67 / 162
第三章 戦乙女四重奏(ワルキューレ・カルテット)始動編

58.臨時の宴

しおりを挟む
 謎の訪問者に戸惑って返事が出来ないでいると、彼らはさらに提案を続けた。

「今俺たちは六人いるが、豚一頭じゃ多すぎる。
 残りはもちろんあなた達へ差し上げます。
 王都の茶色い蒸留酒も樽ごとつけるからぜひ頼むよ!」

 それを聞いたイライザが目を見開いた。

「ミーヤ、ここまで言うんだから受けてやりなよ。
 悪い奴らじゃなさそうだし、今後のための人脈になるかもしれないよ?」

 絶対酒だ…… ミーヤはそう信じて疑わなかった。まあでもイライザが欲しがるほどの貴重なお酒かもしれないし、それならやってあげてもいいか、と考えを改めた。

 四人で馬車から出ると、いかにも旅の途中の冒険者と言う薄汚い格好をした男たちが六人並んで立っていた。悪人面と言うよりは職人的な雰囲気を感じる。

「ローメンデル山へ来たと言うことは、あなた達はジスコの冒険者ですか?
 私たちの居場所はこの間の冒険者から?」

「まあね、寝台馬車使ってる冒険者に助けてもらったって言ってたのさ。
 んで、この辺りに止まってる馬車はこれだけだ。
 それにしても獣人に人間にエルフと魔人とは、ずいぶんとバラバラな組み合わせだな」

 ミーヤはこの言葉にカチンときた。差別意識のある人間なんて見たことなかったが、種族として多く住んでいるのは人間種であることはジスコを歩いているだけでもよくわかる。

 それだけに人間種至上主義的な考え方があってもおかしくないだろう。そしてここにいるこの人たちもそうなのではないかと考えたのだ。

 しかしそれはミーヤの早とちりだった。

「俺たちは王都の酒場で知り合ってパーティーを組むようになった六人組さ。
 たまたま人間だけになっちまったんだけど、種族によって得手不得手があるだろ?
 種族が偏ると得意なことはまだいいとしても苦手なことまで被っちまう。
 だからいろいろ混ぜてバランスとった方がうまくいくことも多いのさ」

「あんたたちが、あっさりかどうかは知らねえが、ナイトメアを確保したって言うのも納得だぜ。
 この間のやつらはテイマーに剣士二人だったからな、初めから無理があったよ」

「随分とおしゃべりが好きなみたいだけどよ?
 そろそろはじめないと朝が来ちまうぜ。
 まずは豚をだしなよ」

「あんたが料理人かね?
 随分手練れの戦士に見えるが?」

「アタシは飲む係だよ!
 料理はこの獣人の神人様へお願いするんだね」

「神人様だって!? そりゃ本当かよ!
 俺、いや私はサラヘイと申します。
 お目に掛かれて光栄です」

 こういう権威に対して急に態度を変える人って好きじゃないな、なんて思いつつも、それは仕方のないことなのだろうとかわいそうな気にもなる。なぜならば、神々にそう植えつけられているからだ。

「はじめまして、私の名はミーヤ・ハーベスです。
 あんまり突然改まられても困るから、今まで通り普通にしてくださいね」

「は、はあ、そう言われても、神人様なんて伝説みたいな存在に初めてお会いしたのでね。
 緊張してしまいますです……」

「そんなことよりも、豚はどこで捕まえたんですか?
 それともわざわざ買ってきたとか?
 まさか盗んできたんじゃないですよね?」

「いやいや、これはジスコのマーケットで買ってきたものだ。
 本当さ、間違いねえよ、嘘じゃねえ。
 最高級って言うのはちょっと盛ったんだけどな」

「まあいいわ、こんなところで料理をするなんて疑わしい? 怪しい?
 何を作るかは任せてもらいますよ?」

「もちろんだ! 街で食えねえようなもんならありがてえな。
 わざわざここまで来たんだからさ」

 そのまま街でいいもの食べればいいのに、なんで好き好んでこんなところまで来て料理を食べたいのだろうか。それほどまでに未知の味に飢えていると言うのが、面白いような哀れなような不思議な気持ちになる。

 ともかく時間も大分遅いけどやってみることにする。材料が足りないので上手くいくかなんとも言えないけど、いい食材を提供してくれたのだから素材の味だけでいけるかもしれない。こうして作りはじめようとすると、さっきあんなに食べたはずのチカマが、まだご飯を食べてないと言いたげに近寄ってきた。

「なあにチカマ? もうお腹すいたの?
 これから作るから少し待ってれば食べられるわよ?」

「うん、待ってる。
 お腹は空いてないはずなんだけど、ボクの目がお腹空いてるって言ってる」

 わかる…… ダメだと思っていても寝る前に何か食べたくなるときあるよね……

「それじゃこれでも食べて待っててね」

 ミーヤはそう言ってムラングを取り出した。せっかくなので全員へ回すようにと袋ごと渡し配ってもらう。するといかつい冒険者たちが、ウマイウマイと言いながら甘いお菓子を食べて喜んでくれた。本当に誰もが食に飢えているのだと言うことが一目でわかる瞬間だ。

 レナージュとイライザはサラヘイの仲間と樽を囲んで、早くも酒宴に腰を据える構えを見せている。これは明日こそ寝坊は間違いない。まあここまで頑張ってきてるからたまにはいいか、などと考えつつ酔っ払いを尻目にミーヤは豚の調理を始めた。

 バラ肉ともも肉を半々くらいに取り分けて細かく刻んでいく。料理スキルのおかげでイメージするだけで、調理がどんどんと進んでいくのにもだいぶ慣れてきて戸惑わなくなってきた。ひたすら細かくするイメージを浮かべると何の苦労もなくひき肉が出来上がって行く。

 十分に細かくなったら、羊の乳に浸しておいたパンを細かくつぶしほぐしてからひき肉と混ぜる。次は野菜を細かく刻んで混ぜ込む。卵がないので繋ぎがいまいちだろうが、スキレットいっぱいくらいの長さへ形作って火にかけた。

 オーブンではないのでうまく焼けるか心配だが、上から鍋をかぶせて全体を暖めるようにすれば大丈夫だろう。その間にもう一品、芋を千切りにしてからチーズをまぶしたら、ひき肉を固めたものの隣に追加して同時調理だ。

 ふと思いついて、裏返して蓋にしている鍋の底へ炎の精霊晶を乗せてみた。これで上火が追加されて調理時間が短縮でき焼きムラも押さえられるだろう。もしこれでうまく行ったら我ながら良いひらめきだったと言うことになる。

 男たちは調理工程自体にまったく興味がないらしく、レナージュ達と酒を飲んで騒いでいる。チカマはずっとミーヤにくっついていて愛らしいけど、視線はどう見ても火にかけている食材へ向いている。まあそう言うところも含めてかわいいんだけど!

 大分時間はかかったがようやく焼き上がったようだ。火が通ったかどうかは料理スキルの補助によって頭の中へ知らせが来るのだが、その時に「チンッ」と音がなるのは何とかならないのか。こういうところに神々の世俗性を感じてイラッとするが、同時になんだかおかしくもなる。

「ミーヤさま? なにか楽しいこと?
 ボクは出来上がるのが楽しみ」

「そうね、もうできたわよ。
 うまくできているかが気になって笑ってしまったのかなあ」

「ボク一番ね、味見する」

「じゃあお皿出してね。
 全員の分は無いから、大きいお皿にまとめて出してあげようかな。
 チカマの分は小さいお皿に盛ってあげるからね」

 そう言ってからかたまりを切り分けてから、全員の分をまとめて大皿へ盛り付けた。断面に赤や緑の刻み野菜が見えていて見た目は合格だ。卵を入れていないのでちょっと崩れてしまったけど、味もまあ及第点と言えるだろう。

 最後に千切り芋のチーズ焼きを付け合わせて、デミグラスソース的なものをかけたら、豚肉粗挽きミートローフの完成だ。チカマは早速食べ始めていておいしいおいしいと言っている。おかわりが早く出来上がらないと、あっという間に無くなりそうである。

「さあ出来たわよ、お酒のほうが良ければそのまま飲んでいてもいいけど?」

 おそらくは足りないので、次の分をスキレットへ準備しながら声をかけた。

「おおお、お待ちしてました!
 酒なんてどうでもいい。
 それじゃみんな! いただこうか」

「「おおう」」

「アタシらの分もあるのかい?
 なんだかきれいな料理だから、酒のつまみにしたら失礼になってしまいそうだね」

「ホントきれいね。
 これは野菜を刻んで混ぜてるの?
 肉の塊の中に野菜を入れるなんて、いったいどういう仕組みなのよ」

「さ、食べてみたらきっとわかるわよ?
 おかわりも作っているから遠慮なくどうぞ。
 果実酒にもあうと思うわ」

「おいレナージュ? 食べながら飲むのをミーヤが勧めてきたぞ?
 こりゃ一体どういうことなんだ!?」

「私に聞かないでよ。
 でもミーヤだってお酒は好きなんだから不思議ではないわね」

 それは図星だが、それよりも朝起きられないことの方が、今は気になるのだ。なんといっても早く強くなってカナイ村へ帰りたい。とにかくもうマールに会いたくて仕方ないのだから。

「うおおお!! なんだこれは!
 肉の塊を切り分けたものかと思ったら、滑らかな舌触りで噛む必要がないくらいに柔らかい!」

「こんなの王都でも食ったことねえぞ!?
 一体どうなってるか知らねえがうめええ!」

「このソースがまた濃厚でウマイなあ。
 ジスコには塩の効いていない食い物が多かったからこれは嬉しいな!」

 どうやら好評の様で一安心だ。豚は高級品らしいし、王都から持って来たというお酒も、イライザの反応からすると珍しいか高いかのどちらかだろう。

 あっという間に皿の上には何もなくなってしまい、少し待たせてからおかわりを出した。それでもまだ怪しかったので、ミーヤは呆れながらも三度目の調理へ取り掛かるのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
あるところに、数百年周期で現れる魔王がいた。 人族から生まれ、闇に魅入られし者、妖魔を統べる魔王と呼ばれる存在。 度々現れては、人々を恐怖のどん底に貶めてきた。 此度、その魔王との戦いに終止符を打った男がいた。 名をシグルド卿といい、六十歳を迎えた老人の男だ。 元平民にも関わらず、爵位を得て史上初の将軍にまで上り詰めた英雄である。 しかし、魔王と一騎討ちの末に相打ちになった……と世間では言われていた。 当の本人は実は生きており、しかも若返っていた。 そして自分が生きていることが知られると、色々と面倒なことになると悟った。 それにどうせなら、自由の身になって世界を旅したいと。 これは役目を終えた英雄が旅をし、様々な人と出会い、美味い物を食べていく物語。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。 異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。 持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。 これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。

想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。 いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。 しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。 だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。 不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。 差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、 彼女は“自分のための人生”を選び初める。 これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。

処理中です...