1 / 162
序章 女神との出会いと異世界転生編

01.女神と異世界は不健全?

しおりを挟む
 とある日、それは両親が交通事故で他界して三年目の命日のことだった。本当ならばお花でも用意してお墓参りに行きたかったが、慌ただしく仕事に追われる日々のためにこんな時間まで退社できず一人で仕事を片付けていた。

 そんな大切な日にも関わらず、部署に新規配属された女性の歓迎会の予定も有り、当然七海も参加することになっていた。仕事の後始末に手間取り遅くなったけど、顔出しだけでもしておこうと開始時間から大分遅れて居酒屋についた。

 乱雑に置いてある瓶から手酌でビールを継ぎ、コップを持ってコソコソと隅の方に座る。ふと周囲を見渡すと歓迎会はまあまあ盛り上がっているようだ。男性社員たちからちやほやされている新人女性は七海よりも大分若いと言うだけでなく華があり、かといって嫌味な雰囲気でもない。

 どう見ても場違い感のある七海とは住む世界が違うと言う言葉がピッタリだ。誰に相手にされるわけでもなく存在感のかけらもない自分が情けなくなり早々に店を出た。

 コンビニへ寄ってからアパートへ独り帰りつき、両親の写真へ手を合わせていると涙があふれてくる。ビールやチューハイの空き缶が転がったままの部屋は、これでもかというくらいに散らかっているが、これももう見慣れた風景だ。それでもこういう気分のときには絶望感増大に一役買ってしまう。

 これ以上生きていてもいいことなんてないだろうし、いっそのこともう死んでしまおうかと考えることもしばしばある。しかしそんな度胸も決断力もなく今に至っているのだった。

 すでに軽く酔っていることだし、さらに強いお酒を大量に飲んだらそのまま目覚めず楽になれるかもしれない。そんなことを考えながら転がっていた洋酒のビンを持ちラッパ飲みする。ついでにさっき買ってきたエナジードリンクと先日処方された睡眠導入剤も全部一緒に飲んでしまった。

 二年ほど前から、夜になると一人枕に顔を押し付けて泣き出してしまうことが多くなり、意識がなくなるくらいまで酒をあおる日が続いている。初めてかかった心療内科では軽いうつとアル中の兆候があるなんて言われ、治療に行ったはずがよけいに精神的ダメージを負って返ってくる始末だった。

 半分ほど残っていただろうか。手に持ったウイスキーの瓶はいつの間にか空っぽになっていた。意識はもうろうとし、かなり酔いが回っている。こうなるともうこの世のすべてがどうでも良いなんて思い始めることにももう慣れてしまった。

 いっそのこと首でも吊ろうかと思ったが、都合よくロープなんてない。それならばと、着ていたブラウスを脱いで袖を縛ってから首へと掛ける。輪になったブラウスをドアノブに引っ掛けて横たわると―― ブラウスは上手く引っかからずノブは引き下げられドアが勢いよく開いた。

 もちろん七海の身体は支えを失い、そのまま床に放り出され頭を強打してしまった。こんな夜中に一体何をしているんだろう、頭は痛いわ行動は情けないわで溜めていた涙がとうとう零れ落ちていく。そしてそのまま意識を失っていくのだった


◇◇◇


『ピピピピ、ピピピピ、ピピピピピピピピ……』

 さっき止めたはずのアラームがまた鳴っている。そうかスヌーズか…… と頭に浮かんだ瞬間、慌てて飛び起きる。

 昨晩は久し振りに最悪級に悲しく情けない夜だった。寝ぼけ眼をこすりつつ頭痛に耐えながら何とかシャワーを浴びて着替えたが、スカートは変えを洗っていなかったので昨日と同じものをもう一度履くしかない。とは言っても誰かが七海に興味を持つはずもないので、そんなことどうせわからないだろう。

 歓迎会での行動もそうだが、帰ってから自分がしたことを思い返すと情けないし恥ずかしく悲しい。それに加えて酒臭い。なんといっても目が覚めたら上半身下着姿でウイスキーの瓶を持ったまま床に転がって寝ていたのは最悪だ。一体何がしたかったのかと自問自答するも答えがでるはずもない。

 本日は朝のミーティングの後外回りの予定が有り、秋葉原のゲームショップへ出向きお店のオリジナルキャラグッズについての提案をプレゼンすることになっている。以前も取り引きしたことのある会社だが、あの時はまだ知名度がいまいちだったキャラクターのアクリルキーホルダーを大量受注し大喜びしたものだ。

 しかしその後売れ行きが芳しくなく、担当者からことあるごとに呼び出され嫌味を言われることが多くなっていた。それでもめげずに通い続け、数カ月前にサービスで作成した等身大ポップが功を奏したのか、キャラクター人気は上昇中らしい。

 今日はグッズ第二段の作成についてだが、さすがに今回は無難にクリアファイルかダイカットのステッカーを提案するつもりだ。なんといっても売れなかった場合にお買い上げ特典として気軽に配れるくらいコストが安い。でもあの担当さんは結構無茶なものを作りたがるからやや不安である。

 そんな不安が滲み出ているせいかわからないが、今日はやたら客引きに声をかけられる。ビジネススーツ姿でパンパンに膨れた書類カバンを持っているのだから、どう見ても営業職が外回りしている最中だとわかりそうなものなのに何度も声をかけられてしまう。

 まあそんな日もあるにはあるのだけど、今日は運の悪いことに七海の横を歩いてついてくるしつこい女性に出くわした。クラシカルな長めのメイド服に身を包み、頭からは狐の耳が生えている。なんとフェティッシュな格好なのだろう。しかもバストが信じられないくらい大きくて、羨ましいを通り越し肩が凝りそうだという感想が先に出るくらいだ。

「ねえねえそこ行くお姉さん?
 今の生活が嫌で逃げ出したいならとってもいい世界があるよ。
 騙されたと思って騙されてみない?」

 いやいや、どう考えても騙す気満々じゃないか、と心の中でツッコみを入れながらも七海は無言で歩き続けた。しかし諦めの悪いメイドはまだついてくる。

「実は私、豊穣の女神という神様なんだよ?
 信じないと損しちゃうよ?
 ねえ、ホントにホント、夢のある生活が待ってる素晴らしい世界へ行ってみない?」

 今まで出会ったどの客引きよりもうさんくさいことこの上ない。見た目はいかにも男性受けしそうだけど、話している内容は馬鹿げていて話を聞くに値しない。どんな店かはわからないが、これじゃ誰一人引っかかることはないだろう。

「まあ信じられないのも無理はないよね。
 だって自分で言ってて信じがたいと思うもん。
 だけどこれ見ても信じられないかな?」

 そう言うと狐耳メイドは七海の正面へ回り込んできて自分の髪の毛を掻き上げた。するとそこには本来あるはずのものがないではないか。彼女が髪の毛を掻き上げた場所、そこには本来耳があるはずだ。念のためだけど、頭の上に狐耳はある。でも違うそうじゃない。人間としての耳がついていない!

「ビックリした?
 ちょっとだけ信じる気になった?」

 あまりにビックリしてしまったので思わず返事をしてしまう。

「え、ええ、ビックリしました……
 それじゃ頭の上にある動物の耳が本当の耳ですか?」

「その通り~」

 女神だと名乗ったその狐耳メイドは、楽しげに人差し指を立てながら返答しつつ、頭の上の耳をピクピクっと動かして見せた。

「それじゃもう一つ驚かせてあげる。
 ちょっと見ていてね」

 そういうと狐耳メイドの女神は、通りを歩いている人たちの肩をポンポンと叩いたり耳元で大声を出したりした。しかし誰一人として彼女に気付くものはいない。

「どう? 今の私は普通の人間からは見えてないし、存在を知られることもないよ?
 これで私が女神だって信じるしかなくなったっしょ?」

 確かに目の前でここまで見せつけられると、この狐耳メイドの言っていることのすべてが嘘ではないと思えてくる。少なくとも普通の人間で無いことは確かだろう。

 だからと言って、素晴らしい世界とやらがあるなんて荒唐無稽な話を鵜呑みにはできない。指摘の通り今の生活からは逃げ出したいと思ってはいるし、毎日何もいいことは無い。でもその原因を作っている要因のほとんどは自分自身にあるのだ。それを自覚しているからこそ、どこにも逃げ場はないと分かっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
あるところに、数百年周期で現れる魔王がいた。 人族から生まれ、闇に魅入られし者、妖魔を統べる魔王と呼ばれる存在。 度々現れては、人々を恐怖のどん底に貶めてきた。 此度、その魔王との戦いに終止符を打った男がいた。 名をシグルド卿といい、六十歳を迎えた老人の男だ。 元平民にも関わらず、爵位を得て史上初の将軍にまで上り詰めた英雄である。 しかし、魔王と一騎討ちの末に相打ちになった……と世間では言われていた。 当の本人は実は生きており、しかも若返っていた。 そして自分が生きていることが知られると、色々と面倒なことになると悟った。 それにどうせなら、自由の身になって世界を旅したいと。 これは役目を終えた英雄が旅をし、様々な人と出会い、美味い物を食べていく物語。

記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。 異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。 持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。 これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

処理中です...