31 / 162
第二章 新しい出会いと都市ジスコ編
22.楽しいショッピング
しおりを挟む
宿屋を出たところで何となく振りかえってみると、不思議な構造の建物であることに気が付いた。宿屋自体は普通の木造で三階建てなことくらいが珍しい程度だが、両側に平屋作りが繋がっている。こんな感じの建物をどこかで見たことがある。
そうか、これは平等院鳳凰堂に似ているような気がする。かといって別に和風建築と言うわけではなく、ただ単に真ん中の建物が高くて左右対称に平屋が繋がっていると言うだけだ。
「この宿屋って変わった造りね。
他はどこも真四角で面白みのない建物ばかりなのに」
「ここは宿屋の両側に酒場と厩舎が繋がっているのよ。
だから冒険者みたいな旅人にとって使いやすい施設って感じかな。
私も馬を預けてきたわよ。
そうそう、もう一人合流しないかって打診してる人が後で来るから一緒に一杯やりましょうね」
「なるほどね、そういう構造ってことか。
そのもう一人ってレナージュが呼んだくらいだから当然女性よね?
どんな人? 私仲良くできるかしら」
「神術使いだから絶対に旅の助けになるよ。
普段から駈け出し冒険者のサポートやったりしてるから引き受けてくれるとは思うんだ。
仕事でならって言われちゃうと依頼料かかっちゃうけどさ」
「まあお金は結構あるから平気かな。
まさかあんなに貰えるなんて思わなかったわ」
その時レナージュが人差し指を口に当てた。いわゆるシーってポーズだけど、この仕草はどの世界でも共通なんだろうか。彼女はそのまま小声で囁いた。
「ちょっと、お金いっぱい持ってるなんて大きな声で言っちゃだめよ?
脅し取られたり、変なもの売りつけられたりしちゃうでしょ?」
ミーヤはあわてて両手で口元を隠した。するとレナージュは笑いながらミーヤの頭をなでながら大丈夫、と優しく声をかけたのだった。
さて本題の買い物だ、と意気揚々と歩き出したが、目に入るものすべてが珍しいミーヤにとっては長い道のりとなった。正直言うと街並み自体はつまらないもので似たような建物ばかりだ。けれど商店が並んでいる一角は活気があって眺めているだけでも楽しくなるのだった。
「裁縫屋は東通りだったわね。
ついでに武具屋にもいきましょう。
その後は念のため神柱へ行って、それから冒険者組合を覗くわよ!」
「全然知らないんだからお任せするよ。
とりあえず裁縫店には行かないといけないけどね。
どんなドレスがいいんだろう」
「私はドレスなんて着たことないからわからないなあ。
でも普段着も必要でしょ? そっちは選んであげるからね」
そんな話をしながら歩いていたが、いつの間にかレナージュの手には棒に刺さった果物が握られていた。それを一本差し出してミーヤへ手渡すとさっそくかじりついたので、ミーヤも真似して歩きながら食べ始めた。
「こうやって食べるのって行儀悪いけどおいしいわよね。
最近は男とばかり付き合ってたから買い食いとか全然してなくてつまらなかったんだ。
でもこうやって女友達が出来たから、久しぶりに買い物も楽しめて嬉しいわ」
「私は買い食いなんて初めてだけど楽しいね。
レナージュとと友達になれて本当にうれしいよ」
余りの嬉しさに、思わずレナージュの腕をとり自分の腕を絡ませてしまった。そんなことよほど親しい相手じゃないとやらないのかもしれないが、すでに水浴びしながら散々触られたのですでに抵抗感はない。それなのに、なぜかレナージュは少し照れている様子だった。
「さ、着いたわよ。
ドレスと普段着、それに肌着とブラシも忘れないようにね」
「そうだった、ブラシブラシ……」
ミーヤが呟きながら店へはいると、店員というか一人しかいないので店主だろう、が静かにいらっしゃいませと声をかけてきた。どうやら少しお上品な店らしい。あまりドタバタすると田舎者丸出しだろうから注意しなければ。
「どんなものをお探しですか?
冒険者向けの物はあまり置いていませんが、外套類はいくらかございます。
ほかには鎧を隠せるような上着もございます」
「いいえ、今日はローメンデル卿に言われてドレスを見に来たんです。
晩餐会に着て行けるようなものありますか?
それに靴と肌着も欲しいです」
「まあ、ローメンデル様のご紹介でしたか。
それは失礼いたしました。
こちらに掛かっているものでしたらすぐにお渡しできます。
オーダーならばお渡しは明日になってしまいます」
「オーダーのドレスが一日でできるんですか!?
それは凄いですね、じゃあまずできているものから見せていただこうかな」
ミーヤはそう言ってかかっているドレスを物色し始めた。しかし流行があるのだろうが、全て同じデザインに見えるほど似ているものばかりだ。前開き上から下までボタン留め、その横にはフリルがあしらわれている。
それでも生地は薄くて、作業着のような麻製品ではないことは明白だ。やはり綿なのだろうか。それとも多少光沢感があるし、もしかしたらシルクが存在するのかもしれない。
「これは何でできているのですか?
羊毛や麻でないことはわかるんですけど、田舎では見かけない生地ですね」
ああ、自分から田舎者だと白状してしまった、と思ったが今更である。とはいえ靴も履いていないし、身なりもみすぼらしいので隠し通せるはずもなかった。
「これは綿と言って、トコストの大農園で作られた原材料を使用しております。
糸が細いので薄手の生地が作れるのです」
やはり綿があるのだ! ミーヤはまた一つ知識を増やし感動していた。しかしレナージュが横からそれくらい誰でも知ってるわよ? と言ってきたので、先に聞いておけばよかったとも思っていた。
それにしてもどれも普通のAラインで、ドレスと言うよりは、ちょっと豪華なワンピースと言った程度に見える。仕方のないことではあるが、どうせならいかにもドレス、と言うものを着てみたい。
「ちょっとお伺いしますが、裾が広がったデザインはありませんか?
できれば腰はコルセットになっていて、スカートはボリュームがあってこんもりした感じの……」
「そのような形のものならオーダーになりますね。
簡単でいいので絵を描いていただけますか?
それをもとにこちらで清書してみます」
あまり絵は上手くないのだけど、と思いつつ、粘土板へドレスの絵を描いてみる。スカートの下にはクリノリンという鳥かごのようなものを吐くことも説明した。
すると店主が、ミーヤのへたくそな絵をあっという間に綺麗に描きなおしてくれた。
「すごい! 絵がお上手なんですね。
うまく伝わるか心配だったんですけど、これなら大丈夫そうです」
「いいえ、裁縫のスキルは縫製よりも描き起こしにこそ役立つものなのです。
ここで躓いていたらお客様のご希望に沿えませんからね」
なるほど、裁縫衛生スキルはただ衣類を作るための能力だけではなく、デザイン力も上がっていくと言うことなのだろう。つまり絵の上手なこの店主は高いスキルを持っているということになる。
「ただ問題はこの下に履くという骨組みです。
スカートを膨らませるためのものだと言うのは理解できますが、裁縫では作れそうにありません。
細工屋へ外注に出しますので、少々値が張ってしまうかもしれません。
それでもよろしければ明日の同じ時間までにご用意いたします」
価格の目安を聞いておこうと思ったが、いくらなんでも吊るしのドレスの三倍くらいあれば足りるだろう。それでも予算にはまだまだ余裕がある。色はやはり豊穣の女神の色である山吹色にしておくか、悔しいけどいい色であることは間違いない。
他に、先が天に向かって伸びていない靴を探していたら見つけた編上げのヒール付きサンダルに肌着数枚、普段着はレナージュが選んでくれたワンピースにスカートとシャツのセットを購入し、その場で染めてもらった。もちろんブラシも忘れずに、頭と体用の二本を購入しておいた。
念のため確認すると、この世界では採寸の概念は無く、既定の大きさで作れば後は体に合わせて勝手に伸縮するらしい。変身をしたときにうすうす感づいてはいたが、それを当たり前のように語られたので改めて驚いてしまった。
「なかなかいい買い物ができたわ。
付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ楽しかったわ。
随分変わった形のドレスを注文したのね。
私なら吊るしで充分だって思っちゃうけどな」
「だってドレスなんて次にいつ着られるかわからないじゃない?
せっかく予算をいただいたんだし、いいものを着て行かないと失礼かなって」
「そんなものなのかなあ。
まあ冒険者にドレスは無縁だから考えても仕方ないか」
そう言ってレナージュは笑っていたが、整った顔立ちに透き通るような肌を綺麗なドレスで着飾ったならどれだけ美しいだろう。ミーヤは、いつか二人でともにどこかへ招かれて、ドレスを着ることが出来たならステキだろうななどと想像するのだった。
そうか、これは平等院鳳凰堂に似ているような気がする。かといって別に和風建築と言うわけではなく、ただ単に真ん中の建物が高くて左右対称に平屋が繋がっていると言うだけだ。
「この宿屋って変わった造りね。
他はどこも真四角で面白みのない建物ばかりなのに」
「ここは宿屋の両側に酒場と厩舎が繋がっているのよ。
だから冒険者みたいな旅人にとって使いやすい施設って感じかな。
私も馬を預けてきたわよ。
そうそう、もう一人合流しないかって打診してる人が後で来るから一緒に一杯やりましょうね」
「なるほどね、そういう構造ってことか。
そのもう一人ってレナージュが呼んだくらいだから当然女性よね?
どんな人? 私仲良くできるかしら」
「神術使いだから絶対に旅の助けになるよ。
普段から駈け出し冒険者のサポートやったりしてるから引き受けてくれるとは思うんだ。
仕事でならって言われちゃうと依頼料かかっちゃうけどさ」
「まあお金は結構あるから平気かな。
まさかあんなに貰えるなんて思わなかったわ」
その時レナージュが人差し指を口に当てた。いわゆるシーってポーズだけど、この仕草はどの世界でも共通なんだろうか。彼女はそのまま小声で囁いた。
「ちょっと、お金いっぱい持ってるなんて大きな声で言っちゃだめよ?
脅し取られたり、変なもの売りつけられたりしちゃうでしょ?」
ミーヤはあわてて両手で口元を隠した。するとレナージュは笑いながらミーヤの頭をなでながら大丈夫、と優しく声をかけたのだった。
さて本題の買い物だ、と意気揚々と歩き出したが、目に入るものすべてが珍しいミーヤにとっては長い道のりとなった。正直言うと街並み自体はつまらないもので似たような建物ばかりだ。けれど商店が並んでいる一角は活気があって眺めているだけでも楽しくなるのだった。
「裁縫屋は東通りだったわね。
ついでに武具屋にもいきましょう。
その後は念のため神柱へ行って、それから冒険者組合を覗くわよ!」
「全然知らないんだからお任せするよ。
とりあえず裁縫店には行かないといけないけどね。
どんなドレスがいいんだろう」
「私はドレスなんて着たことないからわからないなあ。
でも普段着も必要でしょ? そっちは選んであげるからね」
そんな話をしながら歩いていたが、いつの間にかレナージュの手には棒に刺さった果物が握られていた。それを一本差し出してミーヤへ手渡すとさっそくかじりついたので、ミーヤも真似して歩きながら食べ始めた。
「こうやって食べるのって行儀悪いけどおいしいわよね。
最近は男とばかり付き合ってたから買い食いとか全然してなくてつまらなかったんだ。
でもこうやって女友達が出来たから、久しぶりに買い物も楽しめて嬉しいわ」
「私は買い食いなんて初めてだけど楽しいね。
レナージュとと友達になれて本当にうれしいよ」
余りの嬉しさに、思わずレナージュの腕をとり自分の腕を絡ませてしまった。そんなことよほど親しい相手じゃないとやらないのかもしれないが、すでに水浴びしながら散々触られたのですでに抵抗感はない。それなのに、なぜかレナージュは少し照れている様子だった。
「さ、着いたわよ。
ドレスと普段着、それに肌着とブラシも忘れないようにね」
「そうだった、ブラシブラシ……」
ミーヤが呟きながら店へはいると、店員というか一人しかいないので店主だろう、が静かにいらっしゃいませと声をかけてきた。どうやら少しお上品な店らしい。あまりドタバタすると田舎者丸出しだろうから注意しなければ。
「どんなものをお探しですか?
冒険者向けの物はあまり置いていませんが、外套類はいくらかございます。
ほかには鎧を隠せるような上着もございます」
「いいえ、今日はローメンデル卿に言われてドレスを見に来たんです。
晩餐会に着て行けるようなものありますか?
それに靴と肌着も欲しいです」
「まあ、ローメンデル様のご紹介でしたか。
それは失礼いたしました。
こちらに掛かっているものでしたらすぐにお渡しできます。
オーダーならばお渡しは明日になってしまいます」
「オーダーのドレスが一日でできるんですか!?
それは凄いですね、じゃあまずできているものから見せていただこうかな」
ミーヤはそう言ってかかっているドレスを物色し始めた。しかし流行があるのだろうが、全て同じデザインに見えるほど似ているものばかりだ。前開き上から下までボタン留め、その横にはフリルがあしらわれている。
それでも生地は薄くて、作業着のような麻製品ではないことは明白だ。やはり綿なのだろうか。それとも多少光沢感があるし、もしかしたらシルクが存在するのかもしれない。
「これは何でできているのですか?
羊毛や麻でないことはわかるんですけど、田舎では見かけない生地ですね」
ああ、自分から田舎者だと白状してしまった、と思ったが今更である。とはいえ靴も履いていないし、身なりもみすぼらしいので隠し通せるはずもなかった。
「これは綿と言って、トコストの大農園で作られた原材料を使用しております。
糸が細いので薄手の生地が作れるのです」
やはり綿があるのだ! ミーヤはまた一つ知識を増やし感動していた。しかしレナージュが横からそれくらい誰でも知ってるわよ? と言ってきたので、先に聞いておけばよかったとも思っていた。
それにしてもどれも普通のAラインで、ドレスと言うよりは、ちょっと豪華なワンピースと言った程度に見える。仕方のないことではあるが、どうせならいかにもドレス、と言うものを着てみたい。
「ちょっとお伺いしますが、裾が広がったデザインはありませんか?
できれば腰はコルセットになっていて、スカートはボリュームがあってこんもりした感じの……」
「そのような形のものならオーダーになりますね。
簡単でいいので絵を描いていただけますか?
それをもとにこちらで清書してみます」
あまり絵は上手くないのだけど、と思いつつ、粘土板へドレスの絵を描いてみる。スカートの下にはクリノリンという鳥かごのようなものを吐くことも説明した。
すると店主が、ミーヤのへたくそな絵をあっという間に綺麗に描きなおしてくれた。
「すごい! 絵がお上手なんですね。
うまく伝わるか心配だったんですけど、これなら大丈夫そうです」
「いいえ、裁縫のスキルは縫製よりも描き起こしにこそ役立つものなのです。
ここで躓いていたらお客様のご希望に沿えませんからね」
なるほど、裁縫衛生スキルはただ衣類を作るための能力だけではなく、デザイン力も上がっていくと言うことなのだろう。つまり絵の上手なこの店主は高いスキルを持っているということになる。
「ただ問題はこの下に履くという骨組みです。
スカートを膨らませるためのものだと言うのは理解できますが、裁縫では作れそうにありません。
細工屋へ外注に出しますので、少々値が張ってしまうかもしれません。
それでもよろしければ明日の同じ時間までにご用意いたします」
価格の目安を聞いておこうと思ったが、いくらなんでも吊るしのドレスの三倍くらいあれば足りるだろう。それでも予算にはまだまだ余裕がある。色はやはり豊穣の女神の色である山吹色にしておくか、悔しいけどいい色であることは間違いない。
他に、先が天に向かって伸びていない靴を探していたら見つけた編上げのヒール付きサンダルに肌着数枚、普段着はレナージュが選んでくれたワンピースにスカートとシャツのセットを購入し、その場で染めてもらった。もちろんブラシも忘れずに、頭と体用の二本を購入しておいた。
念のため確認すると、この世界では採寸の概念は無く、既定の大きさで作れば後は体に合わせて勝手に伸縮するらしい。変身をしたときにうすうす感づいてはいたが、それを当たり前のように語られたので改めて驚いてしまった。
「なかなかいい買い物ができたわ。
付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ楽しかったわ。
随分変わった形のドレスを注文したのね。
私なら吊るしで充分だって思っちゃうけどな」
「だってドレスなんて次にいつ着られるかわからないじゃない?
せっかく予算をいただいたんだし、いいものを着て行かないと失礼かなって」
「そんなものなのかなあ。
まあ冒険者にドレスは無縁だから考えても仕方ないか」
そう言ってレナージュは笑っていたが、整った顔立ちに透き通るような肌を綺麗なドレスで着飾ったならどれだけ美しいだろう。ミーヤは、いつか二人でともにどこかへ招かれて、ドレスを着ることが出来たならステキだろうななどと想像するのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
70
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる