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第二章 新しい出会いと都市ジスコ編

39.都会での商売

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 経験とは何かを体験することではない。その体験で何を感じ、何を考えたのか、何を得たのかが重要なのである。

「チカマ…… コップとって…… あとおばちゃんに……」

「ボクはちゃんと途中で止めた。
 なのにミーヤさまったら笑ってるだけだったから……」

「次こそは…… 次は絶対に…… 守るから…… 水……」

 大して飲んだつもりは無かったのにまたもや二日酔いで頭痛がひどい。もちろんレナージュもイライザも床に転がっている。フルルはさすが酒に強いと豪語しただけあって何ともないらしく、朝になったら帰っていった。誰がどのくらい飲んだのかわからないが、部屋にはまだ酒の匂いが漂っている。

「ふう…… 少し落ち着いたわ。
 ありがとう、チカマ、おばちゃんから貰ってきた酔い醒まし効いたわ……
 それにしても…… だから部屋で飲みなおすのは止めようと言ったのに。
 まさか蒸留酒を樽で持って行かせるなんて…… おばちゃんったらもう」

「でも止めたのに飲んだのはミーヤさま……」

 ぐうの音も出ないとはまさにこのことだ。チカマのお姉さんになるんだなんて偉そうに言っておきながらこの体たらく…… ミーヤはがっくりとうなだれた。

「飲み代掛からないと思ったらつい、ね……
 さ、だいぶ良くなったから出かけましょ。
 レナージュ達は…… もうこのままでいいかな」

「わかった、いこ、ミーヤさま
 あと…… 飴玉ほしい」

「いいわよ、じゃあこれ袋ごとあげるわ。
 もうそれだけしかないから食べ過ぎないようにね。
 そうだ、そこへまとめてあるチカマの荷物は自分で持って行ったほうがいいわ。
 魔術書も置いてあるから忘れないでね」

「はーい、使い方わからないけど……
 でもボク練習がんばるね」

 ミーヤはチカマのあまりの可愛さに思わず抱きしめてしまった。突然のことにびっくりした様子のチカマは、真似をするようにミーヤを抱きしめてくるのだった。

 こんな事をしているうちにすっかり昼になってお腹が空いてしまった。でものんびりしてはいられない。なんといっても今日の夜にはレンタカー? の寝台馬車を引き取りに行くし、明日の朝早く出発予定なのだ。そう言えば馬も馬車についてくるのだろうか。誰も牧羊スキルを持っていないので自分の馬が必要になるのかもしれない。今のところ馬を持っているのはレナージュだけだし、今更捕まえに行くのも難しいだろう。

 出発前には確認しておかないとまずいと思ったので、寝ているであろうレナージュへメッセージを入れておいた。これで起きてくれてもいいんだけど、と淡い期待も持っておくが返信は返ってこない。ミーヤはため息をつきながら引き続きチカマと共に歩き、東通りの北にある混沌の神柱へ向かった。

「チカマ? 昨日レナージュが言っていたように作図のスキルを覚えるのよ。
 お金がかかるみたいだから少し渡しておくわ。
 でも勝手に甘いもの買ったりして無駄遣いしたらダメなんだからね」

「ミーヤさま、ありがと。
 だいじょぶ、飴玉あるし。」

 宿を出てからずいぶん経つのにチカマはまだ飴玉を舐めている。よほど気に行ってるのだなとほほえましく感じたが、ふと考えるといくらなんでもおかしい。

「ねえチカマ? 今食べてるので何個目?
 もうそれしかないから無くなってもあげられないよ?」

「えっと…… 三個目、かな。
 でもまだいっぱいあるから平気」

「売ってるところ知ってる?
 それならもう一袋買ってあげるわ」

「知ってる! すごく知ってる!」

「じゃあ後でマーケットも行きましょうね。
 うふふ、チカマかわいいー」

 飴玉を買ってもらえるとなったチカマは当然ご機嫌だが、買ってあげると約束した側のミーヤもご機嫌である。なんといっても自分が何かすることで誰かの笑顔が見られるのであれば、それはとても幸せなことなのだから。

 神柱へ着いたがどうすればいのかわからない。きっと祈りのような儀式をする必要があると思うが、スマメのヘルプにも載っていない。まったく女神は役立たずである。

「神柱へ触れるって言ってたからとりあえず触ってみてよ。
 後は勝手に何かが起きるかもしれないしね」

「うん、やってみる。
 こう、かな……?
 何を覚えるんだっけ?」

「作図よ、地図を描くスキルだって言ってたわね。
 探索と組みあわせると良いらしいってことくらいしかわからないけど」

「作図…… あっ!」

 その時、チカマの体からおかしな音が鳴り始めた。こ、これは!?

『プップップ、プププププ、ププ、ポポーン』

 どこかで聞いたような気もするが、決して仮装バラエティ番組の点数が上がる音だとは思いたくない。そんなことあるはずない…… まさかガッカリ音が鳴って上がりきらないこともあるのだろうか……

「ミーヤさま! 作図でた。
 10になってる」

「無事に出来て良かったわね!
 これで地図がかけるようになるんだと思うけど、低いうちにどれくらいできるのかは未知数ね。
 一応術式ペンを渡しておくわね、あとで試すことになったら羊皮紙もあげるわ」

「ミーヤさま、なんでももってる、すごいね」

「違うわよ、私は書術を使うからたまたま持っているだけ。
 そんなにすごいことじゃないのよ? 売っていたものを買っただけだもの」

 さまを付けて呼ばれることはだいぶ慣れてきたが、真っ直ぐに褒め言葉を言われるのはいまだに照れくさい。しかも実際にはすごくもなんともないことなのだし…… よし、気持ちを切り替えて次は武具屋へ行こう。チカマは剣術だし接近戦になるから防具も必要だろう。道中でどんなものがいいか相談しながら向かった。


「なにか良さそうなものあった?
 私はこの金属の胸当てが良いと思うな。
 下にはレナージュみたいな革の板みたいなのがあるといいけどここには無いみたいね」

「うーん、悩む……
 ボクじゃ決められないからミーヤさま決めて」

「この腰当てなんてどうだね?
 金属製で丈夫だし、もちろん物理防御もある逸品だ?
 胸当てと同じ金属製で見た目も揃うだろ。
 問題は武器だが、背が低いので短めの剣が良いだろうな」

 店主が盛んに勧めてくるが作りの割に価格が高く、いわゆるコスパが悪そうってやつだ。いかにも売りつけてやるって態度も気に食わない。品質についてはミーヤでは目利きができないし、やはりレナージュを連れてきた方が良かったかもしれない。

「値段の割にあんまりいいものに見えないからやめておくわ。
 胸当ては悪くないと思うんだけど、残念ね」

「いや、ちょっと待ってくれ、これは別にセットってわけじゃねえんだ。
 胸当てだけでもいいからもうちょっと考えてみてくれよ。
 値引きもするから頼むよ」

 店主は急に焦りだす。なんとしても買って欲しいみたいだけど、そこまでする理由がわからずかえって不気味である。

「そう言えばこの間は手甲を探していたよな?
 こないだのとは違うものが入荷してるから見てみないか?」

「それは気になるわね、でも見るだけよ?」

「きっと気に入るさ、ちょっと待ってくれ。
 ―― そら、こいつだけどいいもんだろう?
 いくつかまとめて買ってくれたら安くするぜ?」

 ミーヤはその手甲を見ながら考えていた。物の良し悪しは結局わからないけど、どうせ武器と防具は必要なのだ。それなら安いものを買っておいて次回また別のものを買ってもいいかもしれない。そんなことより、この店主がなんでこんなに売りたがっているかが気になったのだ。

「うーん、やっぱりいまいちね。
 それよりもさっきから気になってるんだけど、なんでそんなに売りつけるように焦っているの?
 日々の暮らしがままならないほどお金に困ってるわけじゃないんでしょ?」

「いや…… 実はな、この店を畳もうと思っているのさ。
 最近ジスコでは冒険者の数が減っていてあんまり儲からねえ。
 冒険者が少ないのは日々平穏だってことでもあるから、住人にとってはいいことなんだけどな。
 だがこのままじゃじり貧だから王都かヨカンドへでも行こうかと思ってるのさ。
 それに家賃もバカにならねえんだぜ?」

 別に聞いていないことまでペラペラ話してくれたのはありがたいが、ミーヤになにか出来るわけでもない。それにしても賃貸だとは思っていなかった。都市に家を持って店を構えている凄い金持ちなのだと勝手に考えていたのだ。

 もしこの先、豆や綿花、卵を使った製品を大量生産できるようになったら、村からジスコへ持ってきて販売出来たらいいと考えていたが、店を借りるのに多大な資金が必要になるかもしれない。もちろんマーケットのような露店でも構わないが、どちらにせよ賃貸料や権利料などはかかるのだろう。

 漠然と考えていた物品販売と言う道が、それほど甘く平たんではなさそうだと言うことをここで知れたのは収穫だった。しかし同情で買ってあげるほどミーヤはお金持ちでもない。

「ごめんなさい、ここまで聞かせてもらったけど私にできることは特に無さそうね。
 でも熱意はわかったから、この短剣のセットだけいただくわ

「わかった、ありがとうよ。
 もし良かったらこの胸当てを半額にするから一緒に買わないか?
 店の中身をもう半分くらい減らさないと店を畳めねえんだ、頼むよ」

「うーん、半額ならまあいいかな。
 わかったわ、お引越しのため頑張ってね」

 こうして押し切られたミーヤは、短剣二本がセットになっているものと、金属製の胸当てを購入することになってしまった。レナージュに見せて怒られたらどうしよう、なんて心配をしながら。

「じゃあチカマ、これを付けてみてね。
 ワンピースの上から装備すればいいのかしらね?
 剣は……これどうなってるの?」

「それは腰へ下げるんじゃなく、背中へベルトを回して……
 そうそう、そうやって背中をバッテンにして背後に装着するって寸法さ。
 正面から見ると武器を持っていないように見えるんで暗殺向きなデザインだな」

「ちょっと! そんな物騒なもの売りつけないでよね!」

「いやいやいや、選んだのはアッシじゃありませんよ!
 それに腰でガチャガチャ動かないんで魔獣にも気づかれにくいですぜ?」

 ん? もしかしたら隠密行動に向いてるのでは? 意外と悪くなかったかもしれない。そうなると、忍術も覚えておいた方がいいかもしれない、なんて考えていると、ミーヤもいっぱしの冒険者になった気になってくる。

「まあいいわ、いい買い物かどうかは使った後に判断するから。
 お世話になったわね、ありがとう」

「こちらこそ買ってくれてありがとな。
 また寄ってくれよ!」

 武具屋を出た二人はマーケットへ行ってからまた神柱へ戻り、チカマへ忍術を覚えさせてから宿屋へ戻った。
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