に学校まで来て頂戴」
「あの……四つ葉女子付属って聞いたことないんですけど、どこにあるんですか?」
「ああ、一般募集はしていない学校だからあまり知られていないかもしれないわね。阿波尾郡の山の中よ。荒波海岸からだと、海岸通りを南へ行くと阿波尾カントリークラブと書いてあるゴルフ場の看板がある交差点があるの。その交差点を右へ曲がってまっすぐ行ってからその先のY字路を左に、後はまっすぐ行けば妻戸村に入るわ。妻戸村の集落まで来たら山の方角にうちの学校が見えるからすぐわかるわよ。車だと四十分くらいの道のりかしらね」
「わかったような気がします……」
「もしわからなかったら、さっきの真ってお店があったでしょ。そのお店をやってる真子さんのお父さんが毎日送り迎えしてくれているから、車にしがみついて来たらいいかもね」
胡桃が意地悪そうに笑いながら言った。
「さてと、海洋についたわ。あなた達はどうするの?」
「特に予定はないですけどとりあえずいったん帰ろうかなと思ってます」
「そう、普段はどこにいるの?」
「僕は絹川沿いの橋の下です。物流倉庫駅より少し先で江原高校の手前です」
「ぼくはぁ絹原の総合病院にいまぁす」
「千代はいつもえいにいちゃんといっしょだよ」
「へぇなんで紀夫君だけ別の場所なの?」
「話せば複雑な事情がありまして……」
「あらそう、じゃあそれは今度聞かせてもらうわ。それじゃね、千代ちゃんばいばーい」
「くるみおねえちゃん、ばいばーい」
胡桃は手を振りながら振り向いて、まだ電気のついている荒波海洋高校の体育館へ小走りで去って行った。
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