#アタシってば魔王の娘なんだけどぶっちゃけ勇者と仲良くなりたいから城を抜け出して仲間になってみようと思う

釈 余白(しやく)

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第三章:姫様暴走戦記

23.人質になった姫君

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 ウオーヌ=マサンの街までは走っていけばそれほど時間はかからない。砦に火を放つ程度の時間差、ハルトウ一人が走るなら楽に追いつけるだろう。

 そう考え祈りを捧げようとしたところ、目の前に広がる大火が一瞬で消えてしまった。代わりに大量の蒸気が立ち上っており、相当量の水で消し止められたことを示していた。

 もちろん雨が降ったなんて単純な話ではない。これは明らかに人為的な力、というよりもこの場合は人知を超えた力と言うべきだろう。つまり魔人が直接戦闘に介入している証とも言える。

 立ち上る上記の中に見えた影が火を消し止めた魔人なのだろうかと、ハルトウはさらに目を凝らして見てみたのだが、その正体に驚くしかなかった。なんと、彼の目に映ったのはヴーケだったのだ。

 もちろん一人ではなく、すぐ脇に小柄な男が立っていた。その男とは魔王国軍から派遣された軍を率いているサーノウであり、実はヴーケを除けばハルトウが相対した初めての魔人である。

「勇者さまごめんなさい! アタシ捕まってしまったのです。彼らが街に入って来た時に思わず勇者さまへ助けを請うようなことを言ってしまったので、どうやら関係者だとばれてしまったようで……」

「そんなことで謝らなくていい! それよりも無事なのかい? 痛めつけられていたりしないだろうね?」

『なんだこのボンクラめ、このサーノウが姫様に無礼を振るうわけがないだろうに』

『てゆうか余計なことゆったらダメだかンネ? とりまアタシに任しとぃてょ?』
「はい大丈夫、アタシは無事です。でもコシヒカさまたちがどこかへ連れて行かれてしまったんです。それが心配で心配で。早く助けに行ってくださいませ!」

「こんな時まで他人を心配するなんて…… キミは本当にすばらしい! やい魔人? なのか? そこの男! 彼女を開放しろ! 軍人でもない非戦闘員を人質にとるなんて卑怯だ! 許せない!」

「なにを言うか、太古の昔から熊獣人たちが根城としていたこの地を奪ったくせに反省する気配すらないとはな。一方的に蹂躙し、大勢の獣人たちを死に至らしめたのだから自分たちも同様に死へ赴くが良いぞ!」

「なにを適当なことを! この地は王国の領地だぞ? そこに好意で住まわせてもらっている獣人たちが、鉱山の利益を独占するために戦いを起こしたのではないか!」

『あの男はバカですか? 本気で言っているならかなりおめでたいのですが…… それともマイナト国王は相当口がうまいとか?』

『てゆうかアタシあったことないからわかンなぃょ? でもぶっちゃけハルトウはちょっと頭に問題があるかもしンなぃとは薄々思ってたカナ。てゆうか人の気持ち察したり空気を読んだりできなぃみたぃでサ。チカがすんごぃだいしゅきだいしゅき光線出してンのに気が付かなぃンだモン。ちなチカってのはハルトウの幼馴染だょ?』

『なるほど、国王の言うことは絶対だと思いこんでしまっているのかもしれませんなあ。ある意味かわいそうな男だ。しかしこの地が熊獣人たちの故郷であることは間違いないのです。ウオーヌ=マサンのいしづえを築いたのも彼らですしね』

『てゆうかなのになんでわかンなぃンだろうねぇ。ぶっちゃけ自分で考えらンないのカモしンなぃ? てゆうかアタシよりヤバ系? アハッ☆ミ』

『まずは計画通りに進めてみますので変更があれば都度ご指示くださいませ』
「勇者よ、我々としては殺戮の意志はないし長期の戦闘も望んでいない。やる気になれば街まるごと一瞬で皆殺しにも出来るのだがそうはしなかったのだぞ?」

「なにを馬鹿なことを! 報告では全滅と聞いている。オマエラの仕業でないとでもいうのか?」

「なるほど、まだ自分の目で見てはいないのだな。街にいた兵士たちを戦闘不能にはしたが誰一人殺してはいない。それどころか怪我ひとつないはずだ」

 こうしている間に他のメンバーは街へと帰りついていたのだが、確かに全員戦闘不能だった。しかしその全てが地面から生え出て来た触手を持つ植物に絡め取られ、もがくとくすぐられ苦しむ状況だったのだ。

 もちろん作戦参謀を初めとする幹部連中はすべていなくなっており、こちらも確かにさらわれてしまっている。メイドやコックなどの完全な非戦闘員は難を逃れその場に捨て置かれていたが、笑い転げる兵士たちを遠目に見ながら震えていた。

 だがハルトウはその状況を知らないため、目の前にいるサーノウの言うことを信じるのかどうか判断に迷っている。ただ、どちらにしてもヴーケを救い出すのが最優先であると心に決め、次の行動に移す隙をうかがっているところだ。

「まあ信じないのならそれでも構わぬ。こちらの要求は簡単だ。お前たちの上官だと思われる指揮官風なやつらと引き換えに街からの撤退。それと今後の不可侵条約を結ぶことである」

「そう言われても僕にそんな権限はない。国王か、せめて軍隊長にでも持ちかけてくれ。それとヴーケは関係ないだろう。今すぐ開放すればキミを追ったりはしないと約束しよう」

「追われてもなにも困らんが? なんならこの機会に魔王国へ遊びに来てみてはどうかね? 我々の考えを正確に知れば、現在の王国が進める侵略政策が正しいのか考えるきっかけになるであろうし、新たな視点を持てるかもしれないぞ?」

「うるさいうるさい! 僕はそんな口車には乗らない! それよりもヴーケを離せ!」

『アヤツ姫様にぞっこんなのでは? このまま人間の国へ残っていて平気なのですか? あの勇者が離してくれなくなるかもしれませんよ?』

『アハッアタシってばモテモテ? てゆうかもしもの時にはお婿さんとして連れて帰っちゃたりして? ぶっちゃけ強い子は好きだし? 彼ちゃんてば見た目もいぃ線いってると思うのよねぇ。アレで寿命が長かったらいうことなぃンだケド』

『ワラエナイ冗談ですな。姫様には立派な魔王となって頂かなければなりません。あんな男、あと二十年もしたら老いてくるのですから』

『ぶっちゃけあっという間におじいちゃんなんて夢がなぃょネ。若くて楽しい期間が少なぃってことだモン。てゆうかかわぃそぅカモ? それはともかくとりま仕上げいこかー』

「仕方ない、この女はしばらく預かっておこう。国王からの良い返事を待っている。そうだな、次の満月の夜に答えを聞きにうかがうとしようか」

「まて! 人質なら軍の幹部だけでいいだろうが! ヴーケは置いて行け! 置いて行ってくれー!」

「人に言うことを聞かせたいのならまずは自分が譲歩するのだな。ではさらばだ」

 そういうとサーノウは、ヴーケの手を無理やり引くような演技をしながら立ち去ろうとした。だがここでハルトウは信じられない光景を再び目にすることになった。
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