こんな出来の悪い乙女ゲーなんてお断り!~婚約破棄された悪役令嬢に全てを奪われ不幸な少女になってしまったアラサー女子の大逆転幸福論~

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
56 / 76
第五章 戦いの日々

56.続く暗殺劇

しおりを挟む
 翌日の昼ごろグランが追加で送り込んだ密偵が戻ってきた。城では一晩中大騒ぎだったらしい。結局賊は見つからずあれこれと噂話が広がっている。その中には私が犯人だと言うものも交じっているようだったが、やはり王位争いによるものという見方が圧倒的に多く、王都ではその話で持ちきりとのことだ。

 その王都での噂を止めるためなのか今日になって外出制限令が出された。戒厳令ほど厳格ではないが外出は必要最小限にとどめよとのお触れである。

 街には兵士が総出で見回りを行っていて雰囲気が悪く、食料の買い出しをするだけでも緊張してしまうほどだった。

「ただいま、街中は気楽に歩ける状況じゃないわね。
 店で話し込もうものならすぐに兵士がやってくる始末よ。
 さっきも雑談していただけの人たちが数人連れて行かれたのよ?」

「まるで戦時中みたいな厳しさだな。
 軍隊に全権持たせているなら戒厳令と大差ないだろうに。
 指揮を取っているのは第四皇子だろうが王国軍を自由に動かせるような立場なのかね」

「どうかしら、でも王国軍を統括している騎士団長が反乱することはないんじゃない?
 そんな忠誠心の低い人を頭に据えないと思うわ」

「いや、わからんぜ?
 もしかしたら第六皇子や第七皇子派閥かもしれねえ」

「それなら前回うちにトーラス軍が侵攻してきた時に王国軍も参加してるでしょ。
 少なくともハマルカイトが自由に動かせるわけではなさそう。
 でもこれから何が起こるかわからないから油断はできないわね。
 もし国王暗殺がハマルカイトの仕業だとしたら次はタマルライト第四皇子を狙うはず」

「そうだなゴーメイト皇子は辺境で何も知らずってとこだし後回しだろう。
 ハマルカイトとトーラスが王国軍を動かせないならチャンスかもしれねえな。
 もしやつらが王都へ進軍した時には反乱軍扱いだろ?
 それを討ち取るという名目なら大義を持って動けるはずだ」

「でもそのためにはタマルライト殿下へ繋ぎをつけておかなければいけないわ。
 国が割れるような戦になった際、どちらへ味方するのか表明しておかないとね。
 何とか王城へ入れないかしら」

 私がそう言うとグランからは思ってもみない答えが返ってきた。

「城なら余裕で入れるぜ。
 今、城のほとんどはもぬけの殻だ。
 タマルライト皇子は玉座の間と周辺数部屋のみをガッチリ警護させてるのさ。
 だから門兵もいないし警護されている近くまではすんなり行かれるよ」

「じゃあそこまで行って謁見を申し出れば平気かしら。
 身分が怪しいわけじゃないのだし入れてくれそうね」

「試してみる価値はあるかもしれねえな。
 ルモンド殿、閣下と一緒に行っていただけますか?
 俺はここで諜報の取りまとめをしなきゃならねえんで」

「もちろんです。
 このルモンド、姫様のためなら檻の中まででもご一緒しますよ」

「檻の中はもうこりごり、目指すは玉座の間よ。
 何かあった時のために連絡係が一人くらい欲しいわね」

「では私が同行しようかしら。
 こう見えても挿入、じゃなかった、潜入は得意なのよ?」

 わが軍勢には似つかわない女性の声がしてそちらへ振り返ると、そこにはグレイズが立っていた。いつの間に城から出てここへ合流したのだろう。昨日から何度もグランのところへ報告に来る人はいるけどグレイズの姿は見ていなかった。

「あなた城の中にいたんじゃないの?
 いつの間にやってきていたの?」

「ついさっき伯爵の横を通ったわよ。
 着ていた服は違いますけどね」

「じゃあさっきの兵士があなた!?
 はあ、綺麗なだけじゃなくて変装も上手なのねえ
 全く気が付かなかったわ」

「あら嬉しいこと言ってくれるじゃないの。
 お礼にキスしてあげるわ」

 グレイズはそう言いながら私に抱きついて来て唇を寄せてくる。いくらなんでもこれはやり過ぎだと無理やり引きはがす。この人には隙を見せたらまずそうだ。

「では行きましょうか。
 それはちゃんとしまっておいてね」

 それとはなんだろうかと思ったが、いつの間に自分の手に何かが握らされている。それは二枚貝のような容器だった。

「これはなに? 何かの役に立つのかしら?」

「それは傷薬よ。
 異国産で良く効くからきっと役に立つわ」

「傷を負うようなことはしないつもりだけどありがたく受け取っておくわ。
 では今度こそ行くわよ」

 こうして私たちは正面から堂々と城の中へ入っていった。確かに門兵はおらず途中までは完全に無人である。三階へ上がるとようやく人影が見えたが、メイドがお茶を運んでいるだけだった。

「ねえあなた、タマルライト殿下のところへ行くのかしら?
 私も今からお会いしに行くのだけどご一緒していいかしら」

「は、はい…… あの、どちらのご貴族様でしょうか。
 玉座の間にいらっしゃるのでしたらお茶を追加しなければなりません」

「私の名はレン・ポポ・アローフィールズよ。
 長居はしないからお茶はいらないわ。
 さあ、殿下のお茶が冷めてしまうから早くいきましょ」

 メイドの後について行き、玉座の間の扉までやってくるとさすがにここは素通りさせてもらえないようだ。だが身分を名乗ると衛兵の一人が中へ確認に行き、その後入室が許されてホッとした。

「アローフィールズ殿か、何しに来られたのだ。
 今は非常時ゆえ表を出歩かぬよう触れを出しているはずだが?」

 どうにも機嫌が悪そうでとても歓迎されているとは言い難い。それでも中へ入れてくれたのだから話くらい聞いてくれるつもりはあるのだろう。

「タマルライト殿下、国王様の件、心中お察しいたします。
 犯人はやはりトーラス卿の手の者でしょうか。
 それとも殿下の――」

「しっ、誰に聞かれているかもわからぬ。
 滅多なことは口にしないことだ。
 貴公も策にはまっていたではないか」

「では今のところは犯人不明と言うことなのですね?
 逆賊はなんとか捕らえて処罰しなければなりません。
 出来るだけご協力いたしますので何なりとお申し付けください」

「それはありがたい、まあ座ってくれ」

 会話が途切れたところでメイドがタマルライト皇子の前へティーカップを置いた。するとその時グレイズがメイドの手を掴んだではないか。いったい何をするつもりだろうか。

「ねえあなた、このお茶飲んで下さらない?
 私、どうしてもカップの中身が気になるのよねえ」

「どうしたと言うのだ、貴公の付き人は随分と図々しい女だな。
 このメイドは城に長く使えておる者だ。
 まさか毒を盛るはずもなかろう」

 グレイズはなにか確信めいたものを持っているようだ。その表情は真剣で決してふざけたり場を争うとしているわけではないと一目でわかる。

「殿下、私からもお願いいたします。
 このお茶をメイドに飲むようご命令ください」

「まあたかがお茶だからな。
 飲まれてしまったらまた淹れなおしてもらえば済むことだ。
 よし、そなたこれを飲んでみよ」

 するとメイドはグレイズの手を振りはらい扉へ向かって走り出した。しかしそこをすかさずルモンドが制止し床へ押し付けて取り押さえた。

「はなせ! 私は何も知らない!」

「このメイド、随分と剣ダコがございますなあ。
 かなり鍛えているようですぞ?」

「それではやっぱり?
 グレイズったらよく気が付いたわね、お手柄よ」

「廊下を歩いているときに足音を立てないよう歩いていたからおかしいと思ったのよ。
 身のこなしも柔らかだし、これは密偵の疑いありってね」

 なるほど、同じ密偵だからなのか見るべきポイントが一般人とは違うのだろう。おかげでタマルライト皇子へ恩を売ることが出来た。これならなんなく取り入ることが出来る、私はそう考え心の中でガッツポーズをしていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

処理中です...