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第一章:オレはシンデレラ!?
5.ガラスの靴
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昨晩も遅くまで寝つけなかったシンデレラだったが、それは前日までと異なり考える時間が必要だったからである。取り戻した記憶というのが本当のことなのか、いまだ信じきれずにいたのだ。
自分は確かにシンデレラという若き花嫁候補であるとの認識はある。しかし同時に頭の中では三十代の男性だと言う意識もはっきりしている。
『これが本当にオレの身体なのか? それとも頭が混乱しているだけで、実際はごく普通の乙女なのではないかしら』
姿見の前に立ち、映し出された自身をまじまじと眺めてみるが、どこからどうみても男性ではない。では今こうして身体を占有しているのがシンデレラ本人であると思えるのかというとそうでもなかった。
試しに身体へ手を這わせてみると確かに自分が若い女性なのは間違いない。しばらくすると気持ちは落ち着いてきたが、なんとも言えない罪悪感と高揚感が膨れ上がってくる。
これではまるで変態そのものではないか。気を紛らわすために鏡の前から移動してみたがまだ落ち着きを取り戻せたとは言えない。
目覚めてからどうも体がうずくような感覚を覚えていたシンデレラは、無意識のうちに腕を動かし広げたり力をこめたり、足を延ばしたり突っ張ってみたりと異彩な動きを繰り返す。
そんな彼女の頭の中には心が落ち着くような歌が流れているようにも感じる。そしてその曲は、この世界にはないラジオなるものから軽快に流れているようなのだが、それがなんなのかは自分でもわからない。
こうして一度、二度とラジオ体操を終えたシンデレラはようやく落ち着くことができた。これなら今後について考えごともできそうである。
なんといっても昨日の今日、じっくりと考えをまとめたいところなのだ。しかしそう都合よくはいかず、今朝もまた同じようにダンスの講師が迎えに来てしまった。
ダンス講師は相変わらずほめまくってくれ、それに応えるようにシンデレラもメキメキと上達していった。しかも踊れば踊るほど疲れが取れていき、いつまでも踊っていられるような感覚である。
「今日もとてもよかったわね。これならきっと殿下のお相手にふさわしいとほめていただけるでしょう。それにしてもこれが若さなのかしら。全く疲れた様子がなくてすばらしいわ」
「わたしにダンスが向いているとは思えませんから、きっと先生の教えが良かったのだと思いますわ。でも少々脚が鍛えられすぎてきたような……」
「いえいえ、それでいいのですよ。引き締まった脚はダンスが上手な証です。それにしっかりとした下半身は子作りにも役立つことでしょう」
その言葉を聞いてシンデレラはハッとしながら頬を染めた。ダンス講師からは、こういう話はまだ早かったのかなどと冷やかされたのだが、実のところそういうことではない。
『そうか、結婚すると言うことはそういうこと…… しかも相手が王子ということは世継ぎを生むための相手ということになるはず。つまり断ったり逃げたりできるはずがないぞ』
急に灰賀としての人格で我に返ってしまい、シンデレラは今までにない危機を感じていた。四十手前の成人男性であったのだからそういった経験はもちろんある。
しかしもちろん『女性として』は未経験なのだ。それがどういうことなのかはわからないが、心の中に激しく強い抵抗感が持ち上がってくるのはわかった。それは嫌悪感というより恐怖と言ってもいい。
『これが魔女の言っていたことか。恨むかもしれないとか気をしっかり持てとか言われてもピンとこなかったが今ならはっきりとわかる。あの魔女め、とんでもないことをしてくれたもんだ』
部屋へ帰ってきた灰賀、いやシンデレラはやるせない気持ちを落ち着けるために一息つこうと、水差しから水を一杯注ぎ一気に飲み干した。そして無意識にカップを握った手に力を込めたところ――
『パキッン』
陶器のカップがいくらもろいからと言っても軽く握っただけで割れてしまうはずがない。しかも粉々と言ってもいいくらいだ。だが、いったい何が起きたと言うのだろうかと疑問を感じている暇はなかった。
「も、申し訳ございません! お怪我はございませんでしたか!? 今すぐにお片付けいたします!」
部屋の隅に控えていた側仕えが泣きそうな顔で駆け寄ってくる。シンデレラの身の回りの世話をするために常に部屋にいるのだが、割ってしまったカップの責任まで感じることはない。
だがきっとシンデレラが怪我でもしようものなら、その代償に命を求められるほど責任を追及されるのだろう。シンデレラはあわてて手に残った破片を床へと落とし、あたかも手が滑って落として割ってしまったことを装った。
「驚かせてしまってごめんなさい。あなたは悪くないのだから気にしないで。自分の不始末なのだからわたしが片づけるわ」
「そんな!? 姫様にそのようなことをさせられません。どうかおかけになってお待ちください。代わりもすぐにお持ちいたします!」
どうやら侍女は、割れる寸前の粗悪品を用意してしまったと言う勘違いからは逃れてくれたようだと一安心したが、問題はそこではない。なぜ割れてしまったのかが一番重要な疑問なのだから。
しかしその疑問はそれほど難しいものではない。思い返せばすでに魔女から説明されており、シンデレラが履いているガラスの靴に秘密は隠されているのだった。
自分は確かにシンデレラという若き花嫁候補であるとの認識はある。しかし同時に頭の中では三十代の男性だと言う意識もはっきりしている。
『これが本当にオレの身体なのか? それとも頭が混乱しているだけで、実際はごく普通の乙女なのではないかしら』
姿見の前に立ち、映し出された自身をまじまじと眺めてみるが、どこからどうみても男性ではない。では今こうして身体を占有しているのがシンデレラ本人であると思えるのかというとそうでもなかった。
試しに身体へ手を這わせてみると確かに自分が若い女性なのは間違いない。しばらくすると気持ちは落ち着いてきたが、なんとも言えない罪悪感と高揚感が膨れ上がってくる。
これではまるで変態そのものではないか。気を紛らわすために鏡の前から移動してみたがまだ落ち着きを取り戻せたとは言えない。
目覚めてからどうも体がうずくような感覚を覚えていたシンデレラは、無意識のうちに腕を動かし広げたり力をこめたり、足を延ばしたり突っ張ってみたりと異彩な動きを繰り返す。
そんな彼女の頭の中には心が落ち着くような歌が流れているようにも感じる。そしてその曲は、この世界にはないラジオなるものから軽快に流れているようなのだが、それがなんなのかは自分でもわからない。
こうして一度、二度とラジオ体操を終えたシンデレラはようやく落ち着くことができた。これなら今後について考えごともできそうである。
なんといっても昨日の今日、じっくりと考えをまとめたいところなのだ。しかしそう都合よくはいかず、今朝もまた同じようにダンスの講師が迎えに来てしまった。
ダンス講師は相変わらずほめまくってくれ、それに応えるようにシンデレラもメキメキと上達していった。しかも踊れば踊るほど疲れが取れていき、いつまでも踊っていられるような感覚である。
「今日もとてもよかったわね。これならきっと殿下のお相手にふさわしいとほめていただけるでしょう。それにしてもこれが若さなのかしら。全く疲れた様子がなくてすばらしいわ」
「わたしにダンスが向いているとは思えませんから、きっと先生の教えが良かったのだと思いますわ。でも少々脚が鍛えられすぎてきたような……」
「いえいえ、それでいいのですよ。引き締まった脚はダンスが上手な証です。それにしっかりとした下半身は子作りにも役立つことでしょう」
その言葉を聞いてシンデレラはハッとしながら頬を染めた。ダンス講師からは、こういう話はまだ早かったのかなどと冷やかされたのだが、実のところそういうことではない。
『そうか、結婚すると言うことはそういうこと…… しかも相手が王子ということは世継ぎを生むための相手ということになるはず。つまり断ったり逃げたりできるはずがないぞ』
急に灰賀としての人格で我に返ってしまい、シンデレラは今までにない危機を感じていた。四十手前の成人男性であったのだからそういった経験はもちろんある。
しかしもちろん『女性として』は未経験なのだ。それがどういうことなのかはわからないが、心の中に激しく強い抵抗感が持ち上がってくるのはわかった。それは嫌悪感というより恐怖と言ってもいい。
『これが魔女の言っていたことか。恨むかもしれないとか気をしっかり持てとか言われてもピンとこなかったが今ならはっきりとわかる。あの魔女め、とんでもないことをしてくれたもんだ』
部屋へ帰ってきた灰賀、いやシンデレラはやるせない気持ちを落ち着けるために一息つこうと、水差しから水を一杯注ぎ一気に飲み干した。そして無意識にカップを握った手に力を込めたところ――
『パキッン』
陶器のカップがいくらもろいからと言っても軽く握っただけで割れてしまうはずがない。しかも粉々と言ってもいいくらいだ。だが、いったい何が起きたと言うのだろうかと疑問を感じている暇はなかった。
「も、申し訳ございません! お怪我はございませんでしたか!? 今すぐにお片付けいたします!」
部屋の隅に控えていた側仕えが泣きそうな顔で駆け寄ってくる。シンデレラの身の回りの世話をするために常に部屋にいるのだが、割ってしまったカップの責任まで感じることはない。
だがきっとシンデレラが怪我でもしようものなら、その代償に命を求められるほど責任を追及されるのだろう。シンデレラはあわてて手に残った破片を床へと落とし、あたかも手が滑って落として割ってしまったことを装った。
「驚かせてしまってごめんなさい。あなたは悪くないのだから気にしないで。自分の不始末なのだからわたしが片づけるわ」
「そんな!? 姫様にそのようなことをさせられません。どうかおかけになってお待ちください。代わりもすぐにお持ちいたします!」
どうやら侍女は、割れる寸前の粗悪品を用意してしまったと言う勘違いからは逃れてくれたようだと一安心したが、問題はそこではない。なぜ割れてしまったのかが一番重要な疑問なのだから。
しかしその疑問はそれほど難しいものではない。思い返せばすでに魔女から説明されており、シンデレラが履いているガラスの靴に秘密は隠されているのだった。
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