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第二章 新しい出会いと都市ジスコ編
16.囚われのエルフ
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無事に戦闘が終わった直後、レナージュが駆け寄ってきてミーヤを抱きしめた。
「ミーヤったら! 驚いたわよ!
あなたかなりやるじゃないの!」
「そうだよな、本当にレベル1とは信じがたい
嬢ちゃん、なんかごまかしてるんじゃないか?
動きもいいし、あの砂を使ったのなんて面白い思い付きだぞ」
レナージュに褒められるのはもちろん嬉しかったが、強面(こわもて)のハゲリーダーが褒めてくれるとは思っていなかったので、ミーヤは少し調子に乗りそうなくらい喜んでいた。
「目つぶしなんて卑怯かなって思ったんだけど必死だったからね。
でもうまくいって良かったなあ。
これもレナージュがヒントになることを教えてくれたからよ、ありがとう」
「ミーヤの肝が据わってるからうまくいったのよ。
対人戦初めてだなんて本当に信じられないくらい!」
あまり褒められることに慣れていないので、そろそろ照れくさくて仕方なくなってきたミーヤは、あんまりほめ過ぎると調子に乗ってしまうからもうやめて、と周囲へ願うくらいにはみんなべた褒めしてくれるのだった。
「そう言えば捕まっていた人たちは無事だったかしら?
戦ってる最中は見ている余裕がなくて心配だったわ」
「特に怪我をしていることもなく元気でした。
今ブッポムさまが話を聞いておられます」
さきほどミーヤへ神術をかけてくれた人が説明してくれた。ブッポムとは誰かと思ったら商人長のことで、そう言えばそんな名前だったことを思い出す。
それにしてもひどいことをする人たちだ。ミーヤは人よりも楽をするために他人を踏みにじるような人種は大嫌いで、盗賊なんて絶対に許してはいけないと考えている。そしてこの世界でも同じような正義感を持っている人たちが当たり前にいることが嬉しかった。
商人長が事情を聞いている間に、キャラバンの術師や作業員たちが盗賊を縛り上げていた。それはもう厳重すぎるくらいにグルグル巻きだった。面白いのは手をグーにして首のところで固定しており、それはまるで美術館で見たミイラの棺桶のようである。
その姿を見て笑っていたらレナージュが理由を教えてくれた。手や口をふさぐのは呪文を封じるためで、特に召喚術は手のひらから炎を出せるため、手のひらが見えないよう握りこぶしにしつつ、もしもの時は自身の顔を燃やしてしまうような位置に固定しておくのが通例なんだとか。聞いてみればなんてことなく当たり前のことだけど、ミーヤには思いつくはずのないその方法を最初に考えた人は頭がいいと素直に称賛する気分だった。
やがて商人長の面談が終わり、無事に解放された人たちがお礼にやってきた。それと同時に商人長がミーヤを呼んでいると言うので馬車へ向かう。
「やあやあ神人様、少しお話があるのです。
彼ら四人はエルフでして、コラク村というジスコ北西の村からきた調査団とのことでした。
コラク村では最近ノームが増えてエルフが少なくなっているらしく肩身が狭い。
そのため、移住を考えているそうです。
移住先の候補は、カナイ村南の森最奥にある慈悲の神柱付近だったらしいのです。
しかし荒れた土地で資源が乏しいと諦め、村へ帰ることになったとのこと。
先ほどの盗賊の中にいたエルフの男も調査団の一員だったそうです。
その者が手引きして、帰る道中に襲われたというのが大まかな経緯となります」
「なんだかすごいお話ね。
そんな遠くからカナイ村よりも遠くへ行くだけで尊敬するわ。
でもわざわざ計画的に襲うほどの価値があるものでも運んでいたのかな?」
「いえいえ、やつらの目的は女でしょう。
馬車には荷がありませんでしたしね。
自分たちで囲うつもりだったか、売り飛ばすつもりだったのかまではわかりませんが」
「ひどい! それは許せないわね!
ちゃんと罪には問われるんでしょう?」
「それはもちろん、ジスコの警備隊へ引き渡します。
ちなみに報奨金が入りますので、到着後に分配いたしますよ?」
報奨金が貰えると聞いて、ミーヤは飛び上るほど嬉しかったが、態度に出すのははしたないのでなんとか我慢した。しかしいくらくらい貰えるのだろうか。鹿の角を売った時と同じくらい入ればとても嬉しいのだけど、などと考えていると、商人長はそんなことはお構いなしで話を続ける。
「それはともかく、彼らは馬車が壊されてしまったので帰りの足がないと言ってます。
残念ながらキャラバンはもう一杯なので四人は乗せられません。
そこで神人様へお願いがございます」
「もしかして私に降りて村へ戻れと言うのかしら……
または歩いてついてこいと?」
「そんな! 滅相もない!
実は馬車を引いていた馬を調教し、彼らへ譲渡していただきたいのです。
馬車用の馬は牧羊スキルによって操っているのですが、人が直接乗ることはできません。
しかし、調教して譲渡することで所有権が得られれば乗ることができるのですよ。
これは商売抜き、お代はお支払いできませんがお手伝いいただけませんか?」
「商人長なのに商売抜きだなんておもしろいわね。
でもいいわ、私だって困っている人がいるなら放っておきたくないもの」
「ありがとうございます。
その代わりに、盗賊が乗っていた馬四頭分の買い取り代金から半分を差し上げますよ」
と言うことはそれだけで6000ゴードル! なんだ、ちゃんと対価を用意してくれるなんて、商人長はなかなかいい人である。
こうして馬をエルフたちへ譲渡し、今日もいいことをしたとご機嫌なミーヤのところに、その中の一人が歩み寄ってきた。
「色々お世話になりました。
まさか神人様にお会いできるなんて光栄です。
申しおくれましたが、わたくしはリグマと申します」
「リグマね、よろしく。
私はミーヤ・ハーベス、ミーヤって呼んでね。
今回は大変だったわねえ、まったくひどい話、同情するわ……」
「まさか同じ村に盗賊の手引きをする者がいたなんて驚きです。
ところでミーヤ様へお伺いしたいことがございます。
カナイ村のことなのですが……」
「なにかしら? あの村はとてもいいところよ。
自分が生まれたところだから言うわけじゃないけど、いい人たちばかりなの」
「なるほど…… 実はわたくしたちが移住先を探していることは、すでにご存知かと思います。
そこでカナイ村の隅にでも場所を分けていただけたらと思うのですが……
もちろんしきたりには従いますし、作業も指示通りに行います」
「今のコラク村はどうして出て行くことになりそうなの?
聞いた話だけど、ノームとエルフしか住んでいないんでしょ?」
「はい、ノームたちがどうこうと言うわけではないのですが、人口比率が偏り過ぎまして。
エルフとノームは同じ自然の民ですが、風習はかなり異なります。
身体の大きさも食事の必要量も異なりますので、ノームに合わせるとエルフは飢えてしまいます。
そのため公平な作業分担が難しくなってしまいました」
「それで折り合いが悪くなったので出て行くことにしたってこと?
共同生活も意外に大変なのね。
私はただ面倒見てもらってただけだから、苦労したこと無くて世間知らずなんだけどね……」
「いえいえ、そんな!
あれだけお強いのですから、きっと狩りでは活躍なさっていたのでしょう?」
「少しだけ、ね
まあ事情は分かったわ。
朝になったらカナイ村の村長へ相談してみるから返事を待っていてちょうだいね」
こうして思わぬ申し出を受けたミーヤは、なんだか政治家にでもなった気分、などと気楽に考えながら眠りについたのだった。
「ミーヤったら! 驚いたわよ!
あなたかなりやるじゃないの!」
「そうだよな、本当にレベル1とは信じがたい
嬢ちゃん、なんかごまかしてるんじゃないか?
動きもいいし、あの砂を使ったのなんて面白い思い付きだぞ」
レナージュに褒められるのはもちろん嬉しかったが、強面(こわもて)のハゲリーダーが褒めてくれるとは思っていなかったので、ミーヤは少し調子に乗りそうなくらい喜んでいた。
「目つぶしなんて卑怯かなって思ったんだけど必死だったからね。
でもうまくいって良かったなあ。
これもレナージュがヒントになることを教えてくれたからよ、ありがとう」
「ミーヤの肝が据わってるからうまくいったのよ。
対人戦初めてだなんて本当に信じられないくらい!」
あまり褒められることに慣れていないので、そろそろ照れくさくて仕方なくなってきたミーヤは、あんまりほめ過ぎると調子に乗ってしまうからもうやめて、と周囲へ願うくらいにはみんなべた褒めしてくれるのだった。
「そう言えば捕まっていた人たちは無事だったかしら?
戦ってる最中は見ている余裕がなくて心配だったわ」
「特に怪我をしていることもなく元気でした。
今ブッポムさまが話を聞いておられます」
さきほどミーヤへ神術をかけてくれた人が説明してくれた。ブッポムとは誰かと思ったら商人長のことで、そう言えばそんな名前だったことを思い出す。
それにしてもひどいことをする人たちだ。ミーヤは人よりも楽をするために他人を踏みにじるような人種は大嫌いで、盗賊なんて絶対に許してはいけないと考えている。そしてこの世界でも同じような正義感を持っている人たちが当たり前にいることが嬉しかった。
商人長が事情を聞いている間に、キャラバンの術師や作業員たちが盗賊を縛り上げていた。それはもう厳重すぎるくらいにグルグル巻きだった。面白いのは手をグーにして首のところで固定しており、それはまるで美術館で見たミイラの棺桶のようである。
その姿を見て笑っていたらレナージュが理由を教えてくれた。手や口をふさぐのは呪文を封じるためで、特に召喚術は手のひらから炎を出せるため、手のひらが見えないよう握りこぶしにしつつ、もしもの時は自身の顔を燃やしてしまうような位置に固定しておくのが通例なんだとか。聞いてみればなんてことなく当たり前のことだけど、ミーヤには思いつくはずのないその方法を最初に考えた人は頭がいいと素直に称賛する気分だった。
やがて商人長の面談が終わり、無事に解放された人たちがお礼にやってきた。それと同時に商人長がミーヤを呼んでいると言うので馬車へ向かう。
「やあやあ神人様、少しお話があるのです。
彼ら四人はエルフでして、コラク村というジスコ北西の村からきた調査団とのことでした。
コラク村では最近ノームが増えてエルフが少なくなっているらしく肩身が狭い。
そのため、移住を考えているそうです。
移住先の候補は、カナイ村南の森最奥にある慈悲の神柱付近だったらしいのです。
しかし荒れた土地で資源が乏しいと諦め、村へ帰ることになったとのこと。
先ほどの盗賊の中にいたエルフの男も調査団の一員だったそうです。
その者が手引きして、帰る道中に襲われたというのが大まかな経緯となります」
「なんだかすごいお話ね。
そんな遠くからカナイ村よりも遠くへ行くだけで尊敬するわ。
でもわざわざ計画的に襲うほどの価値があるものでも運んでいたのかな?」
「いえいえ、やつらの目的は女でしょう。
馬車には荷がありませんでしたしね。
自分たちで囲うつもりだったか、売り飛ばすつもりだったのかまではわかりませんが」
「ひどい! それは許せないわね!
ちゃんと罪には問われるんでしょう?」
「それはもちろん、ジスコの警備隊へ引き渡します。
ちなみに報奨金が入りますので、到着後に分配いたしますよ?」
報奨金が貰えると聞いて、ミーヤは飛び上るほど嬉しかったが、態度に出すのははしたないのでなんとか我慢した。しかしいくらくらい貰えるのだろうか。鹿の角を売った時と同じくらい入ればとても嬉しいのだけど、などと考えていると、商人長はそんなことはお構いなしで話を続ける。
「それはともかく、彼らは馬車が壊されてしまったので帰りの足がないと言ってます。
残念ながらキャラバンはもう一杯なので四人は乗せられません。
そこで神人様へお願いがございます」
「もしかして私に降りて村へ戻れと言うのかしら……
または歩いてついてこいと?」
「そんな! 滅相もない!
実は馬車を引いていた馬を調教し、彼らへ譲渡していただきたいのです。
馬車用の馬は牧羊スキルによって操っているのですが、人が直接乗ることはできません。
しかし、調教して譲渡することで所有権が得られれば乗ることができるのですよ。
これは商売抜き、お代はお支払いできませんがお手伝いいただけませんか?」
「商人長なのに商売抜きだなんておもしろいわね。
でもいいわ、私だって困っている人がいるなら放っておきたくないもの」
「ありがとうございます。
その代わりに、盗賊が乗っていた馬四頭分の買い取り代金から半分を差し上げますよ」
と言うことはそれだけで6000ゴードル! なんだ、ちゃんと対価を用意してくれるなんて、商人長はなかなかいい人である。
こうして馬をエルフたちへ譲渡し、今日もいいことをしたとご機嫌なミーヤのところに、その中の一人が歩み寄ってきた。
「色々お世話になりました。
まさか神人様にお会いできるなんて光栄です。
申しおくれましたが、わたくしはリグマと申します」
「リグマね、よろしく。
私はミーヤ・ハーベス、ミーヤって呼んでね。
今回は大変だったわねえ、まったくひどい話、同情するわ……」
「まさか同じ村に盗賊の手引きをする者がいたなんて驚きです。
ところでミーヤ様へお伺いしたいことがございます。
カナイ村のことなのですが……」
「なにかしら? あの村はとてもいいところよ。
自分が生まれたところだから言うわけじゃないけど、いい人たちばかりなの」
「なるほど…… 実はわたくしたちが移住先を探していることは、すでにご存知かと思います。
そこでカナイ村の隅にでも場所を分けていただけたらと思うのですが……
もちろんしきたりには従いますし、作業も指示通りに行います」
「今のコラク村はどうして出て行くことになりそうなの?
聞いた話だけど、ノームとエルフしか住んでいないんでしょ?」
「はい、ノームたちがどうこうと言うわけではないのですが、人口比率が偏り過ぎまして。
エルフとノームは同じ自然の民ですが、風習はかなり異なります。
身体の大きさも食事の必要量も異なりますので、ノームに合わせるとエルフは飢えてしまいます。
そのため公平な作業分担が難しくなってしまいました」
「それで折り合いが悪くなったので出て行くことにしたってこと?
共同生活も意外に大変なのね。
私はただ面倒見てもらってただけだから、苦労したこと無くて世間知らずなんだけどね……」
「いえいえ、そんな!
あれだけお強いのですから、きっと狩りでは活躍なさっていたのでしょう?」
「少しだけ、ね
まあ事情は分かったわ。
朝になったらカナイ村の村長へ相談してみるから返事を待っていてちょうだいね」
こうして思わぬ申し出を受けたミーヤは、なんだか政治家にでもなった気分、などと気楽に考えながら眠りについたのだった。
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