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第三章 戦乙女四重奏(ワルキューレ・カルテット)始動編

53.地味な経験

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 その後はトカゲ類を何匹か倒したくらいでめぼしい獲物は見当たらなかった。一番歯ごたえがあったのはスズメバチの魔獣で、数は多いしスピードは速いしで大変だった。何度か刺されたミーヤだったが、毛皮のおかげで皮膚まで針は通ってこない。しかし……

「チカマ、平気か? 今解毒するからな」

 イライザが解毒(キュア)を唱えるとあっという間に毒は消えたようで安心した。

「まあ弱い毒だからほっといても消えるけどな。
 チカマにとってはちょっと手ごわかったかもしれないねえ。
 でも自然治癒が50超えたら動物の毒は効かなくなるよ」

「動物以外の毒ってなにがあるの?
 植物ってこと?」

「いやいや、植物も広義の動物だよ。
 それ以外ってのは強い毒薬とか毒沼みたいなのとかだな」

「そういうのもあるのかあ、知らないことが多くて危険がいっぱいね。
 もっと覚えて行かないと誰も守れないや」

「そうだな、ステータスやスキル的に強くなることも必要だけど、知識を増やすのも大切な修行だよ。
 だから弱い敵しかいないような場所にも繰り返し入っていくのさ」

 経験は経験値を貯めることだけじゃなくて、体験をして覚えていくことも含まれるのだ。以前レナージュが言っていた、知識や経験が大切だという言葉を思い返していた。

「ありがと、もうだいじょぶ。
 はー、急に心臓バクバクしてびっくりしたあ」

「無事でよかったわ、チカマに何かあったらどうしようかと思って……
 守れなくてごめんね」

 ミーヤの目には涙が浮かんでいる。しかしイライザもレナージュも大して気にしない様子だ。

「大丈夫だってば、こんなので生死にかかわること無いわよ?
 毒だってしばらくしたら消えるんだからさ。
 チカマだって一週間もすれば毒なんて平気になってるわ」

「そんなもの? 心配しすぎ? 信じるわよ?」

 レナージュとイライザは共に頷いた。それを見るとやっぱり安心できるのは、今が昼間だからだろう。夜になったら急に信頼できなくなるのがこの二人なのだから。

 蜂の毒には驚かされたが、その代わりに蜂の巣が獲れたので、おやつタイムと言うことで少し休憩することにした。レナージュが器用にナイフで四つに切ったあと、全員でかぶりついて濃厚な甘みを楽しむ。たまに蜂の子が混ざっているがそんなのお構いなしに噛み砕く。お上品ではやっていけない世の中なのだ。

 甘すぎる口の中を水で濯いだら休憩も終わりだ。午後になっているし夕飯のおかずを獲ることも考えたいところだ。イライザはさかんに豚豚とつぶやいているが、一向に見つからない。

「こんな事ならさっきの鹿を獲っておけば良かったね。
 何もないよりはマシだろうしさ」

「いやあ、鹿肉は固くて好みじゃないんだよなあ。
 干し肉にするなら固さは気にならないんだけど、せっかくの生肉だぜ?」

「じゃあ湿地帯まで行ってカエルでも獲る?
 上手くいけばワニがいるかもしれないわよ?」

 カエルだワニだとすごい話をしているが、きっとそれも普通に食べられるのだろう。ふと気が付くと、チカマが歩きながら木の皮を剥がして木彫り虫を生で食べていた……

 一度食事の話を始めるとお腹が空いてきて仕方がない。我慢できなくなりそうなので、手持ちのベーコンを少しだけつまんでしまった。さらにそれを見たレナージュもつまみ食いをはじめ、結局イライザも干し肉をかじり始めた。

「もう何でもいいから捕まえて今日は終わりにしようぜ?
 こんなんじゃ狩りに集中できないだろ」

「やっぱり歩いているからお腹もすくわよ。
 さっき蜂蜜と一緒にパンでも食べたら良かったわね」

「明日からは昼くらいに飯を食おう。
 ちゃんと計画的に、だ!」

 全員が賛成して獲物探しを再開する。ほどなくしてチカマの探索に何か引っかかったようだ。

「敵意有り? こっちに気が付いてないみたいだからわからないけど。
 でも何かに攻撃しようとしてるかも」

「獣や魔獣同士、もしくは冒険者か?」

「全然わからない、ごめん」

「まあそっと近づいてみるか。
 アタシとミーヤが先に行くよ」

 ミーヤは黙ってうなずきイライザの後に続いた。その後ろにチカマ、レナージュと続く。相手の詳細は不明ながら戦闘中の可能性もあるので静かに気配を殺すようにゆっくりと歩く。

 その場所まで行ってみると、熊とたぬきのような小型動物が争っていた。たぬきのほうは目が赤く光っている。これは魔獣だ!

「あれはアナグマの魔獣か?
 でもアナグマにしては色が随分黒いなあ」

「あれはフクロアナグマでしょ。
 不帰の森にはよくいるのよ、もちろん魔獣ではない普通のだけど元々凶暴なのよね」

「どっちからやるかが問題だな。
 ミーヤとチカマで黒いちびっこをやるか。
 その間にレナージュは熊を、アタシは眺めてるからさ」

「ちょっとひどくない?
 ちゃんと見て必要なら回復してよね?」

 おそらくイライザは、ミーヤとチカマを魔獣と戦わせ、様子を見ながら助けを出すつもりだろう。レナージュはその邪魔が入らないように熊を足止めしてくれるのだ。

「わかったわ、チカマもいける?」

「平気、がんばるよ」

 二人で見合ってから頷いて、それから一気に飛び出した。その瞬間にレナージュも姿をだし熊へ向かって矢を放った。イライザはミーヤとチカマへ敏捷化の呪文をかけてくれている。黒いちびっこは確かに凶暴で、口からギザギザの刃をひん剥いて威嚇してくる。ミーヤとチカマで挟み撃ちにし距離を詰めていくとチカマへ飛びかかった。

 チカマは上手くかわしながら短剣を立てたがかすっただけで相手はひるまない。そのまま取って返してチカマの背後を襲う。その攻撃を横っ飛びでかわしたところにミーヤが飛び込んで思いっきり殴ると、空中を吹っ飛んで行った。最後は、空中を勢いよく飛んでいる魔獣へチカマが飛び上がってひと刺しすると、姿が消えさり魔鉱が転がり落ちた。

 方やレナージュは、熊の突進をかわしながら次々に矢を命中させ、四本目が胸元へ刺さったところで無事仕留めたようだ。

「二人ともよくやったわね。
 結構経験値稼げたんじゃない?」

「直前を見てなかったからわからないけど、もうすぐレベル2になれそうよ。
 今日一日で普通の狩り一カ月分くらいは稼げてると思う」

「ボクはあと半分くらいかな。
 今日初めて戦ったから疲れた、お腹すいた」

「うんうん、チカマ偉かったわね。
 ちゃんとトドメもさせて凄かったわよ」

 ふふーん、とチカマが胸を張ったので、ミーヤは飛び込んで抱きついた。するとそこへレナージュも抱きついて三人ではしゃいでいると、イライザはやれやれと独り言を言ってから熊を捌き始めた。熊はそれほど大きくなく、まだ若かったようだ。

 その場で完全に解体するためにミーヤが手伝うことにした。料理スキルがあると骨がするすると取れるのが便利すぎる。毛皮は丸ごと剥いで敷き皮として売るらしい。可食部以外は深めに穴を掘って埋めていくと匂いも出ないし自然にも還りやすくなる。そのため出来る限り埋めていくようにと教えられた。熊を解体した後は寄り道もせず馬車へ戻った。途中でキノコも生えていたけど、アレは素人には危険な食材なので見て見ぬふりを決め込む。

「これで四日分くらいはあるな。
 熊ならまあまあウマイから助かったぜ」

「手足は煮込みにして今日の夕飯に、あばらは塩で揉んで干しておくわね。
 他の部位は焼いてからしまっておこうかしら」

「なんでもいいよ、全部任せる。
 干し肉しかない旅に比べたら最高だからな!」

「ホントよねえ、温かいものが食べられるし、見たことない料理が出てくるかもしれないし。
 こんな楽しみな旅は初めてよ」

「ボクはお腹いっぱい食べられてしあわせ。
 ミーヤさま、ありがと」

 お礼を言いたいのはこちらのほうよ。一人ぼっちじゃないってホント素敵なことだ、なんて思いながら夕飯の支度を始めるのだった。
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