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序章 女神との出会いと異世界転生編
05.転生開始
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身勝手な女神の説明はそれからも続いていた。だが七海は相変わらず言い返すことすらできない。
「魂は空中に浮かんでいて、記憶は短剣の中に入って見えない糸みたいなもので繋がってるの。
だから肉体は無い状態ってことね。
だから何も見えないししゃべることもできないってわけ。
だからまずは肉体作りから始めよっか」
見ることさえできないのに肉体作りしろって言われても、いったいどうすればいいのだろうか。なんといっても女神の話し方が、生きているときもすでに気になっていたけど、転生したんだかしようとしてるんだかの今はもっと気に障る。七海をこんな境遇にしたくせに、適当で責任感を感じられない話し方をしているからだ。
この軽いノリは七海とは別世界の人種であまり交流したことがない。そもそも神様だから別人種であることは間違いないし、神様じゃないとしても狐人間だった……
「それでは肉体作成の前に、そのままじゃなにも見えなくて不便なので仮の肉体を授けましょ。
身長が違うから最初は違和感あると思うけど我慢してね」
そういうと、確かに自分の周囲に肉体が存在している感覚が出てきた。そして今まで体験したことの無い重さも……
「どう? これが私の身体だよ。
結構イケてるでしょ?」
どうやら七海は豊穣の女神の身体を使わせてもらっているらしい。と言っても視界が開けると目の前にも女神がいるのでコピーと言うことになるのか。
そして足元には七海が転がっていた……
「ちょっと女神さま! そこに寝ているのってもしかして…… 私ですか……
まさかこのまま孤独死の腐乱死体とかになっちゃうんでしょうか!?」
「あらー、想像力豊かだねえ。
心配しなくてもあとでちゃんと処置してあげるってば。
転生が終わったら元の世界で七海ちゃんがいた痕跡は全部消しとくよ」
「なんだかそれはそれで切ないですね……
両親のお墓とか退職手続とかアパートはどうなりますか?」
「どういう風にしたらいいのかなあ。
せっかくこちらのお願いを聞いてくれたんだから、出来るだけのことはするつもりだよ。
たとえばご両親のお墓に七海ちゃんも入れるとかどうかな?
あ、仕事やアパートは始めからいなかったことにしておくから問題なしね」
「一緒に入れていただけるならそれでお願いします。
お葬式とかはやらないんですよね?」
「そうね、七海ちゃん自体最初からいなかったことになるから葬儀は無し。
私がこっそり入れておくってことになるね。
ただね…… 火葬っていうのやつはやったことないからなあ。
うまいこと骨だけにして、なにかカワイイ入れ物に詰めてお墓へ入れておくね」
「いや…… 普通のでお願いします……」
まったくこの不良女神の言うことと言ったら…… どこまで冗談でどこから本気なのか本当にわからなくなる。ただ、両親と同じお墓へ入れてもらえるなんて考えていなかったから、それはそれで嬉しいことだし感謝したい。それが親孝行なのか親不孝なのかは微妙なところだけど。
「それじゃ心配事も無くなったところでいよいよ本番だね。
RPGとかでキャラクター作ったことある?
自分が使う主人公キャラみたいなやつ」
「はい、以前少しだけやってたオンラインゲームでアバター? っていうの作りました。
外見とか身長とか、それと…… 体型とか決められるんですよね?
そのときは結構楽しくて時間かかっちゃいましたけど」
「そうそう、基本的には同じだよ?
色々なゲームを参考にしてるから、キャラクター作成の自由度は高いほうかな。
でも多少の制限があるから説明するね」」
そう言うと女神はかなり丁寧に異世界自体のことと、キャラクター、この場合は新しい七海の身体の作り方を教えてくれた。でも難しすぎてあんまり頭に入ってこない。まあ今すぐ全部覚える必要はないし、作るのは最初の一度だけらしいから深く考えなくても問題ないだろう。
豊穣の女神と一緒に異世界を管理している神は九名いて、それぞれにお抱えの種族がいるらしい。種族は人間含めて九種類で豊穣の女神自体は獣人という人種に属するそうだ。他にもファンタジーではおなじみのエルフやドワーフなんかもいるし、悪役にされがちな悪魔もこちらの世界では魔人といって普通の人として生活してるのだとか。
七海の担当神は豊穣の女神なので、人間、エルフ、ドワーフ、獣人の四種族からしか選べない。一いち推しは豊穣の女神と同じ獣人だと言われたが、七海が気になるのはエルフだった。
生前? と言っていいのかわからないが、七海は地味で不運、取り柄無しでルックスは中の下でド近眼といいところが無かったから美人に憧れがある。しかも色白スレンダーと聞けば魅力を感じて当然だ。
ドワーフはずんぐりむっくりした体型で、女性でもひげが生えていると聞いて即却下した。人間でもいいけれど、今までと同じだと不幸体質を引きずりそうなので避けておきたいところ。獣人は…… 確かに女神はプロポーション抜群で美しく魅力的ではあるが、人格に難があるので今のところ魅力が薄い。
「たとえばさ、異世界へ転生したらこんな生活したいって展望とか夢とかない?
過去の転生者だと英雄になりたいとか、強くなりたいとか、世界中を旅したいとか聞いたかな。
希望を持って心機一転人生やり直しなんだから、なんとなくでも何かあるでしょ?」
「そうですねえ、私はあまり苦労しないでほどほどの生活で充分です。
できれば小さな家で猫を飼って暮らしたい。
あとはお友達がほしいかも」
「彼氏じゃなくてお友達? 相変わらず随分控えめだねえ。
でも欲が少ないのは悪いことじゃない。
欲は身を滅ぼすってことももちろんあるけど、それよりも欲は人を忙しくするからね。
あまり欲深いと七海ちゃんが望む生活から遠のいてしまうもん」
「向こうへ行ったらなにか仕事とかあるんでしょうか?
自給自足が必要でいきなり飢え死にとか勘弁なんですけど……」
「その辺りは当然うまくやったげるから心配しなくていいよ。
それより、ペットを飼って暮らしたいならやっぱり獣人が一番だね。
動物を飼い馴らす能力って言うのがあるんだけど、それが一番得意なのが獣人ってわけ。
ほかにも怪我や病気が勝手に治ったりする能力も高くて、生存能力に優れてるの」
「なんだかいいことづくめですね。
まさかなにかの罠ですか?」
「疑い深さ極まれりって感じだねえ。
実際には、種族によって得手不得手があるってだけなんだけどさ。
エルフや魔人なら魔法を使う適性が高いとか、ドワーフは生産が得意とかね。
でもカワイイ耳と尻尾があるのは獣人だけ!」
女神の姿を借りている今は、尻尾や耳に神経が通っていて自在に動かせる。その仕草は確かにかわいいし、獣人と言っても狐だけじゃなく色々な種類が選べるようで個性豊かではある。
「猫が好きならネコ科の動物をベースにした獣人なんていいんじゃない?
ライオンや虎にチーターとかあるし、もちろん猫もいるよ?
おススメはもちろん狐だけど、マニアックなところで羊や牛なんて草食動物でもいいね。
ほかにもウサギやリスなんて小動物も選べちゃって超お得!」
この獣人押しは一体なんなんだろうか。なんでもできる神様なんだからきっと自分の姿を変えることも簡単にできるはず。ということはこの女神が狐の獣人姿をしているのは自分の趣味なのかも?
七海が営業として働いていた時の担当区域には秋葉原が含まれていたので、いわゆるケモミミキャラを見かけることはザラだった。でもそのほとんどはデフォルメされた刀身の低いキャラクターだったし、受注したグッズでもそんな感じのものが殆どだった。
さらに言えばエルフっぽい尖った耳をした女性のイラストもそこかしこで見かけたから、どちらにしたとしてもなんとなく馴染めそうな予感はする。でも二度と変更できないと言われると、失敗は許されないのだから簡単には決められない。
七海は自分作りに取り掛かりながらすでに夢中になっていることに気が付いて、これも女神の策略だと感じて少しだけ情けない気分になっていた。
「魂は空中に浮かんでいて、記憶は短剣の中に入って見えない糸みたいなもので繋がってるの。
だから肉体は無い状態ってことね。
だから何も見えないししゃべることもできないってわけ。
だからまずは肉体作りから始めよっか」
見ることさえできないのに肉体作りしろって言われても、いったいどうすればいいのだろうか。なんといっても女神の話し方が、生きているときもすでに気になっていたけど、転生したんだかしようとしてるんだかの今はもっと気に障る。七海をこんな境遇にしたくせに、適当で責任感を感じられない話し方をしているからだ。
この軽いノリは七海とは別世界の人種であまり交流したことがない。そもそも神様だから別人種であることは間違いないし、神様じゃないとしても狐人間だった……
「それでは肉体作成の前に、そのままじゃなにも見えなくて不便なので仮の肉体を授けましょ。
身長が違うから最初は違和感あると思うけど我慢してね」
そういうと、確かに自分の周囲に肉体が存在している感覚が出てきた。そして今まで体験したことの無い重さも……
「どう? これが私の身体だよ。
結構イケてるでしょ?」
どうやら七海は豊穣の女神の身体を使わせてもらっているらしい。と言っても視界が開けると目の前にも女神がいるのでコピーと言うことになるのか。
そして足元には七海が転がっていた……
「ちょっと女神さま! そこに寝ているのってもしかして…… 私ですか……
まさかこのまま孤独死の腐乱死体とかになっちゃうんでしょうか!?」
「あらー、想像力豊かだねえ。
心配しなくてもあとでちゃんと処置してあげるってば。
転生が終わったら元の世界で七海ちゃんがいた痕跡は全部消しとくよ」
「なんだかそれはそれで切ないですね……
両親のお墓とか退職手続とかアパートはどうなりますか?」
「どういう風にしたらいいのかなあ。
せっかくこちらのお願いを聞いてくれたんだから、出来るだけのことはするつもりだよ。
たとえばご両親のお墓に七海ちゃんも入れるとかどうかな?
あ、仕事やアパートは始めからいなかったことにしておくから問題なしね」
「一緒に入れていただけるならそれでお願いします。
お葬式とかはやらないんですよね?」
「そうね、七海ちゃん自体最初からいなかったことになるから葬儀は無し。
私がこっそり入れておくってことになるね。
ただね…… 火葬っていうのやつはやったことないからなあ。
うまいこと骨だけにして、なにかカワイイ入れ物に詰めてお墓へ入れておくね」
「いや…… 普通のでお願いします……」
まったくこの不良女神の言うことと言ったら…… どこまで冗談でどこから本気なのか本当にわからなくなる。ただ、両親と同じお墓へ入れてもらえるなんて考えていなかったから、それはそれで嬉しいことだし感謝したい。それが親孝行なのか親不孝なのかは微妙なところだけど。
「それじゃ心配事も無くなったところでいよいよ本番だね。
RPGとかでキャラクター作ったことある?
自分が使う主人公キャラみたいなやつ」
「はい、以前少しだけやってたオンラインゲームでアバター? っていうの作りました。
外見とか身長とか、それと…… 体型とか決められるんですよね?
そのときは結構楽しくて時間かかっちゃいましたけど」
「そうそう、基本的には同じだよ?
色々なゲームを参考にしてるから、キャラクター作成の自由度は高いほうかな。
でも多少の制限があるから説明するね」」
そう言うと女神はかなり丁寧に異世界自体のことと、キャラクター、この場合は新しい七海の身体の作り方を教えてくれた。でも難しすぎてあんまり頭に入ってこない。まあ今すぐ全部覚える必要はないし、作るのは最初の一度だけらしいから深く考えなくても問題ないだろう。
豊穣の女神と一緒に異世界を管理している神は九名いて、それぞれにお抱えの種族がいるらしい。種族は人間含めて九種類で豊穣の女神自体は獣人という人種に属するそうだ。他にもファンタジーではおなじみのエルフやドワーフなんかもいるし、悪役にされがちな悪魔もこちらの世界では魔人といって普通の人として生活してるのだとか。
七海の担当神は豊穣の女神なので、人間、エルフ、ドワーフ、獣人の四種族からしか選べない。一いち推しは豊穣の女神と同じ獣人だと言われたが、七海が気になるのはエルフだった。
生前? と言っていいのかわからないが、七海は地味で不運、取り柄無しでルックスは中の下でド近眼といいところが無かったから美人に憧れがある。しかも色白スレンダーと聞けば魅力を感じて当然だ。
ドワーフはずんぐりむっくりした体型で、女性でもひげが生えていると聞いて即却下した。人間でもいいけれど、今までと同じだと不幸体質を引きずりそうなので避けておきたいところ。獣人は…… 確かに女神はプロポーション抜群で美しく魅力的ではあるが、人格に難があるので今のところ魅力が薄い。
「たとえばさ、異世界へ転生したらこんな生活したいって展望とか夢とかない?
過去の転生者だと英雄になりたいとか、強くなりたいとか、世界中を旅したいとか聞いたかな。
希望を持って心機一転人生やり直しなんだから、なんとなくでも何かあるでしょ?」
「そうですねえ、私はあまり苦労しないでほどほどの生活で充分です。
できれば小さな家で猫を飼って暮らしたい。
あとはお友達がほしいかも」
「彼氏じゃなくてお友達? 相変わらず随分控えめだねえ。
でも欲が少ないのは悪いことじゃない。
欲は身を滅ぼすってことももちろんあるけど、それよりも欲は人を忙しくするからね。
あまり欲深いと七海ちゃんが望む生活から遠のいてしまうもん」
「向こうへ行ったらなにか仕事とかあるんでしょうか?
自給自足が必要でいきなり飢え死にとか勘弁なんですけど……」
「その辺りは当然うまくやったげるから心配しなくていいよ。
それより、ペットを飼って暮らしたいならやっぱり獣人が一番だね。
動物を飼い馴らす能力って言うのがあるんだけど、それが一番得意なのが獣人ってわけ。
ほかにも怪我や病気が勝手に治ったりする能力も高くて、生存能力に優れてるの」
「なんだかいいことづくめですね。
まさかなにかの罠ですか?」
「疑い深さ極まれりって感じだねえ。
実際には、種族によって得手不得手があるってだけなんだけどさ。
エルフや魔人なら魔法を使う適性が高いとか、ドワーフは生産が得意とかね。
でもカワイイ耳と尻尾があるのは獣人だけ!」
女神の姿を借りている今は、尻尾や耳に神経が通っていて自在に動かせる。その仕草は確かにかわいいし、獣人と言っても狐だけじゃなく色々な種類が選べるようで個性豊かではある。
「猫が好きならネコ科の動物をベースにした獣人なんていいんじゃない?
ライオンや虎にチーターとかあるし、もちろん猫もいるよ?
おススメはもちろん狐だけど、マニアックなところで羊や牛なんて草食動物でもいいね。
ほかにもウサギやリスなんて小動物も選べちゃって超お得!」
この獣人押しは一体なんなんだろうか。なんでもできる神様なんだからきっと自分の姿を変えることも簡単にできるはず。ということはこの女神が狐の獣人姿をしているのは自分の趣味なのかも?
七海が営業として働いていた時の担当区域には秋葉原が含まれていたので、いわゆるケモミミキャラを見かけることはザラだった。でもそのほとんどはデフォルメされた刀身の低いキャラクターだったし、受注したグッズでもそんな感じのものが殆どだった。
さらに言えばエルフっぽい尖った耳をした女性のイラストもそこかしこで見かけたから、どちらにしたとしてもなんとなく馴染めそうな予感はする。でも二度と変更できないと言われると、失敗は許されないのだから簡単には決められない。
七海は自分作りに取り掛かりながらすでに夢中になっていることに気が付いて、これも女神の策略だと感じて少しだけ情けない気分になっていた。
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