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第七章 慌ただしく忙しいスローライフ編

132.帰還

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 今まで忘れていたわけではないが度々意識の外になっていた。だがこうやってその姿を目の当たりにすると改めて身が引き締まる思いが…… していたのだけど……

「ぶははは、まだまだ若いもんには負けはせんぞ。
 吾輩を誰だと思っておるのだ。
 農業王リスタルであるぞ!」

「なに言ってんのかしら。
 どこからどう見てもその辺の畑にいるおっさんじゃないの。
 私だってまだまだいけるんだからね!」

 この国に不敬罪が無くて本当に良かった。なんでこうなってしまったのかわからないが、ミーヤとヴィッキーが調理場へ行っている間になぜかまた国王とレナージュが飲み比べをはじめていたのだ。

「もういいわ、あのバカオヤジはほっときましょ。
 私はやっぱりこのムニエルと団子が好きだわ。
 照り焼きはお肉のほうが好みね」

「ミーヤさま、スープおかわり欲しい。
 ナウィンもだって」

「わかったわ、水牛の細切り炒めはどうかしら。
 ちょっとくどいかなと思うんだけど。
 角煮のほうがおいしいわよね?」

「どちらもおいしいわよ、でも角煮は最高ね。
 この柔らかさは素晴らしいわよ」

「この平たいキノコと一緒に煮るのがポイントなのよ。
 味は甘くしてみたけど、好みによってしょっぱく作ってもいいわ」

 水牛が飼育できてチーズが作れればモッツァレラが作れるのでマルゲリータも作れることになる。そのためにはまずバタバ村の再興について話をしたかったのだけど……

「ヴィッキーはもうずいぶん考えてあるのでしょ?
 私たちにできることがあったら手伝うわよ」

「ミーヤには料理人へレシピを伝授してほしいのよね。
 もちろん授業料は払うわよ?」

「それなんだけど、ジスコでお世話になってる商人と約束しているのよ。
 だからむやみに教えることはできないのよね。
 とは言ってももうすでに色々教えちゃったけど」

「その商人にはいくら貰ってるの?
 同じだけ、ううん、もっと多く払うからお願い!」

「うーん、でも結構貰ってるのよ。
 看板代も入ってるってことにはなってるけどね」

「ズバリいくらなのよ。
 それでもレシピのおかげで黒字なんでしょ?」

「まあそうね、黒字なのは間違いないわ。
 その売り上げから経費を引いた利益の二割を貰ってるのよ」

「なんだその程度なの?
 利益から出すなら絶対に損しないじゃないの。
 うまくやられてるわねえ」

 どうやらヴィッキーの考えだと先に大金をせしめておかないと、後から約束を反故にされても仕方ないとのことらしい。だがブッポム商人長には色々と良くしてもらっているし、調理器具を揃えてもらったりテレポートを入手してもらったりしている。そのため万一リベートがもらえなくなったとしても構わないと考えているのだ。それはおばちゃんの宿屋でも同じことで、行けば宿泊と食事はタダなんだから、報酬としては正直それで十分だった。

「とりあえずこの角煮と魚料理のいくつかだけでも名物になるわ。
 王都の金持ちには元々ね、ピス湖へ旅行へ行く習慣があったのよ。
 その途中にあるんだから客足には期待できるわ。
 今までは盗賊がいてすっかりさびれていたから余計にね」

「それじゃ宿屋はともかく食事処は早目に開店したいわね。
 料理人の当てはあるの?」

「しばらくはうちの料理人を連れていくわ。
 生産組合に募集はかけるけどね。
 洞窟の扉も作らないといけないから大工の手配もしないとだわ」

「結構やること多そうね。
 発酵器もあった方がいいわよ。
 照り焼きや角煮に使う水飴はもちろん、エールも作れるしね」

「それは確かに必要になりそうね。
 街の細工屋で売ってるかしら」

「あの、えっと、あの……
 私作れます、発酵器」

「流石ナウィン! さっそくお願いするわ。
 材料はなにが必要なのかしら」

「それは、えっと、あの……
 鉄と――」

 他にも調理用の包丁や食器類もすべてナウィンが作ってくれることになった。もちろんミーヤも作ってもらったのだが、今まで使っていた小型のナイフと違ってごく普通の包丁は使いやすさ抜群だ。

 そう言えば王都へ入るのにナイトメアをしまうため魔封結晶を使い切ってしまった。どこかで高純度結晶を入手してナウィンにまた作ってもらいたい。そのことを相談するとナウィンは珍しく交換条件を出してきた。

「あの、えっと、あの……
 今回手に入れた魔鉱を譲ってもらえませんか?
 錬金術の修行で使いたくて……
 高純度結晶が作れるようになるまであと少しなんです」

「そう言えば今はスキルが足りないって言ってたわね。
 わかったわ、ちょっとレナージュから貰って来るわ」

 派手に酔っぱらって床に転がっているレナージュとなんとか話をつけ、無事に魔鉱を受け取ってきた。もちろん冒険者組合に持っていけば収入にはなるのだが、ミーヤたちは別にお金に困っていない。恐縮するナウィンへ今後の投資だと言い聞かせ無理やり押し付けることに成功した。

「あの、えっと、あの……
 こんなに沢山、ありがとうございます。
 ちなみに治癒の薬は必要ですか?
 樽に八本くらいあるのですけども……」

 これにはヴィッキーが大喜びで買い取りを申し出た。王国兵士団では日々の訓練で負傷することも多く、治療薬は重宝するらしい。兵士団の財務雑用担当だと言う人を呼び出して全部買い取る話をつけてくれたのだった。

 ナウィンはまだ薬草を相当持っていて錬金術修行のために薬を作りたいらしい。しかし使う予定も売る先もなく在庫処理に困っていたのだ。なんというウィンウィンな展開なのだろうか。結局あと数樽は作れると言うことで、後日また買い取ってもらう約束を取り付けていた。

「良かったわね、ナウィン。
 これで大農園へパンを貰いに行かなくて済むわよ?」

「はい、えっと、あの……
 でも王国に協力したいので一日一度は行ってきます」

「いい心がけね、王族として感謝するわ。
 でもあの地下水脈が大農園の大池へ流れてくれたら楽なのになあ」

「世の中なんでもうまくいくわけじゃないのものね。
 私はあの水が塩水だったらよかったなんて考えてたわよ」

「そうよねえ、塩はジョイポンの独占品だから弱みを握られているようなものだもの。
 王国からの独立を考えているなんて噂もあるくらいだから油断できないわ」

「そんな噂があるのねえ。
 でも王国に武力で対抗できるわけじゃないでしょ?
 わざわざ危険を冒して独立なんてするかしら」

「さあね、あそこの領主はあまり表に出てこないからよくわからないわ。
 一応王国兵士団が常駐しているけど心配の種よ」

 もしかしたらノミーが生産者を集めて囲っていることと関係があるのだろうか。ミーヤはいつかジョイポンへ行かなければならないと考えていたが、うかつな行動は危険かもしれないとも思い始めていた。

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