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第三章 宿屋経営と街での暮らし
19.取り締まり
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今日はなかなか忙しい。夕方から次々にお客様がやってきて満室になってしまった。といっても一つはあの娼館から引き取った女性を寝かせるのに使っているのだが。
「これで満室ね。
あの人は私の部屋へ移そうかしら?」
「でも今はぐっすり眠っているからそっとしておいてあげたいわね。
きっと心も体もぼろぼろじゃないかしら」
クラリスも憐れんでくれてなんだか嬉しかった、もしかしたら自分の価値観がずれているのかもと思って心配だったのだ。それにしてもあの名も知らぬ娼婦をこれからどうしようか。
その時表に数頭の馬が止まった。やってきたのは街の警備隊だ。いつになったら来るかと思っていたが結構遅かった。きっと事情を聞いてあの娼館を取り締まってくれるのだろう。
「おい、ここに女の子供はいるか!
聞きたいことがある!」
「そんな大きな声を出さなくても目の前にいるわよ。
警備隊の方ですね、私に用ですか?」
「よし、お前を連行する、大人しくしろ。
お前には暴行と襲撃の容疑がかかっている。
詰所まで来てもらうぞ」
ええっ!? 捕まるのは私のほうなの!? 口を開く間もなく、言い分さえ聞いてもらえずに後ろ手に縛られてしまった。正義の味方を捕まえるなんてまったくひどい話である。
「ちょっとどういうことですか!?
こんな子供をひどい扱いしないで下さい」
クラリスが懸命に助けようとしてくれるがさすがに警備隊へ逆らうわけにはいかない。私は大丈夫だから大人しくしていてくれとお願いし、さっき一緒に行った仲間について来てもらうことにした。
詰所まで来るとさっきの大男の他、怪我をした数名が並んでいた。私が入っていくと口をそろえてコイツだ! と指さす。人を指さしちゃいけないって子供の頃にしつけされなかったのかしら。
「よし、容疑の通りで間違いないな。
おい子供、お前も認めるな?」
「いいえ、身に覚えがありません。
まったく知らない人たちです」
私はあっさりとしらを切った。ここで認めても面倒が増えるだけだろうし、なんとか娼館のやつら全員と、このぐるになってそうな警備兵を懲らしめてやりたかった。
「ふざけるな! この傷が証拠だ!
ガキのくせにふざけたことしやがって!」
「私知りませんよ?
あなたとはどこで会ったんでしたっけ?」
「このガキ! こんな奴の言い分はいいから早く処罰してくれ!」
「ではこうしましょう。裁判です。
詰所の前の広場でどちらの言い分がもっともだと思われるか勝負です」
この無茶かと思った提案に警備兵がのってきた。どうやら頭はそれほど回らず、その場が面白ければそれでいいと考える性質のようである。
「ほう、それは面白そうだ。
では表へ出てお互い存分に話をするが良い」
「ありがとうございます。
お互いに言い合いでは進みませんので、どちらがわめいても警備兵さんが止めてくださいね」
「うむ、承知した」
こうして公開裁判が行われることになったが、騒ぎを聞きつけたのかいつの間にか野次馬が周囲を取り囲んでいる。これは面白くなってきた。いざとなったらロープを切って逃げればいいだけなので気は楽である。
ついて来てくれた仲間は心配してくれてはいるが、それはいつ私が暴れださないかについてではないだろうか。周囲を見渡したがクラリスはちゃんと仕事をやっていてくれているみたいだし、グランもまだ帰ってきていないようだ。
「それでは裁判を始める!
娼館の主、カウロスここへ、宿屋の娘ええっとここへ参れ」
本名を名乗っても良かったが、もしも知っている人に見られるとまずいからとグランが心配しずっと偽名を使っていた。
「宿屋のポポと申します」
「うむ、承知した。
ポポよ、ここへ」
「はい、裁判長」
「裁判長!? ワシが? おさだというのか?」
「裁判を取り仕切るのですから裁判長ですわ」
「なるほど、うむ、任された!」
うーん、ちょろい。警備隊長なんて中間管理職だから上から抑えつけられ下からはわがままを言われ大変なのだろう。これで少しは有利に進むといいのだけど、さてどうなることやら。
その時周囲からひそひそ話が聞こえてきた。「裁判ってなんだ?」「王様以外が裁くのか?」とか何となくヤバそうな気がしなくもない。でもここまで来たらやり通すしかないのだ。今くいけば娼館を潰して乗っ取ることだってできるかもしれない。
「おい、ポポとやら、これからどうすればいいのだ?」
「裁判長がお互いの話を聞いてどちらが正しいかを判定するんです。
一方的に話をさせちゃだめですからね」
「あいやわかった。
それではええ、ううむ」
「私を訴えたと言うことなのでそのことをお聞かせいただきましょうか。
どういう理由で、何の罪で私を警備兵へ突き出したのですか?」
「そうだ、カウロス申してみよ」
「はあ、この娘が俺を殴りつけたあと店を壊しやがったんでさ。
だから治療費と店の修理代に営業できない分を保証しやがれ」
「ポポよ、それは事実か?」
「いいえ裁判長、事実ではありません。
私はあの人の店で会ったことなんてありません。
カウロスさん? あなたは私がお店を壊したのを見たのですか?」
よし、嘘はついていない。この辺りの加減が難しい。あとは誘導にうまく乗って来れば儲けものだ。
「いや、それは……
俺は見てねえが他のやられたやつが見たんだ」
「では主のあなたはその時一体何をしていたのですか?
お店にいたんですよね?」
敵もそんなにバカじゃないらしい。嘘をついたら不利になることくらいはわかっているようだ。と思ったがそうでもないかもしれない。
「いた! いたはずだ……
その時俺は一眠りしていたからわからねえ」
「殴られたはずではなかったんですか?
それとも寝ているところを私が殴った?
そもそもお店で私とあなたはお会いしてませんよね?」
「いや、会った、店ではなかったかもしれねえな。
そうそう、そいつんちの宿屋で会ったんだ」
「うちの宿屋で? どうしてあなたはうちのお店へ来たんですか?
街に住んでいる人に用のある場所ではありませんよね?」
「ググギギ、それは宿屋の主に貸しがあったからだ!
そうしたらそのガキがでしゃばってきやがったんだ」
「そうそう、そうでしたね、うちのお店でお会いしたのでした。
それで何の用でしたっけ?」
まるで被告プラス弁護士をやっているようで面白い。その昔、裁判のゲームをやりこんでいたのが役に立っているのかもしれない。出来ればあのセリフを言ってみたくて仕方ない私は、ワクワクしながら初めての裁判を楽しんでいた。
「これで満室ね。
あの人は私の部屋へ移そうかしら?」
「でも今はぐっすり眠っているからそっとしておいてあげたいわね。
きっと心も体もぼろぼろじゃないかしら」
クラリスも憐れんでくれてなんだか嬉しかった、もしかしたら自分の価値観がずれているのかもと思って心配だったのだ。それにしてもあの名も知らぬ娼婦をこれからどうしようか。
その時表に数頭の馬が止まった。やってきたのは街の警備隊だ。いつになったら来るかと思っていたが結構遅かった。きっと事情を聞いてあの娼館を取り締まってくれるのだろう。
「おい、ここに女の子供はいるか!
聞きたいことがある!」
「そんな大きな声を出さなくても目の前にいるわよ。
警備隊の方ですね、私に用ですか?」
「よし、お前を連行する、大人しくしろ。
お前には暴行と襲撃の容疑がかかっている。
詰所まで来てもらうぞ」
ええっ!? 捕まるのは私のほうなの!? 口を開く間もなく、言い分さえ聞いてもらえずに後ろ手に縛られてしまった。正義の味方を捕まえるなんてまったくひどい話である。
「ちょっとどういうことですか!?
こんな子供をひどい扱いしないで下さい」
クラリスが懸命に助けようとしてくれるがさすがに警備隊へ逆らうわけにはいかない。私は大丈夫だから大人しくしていてくれとお願いし、さっき一緒に行った仲間について来てもらうことにした。
詰所まで来るとさっきの大男の他、怪我をした数名が並んでいた。私が入っていくと口をそろえてコイツだ! と指さす。人を指さしちゃいけないって子供の頃にしつけされなかったのかしら。
「よし、容疑の通りで間違いないな。
おい子供、お前も認めるな?」
「いいえ、身に覚えがありません。
まったく知らない人たちです」
私はあっさりとしらを切った。ここで認めても面倒が増えるだけだろうし、なんとか娼館のやつら全員と、このぐるになってそうな警備兵を懲らしめてやりたかった。
「ふざけるな! この傷が証拠だ!
ガキのくせにふざけたことしやがって!」
「私知りませんよ?
あなたとはどこで会ったんでしたっけ?」
「このガキ! こんな奴の言い分はいいから早く処罰してくれ!」
「ではこうしましょう。裁判です。
詰所の前の広場でどちらの言い分がもっともだと思われるか勝負です」
この無茶かと思った提案に警備兵がのってきた。どうやら頭はそれほど回らず、その場が面白ければそれでいいと考える性質のようである。
「ほう、それは面白そうだ。
では表へ出てお互い存分に話をするが良い」
「ありがとうございます。
お互いに言い合いでは進みませんので、どちらがわめいても警備兵さんが止めてくださいね」
「うむ、承知した」
こうして公開裁判が行われることになったが、騒ぎを聞きつけたのかいつの間にか野次馬が周囲を取り囲んでいる。これは面白くなってきた。いざとなったらロープを切って逃げればいいだけなので気は楽である。
ついて来てくれた仲間は心配してくれてはいるが、それはいつ私が暴れださないかについてではないだろうか。周囲を見渡したがクラリスはちゃんと仕事をやっていてくれているみたいだし、グランもまだ帰ってきていないようだ。
「それでは裁判を始める!
娼館の主、カウロスここへ、宿屋の娘ええっとここへ参れ」
本名を名乗っても良かったが、もしも知っている人に見られるとまずいからとグランが心配しずっと偽名を使っていた。
「宿屋のポポと申します」
「うむ、承知した。
ポポよ、ここへ」
「はい、裁判長」
「裁判長!? ワシが? おさだというのか?」
「裁判を取り仕切るのですから裁判長ですわ」
「なるほど、うむ、任された!」
うーん、ちょろい。警備隊長なんて中間管理職だから上から抑えつけられ下からはわがままを言われ大変なのだろう。これで少しは有利に進むといいのだけど、さてどうなることやら。
その時周囲からひそひそ話が聞こえてきた。「裁判ってなんだ?」「王様以外が裁くのか?」とか何となくヤバそうな気がしなくもない。でもここまで来たらやり通すしかないのだ。今くいけば娼館を潰して乗っ取ることだってできるかもしれない。
「おい、ポポとやら、これからどうすればいいのだ?」
「裁判長がお互いの話を聞いてどちらが正しいかを判定するんです。
一方的に話をさせちゃだめですからね」
「あいやわかった。
それではええ、ううむ」
「私を訴えたと言うことなのでそのことをお聞かせいただきましょうか。
どういう理由で、何の罪で私を警備兵へ突き出したのですか?」
「そうだ、カウロス申してみよ」
「はあ、この娘が俺を殴りつけたあと店を壊しやがったんでさ。
だから治療費と店の修理代に営業できない分を保証しやがれ」
「ポポよ、それは事実か?」
「いいえ裁判長、事実ではありません。
私はあの人の店で会ったことなんてありません。
カウロスさん? あなたは私がお店を壊したのを見たのですか?」
よし、嘘はついていない。この辺りの加減が難しい。あとは誘導にうまく乗って来れば儲けものだ。
「いや、それは……
俺は見てねえが他のやられたやつが見たんだ」
「では主のあなたはその時一体何をしていたのですか?
お店にいたんですよね?」
敵もそんなにバカじゃないらしい。嘘をついたら不利になることくらいはわかっているようだ。と思ったがそうでもないかもしれない。
「いた! いたはずだ……
その時俺は一眠りしていたからわからねえ」
「殴られたはずではなかったんですか?
それとも寝ているところを私が殴った?
そもそもお店で私とあなたはお会いしてませんよね?」
「いや、会った、店ではなかったかもしれねえな。
そうそう、そいつんちの宿屋で会ったんだ」
「うちの宿屋で? どうしてあなたはうちのお店へ来たんですか?
街に住んでいる人に用のある場所ではありませんよね?」
「ググギギ、それは宿屋の主に貸しがあったからだ!
そうしたらそのガキがでしゃばってきやがったんだ」
「そうそう、そうでしたね、うちのお店でお会いしたのでした。
それで何の用でしたっけ?」
まるで被告プラス弁護士をやっているようで面白い。その昔、裁判のゲームをやりこんでいたのが役に立っているのかもしれない。出来ればあのセリフを言ってみたくて仕方ない私は、ワクワクしながら初めての裁判を楽しんでいた。
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