【R18】イチャラブパラダイス 〜ボクっ子、ふたなり、TS、マジカルチンポ、催眠術、ファンタジー、幼馴染み、義理の妹もの有り〼〜

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オタとツン属性を併せ持つ妹に、なぜか連夜催眠術を施されることに

【男女視点スイッチ、逆催眠、処女、連続絶頂、中出し、ラブエッチ、JC、義理の兄妹】

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 私は今、妹である莉里那りりなの部屋で椅子に座らされている。
 そしてその私の前には、オレンジのTシャツにグレーのハーフパンツとラフな格好の莉里那が。
 つい先日、数年ぶりに妹の部屋に入ったばっかりなのだが、まさかそれからこうも頻繁にこの部屋へ出入りすることになるとは——

「——ニィーニ、ちゃんと意識を集中するのです! 」

「あっあぁ、すまない」

 そこで私の黒縁メガネが、さっと莉里那から取り上げられてしまう。

「これは罰、なんですからね」

 眼鏡を取られたためよく見えないが、どこか嬉しそうに悪戯っぽい声色で私の黒縁メガネをする莉里那が、手の動きを再開させる。

「ほら、この五円玉の動きをよ~く見るのです」

 先程と違い鮮明には見えないが、命じられるまま振り子のように横へと動く紐に吊るされた五円玉の陰を私は目で追っていく。
 さてと、今日も催眠術にかかった猿芝居をしなければいけないわけか。
 二つ下の莉里那は、私が猿芝居をしていることに気がついていない。私が本気で催眠術にかかりやすいと信じているようだ。

 しかしいつからだろう?
 八年前に親父が再婚をしたことにより、血は繋がらないが私と莉里那は兄妹になった。
 すぐに懐いてくれて私の後をずっと付いてくるおとなしい女の子だったのに、三年ほど前から私に寄り付かなくなり、今では話しかけて来ることも無くなった——


 妹である莉里那リリナは街一番の美少女と噂される中学二年生である。この表現には肉親である贔屓目は含まれていないし、決して大袈裟に言っているわけでもない。
 客観的に見て私もそう思うし、また実際に私の友人知人たちに至っては、他の女の子たちと一線を画すほどの魅力が莉里那にはあるそうだ。
 恐らくそう言わしめる理由の一つに、戸籍は紛れもなく日本人であるが見た目が普通の日本人ではないことが挙げられるだろう。
 愛くるしい大きな瞳に高い鼻筋、そして生まれつき何故か茶褐色の肌に赤味がかった白髪と言う、本当に日本人? と言うか地球の人ですか? と言う二次元レベルのクオリティである造形と色彩をその身に宿している。
 そのため莉里那のことを知らない別の街を歩けば、妹を視界に入れた十人中十人が必ず振り返る、別の言い方をするならば嫌でも目立つ稀有な容姿の持ち主であるのだ。

 ただそんな人と違った外見をしているがため、莉里那は病を発症してしまっていた。
 その病名とは中二病。
 小学五年生の頃から『この世界は魔素が少ない』とか、『ステータスオープン』とかのちょっとアレな独り言が増えだし、莉里那が中学に入る前にそれとなく話した時には、彼女は異世界から来た聖女と言う設定になっていた。

 その設定は日に日に細かくなっているようで、義母である涼子りょうこさん情報では、自宅に帰るとネットサーフィンで異世界の情報収集を行ない、ひと月ほど前からどうしたら異世界に旅立てるかを相談される日が続いたそうだ。
 莉里那は実の母親である涼子さんも異世界人であると疑っていたのだ。
 しかしそれは二週間前に解決をした。色白で線が細そうな涼子さんであるが、かなり意志の強い人である。そのため違うと言い張る涼子さんに、ついに莉里那が折れたのだ。
 ちなみにそれからは、莉里那は異世界転移した両親から生まれたのではなく、自身が異世界転生をしてこの世界に来た設定になっているらしい。

 そして涼子さんがもう一つ心配していることは、莉里那の成績がゆっくり下降してきていることである。
 しかし二週間前、涼子さんは異世界関係で莉里那と喧嘩をしている。それを引き摺っている莉里那は、涼子さんの言うことを聞かない。言っても反発をして勉強をせずに、逆に異世界情報収集に精を出してしまう負のスパイラルに陥っていた。
 そうして最近、私は涼子さんから莉里那のことで相談されるようになっていた。

 昔はどこに出しても恥ずかしくなかった妹が、日に日に内側からダメになっていくのは、兄である私も心配である。

 そこで三日前、私と涼子さんはプチ家族会議を行なった結果、とあるミッションを行なうこととなった。
 そのミッションとは、私が異世界に興味を示して莉里那に近づき、そこで彼女を煽てながらも勉強をしようねと少しづつ誘導していく、りりな補正計画である。

 しかしこれには大きな不安があった。
 それは私が中学に入ってから話す機会が減り、莉里那が中学に上がってからは、ろくに話した記憶が無かったからだ。
 しかも最近、莉里那と涼子さんが喧嘩してからは、意味もなく鋭い眼光で睨まれる事があるというのに、涼子さんは私なら導いてくれると信じて疑っていない。
 ……成功への道筋が見えて来ないのだけど。

 そうしてミッション決行日の晩飯時。
 三人でテーブルを囲んで食事をしている中、私は涼子さんが手筈通り先に食べ終わり食器を台所へ持っていくため席を立ったのを見計らって意を決する。
 行動しなければ成功率0パーセントである。

 とにかく私はやるぞ!

 パジャマ姿でテレビを見ながらサラダをムシャムシャ食べている莉里那へ向け、小声で呼びかける。

「莉里那、莉里那……」

 私の呼びかけに対して莉里那はすっと目を細めると、こちらを一瞥したあとまたテレビに視線を戻す。

「……なんですか? 」

 その遅れてきた妹の投げやりな言葉に傷つきながらも、今回は使命を帯びているため、私はいつものようには引き下がらない。

「実はね、ニィーニも、……異世界に興味があるんだ」

 久々に話しかけた事と異世界なんて恥ずかしいワードを口にしたがため、たどたどしい言葉遣いになってしまった。
 しかし妹は予想外に食い付いた。
 凄い勢いでこちらに首を振り、目を剥いて私を見だしたのだ。
 いや、その、途轍もなく凄い迫力であるのだけど。

「……発条ぜんまいが動き出した? まさか、メドォレーゼの影響下なのに——」

 え? なにか今、頭に入ってこない言葉が妹の口からスラスラ出て来た!?

 そこで莉里那は、呆然としてしまっていた私の視線に気がついたようだ。
 首をブンブン振った後に冷静さを取り戻し、レタスにフォークを突き刺し口に運んでいく。
 しかし依然、小声で何か呟き続けている。

「だから高校から部活を始めたのですね。そう言えばノイズが激しいですし、ダウンロードをし……いやまさか、ゲートが——」

 なんか険しい表情で私の方をチラチラ見ながら意味不明な言葉を意味深に言われるのは、ある意味新鮮ではあるのだけど、そのあまりにも未知な領域に不安な気持ちが一気に膨れ上がっていく。
 まさか、妹の中二病がここまで進行していたとは。

 とっ、とにかく、向こうにペースを握らせてはいけない気がする!

「そっ、それでさ、莉里那が知ってること、良かったら色々と聞かせて欲しいんだけど、駄目かな? 」

「え? 」

 キョトンとした妹の顔が、少しの間を置きパァッと明るくなっていく。

「……いっ、いい、良いですよ! そっ、そしたら——」

 そこで私は人差し指を立て口元に当たると、わざとらしく涼子さんの方を横目に見ながらに言う。

「ここじゃなんだから、食べ終わったらどちらかの部屋に集合しないかい? 」

 すると莉里那リリナは素直にコクコクと頷いたあと、少し逡巡してみせたあとにその口を開く。

「でしたら部屋の片付けが終わりましたら、LINEを……って」

 そこで言い澱む莉里那。
 そう言えば、私たちは互いのLINEアカウントも知らないのであった。

「用意が出来たらニィーニの部屋へノックしに行きますので、そしたらリリィの部屋に来て下さい」

「わかった」

 すると莉里那はおかずを少し残したままの食器を、洗い物をしている涼子さんのところに持っていく。
 そしてそのままドタバタと自室がある二階へと駆け上がっていった。

 なんとかうまくいったのか?
 よし、これからはさらに慎重に行動をして、機嫌を損ねないようにしなければならない。
 そのためにもまずは、莉里那の話をじっくりと聞いて、彼女の信頼を得ないと、だな。


 嵐のように去っていった莉里那りりなの後ろ姿を眺めていると、スィーと隣の椅子が引かれる音が鳴る。
 そして隣に腰を下ろした涼子さんは、テーブルに肘をつき物憂げな表情で階段を見つめた後に、こちらへ視線を向けた。

「ゴメンね、あの子あの調子だと今日は異世界の話ばっかりするかも」

「みたいですね。それにいきなり勉強の話をしても反発されるかもしれないので、予定通り数日は様子を見ようかと」

「そうね、あっ、ただ今晩は長話になる可能性もあるから、遅くなるようならその時は途中で切って、また後日聞いてあげてね」

 あの感じだと会話は盛り上がりそうにないが——
 ……いや、盛り上げないといけないのか。

「わかりました、焦らずじっくりガス抜きをして、それから少しづつ勉強にシフトするよう、誘導してみます」

「やっぱりれん君は頼りになるわね」

「いえいえそんなことは。ただ、頑張らさせて頂きます! 」

 そこで涼子さんは微笑むと、ヒラヒラと手を振った。

「それじゃ、宜しくね」

 自室に戻ると莉里那に呼ばれるまで暇なため、いつも寝る前に行なっているストレッチを始める。
 そしてそれが終わると、今度は竹刀を握り動画で確認していた有名剣士の動きを真似てみる。
 中学の時は帰宅部だったが、たまたま観ていたネットの動画で剣道に興味を持ち、高校に上がると同時に入部した。しかし同学年でも経験者との差は歴然で、毎日良いようにやられている。
 ……今は駄目でも、いつかは追いつき追い越してやる。経験の差は努力で埋めていかねば、なのだ。

 そして部屋の扉をノックする音がした。
 時計を見ると時刻はすでに午後八時半を回っていた。結構待たされたようだ。
 ……あれ?
 竹刀を立て掛け扉を開くが、既にそこには莉里那の姿はなかった。
 ノックのあとすぐさま自室に戻ったのだろうけど、考えてみるとこちらとしては助かる。妹の後に続いて短いとは言え廊下を歩くのは、恐らく微妙な空気が流れるだろうから。
 予期せぬ展開で突然訪れた会話がない無言の空間。それが一時とは言え存在した事実は、少なからずその後に影響を与えてしまうだろう。
 それなら妹の部屋に入室したところから始める方が良い。

 そうして莉里那の部屋の前まで来ると、深呼吸の後にノックをする。
 しかし返事はない。
 あれ? なんでだ?

「莉里那、入るよ? 」

 扉を開くと莉里那はベットで横になり、月刊オカルト情報誌、ムムゥを読んでいた。
 そして怪訝そうな表情でこちらへ顔を向ける。

「どうしましたか? 」

「えっ、いや、異世界の話を聞きに来たんだけど……」

「あぁ、そうだったですね」

 え? なんだ今の流れは?
 少し前の行動を完全に無視した会話。
 ……もしかして、そう言う設定で始めるのか?
 そう言えば莉里那は中二病である。これくらいの展開は普通で、それを予期できていなかった私が至らなかったのかも知れない。

 しかし久々に入る妹の部屋。
 ピンクを基調とした女の子らしい部屋で、棚には可愛らしいヌイグルミや……あれ?
 目をゴシゴシした後にもう一度見てみる。
 しかしやはりある、可愛らしい小物の中に混じるようにして。
 棚の隅にはなんかスライムみたいなのに取り憑かれて溶けかかっている戦士のフィギュア。
 即身仏なのだろうか? 机の上にはミイラ化した仏さんの写真が立てかけられている。
 その隣には上半身裸の男同士が抱き合っているイラストも。

「なにジロジロみてるのですか? 」

「すまない、久々だったのでつい」

 そして私の視線を辿った莉里那の顔から険しさが消える。

「あっ、それは私が書いたイラストです」

 どうやら男同士の裸のイラストの事を言っているようだ。
 それより会話に花を咲かせなければ!

「こう言うのは、たしかボーイズラブって言うんだっけ? 」

「はい。正確には幸神さいのかみ真琴まこと先生の異能学園物、『背後バックを取られるな! 』のファンイラストなんですけど、ウェブ更新が突然止まっちゃったので心配になりまして。それで応援の意味も込めて、このイラストを送ろうかどうか迷ってたのですけど、どう思います? 」

「絵が作品に合ってればいいんじゃないのかな? 」

「そうですね、そしたら送ってみようかなー」

 そこで落ち着いたのか、莉里那はフゥと短くため息をつくと、真剣な眼差しで私の瞳を真っ直ぐに見つめる。

「それでは本題に入りますけど、リリィが転生者なのは知ってますよね? 」

 突然の豪速球。
 予め幾通りかの話の流れを想定して言葉を用意していたのだが、ズバンと胸元に決められてしまったため思わず固まってしまう。

「えっ、あっ」

 すると私がしどろもどろで返答が出来ないことに動揺を感じ取ったのか、莉里那は疑いの目をこちらに向ける。

 しまった、今の私の対応は完全に失敗である!
 挽回、挽回をしないと!
 既に時遅しかもしれないが、私は妹の機嫌を損ねないよう、当たり障りのない言葉を慎重に選ぶと口にする。

「あぁ、なんとなく」

 すると表情が回復し、口元に手を当てクスクス含み笑いをし始める。
 この笑いの意味はなんなんだ?
 やはり莉里那は私の予想の斜め上を突き進んでくる。

「……それとですね、実を言うとニィーニも転生者なのです」

「ふむふむ、……ってなんだって! 」

「やっぱりニィーニは記憶がないのですね。でも大丈夫、異世界に興味が湧いた時点で間違いなく転生者ですから」

「そっ、そうか」

 世の中多くの人が異世界に興味を持っていると聞くが、なるほど。その理論だとかなりの数の人が転生者なわけだが、世の中輪廻転生と言う言葉が昔からあるぐらいだから、あながち全くの見当外れの言葉ではないのかも知れない。
 因みに私が異世界に興味を持っていると言っているのは嘘であるため、これには当てはまらない。

「それで落ち着いて聞いて欲しいんですけど、リリィは異世界に行きたいのです! 」

 因みに妹は鼻息荒く、興奮気味である。

「行けるといいね、応援しているよ」

 するとまた莉里那の表情から、笑みが見る見るうちに減っていってしまう。

「あれっ? ニィーニは異世界に行きたくないのですか? 剣士になりたくて剣道を始めたのじゃないですか? 」

 しまった、さっきのは『私も行きたい』をアピールしないと駄目だったのか!
 それより今は返答だ!
 しかしどう答える?
 事前に異世界へ行きたいかと聞かれれば、『少し前から興味が出て』とだけ答えるつもりであった。ただ直前でそれを否定したと思われた上に疑惑の目で見られている今、そのまま答えるのはさらなる疑念を抱かせるだけだ。

 あー、もう頭が混乱してきた。
 これ以上考えてもドツボにハマりそうな気がする。
 沈黙するくらいなら、本当のことを話してやる!

「……剣道は動画で観てて、なんか格好良いなって思ったから始めたんだ」

 頭が追いつかなくて剣道についてだけを、しかも莉里那が気にいるようには加工せず、そのままの事実を述べてみた。

「へぇー、その動画、リリィも観てみたいかも」

 しかし意外にも莉里那は、素直に私が言ったことに対しての返答を行なった。
 これって、もしかしたら普通に話すことだけで会話は成立するのではないのか?

 しかし次の瞬間には私を見ながらため息一つ。

「ニィーニもステータスとか開けたら、行きたくなるくらい興味を持ってくれると思うんですけどねー」

 なっ、悟られている!
 話の向きを変えないと!

「ちっ、ちなみに私のステータスは、どんな風になっているのかい? 」

 すると至近距離なのに、莉里那は目の上に手を翳し、私を直視する。

「……項目が多すぎるのと常に値が変動してるので、詳しく見ていると酔ってきてしまうのです」

 しかも結構な時間。
 逆にこちらが恥ずかしくなり、目線を逸らしてしまう。

「パラメーターはいたって普通なんですけど、ただスキルの欄に『全能の発条ゼンマイ』って出てます」

「……全能の発条」

 たしかそれ、さっき口走っていたよね。

「これは私のスキル欄、枯渇の機械式時空時計にピッタリ合致すると思うのですが」

 たしかに枯渇と来ているからネジを巻いて欲しそうな時計に、私のなんかなんでも巻けてしまいそうな発条。
 相性が良さそうだ。

「それで、何が起こるんだい? 」

「わかりません」

「……えっ? 」

「リリィもこれがなんなのか、どうしたら発動するのか、よく分からないのです」

「そうか、それは残念だ」

 膨らむと思っていた話題が、まさかいきなり終わりを告げた。
 まぁ莉里那が考えた設定だろうから、こんなモノなのかもしれない。
 しかし何を話そう?
 いきなり勉強の話をしては駄目だろうし。

「それでですね、ニィーニにはこれから協力して欲しいことがあるんですけど——」

「え? なにか私に出来ることがあるのかい? 」

「あります。やっぱり同じ転生者の記憶は貴重なのです。それでどうにかしてそれを手に入れたいわけなのですが——」

 そう言って俯き加減でこちらを上目遣いでチラチラ見始める。
 ん? どうしてそんな風に遠慮しがちな態度になる?
 まさか、なにかとんでもないお願いをされるのでは?

「ニィーニ、ちょっと目をつむってくれませんか? 」

 しかし勿体つけてやっと口にした願いは、とても簡単な事であった。
 いや、ここから先の事象に願いがあると考えるのが妥当である。

「なにをするの? 」

 すると莉里那が頬っぺたを膨らませる。

「いいからお願いします! 」

「絶対なにかするよね? 」

「しますけど大丈夫、早く身を委ねて下さい」

 大丈夫?
 ん? このパターンって?
 それになんだか恥ずかしそうにしているし、……まさかキスなのでは?
 いや、それは100パーセントない。
 だいたい好感度もヘッタクレもないのに、何故私はそんな発想を臆面もなく考えられるのだろうか?
 今から期待するようなことはなにも起こらない。

「まだですか? 」

「あぁ、すまない」

 言われて目を閉じる。
 ん?
 期待?
 私は妹相手に何を考えてしまっているのだ?

 それから程なくして、私の——
『ビチッ! 』
 おでこに妹のデコピンが炸裂した。
 痛い、と言うか何故?

「どうして、なんだ? 」

 まだ少ししか話していないのに、私はデコピンを喰らわないといけない事をしてたと言うのだろうか?
 いや、まさか、もしかして?
 莉里那は本当に転生者で、魔法によって私のやましい心の内を読み取ったとかなのでは!?
 だが魔法だからといって、果たしてそんなことが出来るのだろうか?

「妹にデコピンされたらニィーニが覚醒するネット小説があったから、試してみたんですけど」

「なんだと! それはなんてサイトなんだ!? 」

「アルファポリスゼット

 世界で一番大きな小説サイトと聞いたことがあるが、なんて物騒なサイトなんだ!
 また巨大ゆえ、同じ小説を読んで額を打ち抜かれたお兄ちゃんの数は計り知れないのかも知れない。

 と言うか——

「全然大丈夫じゃないんだけど? 」

 額を摩りながら抗議するが、莉里那はケロリとしている。

「それはすぐ回復魔法を使うから大丈夫って意味なのです」

 すると莉里那が私の方へと手を伸ばしてくる。
 そして額に、今度は莉里那の小さくて柔らかな手の平が触れた。

「痛いの痛いの飛んでいけー、痛いの痛いの、飛んでいけー」

 どこが魔法なんだ?
 それは昔からある御呪おまじないではないか。
 しかし思い返せば、会った当初はなにかあれば今みたいにすぐベタベタしてくる妹であった。
 なんだかあの頃を思い出して懐かしい。
 そこで壁掛け時計が目に入る。

 と、もうこんな時間か。

「莉里那、そろそろ明日の予習しとかないと睡眠時間がなくなるから、部屋に戻るよ」

「えっ、でもまだ全然説明出来てないですし——」

「大丈夫、また時間を作って来るから」

「……それじゃ、明後日の木曜はどうですか? 」

「えーと、15日か。その日はたしか顧問が会議らしくて部活も休みだから、ちょうど良いな。他に予定もないし、時間はいつでも良いよ」

「そしたら学校終わったらすぐに帰ってくるのです! いいですか? 」

 そんなに異世界について、他人に話せることが嬉しいのか。
 なんだか今まで距離を感じていたが、こうやってじっくり話してみると莉里那は昔のままの所があって可愛らしい妹である。

「わかった、その日は予定を入れないようにしておくよ。じゃ、おやすみ」

 すると莉里那は返事をせずに背を向けると、ベットにボフッと突っ伏した。
 そして私がドアノブに手を掛け扉を閉める時になって、布団に顔を埋めた莉里那がくぐもった声でおやすみなさいと呟いたのが聞こえた。


 ファーストコンタクトから二日後、今日は学校終わりに莉里那りりなの部屋に集合する日である。

 午後の四時。
 急いで自宅に戻ったわけだけど、まだ莉里那は帰って来ていなかった。
 親父は単身赴任中だし、涼子さんは夕方6時を過ぎないと仕事から戻って来ない。

 よし、莉里那ももう帰って来るだろうし、今のうちに朝の分の食器を洗っておくとするか。
 私の家事の持ち回りは食器洗いとゴミ出しで、莉里那は取り込んだ洗濯物を畳むのと風呂掃除が仕事だ。
 因みに朝はみんなバタバタして出かけるため、朝の食器はだいたいつけ置きだけしている。ただ帰宅が遅いと朝飯と晩飯の分を纏めて洗うことになるのだが、そうなるとシンクが一杯一杯になって洗い辛くなってしまうため効率がガタリと落ちてしまう。

 出来る時にやっておく、と言うわけで朝の分の食器を洗い、食洗機に入れて乾燥をスタートさせた所で、玄関の鍵穴にガチャガチャと鍵が入れられカチリと回す音が聞こえた。
 そしてドタドタ足音が聞こえて来る。
 私が使用したエプロンを元あった場所に引っ掛けていると、莉里那が勢いよくリビングに突入して来た。

「ニィーニ待ちました!? ごめんなさい! 突然担任の長林が、親切な少年にあった時の感動話とか言う、意味不明な事をホームルームで話し始めちゃいまして、もうホントあの担任最低です! 長林じゃなくて、長話です! 」

「あぁ長林先生、時々めちゃくちゃ話が長くなることがあるよね。懐かしいなー」

 息を切らしながら捲したてるようにして謝ってきた莉里那は、スクールバックをソファーに放り投げると、セーラー服姿のまま私の手首を掴む。

「今日は色々と実験をする予定だったのです! とにかく早くリリィの部屋に行きましょう! 」

 そうして私は、なぜか莉里那の学習机の椅子に座らせられている。
 目の前で鼻息荒く右往左往している莉里那はセーラー服姿のままのため、着替えずに何かをやるようだ。
 そして準備が終わったのか、私の前に腕を突き出す。

「これがなにか分かりますか? 」

「……五円玉、だよね? 」

 そう、莉里那の人差し指と親指に挟まれて私の目の前に差し出されているのは、ただの五円玉である。

「はい、この五円玉にこうやって糸を通して、こう動かしますと? 」

 五円玉を吊るして振り子のようにして左右に揺らし始める。

「もしかして、催眠術? 」

「その通りです! 今からニィーニに催眠術をかけるのです! 」

「……一応、なんの為に催眠術をかけるのかを、聞いても良いかな? 」

 すると莉里那が腰に手を当て胸を張る。

「よくぞ聞いてくれました。リリィとニィーニは転生者ですよね? 」

「あ、あぁ」

「それでですね、ニィーニをトランス状態にして、前世の記憶について色々質問するのです」

「なるほど、異世界へ旅立つための情報を得るためか」

「そうです、手がかりが掴めるかも知れないですし、もしかしたらそのままゲートが開いて転移出来るかも知れないのです」

 これはどうしたことか。
 催眠術にかかるフリをするには、私も設定を決めないといけなくなる。それは事前準備が無い現状では難度は高い。
 ……今回はかからない方向でなんとか凌いで、催眠は次回かかるフリをする。
 うん、それが良いだろう。

 とそこで莉里那は付け加える。

「それと催眠術にかからなくても気落ちしないで下さいね、奥の手も用意してますから」

 そしてまさにその時であった。
 私は視界に何か違和感を感じる。そして視線を彷徨わせると、すぐにそれを見つけた。
 莉里那のベットの上、布団に埋もれるようにしてチラリと見えているのは、ネットなどで見たことがある、どっからどう見てもスタンガンであった。

 つまりアレか!?
 私が催眠状態にならなかったら、あれで気絶させて、ほんと意味が分からないが強制トランス状態にするって事なのでは!?
 いや、まさかそこまではしないだろう。
 あれは莉里那がいざという時に自身の身を守るために使う防犯グッツが、たまたま今はあそこに置かれているだけなのだ。
 それに仮に使用を考えていたとしても、初手から奥の手を使うわけがない。
 そうだ、決して今から使用するためではない!

 そこで莉里那は五円玉を机に置く。

「それでは先に催眠誘導を始めますから、目を閉じて下さい」

「わかった」

「……そうそうニィーニ」

「どうかしたかい? 」

「リリィの事を好きになって下さい」

「……えっ? 」

 ビックリして閉じていた瞳を開いて莉里那の顔を見ると、彼女の顔がボンッと音が出るぐらい一気に赤みを帯びていた。

「ちっ、違います! 催眠術がかかりやすくなるためには、受ける側が誘導する方を信頼していないとダメなのです。なので、恋は盲目って言われるじゃないですか? それでニィーニがリリィのことを好きなら、今からの催眠術がかかりやすくなると言うわけなのです! 」

 なぜ信頼イコール恋人になるのか意味不明だが——
 そこで布団のスタンガンが目に入る。
 取り敢えずここは相槌をしておこう。

「なるほど」

「そうそうそれとですね、催眠術って催眠にかかりたくないと思っている人には催眠がかかりませんけど、逆にニィーニは動けないって言われたら、嘘でもいいから動けないフリをしてみて下さい。嘘でもやってると、暗示がかかりやすくなるそうです」

「わかった」

「そしたらまた目を閉じて下さい」

 それから暫くすると、私の耳が莉里那の呼吸音を鮮明に拾い上げ始める。
 そして私の肩に小さな手が置かれたところで、それは始まった。

「言葉の力を信じて下さい。いきますよ? 」

 耳元での囁き、それは全身がゾクゾク震えるほどの何かを私に与える。
 もしかして、これからずっと耳元で囁き続けるのでは!?

「力を抜いて、ゆっくりリリィの声を聞いて下さいね。
 リラ~クス、リラ~くす、りら~くす、りら~くす。
 ニィーニは呼吸に意識を向ける。ゆっく~り吸って~、ゆっく~り吐いて~」

 なんだろう、ただ目を閉じて深呼吸をしているだけなのに、とても心地よくて本当にリラックスしてきている。
 ゾクゾクは相変わらずだが、その声はとても甘く、脳みそが蕩けそうになってしまう心地良さもある。

「ニィーニはリリィの言葉に身を任せて、……リリィの言う通りにします。
 さっ、そのまま続けますよ。ゆっく~り吸って~、ゆっく~り吐いて~。
 ニィーニはこうやってリリィの言葉に従うだけで、抵抗する力が弱まっていきます。力が弱まるってことは、考える力も弱まって、心がぼーとしてきます。
 頭がトロトロに蕩けていき、リリィの言葉以外はどうでもよくなってきます。
 考えるのが面倒になって、両腕はだらーんと力が抜けていき、両脚もだらーんと力が抜けていきます。
 顔の力も抜けていき、瞼が重くて目が開かなくなっていきます。
 ……両腕がだらーんと重くなり、両脚もだらーんと重くなります。手脚に引かれて全身がずーんと重くなり、椅子に沈み込んでいき、かと思ったら次の瞬間には身体が軽くなり、体重が無くなっていき、いつの間にかプカプカと海に浮かんでいます。
 ここは心の中に広がる記憶の世界、ニィーニは記憶の海をゆったりと浮かんでいます」

 莉里那の声を聞いているだけなのに、本当に身体が重くなったり軽くなったりしている錯覚に陥っている。
 そう言えば、ヒトって冷たい物を熱いと思い込んで触ると、火傷をしてしまうって聞いた事がある。
 それだけ思い込みは凄いと言うことなのだろうが。

「ニィーニ、いいですか?
 これからの催眠が上手く行くように、今回は前世の記憶にはまだ触れずに、ニィーニがリリィの事を好きになる暗示を重点的にしていきます。
 それで今からカウントダウンをしますけど、数字が減れば減るほどニィーニはリリィの事が好きになっていきますのでお願いします。
 それでは行きます!
 じゅう、きゅう、はち、ニィーニはリリィの声が好きになる、なな、ろく、ご、リリィと一緒に居たくてたまらなくなる、よん、さん、に、リリィを見ると胸がドキドキする、いち、ニィーニはリリィの事が、だ~い好きになる、ぜろ。
 目を開けていいですよ」

 言われて瞳を開けると、間近に顔を寄せていた莉里那が小首を傾げながら口を開く。

「莉里那を見て、どう思います? 」

 いや、なにか分からないけどドキドキはした。そして今もドキドキしている。
 でも本人を前にドキドキしていると言うのは恥ずかしくて言えない。
 だから——

「どうだろ? 」

「……えっ? えっ、あっ、あれれ——」

 すると妹が俯向くことで顔に影が差す。
 蛇口が壊れた水道のように、口から『失敗』や『失敗しました』の言葉を垂れ流し始める。
 そしてフラリとよろけた莉里那がベットにお尻から着地すると、震える手がそばにあったスタンガンをあろうことか握り締めた。

「莉里那。 ……莉里那! 」

「——えっ? なんですか? 」

 莉里那はほんの間だけ無意識でいたようで、私の呼びかけで意識が覚醒、ハッとした表情で私の顔を見ている。
 そこで私は立ち上がり莉里那の目の前に跪くと、彼女の手を両手で握りながら真っ直ぐにその大きな瞳を見つめる。

「すまない、もう一回だけやってくれないかい? 実はあと少しでかかりそうな気がしているんだ! 」

「ほっ、本当ですか!? 」

「あぁ、本当だ。お願いしたい! 」

「もぉー、本当はこれをするのとっても恥ずかしいんですからね。二回もするのは今日だけだからですね」

「あぁ、すまない」

 そしてどさくさに紛れてスタンガンの奪取に成功した私は、それを後ろ手に持ちながら椅子に座る。

 そして再度催眠誘導が始まる。莉里那の息遣い、衣擦れ、そして甘い囁きを耳朶が拾い上げていく。
 なんだろう?
 凄く心地よい。
 ずっと聞いていたい欲求が湧き上がる中、催眠誘導は進み、カウントダウンもあっという間に終わってしまった。

「どうですか? 」

「凄く、ドキドキする」

 とそこで莉里那が下唇を噛み締めながら、やけに色っぽい、恍惚な表情を浮かべる。
 その仕草、表情に、私の心臓は更に高鳴ってしまう。

 しかし言霊と言うのは本当にあるのかも知れない。
 実際にドキドキしたわけだが、それを口にしてみると、更にドキドキが増している気がする。
 これはもしかして、莉里那の術中にはまってしまっているのではないだろうか?

 とにかく落ち着け、落ち着くんだ。
 相手は妹、莉里那だぞ!

「催眠はですね、すればするほどかかりやすくなるそうなんです」

 しかしそんな私の状態を知ってか知らでか、セーラー服姿の莉里那はまたやけに近い距離で前屈みになると顔を近付けてくる。

「そうなんだ」

 私はそんな莉里那を直視出来ずに、視線を明後日の方向に逸らしてしまった。

「だからですね、今のは毎回しないとダメなんです! 」

 とそこで莉里那がチラリと壁掛け時計に目をやる。

「もう少ししたらお母さんが帰ってきますから、さっそく次にいきます! この五円玉を見てみて下さい」

 莉里那は紐を垂らし五円玉を吊るすと、私の目線から少し下の辺りに五円玉を持ってくる。

「動かしますから、ちゃんと五円玉の動きを目で追って下さいね。それと今回はオーソドックスに眠くなる暗示にしますけど、ニィーニも五円玉を目で追えば眠くなるってちゃんと思って下さいね」

 ふー、次はまともな催眠のようだ。

「わかった」

「あなたはだんだん眠くなる~、あなたはだんだん眠くなる~」

 実は私も急いで帰って来ていたため、少し疲れてたりする。また先ほどの催眠の前半は、本当にリラックスをしていたので、この五円玉を目で追うのは、次第に億劫になってきて、……眠けが、……だんだ——。

 ……。

 …………。





 あれ、私は?

 ここは莉里那りりなの部屋のようだが、カーテンの隙間から僅かに差し込む太陽光は朱色で、室内は全体的に薄暗い。
 私は椅子に座ったまま、寝てしまっていたのか。
 膝元にはタオルケットがあるので、莉里那が寝てしまった私にかけてくれたようだ。

 部屋を後にし下の階に降りると、涼子さんは帰宅していた。
 莉里那は既に洗濯物を畳んだようで、涼子さんと一緒になって食事の用意をしている。
 ちなみに涼子さんは、まだ私に気が付いていないようだ。

「涼子さん、おかえりなさい」

 そこで私に気が付いた涼子さんが、台所から顔を出す。

「ただいまれんくん、あとごめん。今からお風呂洗ってくれる? 残業で遅くなっちゃったから、莉里那に手伝って貰ってるの」

「わかりました」

 そうして風呂場に行こうとしていると、台所から出てきたセーラー服にエプロン姿である莉里那と目が合う。
 そこでタオルケットの件の御礼を言おうとするが、莉里那はプイッと視線を逸らしてしまった。
 もしかしたら、莉里那の部屋で寝てしまっていたことに腹を立てているのだろうか?
 それとも二人きり以外では、話さない設定にしているのだろうか?
 そうこうしていると、テーブルを拭き終えた莉里那がパタパタと足音を立てこちらへ来た。

「ご飯食べ終わったらLINEのアドを交換しますので、また少しだけリリィの部屋に来て下さい」

 小声でそう言われたため、私も小声で返す。

「わかった」

 そしてその日の晩、私は莉里那の部屋をノックした。
 全く返事がなかったため、勝手に扉を開く。
 するとベッドに腰掛けている莉里那は、何故かご立腹であった。

「遅いです」

「え? あぁ、すまない。あまり早く行っても迷惑かなと思って」

 私の言い訳を聞いている莉里那は、途中から頬っぺたを膨らます。そしていっときの間のあと、携帯片手に立ち上がる。

「……これ以上お風呂に入るのが遅れたら嫌なので、さっさとスマホをだして下さい」

 単身赴任中の親父は月末にのみ帰って来るのだが、親父がいない時は私が一番風呂に入るという決まりがある。
 これはここ数年で我が家に出来たルールで、知らず知らずのうちに出来上がったルールでもある。

「わかった」

 そして私たちは、無事にアドレスを交換した。
 すると突然背中を向けた莉里那が、高速で誰かにメールを打ち出した。
 程なくして私の携帯からメールの着信音が鳴る。
 誰からのメールか確認してみると、やっぱり莉里那からであった。

「注意事項を送ったので、確認したら返信して下さい」

「あっ、あぁ」

 背中を向けたままの莉里那を前に、私はさっそく内容を確認してみる。


 ◆◆◆
 ⚫︎催眠が早く成功するように、明日から毎日、二人ともお風呂を上がったら、僅かな時間でもリリィの部屋に来るのです。
 ⚫︎リリィが『来てもいいです』とメールしたら、1分以内に来るのです。
 ⚫︎ノックをするとお母さんに気づかれるので、こっそり物音を立てずに来るのです。
 ◆◆◆


 と書かれていた。
 毎日か。しかしこれは、私にとっては良い風が吹いているのかもしれない。何度も足を運ぶ機会があれば、それだけ勉強を促す機会が増えると言うことだから。

 そこでチラリと莉里那を見る。依然背中を向けたままだ。
 しかしこのメールに対しての返信って、口頭で言っては駄目なのだろうか?
 そんな事を考えていると、莉里那が自身の爪を噛み始めた。
 莉里那は極度にストレスが高まると、うわ言を言いながら爪を噛み始める悪い癖を持っている。そして恐らく今回のストレスの原因は、私がなかなか返信を送ろうとしないことだろう。
 普段はそうそうしないのだが、私関係になるとすぐ噛み始めるので、見慣れた光景でもある。

 と言うわけで、メールを打つぞ!
 しかし気が利いた言葉は思いつくわけもなく、ひと言だけ『わかった』と打ち送った。
 着信音が鳴ると同時に携帯の液晶画面を見る莉里那。短い文章にまた怒るのかなと思ったのだが、振り返った莉里那はなぜか迫力というか凄味は消えていた。

「ニィーニ、後がつっかえますので、早くお風呂に入って下さい」

「わかった、それじゃまた明日」

「わかりました」

「……そうそう、さっきはタオルケット、ありがとう」

 すると莉里那はか細い声で、わかりましたと呟いた。

 それから催眠術は連日行われている。
 と言っても寝る前の僅かな時間だけだが。
 ただ時間が短いためだからなのか、前世の記憶を呼び戻す事より、私が莉里那に好意を寄せるように働きかける暗示しかされていない。

 深い記憶にダイブするには、それなりの準備が必要と言うことなのだろうか?

 それと催眠終わりのほんのひと時ではあるが、勉強の話題から始まり莉里那の苦手な数学を教えるところまで来ていたりする。

 よし、今日も軽くジャブを撃つぞ。
 部屋に無造作に置かれた教科書の一つを拾い上げると、パラパラとページを捲る。

「懐かしいなー、今日は小数がある連立方程式の授業があったみたいだね? 」

「うん」

「それで、分からないところは無かった? 」

「えーと、この問題がちょっと」

「なるほどこの問題ね。ここは両辺に百を掛けて、整数にするところから始めるんだよ」

 よし、まずはこうして復習をするクセをつけさせよう。

「とまあ、こんな感じかな」

「ニィーニ、ありがとうございます。……それと——」

「ん? 」

「ニィーニ、もしかして勉強を教えるために、リリィの部屋に来てたりしますか? 」

 しまった、ちょっとあからさま過ぎたか?
 でも考えたら、ケースバイケースの方が、莉里那も私を誘いやすくなるわけだし、それに莉里那の催眠はとても心地良いわけであって——
 えーい、こうなったら白状するか。

「……実は、莉里那の成績が少し心配で。でも催眠は私も楽しんでいる所があって、それだけじゃないというか」

 すると莉里那はくすくす笑い出した。

「つまり、異世界にはあまり興味がないのですね」

「えっ、いや」

「わかりました、リリィとしては催眠に協力的なだけで問題ありませんので、これからもよろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」


 それから更に数日が過ぎた。
 しかしこの催眠術、どうも眠くなって仕方がない。それとも私は知らず知らずの内に、疲労が蓄積してしまっているのだろうか?
 ただ半分寝ているような状態から起きた時は、まだ頭がどこかボーとしている感じではあるが、自室に戻って朝を迎えると、頭と身体、双方がスッキリしておりその日1日を良いものに出来ている気がする。
 だから頭を空っぽにして、このままなすがまま、されるがまま、今日も莉里那に身を任せボーとするのであった。


 ◆ ◆ ◆


 異世界は好き、だってそこには夢があるから。
 便利な魔法を使ってみたいです。冒険者になって、小説の登場人物のように活躍をしたいです、必要とされたいのです。

 だからお兄ちゃんに嫌われたと思ったとき、大好きな異世界に逃げ出したかったです。
 でも私ももう中学二年生。学校では嫌と言うほど進路進路と言われ続け、ちょうど私もこのままではダメかなと思っていました。
 そんな風に思っていたのに、お母さんからも進路と言われて腹が立ち、言い合いの喧嘩になりました。
 だからその時、私の鬱憤が言葉として外に出ます。
 私は誰からも愛されていない、必要とされていない、と。
 そんな私に反論するお母さん。私のことを愛しているし、必要としていると。
 そして言いました。お兄ちゃんも私のことを大切に思っていると。

 お兄ちゃんも?

 その言葉を信じられなかった私は、お兄ちゃんが中学生になってから無視され始めたことを言いました。
 それに対してお母さんは、それはどこかで誤解をしている。現に今も私の成績を、私の今後を心配してくれていると言いました。

 それを聞いて私は考えます。
 本当に嫌っていないのならなぜ? なぜ急に距離を取ったのですか?
 そこで閃き、お母さんに提案します。
 私とお兄ちゃんが元のように仲良くなる協力をしてと。それは私に勉強を教えるという名目での、お兄ちゃんの個人授業。

 お母さんとしてはギクシャクしている兄妹が仲良くなり、しかも私の学力が上がるのなら断る理由はないはず。
 もしお兄ちゃんがこの提案を受け入れるのなら、勉強を教わる中で聞いてみます。
 私のことをどう思っているのか?

 そして今までが私の勘違いで、もし、もし好感触な答えが返ってきたら、その時はずっと好きだったこの気持ちを伝えたい、です。


 初めて私にお兄ちゃんが出来た時のことを思い出します。
 人と違った見た目なため稀有な目で見られ、対人恐怖症になっていた私は、優しいお兄ちゃんがすぐに好きになっていきました。
 お兄ちゃんはいつも私の前を歩いて守ってくれるから、お兄ちゃんも私のことが好きなのかなとドキドキしてついて行きました。
 そして暫くして、血の繋がらない兄妹なら結婚が出来ることを知って、もっともっと好きになりました。

 でも突然、お兄ちゃんが中学生になったある日、お兄ちゃんは私から距離をとるようになりました。

 そして現在、私の部屋に来てくれるお兄ちゃんは、お母さんが言うように昔と変わらない優しくて私のことをちゃんと考えてくれているお兄ちゃんでした。
 悪戯心で始めた催眠術も、わざと掛かっているフリをしてくれています。
 調子に乗りすぎて私の想いがバレてしまったかなと思った時もあったけど、にぶにぶなお兄ちゃんは全く気付いていません。

 それとお兄ちゃん、本当に催眠術に掛かってしまっていることがあることも気付いていないみたいです。
 だから私に抱きつかれたり、頬っぺにだけどキスをされたことも覚えていません。
 そしてそして、無意識状態で私の質問に答えていることも。


 それは昨日のこと——

 お兄ちゃんが催眠術にかかったフリじゃなくて、また本当にボーとしだました。

「ニィーニ、ニィーニ」

 この状態になると、こちらからの呼びかけには応じないけど質問には答えてくれます。
 そして私は、意を決します。
 長年聞きたかった、あの質問をぶつけてみるのです。

「ニィーニ、どうしてリリィを無視しだしたのですか? 」

 答えてくれません。
 それは質問の仕方が悪かったから。
 私の質問の意味をお兄ちゃんが理解出来なかったからです。
 なら色々と言いかたを変えて、何度も何度も質問を繰り返していくだけなのです。

「ニィーニが中学生になった時、どうしてリリィから距離を取ったのですか? 」

 例えお兄ちゃんが覚えていなくても、質問が正確なら潜在意識の部分で答えてくれるはず。

「それは、意識してしまったから」

 お兄ちゃんが答えた!
 一気に私の手が震えてしまいます。

「……なにを? 」

 絞り出すようにして質問をしました。
 だってこの後に返ってくる言葉によって、私は天国と地獄のどちらかを味わうことになるのだから。

「私は莉里那を本当の妹だと思って接してきた。でも——」

「……でも? 」

 心臓が跳ねるように鳴り続けるため、身体が壊れそうになり、苦しさで前屈みになってしまいます。

「私はたまたま脱衣所で見てしまった」

「それは、なにを? 」

 でもよほど言いにくいことなのか、そこで言葉が止まってしまいました。
 だから、再度促します。

「ニィーニ、そこでなにがあったの? 」

「私は下着姿の莉里那を見て、興奮してしまった。欲情してしまったのだ」

 え?
 ……そう言えば私が小学校の高学年の時、お兄ちゃんが中学生になったばかりの時、お風呂に入る前にお兄ちゃんが来たみたいで、一瞬だけ扉が開いたのを思い出します。

「だから距離をとった。時間が経てばこの間違った気持ちも薄まると思ったから」

 間違った気持ち?
 私はゴクリと生唾を飲み込み、思い切って聞いてみます。

「その間違った気持ち……って? 」
「それは——」

 心臓の鼓動が、期待を込めてトクトク早くなっていくのがわかります。

「莉里那を異性としてみてしまう気持ち」

 お兄ちゃんが私を女性として見てくれていた。
 その事実が嬉しくて、嬉しくて、鼓動が早鐘を打ってしまい呼吸が荒くなります。お腹の奥がキュンキュンして、全身もじんわり暖かくなっていきます。

「でもダメだった。時が経っても私は気がつけば、莉里那を異性として見てしまう。……私は駄目なニィーニなんだ」

「そうだったんだ、だから腕組みしようとした時、リリィから距離を取ったのですね? あの時は、とても悲しかったのですよ? 」

「……悪いことをした」

「ニィーニは悪くないです。それにニィーニはリリィを異性としてみていいのですよ? 」

「莉里那を……異性として」

「はい、そうなのです! 」

 むしろ異性として見て!
 そして私を見て、想って、ドキドキして!
 私はいけないことをしていると思いながらも、それから何度も何度も暗示をかけていきました。
 お兄ちゃんが私のことを、異性として見るように。


 そして翌日である今、お兄ちゃんは私の前で椅子に座っています。
 今までは勉強を教えに来てくれる関係が心地よくて、この関係が壊れてしまうことを恐れて踏ん切りが付かなかったです。
 でもお兄ちゃんが私の事を嫌っていない事を聞けた今なら、聞ける気がします。

 と、五円玉を目で追っていたお兄ちゃんがうつらうつらと催眠術にかかったフリをし出しました。

 心音が高鳴ります。
 手が震えてしまいます。
 でも聞きます、今から聞きます。

 本当は起きているお兄ちゃんに、私の想いを伝えて、出来たら返事も、……これから貰います。


 ◆ ◆ ◆


 私は莉里那が疑念を抱かないよう瞳を固く閉じ、ごくごく自然に催眠術にかかっているフリを続ける。

「右手を上げて~」

 言われて膝に置いていた右手を、少しだけ持ち上げる。

「今度は左手だけを上げて~」

 いつもの流れである。そしてこの後は身体が重くなっていく催眠に移行していく。

「ニィーニ、演技とかしてないですよね? 」

 ん?
 この展開は初めてである。
 とにかくここはノーリアクションでスルーだ。

「……そしたら、こんな事をしても大丈夫ですよね? 
 これはあくまでも、ニィーニが演技をしていないかを確認するため、仕方がないことなのです」

 私は瞳を固く閉じているため、何も見えない。
 ……今からなにをされるのだ?

 そして私の頬に、なにかが触れた。
 とても柔らかな、暖かなものが。

 これって、いやそんなことは——

「キスしちゃいました」

 いっ、いや待ってくれ! 本当に?
 と言うか、どうしてこうなった!?

「あっ、これは、催眠術にかかったかどうかを調べるためなので、ノーカウントですよ? 」

 えっ? 今のはノーカンなのか?
 それなら大丈夫……いやいやそんな訳はない。

「ちゃんと催眠にかかってるようなので、いつものように始めるのです。
 それでは……、ニィーニはリリィから『大好き』って言われたら言われただけ、いま同じ空間にいるリリィが大好きになっていく」

 そして耳元に莉里那の吐息が迫る。

「お兄ちゃん、大好き、お兄ちゃんが大好き、大好き大好き、お兄ちゃんが大好き、ずっと見てた、大好き——」

 莉里那の甘い囁きは、まるで私の脳みそに染み込むようにして一つ一つ刻み込まれていく。
 ——心地よい。
 しかしこれは洗脳に近いのではないだろうか?
 いや、これは催眠が上手くいくよう、洗脳しているようなものなんだろう。
 身体中を走るむず痒さに耐えながらも、そんなことを考えていると——

 ……あっ。

 莉里那が突然私の膝にお嬢様座りで乗ると、そのままギュッと抱きついてきた。
 そのため莉里那の甘い香りが届く中、その柔らかな身体付きを感じる私の太ももと上半身に、莉里那の熱が伝播してくる。
 私はその蕩けそうな刺激にさらされながらも、必死に微動だにしないよう努める。
 しかしそれは水中で息を止めているのに等しく、時間と共に半開きになってしまっている私の口からは、意図しない呼吸音が漏れてしまっていた。
 とそこでスッと莉里那が離れた。
 そして——

「さてと、今日は新たな試みをするのです」

 私の状態をよそに、莉里那は明るい口調でそう言った。
 しかし新たな試み?
 そんな話は今まで聞いたことがない。

「その新たな試みとは、ズバリ、口寄せの術なのです」

 口寄せの術、それは忍者が使う忍法なのでは?
 なんとなく、異世界から離れた?
 そんな脳内ツッコミをする私に言い訳するようにして、莉里那は説明を始める。

「口寄せの術とは、ファンタジー風に言うと召喚魔法。つまり、別のところから魔物や妖怪を呼び寄せる、時空間移動、即ち時空魔法なのです! 
 これを応用して逆転させたら、押しかけ勇者召喚なのです! 」

 なるほど、今の説明はとても分かりやすい。
 つまり口寄せの術で異世界に行くと言うことなのだろう。
 しかし簡単に言っているが、逆転ってかなり難しいのでは?
 いや、そもそも本当にそんな術が存在するわけがないのであった。

「そしたら行きますよ!
 あなたはだんだん眠くなる、あなたはだんだん眠くなる~」

 ん?
 それって、五円玉を振り子のよう揺らしながら行なう催眠だよね?
 私はいま、ガッチリ目を閉じているのだが。

「そしたら、口寄せの術を始めるのです」

 まぁ、莉里那の設定の甘さが出たのだろう。
 そして莉里那によって、私の眼鏡は外され唇になにかが触れた。

 このつい先ほど頬に感じたのと同じ感触は、……莉里那の唇!?
 驚きで一瞬止まっていた心臓が、遅れを取り戻すようにして早鐘を打ち始めている。
 しかしこれは——
 軽く触れてきた唇は柔らかく、莉里那が体重をかければかけるだけ、私の唇との密着度を増していく。
 そして柔らかな感触は、何事もなかったかのようにしてそっと離れていった。

「今のではダメでしたか。いえ、まだまだ分かりません、……もう一度」

 莉里那の独り言。
 それはどこかぎこちないものであり、今からもう一度キスをする宣言でもあった。

 いつされるのか?
 すぐされるのか?
 目を閉じているため、その間はとても長く感じてしまう。
 そして研ぎ澄まされた私の感覚は、莉里那の呼吸音と気配を探ってしまっていた。
 そこで気配が動いた。
 微かに聞こえる吐息の中、それは少しずつ近付き、程なくして私の唇に触れてきた。
 研ぎ澄まされた触感は、その唇がプニッと押し付けられたり軽くハムハムされているのを克明に感じ取っていく。

 そして私の心臓は、莉里那に聞こえているのではと言うぐらい、ばくばく鳴ってしまっていた。
 それに熱い。
 この感じだと、私は耳まで真っ赤にしてしまっているだろう。

 そしてまた唇が離れていった。
 莉里那も興奮しているのか、呼吸音が明確に荒くなっていた。

「はぁはぁはぁんぐっ……もう少しだけ、もう少しだけ密着を増やせば、ゲートが開くような気がするのです」

 莉里那がこれから行なう悪戯に対する、言い訳のような囁き。
 そして再度良い香りと共に近付いてくる気配。
 そこで私はそっと薄目にしてみた。
 すると両眼を閉じた莉里那が、恥ずかしそうに顔をこれでもかっと言うぐらい真っ赤に染め上げていた。

 そして三度目のくちづけ。
 今度は私の上唇を軽く唇で挟み込み、吸い付くようにしてキスをしてきた。
 しかも今回、唇だけではなく莉里那の舌も私の唇に軽く触れているようで、そのため莉里那のくちづけは次第に水気を帯び、それが潤滑油となりより一層の密着度を私たちにもたらしている。

 しかしキスとはこんなに気持ちの良いものなのか。
 そこで私もされるだけではなく、莉里那の柔らかな唇を味わいたい欲求に駆られてしまい出す。
 でもこちらからしてしまうと、私が狸寝入りをしている事がバレてしまう。

 でも少しなら、ほんの少しだけなら——
 そうだ、軽く唇を動かすだけなら無意識に動いたと思ってくれるかもしれない。

 そうして吸い付いてくる莉里那の唇に、私はそっとだけ吸い付き返した。
 ——柔らかい。
 少し吸い付き返しただけなのに、密着度は更に上がった。
 ただし唇と唇が少しだけ離れてしまった時に、軽く『チュッ』とリップ音がなってしまう。
 静まり返る室内では、その小さな音でさえ心臓が飛び出そうなぐらいの大音量に聞こえたのだが、莉里那は気づかなかったのかくちづけを止めない。
 いや、さらに過激になっているような——

「んっ、んっ」

 しかし不味いかもしれない。
 キスがもたらす予想以上の快楽に、脳は痺れもっと激しく弄りあえとさらなる信号を送ってくる。
 私はその欲求を必死に耐えようとするのだが、気持ちよくもモドカシイ気持ちで頭が支配されてしまっている。

 しかし終わりはやってくる。
 そっと離れる莉里那の唇。
 そこで私は、残念なほどの名残惜しさを感じる自身に気付く。
 これは……私は、莉里那を完全に一人の女性としてみてしまっているのでは?
 血は繋がらないが、……繋がらないとはいえ、これは妹ととの不埒な関係。
 それが続き進んでいけば——
 しかしそれは社会的にどうなのか?

 そこで抱きしめられる。
 そして私の首筋に柔らかな感触が。
 これは莉里那が私の首筋にキスをしているのだ。
 わざとらしく『チュッチュッ』と何度もリップ音を鳴らす、可愛らしくも扇情せんじょう的な気分にさせられる、熱いキスを。
 そして暖かくぬめっとしたものが私の首筋に触れ、あまりの気持ち良さでぞくっと身体が震えてしまう。
 これは莉里那の舌!?
 私の首筋に触れる莉里那の舌先は、触れるか触れないかのところを、ツーとゆっくり下から上へと這ってくる。

 ぞくぞくとした心地良い感触に、声を上げてしまいそうになるのを耐え動かないでいると、ついに莉里那の舌先が耳朶みみたぶにまで辿り着いた。
 そこからハムハムされる私の耳朶。
 唇での吸い付く音が、ねちゃねちゃと這い回る舌先の音が、そしてはぁはぁと漏れ出る熱い吐息が、私の頭を莉里那で一杯にする。

 しかし莉里那は脈略もなく、その私をトリコにする動きを何故か止めてしまう。
 そして少しだけ私から離れた莉里那は——

「ニィーニ、……起きてますよね? 」

 とたしかにそう呟いた。

 私の心の奥底を突き刺し抉り出すその言葉に、全身の毛という毛が逆立つ。
 そして返事の代わりに、乾いた息だけが漏れてしまう。

「ニィーニは催眠術にかかっている時、瞳は半開きで焦点があっていません。
 反対に催眠術にかかったフリをしてる時は、しっかり目を閉じてます。
 そして今のニィーニは——」

 今の私は、しっかり目を閉ざしている。
 つまり、私の嘘は見破られていた。

 流れる静寂、その衣摺れの音さえ拾われてしまう中で、私はゆっくりと瞳を開いた。
 莉里那は泣きだしそうな、でも真剣な表情で私を見据え、その状態で何も発さない。
 そんな莉里那から目が離せないでただただ狼狽えていると、莉里那は目尻に溜まる泪を拭い再度私を見据えた。

「ニィーニはリリィの愛の囁きを受けて、唇を奪われました。でも抵抗をするどころか、リリィを受け入れそして、……求めてくれました」

 莉里那が私に抱きついてくる。

「ニィーニ、大好き」

 私は、私も莉里那が好きだ。
 でもこの感情は咎められる、抱いてはならない感情なのでは?
 今なら容易に引き返せる。
 それに私と莉里那が不埒な関係になるのを、周囲の人たちはどう思う?
 きっと親父や涼子さんも悲しむ。

 そこで私の胸に顔を埋めていた莉里那が、手の力を緩め私の顔を見上げる。

「リリィはずっとニィーニと居たい。このまま離れたくない。
 本当は、ずっとずっとこうしたかった。でもニィーニに嫌われてたと勘違いして、とてもとても傷ついて怖かった。でもニィーニの本心を知れて、もう抑えが効かないのです」

 莉里那の熱に即席で導き出した決心が、それに私の頭と心がグラグラと揺れてしまう。

「リリィは偽りのまま、生きたくないです! 」

 ……偽りのまま。
 そうだ、私は——
 忘れていたが私は、莉里那を異性としてみてしまっていた。
 当時の私は、その抱いてしまった気持ちを強引に抑え込むと、無意識の内に莉里那を遠ざけた。
 それは近付き過ぎると、また異性としてみてしまうから。
 そう、今もこうして偽っているのは、誰でもないこの私だ。
 私は全てにおいて人の目を気にして、自分で自身を偽り続けている。

「私は——」

 莉里那を愛すると、恐らく両親の反対にあって、私は家を追い出されるかもしれない。そんな結果になるということは、決して正しい判断とも言えない。

 だが、だがそんな生き方もあって良いはず。
 なら覚悟を決めろ!
 私が勇気を出せば、これから莉里那と一緒に人生を歩んでいける!

 私は立ち上がると莉里那の瞳を真っ直ぐに見つめ、そのか細い肩に手を置く。

「……私も莉里那を、愛している。
 キミをこれから、これから一生大切にする。
 だから一緒に生きていこう、これからずっとずっと。たとえ離れ離れになったとしても、私は必ず会いに行く。
 だからその時は待っててくれないかい?
 私が莉里那を迎えに行くまで」

 そこで抱き合い互いの唇が、相手の吐息を感じる所まで接近する。

「莉里那、愛してるよ」

「……お兄ちゃん」

 私は莉里那にくちづけをした。
 そのくちづけは唇と唇を触れ合わせるキスから始まり、時間と共にねちょねちょと舌先と舌先を絡めさせるものへと移行していく。

 互いに求めあうキス、息継ぎのために少し距離を取ると、互いの唾液で薄っすら橋が出来た。

 そこで莉里那を持ち上げると、そのままお姫様抱っこをしてふわふわのベットへと運び下ろす。
 そして恋人つなぎをすると、莉里那を優しくベットへ押し倒した。

 今から莉里那、妹に対してエッチな事をする。そう思うだけで酷く興奮してしまう自分がいた。


 ◆ ◆ ◆


 私はお兄ちゃんに恋人繋ぎをされて、身動きが出来ないでいます。
 そこで思ってしまいます、自由を奪われていると。
 そしてただそう思うだけで、ドキドキしてしまっています。

 ……私って、Mなのかな?

 ゾクっとする感触と共に、お兄ちゃんが首筋にキスをして来ました。ねちゃねちゃぺちゃりと絡み合う感触と音が、私の感度を押し上げていきます。

 んんっ。

 首筋を濡らした舌先は、少しづつ耳へと近づいてきます。私はじっとその快感を、五感全てを使って拾い上げていきます。

 くすぐったいけど……気持ち良いです。

 そこでお兄ちゃんが両腕で強く抱き締める事で私の身体を締め付け自由を奪うと、耳朶みみたぶ、フチ、軟骨の部分に舌先をゆっくりねっとり這わせて来だしました。

 んっ。

 そうして私はお兄ちゃんに求められて、呼吸が苦しくなるほどゾクゾクしてしまっていきます。


 ◆ ◆ ◆


 はぁはぁ、呼吸が荒くなってしまう。
 莉里那は敏感なようで、舌を動かすたびに身体をくねらせる。
 その動きは扇情的で、それを見ているだけで身体の奥底から何かが湧き上がる感覚が湧いて出てきていた。

 もっと感じさせたい。

 そこで舌を耳の中に侵入させる。
 入り口付近でニチャニチャ動かして、耳の中をくちゃくちゃにかき乱す。
 そうして更に舌を穴の中、奥まで伸ばす。
 唾液まみれの舌を搔き回しながらピストンさせ、吐息をかけてからまた舐める。

 んんっ。

 耳たぶに対しては軽く上下の歯で挟んで、軟骨が入り組んでいる上の辺りは軽く歯を当てるようにしてみた。

 効果はあったようで、莉里那は耳を紅潮させ呼吸を荒げている。
 そこで視線が莉里那の胸にいってしまう。

 ……触ってもいいかな?
 いや、何を躊躇してしまっている?
 ここまでしているんだ、あとは流れに身を任せるんだ。
 そう、私は今日莉里那と……セックスをするんだ。


 ◆ ◆ ◆


 耳を攻められている最中、お兄ちゃんの手が寝間着の上から私の胸に当てられました。

「はぁはぁはぁ、んっ」

 その動きは段々と大胆になり、今ではオッパイを服の上から鷲掴みにするほどに。
 あぁ、求められてます。
 でも優しく丁寧に、揉み揉みされてる気もします。

 んぁっ。
 自分から誘って始まったようなエッチなのに、恥ずかしいです。
 それとお兄ちゃん、火が点いちゃってます。

 このままいったら私たちは兄妹なのに、セックスまでしちゃう。
 そう思うだけで股間がむずむずしてしまいます。

 んくっ。

 とそこで服の上から触られているのに、ピンポイントで乳首に刺激が。頭の中を直接震わせるほどの強烈な快感が走り抜けていきます。
 しかもその快感は首筋と背中を通り全身の隅々にまで広がっていくため、その快感によって身体の至る所が震えるようにピクピク動いてしまいます。

 思考が快楽以外、考えられなくなっていくです。

 私はいつしか吐息を漏らし、呼吸間隔が狭まってしまっていました。
 あぁぁ、だめ、抑えようとしているのに、お兄ちゃんの腕の中でまたビクンッと身体を震わせてしまっています。

 そこでお兄ちゃんにおもむろに寝巻きを捲り上げられると、スポーツブラも上げておっぱいを曝け出されちゃいます。
 そして外気に触れた私の乳首は、これでもかって言うぐらい勃ってしまいます。


 ◆ ◆ ◆


 生唾ごっくん。
 莉里那の今すぐにでも吸い付きたくなる褐色で綺麗な形の乳房、そして薄っすら桜色の乳輪と硬くなっている乳首。
 服の間から幼い果実が露わになる姿は、とてもエッチで、そしてそれが今、息がかかるすぐそばにある。

 莉里那の顔をチラリと見ると、それに気づいた彼女は手で顔を隠しながら一生懸命に顔も背ける。その可愛らしい仕草に理性が崩壊してしまう。
 恥ずかしがる莉里那の乳首を、親指と人差し指で優しく摘むとコリコリ。
 莉里那は顔を隠していた手を口元にやり、声が出るのを我慢し出す。その姿に下半身が更に熱くなる中、執拗に乳首に刺激を与え続けていく。


 ◆ ◆ ◆


 声が出てしまいそうになる中、私はお腹の奥がウズウズしてしまっていました。
 ……凄い濡れてます。
 そこで——

 お兄ちゃんが私の乳首をコリコリしながら、私の首筋にギリギリ触るか触らないかの距離で舌先を這わせて鎖骨の方へと移動、それからもどんどん舌先と身体を南下させて、少しずつオッパイに近づいて来てます。

 はぁはぁはぁ、このままだと、オッパイを、乳首を舐められてしまう!?
 あぁ、舌先が乳房にまで来たです。そして首筋と同じように、舌先が触れるか触れないかといった距離をゆっくりねっとり這ってきます。
 指と指の間からお兄ちゃんを見ると、まさに舌をちょこっと出して私の乳首に向け迫っている瞬間でありました。
 あぁ、もう少しで乳首を舐められてしまうです。


 ◆ ◆ ◆


 莉里那の乳首を舌全体を使って、下から上にぺろんっと舐め上げてみる。

「んぁっ」

 その小さな身体を震わせ懸命に声を出さないよう我慢する妹を見て、思ってしまう。
 もっとその可愛い声を聞きたいと。

 そうして私は、莉里那の乳首にむしゃぶりついた。
 静まりかえった室内で、ねちゃりとした音だけが鳴り続ける。
 そして莉里那の乳首を甘噛みしたり口の中で転がしながら堪能。
 そこで力強く手を伸ばす。
 内股気味の莉里那の股間へ。


 ◆ ◆ ◆


「はぁはぁ、んっんっ」

 卑猥な音を立てて舌でねっとり乳首を擦り上げてくるお兄ちゃんは、空いた手でもう一つの乳首を倒したりこねくり回したりしています。
 とその時、股間に手が伸びて来ました。
 ぐにぐにと触られる股間。

 ダメ、そんなに何度も触られたら、私の愛液がパジャマにも付いちゃいます。
 内股にした両脚に意識が傾いてしまっていた時、突然パジャマのズボンが脱がされました。


 ◆ ◆ ◆


 莉里那のズボンを膝小僧のあたりまで脱がせてみると、純白のパンティが露わになった。
 そこで莉里那の内股気味である両膝に手を置くと、太腿を内から一気に押し広げる。

「あっ、ぃゃっ」

 そうして私の顔は、M字開脚をしている莉里那の濡れすぎてびしょびしょになってしまっているクロッチ部分に吐息がかかる位置にまできた。

 その甘い香りに頭がくらくらとしてしまう。
 私はパンティの淵に沿って舌を這わせていき、莉里那の股ぐらの褐色で綺麗な柔らかな肉から愛液を舐めとっていく。

 しかし莉里那から溢れるつゆは止まることを知らず、舐めても舐めても股ぐらを湿らせていった。


 ◆ ◆ ◆


 お兄ちゃんにお股をペロペロされて恥ずかしい、でも愛液は止まってくれません。
 そこでびしょびしょパンティも膝まで下ろされてしまいます。

 んっ。

 ピリィッとした快感が身体を駆け巡ります。
 お兄ちゃんが両手で私の小さな花びらを広げて、ペロペロ舐めているのです。

 声を抑える事に集中したいけど、身体の内から溢れる快楽に翻弄されて何度も腰が浮いてしまいます。
 そして花びらを舌先でツーと舐められたと思っていると、クチュクチュに舐め回されます。
 そして唇で左右のヒダヒダを挟んで引っ張ったり色々されちゃいます。

 はぁはぁはぁ、自分でするより、あうぅ。

 クリトリスを上からなぞるようにねっとり舐められた後、れろっれろっと跳ね上がるようにして刺激を与えてきました。そして剥き出しになっているクリトリスに直接唾液をたっぷりつけられて舐め回してきて——

 はぁはぁはぁはぁ、あっ、お兄ちゃん、気持ち良いがいっぱいで、イッ、イッちゃいます!


 ◆ ◆ ◆


 莉里那がガクガクと小刻みに震える中、熱を帯びた小さな膣口を、突き出した舌先で突き刺し、ゆっくり円を描くようにして舐めていく。
 舌を抜き取ると、代わりに人差し指を膣口に当てゆっくりと沈めるようにして抜き差しを始める。

 纏わり付く愛液。
 それに人差し指一本なのに、凄い吸い付き、締まり具合だ。
 膣を一定のリズムでかるく擦っていると、すぐにくちゅくちゅ音が鳴り始めた。

「んっ、んっ、んっ」

 そして莉里那は快感で脚に力が入らないのか、時折だらしなく股を開いてしまっていた。

 あぁ、莉里那と今すぐにでも交わりたい。
 でもゴムなんて用意していないけど、……どうしよう?


 ◆ ◆ ◆


 お兄ちゃんがその動きを止めました。
 ……きっと莉里那の中に、おちんちんを入れたいんだと思います。
 恥ずかしい、でも言わないとここで終わってしまうかもしれません。
 それは、それは嫌です。
 でも……。

 私は意を決してとても小さな擦れ声で、囁くようにして言います。

「……安全日なのです」

 はっ、恥ずかしいです。

「……、本当? 」

「はぃです」

 するとお兄ちゃんがズボンとパンツを一気に脱ぎました。そのためお兄ちゃんのおちんちんが目の前へ。

 初めて見た、大っきくなってるお兄ちゃんのおちんちん。
 そしてこれからお兄ちゃんの大きなおちんちんが、私の中に入って来るんだ。
 つっ、ついに結ばれるんだ!

 お兄ちゃんは仰向けになってる私の膝を押し広げると、入り口付近におちんちんを押し当ててきました。そのため私の止まらない愛液でおちんちんが濡れていきます。
 そして——

 入ってくる!
 いた……くない?

 不思議と痛みはなかったです、けど代わりに圧迫感が、快感が押し寄せてきています。
 そして動き出すお兄ちゃん。
 膣壁が引っ張られるたびに息苦しさと快感が。
 そして身体が仰け反り、手に力が入って身体中からじっとり汗が出てきてしまいます。

 んあっ、さっきから浅い所を擦られてます。
 あっ、ぁっ、あぐっ、そこ、気持ちいい。
 でも声を出してしまうのは恥ずかしいから、お母さんにバレてしまうから、んぐっ、我慢、しないとです。

「莉里那、痛くない? 」

 お兄ちゃんの優しい声色。

「……ぅ、うん」

 その聞こえるか聞こえないかの小さな返事を受けて、お兄ちゃんが私の身体に体重を乗せてきました。


 ◆ ◆ ◆


 体重を乗せてズブズブと挿入していく。
 ……狭くて熱い。
 それに莉里那が顔を横にそむけながら、両手で口を覆う姿が可愛い。

 そして気が付けば無心で腰を振り続けていた。
 見れば莉里那の熱々蜜壺はやらしい液で泡立ち、辺りに香しい石鹸の香りを振りまいている。

 そして出し入れしながらうつ伏せにすると、後ろから腰を持ち上げ莉里那を四つん這いにする。
 そうして後ろから莉里那の腰をガッチリ掴むと、妹の小さなお尻に向かって激しく腰を打ちつけ始める。
 すると部屋に響き渡るパンパンという音、そしてそれに合わせて莉里那から吐息と喘ぎ声が上がりはじめる。

「あっお兄ちゃん、ダメ、あっあっ、音が」

 恥ずかしがる莉里那を見て、私の中で更に火が点いてしまう。
 もっと虐めたい。

「音が、なんだって? 」

「んんぅー」

 そこで莉里那は身体を仰け反らせ全身を何度も小刻みに震わし、そして力なく布団に顔を埋めた。
 ……逝ったのかな?
 でも私は我慢できず腰の動きを再開させる。そして今度は突きながら腕を伸ばし、莉里那の乳房を引き寄せるようにして鷲掴み。
 そして乳首を摘んで優しくコリコリ。

 そこで限界を迎えた私は、莉里那の中に、思いっきり、放出した。
 肉棒はその間、膣の中で何度もビクビクッと脈を打ち、その度に多量の精液をどんどん送り込んでいく。

「あっ、あ"っ、あぁ"ぁ"ー」

 莉里那の中に、出した。はぁはぁ、自分でも驚くほどの量が出たのがわかる。
 また射精しても私の滾りは全くおさまりを見せなかった。


 ◆ ◆ ◆


 突かれるたびに身体の芯が熱くなる感じがして、子宮のあたりがぎゅっとなります。
 そしてあっ、膣内全てがビクンビクンと痙攣収縮して、はぁはぁ、はぁはぁ、気持ちぃ、あぁっ、……はぁはぁはぁ。

 そして奥に押し当てられたままの硬いおちんちんに、膣の全てがキュンキュンしてしまっています。

 そこで再開される動き。
 あっ、あっ、気持ち良い!
 しかも突かれる最中に私の頭を撫で撫でしてくれています。ただそれだけなのに、お腹がさらにキュンキュン鳴ってしまって——

「あっ、あっ、あ"っ、あ"っ」

 逝くのが、止まらな——

 意識を取り戻すと、一番奥の壁にお兄ちゃんの熱々おちんちんが何度も優しくキスをしてきてました。その度にまた声が出てしまっています。

 快楽に身体を震わせ腰をくねらせていると、お兄ちゃんがまた大量の射精を行ないました。

 あっ、熱い、ドクドクとお兄ちゃんに沢山中出しされて——
 こんなにも中出しされたら、いくら安全日でも、危ないかもしれません。
 でも、……気持ち良いです。

 髪の毛を撫で撫でされながら、今度は私が上に移動させられて下から突かれ始めます。
 あっ、あんっ、お兄ちゃん、……大好き。
 そして正常位になって中出しされている最中、お兄ちゃんの腰に脚を絡めて——
 そうして今までの人生で一番濃い夜は、お兄ちゃんと共に過ごし更けていくのでありました。


 ◆ ◆ ◆


『チュッ、チュッ』

 ん、私は——

「あっ、起こしちゃいましたね。ごめんなさいです」

 見れば暗闇で寝そべる私に、莉里那は下着姿で四つん這いの形で上から乗っかっていた。
 そうか、私と莉里那は——

「ニィーニッ」

 甘い声でそう囁きながら顔を寄せ、キスをせがんでくる莉里那。
 そこで私は両腕で莉里那の身体を抱き寄せると、軽いくちづけを何度かした。
 しかし莉里那はそれだけでは物足りなかったらしく、私の唇をハムハムしてきたため、私もそれに応えて濃厚なキスを時間をかけて行なった。

 何度目かの息継ぎで唇が離れた時、壁時計が目に入る。
 朝の五時か。

「莉里那、そろそろ部屋に戻らないと、バレてしまうかもしれない」

 肩に手を掛け互いの距離を離してから言うと、莉里那が頬っぺたを膨らませる。

「うぅ~、離れたくないのです。けど、仕方ないのです。でも……最後にもう一度だけ! 」

「っ、あたたっ」

 暗闇の中、莉里那が勢いよく顔を寄せてきたため、私と莉里那は衝突をした。
 口内に鉄分の味が広がっているため、私は口の中を切ってしまったようだ。

「ご、ごめんなさい」

「これぐらい大丈夫だよ」

 申し訳なさそうに謝る莉里那の頭を撫で撫で。
 暫くそうしていると、莉里那がこちらに頭を預けてきたため、やり直しのお別れのキスをこちらからする。

 そして、奇跡は起こってしまった。
 私と莉里那がキスをしていると、なぜか私たちの身体が発光。
 その光は私たちをスッポリ包み込む光球となり、見たこともない多くの文字らしき物がその光球内にいる私たちを通り抜けながらも駆け巡っていく。

「なんだこれは!? とっ、とにかく!」

 咄嗟に私は目を見開き固まってしまっている莉里那の手を取ると、この光球から出ようと試みる。
 しかし私たちを中心に発光しているようで、光球が移動しただけで外には出れない。
 ならと思い莉里那の手を離して部屋の隅に移動して離れ離れになる。すると私は光球から出られたが、莉里那は依然光球内である。

 この光、莉里那から発されているのでは!?
 しかしなぜ、何故こうなった?

「……ニィーニ、もしかしたらニィーニの血が、ニィーニの発条《ゼンマイ》がリリーの時計を動かしてしまったのかもしれないです! 」

「そんな馬鹿な!? だって莉里那のその設定は作り話じゃないか!? 」

「ステータスが見えるのは、本当のことです!
 異世界についてとかは、願望が100パーセントを占めてますけど」

 なんだと!?
 とにかく莉里那を包む光が強まっている!
 私は球体内の文字が加速、高速で動き回る中莉里那の元へ戻ると、彼女を守るようにして抱き寄せる。

 そして私と莉里那は光に包まれ、一際強めた光が収まった頃には——

「……ここは、どこなんだ? 」

 私と莉里那は、薄暗い見知らぬ森の中にいた。
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