僕が一目惚れした美少女転校生はもしかしてサキュバスじゃないのか!?

釈 余白(しやく)

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正義の野球

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 さっきまでは必要以上に興奮してしまっていた体も心も、丸山の言葉でだいぶ落ち着いていた。それでも僕の投球までが落ち着くわけではなく、相手打者の胸元を厳しく攻め続ける。

 三番を三振、四番をキャッチャーフライに打ち取ったあとは、クリーンナップの中でも怖さを感じない五番打者だ。ここで矢島はまた動き代打を送る。まああのバッティングなら当然だし、そもそもクリーンナップを打たせてもらっていることに疑問だ残るくらいだ。

 だが相手チームの事情をあれこれ考える必要は無い。ただ全力で投げ込むだけだ。そう思いながら初球を投げ込むとバントの構えをする。どうやら揺さぶりに来たようだ。しかしバットの上っ面をカスってファールとなる。

 二球目も同じところへ渾身の一球だ。今度は見送ってツーストライク。そして三球目、ハーフスイングでファール、次もファールと粘ってくる。どうも打ち気がないようで、球数を増やすのが目的のように感じた。

 でも回は終盤も終盤八回だ。今更そんなことをしても意味は無い。だけど無意味に粘られても癪に障るので、僕はチビベンにもっと高く構えるようにサインを出した。そして今日一番と思われる渾身の全力投球で手も出させず三振に斬った。

 このままこちらの攻撃なんて来ないでそのまま投げ続けたい、と思うほどに調子がいい。指先にできたマメには投げ終わった後も縫い目の感触が残り、返ってきたボールを触ると指に残った縫い目の跡とボールの縫い目が吸い付くような感覚すらある。それでも僕は投球への欲求を振り払い、名残惜しむようにマウンドへボールを置いた。

 八回裏、ナナコーの攻撃は代打からそのまま守備に付いているカワの打順からである。さっきは値千金の送りバントをバッチリ決めて上機嫌なカワは雄たけびを上げながら打席へ向かう。直後、死球を喰らってまた叫んでいた。

 なんにせよカワの痛い出塁でノーアウト一塁だ。ここからのナナコー打線は左が並んでいる。これはダメ押しのチャンスかもしれない。だが涌井先輩はあえなくファーストゴロ。でもぼてぼてだったのでランナーは二塁へ進塁できた。

 次のチビベンは今日あまりいいところがない上に、木戸を襲ったアクシデントによりキャッチャーまでやっている。もうすでに疲れて来ているのか、スイングにも冴えがなかった。

「チビベーン、無理しなくていいぞ!
 お前までいなくなったら困るからなー」

 ベンチから声をかけると軽く手を上げて打席へ向かった。それでもがんばってしまうのがあいつのいいところで、粘った末にファアボールを勝ち取った。

 ここで取れる作戦は少ない。まこっちゃんはそれほどバッティングは得意でなく、足を使わないと活きないタイプだ。しかし前にはランナーがいる。何か指示を出さないと、と少し焦っていたその時。

「待たせたな!
 もう大丈夫だから戻ってきたぜ!」

 そう言って通路から入ってきたのは木戸だった。腕に包帯を巻いて三角巾で吊っているその姿は痛々しい。それでもやっぱりこいつがベンチにいるといないとでは雰囲気がまったく違うので、戻ってきてくれたのはありがたかった。

「怪我は大丈夫なのか?
 内出血してるって聞いたぞ?」

「こんなのなんてことねえさ。
 昔から言うだろ? 正義は勝つ!!」

「そうですよ主将!!
 ナナコーこそが正義です!!!」

 由布も突然元気になり相槌を打つように叫んだ。

「あのピッチャーのデータないのか?
 それほど打ちにくそうには見えないけど早そうだな」

「あの選手は去年外野手だった二年生です!
 今年から連投禁止になったので投手を増やしたんでしょうね!
 ちなみに今季は今日が初登板です!!」

 流石の由布も投げていない投手のデータは無くて当たり前だ。すると本日出番のまだないオノケンが、唐突に木戸へ進言した。

「主将! 自分を代打で出してください!
 なんか打てそうな気がするっス!」

「マジか? たい焼き賭けちゃうか?
 マルマンが良いって言ったら代打に送ってやるよ」

 すると丸山はやっぱり後輩がかわいいのか、打てなかったら全員にたい焼きを奢ると言いだした。まったくこいつらはなんですぐそういうことするのか…… とは言え、闘志をむき出しにして自分をアピールするその姿はキライじゃない。結局僕も賛成して代打オノケンが告げられた。

 こうしてやる気満々で出て行ったオノケンは、一年生と思えない風格と迫力を見せつけながら打席へ入る。やる気のある奴を見ていると、本当に打ちそうに思えるから不思議だ。

 しかし結果が必ずしも伴うわけではないから難しい。ファウル、ボール、空振りときて四球目、一塁線を痛烈に破る長打コース! と思ったらファウルになってしまい悔しがるオノケン。野球には空振り前のバカ当たりなんて言葉もあって不吉だけど、ボール自体は見えているので期待してやるしかない。

 さらにボール、ボールと来てスリーツーのフルカウントから投じられたストレートを、またもや一塁線へファウルしたところで流石に打席を外して深呼吸をしている。それでもあの早いボールへよく食いついている。これからもっと成長していくだろうと期待が持てる選手だ。

 そして最後はまたも一塁線へ飛んだ良い当たりだったが、また来るだろうと予測していたのか、一塁手がファウルゾーンへ横っ飛びしてファーストライナー、打球が痛烈すぎて一塁ランナーのチビベンが戻れずゲッツーで終わってしまった。

「すんまっせん!
 見てるときは打てると思ったんですけど、思ってたよりボールが遅かったです!
 タイミングの取り方とかもっと練習します!
 まこっちゃんもゴメンな!」

「いやあ、想像以上によくやったよ。
 マルマンのおごりで鯛焼き食べながら反省会だ。
 ま、今後に期待だな。」

「うんうん、ボクだったらあんなに粘れなかったし気にしないでよ。
 一緒にうまくなろうね」

 結局無得点には終わったが収穫もあった、そんな八回の裏だった。そんなことより、一人しかいない専任セカンドへ代打を出した関係で、守備を大きく入れ替えることになり大変なことになってしまった。

「もうこうなったら全員出しちまおう。
 サードにオノケン、池センはセカンドよろしく!
 ファーストへ木尾が入って、マルマンに変わってハカセ行ってくれ。
 おっし、これで全員出場だな!」

「そうだな、まさか今日僕の出番が来るとは考えていなかったよ。
 突然思いつきでかき回すのはやめろよな?
 急に言われるのは心臓に悪い」

 出番なしと踏んでいたハカセが文句を言っているが、その表情は嬉しそうだ。五対二で勝っているので余裕があると言えばそうなんだろうけど、まさか僕が打たれるなんて誰も思っていないということでもある。そう考えるとプレッシャーが襲ってこないわけじゃないが、今日の僕に怖いものなんて何もない。

「あれ? そう言えば三田がまだ出てねえか。
 どっか守りに入るか?」

「このバカは何言ってんだよ……
 この大事な試合で人に先発させておいて……」

「ああそうだったな。
 印象が薄くて忘れてたわ。
 マジでうっかり、勘弁してくれー」

 本気が冗談か判断つかないようなことを言った木戸を、三田がバットで突いている。これが本当に県大会の決勝だなんて思えない。もしこれが夢なら現実になってしまえ。僕はそんなことを考えていた。
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