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第六章 未知の洞窟と新たなる冒険編

130.気を取り直して

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 骨折り損のくたびれ儲けなんて言葉がピッタリくるような出来事が、まさか自分の身に降りかかるなんて考えたこともなかった。だがこれは事実である。

「だめだ、滝の裏側にも道はねえ。
 この水量だからどこかへ流れて行っているんだろうが、おそらくは滝壺の中だろうな」

「でもこの勢いだったらうかつに潜れないわよ。
 いくら泳ぎが得意な人でもここは無理でしょ」

「ってことは、おそらく俺たちが最初に行った一番底の水脈へ流れ出ているんだろう。
 ただ向こうも行き止まりなんだよなあ。
 岸壁に開いてる大洞へ入ることはできるだろうが出てこられる保証がねえ。
 大した成果もなく残念だがこれで終わりってとこか」

「まあ魚が獲れることが分かっただけでも収穫よ。
 何もないよりはマシって程度だけどね。
 お父様にはそう報告しておくわ」

 ヴィッキーはそう言ってから国王へメッセージを送り始めた。先頭切って張り切っていたトラックはもちろん、メンバー全員はガックリとうなだれながら地上へ戻ったのだった。


 地上へ戻るとレナージュは馬車の中でまだ唸っていた。腰が相当ヤバいらしい。まだ若いのに困った人だと思いながらも腰をさすりながら土産話を聞かせた。もちろん大した成果の無い冒険譚ほどつまらないものは無く、レナージュはさらに沈んだ様子だ。しかし考えようによっては悪くないのではなかろうか。

 盗賊がいなくなった近隣は危険も少なく、薬草や果物が豊富にある森と水牛のいる湿地帯、さらには魚の獲れる洞窟まである。

「ねえレナージュ、私いいこと思いついちゃった。
 このバタバ村に生産拠点を作るのよ。
 近隣で狩りもできるしローメンデル山やビス湖へもそれほど遠くない。
 ちょっとした畑もあるし森もあるわ。
 もちろん宿屋も必要ね、名物は魚と水牛料理、お土産は水牛の角細工品でどう?」

「あのさミーヤ、アイデア自体は悪くないと思うわよ。
 でもあなたは大事なことを忘れているわ」

「大事なこと?
 なにか必要なものがあるとかそういうこと?」

「そうよ、一番大切な人手のこと考えてないでしょ!
 簡単に特産品って言うけど調理は誰がやるわけ?
 ミーヤだけで賄うとしたらここから一歩も動けなくなるわよ?
 出来るとしたら誰かに宿屋をやらせてお土産を置くくらいじゃないかしら」

「うーん、やっぱり人手が必要よねえ。
 トコストやジスコで募集したらどうかしら。
 移住者を募ったら住みたい人が出てくるかもしれないわよ?」

「私たちでそこまではできないでしょ。
 ヴィッキーへ相談してみた方がいいと思うわ。
 今回は報酬の期待はできないけど、あの洞窟くらいは私たちに貰えるかもしれないしね」

 つい勢いであれこれ言いだしてはしゃいでしまったが、おおむねレナージュの言う通りだ。何をするにしてもまず人手が必要だし、移住なんて大それたことを計画するのなら王族のように大衆への信頼がないと無理だろう。つまりこの話は再検討として保留である。

 話をしているうちに大分調子の戻ったレナージュと一緒に馬車を出て夕飯の支度を始める。今日はてれすこを蒸してから蒲焼にしてみるつもりだ。ウナギとは大分形が違い、アジの様な体型にサヨリのようなとがった口とおかしな形をしているが、身は白身でなかなかおいしい魚である。

 さすがに刺身で食べるのは憚られるので火は通すのだが、ヴィッキーとチカマのリクエストに応えてムニエルと照り焼きを作り、さらに蒲焼も作ってみた。付け合わせには茹で野菜にレモン風ドレッシングでさっぱりといただく。それに芋を裏ごししたものとスキムミルクで作ったポタージュを追加して豪華な夕餉となった。

 ヴィッキーにせがまれシルフのことを話したり、ウナギ料理の話をしたりしながら夜は更けていく。最初はどうなることかと思った六鋼との出会いは、今になってみれば幸運な出来事だったと言ってもいい。


 朝になり六鋼の面々は王都へ戻ると言いだした。そのためすてれんきょうをありったけとミルクたっぷりのパンケーキを手渡す。それと今回得た魔鉱がそこそこあったのですべて渡してしまうことにした。

「おいおい、こんなに貰っちまっていいのか?
 魔鉱だって結構な量あるぜ?」

「いいのよ、私たちはこの洞窟の権利を貰うつもりだからね。
 その時に恨みっこなしってことでいいでしょ?」

「そりゃ構わねえよ、俺たちじゃ魚獲ってもそのまま売ることしかできねえからよ。
 オオウナギだっていつもいるわけじゃねえ。
 そんなことより王都に料理屋は出さねえのか?
 またこのウマイもんが食えることを期待してるぜ」

「魔人の嬢ちゃんも元気でな。
 切れ味が悪くなったら神人様に砥いでもらうんだぞ」

「おひげのおじちゃんありがと。
 ボク、この剣のこと大切にするよ」

 こうしてミーヤたちはまた自分たちだけになり、今後のことについてじっくり話し合うこととなった。

「お父様からは村ごと自由にしていいって返事が来たわよ。
 かといってこの広さを任されても持て余してしまうわね。
 ミーヤになにか案があるのでしょ?」

「ええ、私はここに移住する人たちを募ったらいいと思うの。
 できれば生産に関する人たちがいいかしらね。
 水牛の乳からは良質なチーズが作れてピッツァにも合うのよ?
 あとはてれすこやウナギを獲ってもらったり水牛の角を加工してもらったりかな」

「それじゃ狩猟関係と牧羊出来る人かな、それと畑もあったわね。
 あとは料理できる人がいたら十分かしら」

「建物もいっぱいあってある程度の設備や道具もそろってるからね。
 足りないのは人だけって言うのは目途が立ちやすくていいわ。
 うまく集まれば宿屋も作って各地への中継点としての役割も果たせると思うの」

「いいわね、ミーヤ直伝の料理を出す宿屋なら繁盛間違いなしよ!
 こうなったら私が城から引っ越して来ようかしら」

「そんなことできるの?
 危険もあるだろうし、王様が許してくれないんじゃない?」

「そんなことないわよ。
 いつも勝手に出歩いているんだもの。
 ローメンデル山へも一人で行ったことあるのよ?
 まあ三合目くらいまでだけどね」

 なんと言う行動力、とても王族とは思えないが、農耕スキルを持たないという理由で王位継承を考えていないからこそできるのかもしれない。まあ村を開発しなおすとしたら責任者も必要だろうし、ヴィッキーが適任なのは間違いない。

「それでこれからどうしようか。
 洞窟は探索するところないし、周辺の地図も描けているんでしょ?
 さっさと帰って計画練りたい気もするわね」

「そう言えば気になることがあるんだったわ。
 あの狭い横穴を通って滝のところへ出るわけだけど、地上ではどのあたりになるのかなって。
 井戸掘りの要領で縦穴が掘れたら滝まで行くのが楽になるでしょ?」

 と言うわけで、チカマの描いた地図の各階層と地上の地図を重ねあわせてみると、どうやら水牛のいる湿地帯の辺りになるようだった。つまり地表から垂直に掘ることは難しいと言うわけだ。

「なかなかうまくいかないわね。
 やっぱり地道に運ばないとダメってことよ。
 と言うわけで今日も少してれすこ獲りに行こうか」

「私は行かないわよ。
 なにも協力できなくて申し訳ないけど、あんな狭いところ潜っていられないわ」

「大丈夫、任せておいて。
 レナージュには村にある建物内の設備を記録しておいてほしいのよね」

 さらっとヴィッキーが雑用を言いつけている。弓が使えないとなると、泳げないチカマに獲ってもらうしかないが、水を怖がるわけではないので問題は無いだろう。なんせあのオオウナギを一撃で仕留めてしまうくらいだ。

「ねえチカマ、またミーヤのこと引きずり落とさないようにしてよ?
 それともやっぱりレナージュに来てもらった方がいいかしら」

「本人が嫌がってるから無理は言えないわ。
 板に寝転がってくれれば引きずっていくんだけどねえ。
 それとも私の背中に乗っていくのはどうかしら」

「レナージュが行くなら私は残ってナウィンと一緒に村の設備を記録するわ。
 それが一番間違いない分担だと思うのよね」

「もう…… そこまで言うなら行くわよ、行けばいいんでしょ!
 でもミーヤの背中に乗っていくのは楽しそうだわ」

「レナージュずるい。
 ボクもミーヤさまとくっつきたいのに」

 チカマが焼きもちを焼いているがこればかりは仕方ない。でももし今後本格的にあの滝での漁を行うなら魚の運び出し方法は考えておいた方がいいだろう。行くたびに腰をかがめていくのは大変だし、かといって背が低いと最初の広間で酸欠になってしまう。

「ねえヴィッキー、ふと思ったんだけど滝へ狩りに行く人を探す時は獣人の弓使いがいいわね。
 四足になればあの横穴なんてなんてことないもの。
 それに夜目が効く種も多いでしょ?」

「そうね、それはいい考えだわ、ちゃんと記録しておくわね。
 他には何かあるかしら。
 縄梯子じゃなくてちゃんとした梯子を作ろうとは思ってるわ」

「入り口には頑丈な門が欲しいわね。
 勝手に入って獲られないようにした方がいいんじゃないかしら。
 むやみに入られて最初の広間で死なれても困るしね」

「了解よ、それも手配できるようにしておくわ。
 それじゃ気を付けて行ってらっしゃいね」

 こうして今日はミーヤとチカマ、それにレナージュの三人で潜ることとなった。

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