白い結婚のはずでしたが、幼馴染の夫が離してくれません!

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】

文字の大きさ
8 / 24

8 突然の呼び出し

しおりを挟む
「それはどういったご用で……」

 学園を卒業してから、ディートハルトの実家には行ってなかった。ここに来てのお呼び出し……。
 
 「そうだね……。最近俺も顔出してなかったし……。寂しいのかもね」

 あ、俺って言った。なんか距離が戻ったみたいでうれしい……。
 
 「でも、弟君結婚されたのよね?じゃあ、寂しくないんじゃない?」

 「俺……、愛されてるからかな……」

 それはそれは……。

 でも、もしかしたらお母様の方から婚約解消の提案があるかもしれない!

 「わかったわ、今週末なんてどう?」

 「ありがとう。じゃ、今週末迎えにいくよ」

 バルコニーの近くの窓から、何人ものご令嬢がこちらをチラチラ見ている。

 「ディー、私はもう大丈夫だから、あなたを待ってるご令嬢とダンス踊ってきたら?」

 そう言った瞬間、ディートハルトの顔から温度が消えた。
 
 「俺が女性苦手なの知ってて言うんだ……」

 ディートハルトの力強い腕が腰を持ち、ぐっと引き寄せられた。

 そして、反対の手は背もたれに回され、頬と頬が触れ合った。

 ひっ...!急にどうしたの……?

 これ、見る角度によってはキスしてるように見えるんじゃない……?

 触れ合った頬が熱くなり、心臓が爆発しそうになった。

 「窓の所の女性たち……いなくなった?」

 私が窓の方に視線を向けると、頬を赤らめた女性達が恥ずかしそうに、でも名残惜しそうにこちらを見て、その場を去っていった。

 「いなくなったわ……」

 ちゅっと音をたてて、ディートハルトが頬にキスをした。

「なっ!」

 私はすかさず頬に手を当てて、彼から距離をとった。

 その顔が面白かったのか、ディートハルトはまたお腹を抱えて笑っている。

 すました顔もかっこいいけど、ディートハルトには笑っていてほしいと思ってしまった。


 ◇◇◇

 「アーシュレイ、久しぶりね」

 「はい、奥様。ご無沙汰しております」

 私はディートハルトの母に一礼した。

 あっという間に週末がやってきて、伯爵家の応接室でディートハルトのお母様とテーブルを挟んでソファに座った。

 侍女が紅茶と焼き菓子をテーブルに置いた。

 お母様は年を重ねても、おきれいな方だ。はちみつ色の髪は長く美しく、翡翠の瞳はディートハルトと同じ色をしている。

 背はそこまで高くないので、ディートハルトの高身長は伯爵様に似たのだろう。

 お母様が紅茶を一口飲み、洗練された操作でカップを置いた。

 「今日来てもらったのは、あなたたちの婚約のことです」

 おっ!やっぱり婚約解消の話だったのね!

 「か、母さん!それは私たちで……」

 隣に座っていたディートハルトが前のめりになって、反論した。

 私はディートハルトに目線を送り、大丈夫よとアイコンタクトを送った。

 それをディートハルトは茫然と眺めた。

 「ディートハルト、あなたに任せていたら、アーシュはおばあさんになってしまいます。ここは母に任せなさい」

 ……ん?

 「例のものを」

 お母様が執事から何やら書類を受け取り、私たちの前に置いた。

 「これはあなたが作ったものだと聞いたわ。とても良くできてるわね。さあ、ここで今書いてしまいなさい」

 一枚の紙の上に、私が特許を取得した万年筆が置かれていた。

 そして紙には【婚姻届】の三文字が記載されていた。

 私は自分の目が泳いでいるのを感じた。

 これはいったい……、どういうことなのでしょうか……。

 お母様は反対されていましたよね?

 「私ね、元気なうちに孫の面倒をみたいのよ……」

 は……?孫って…。

 お母様はもう随分遠くまで行ってらっしゃる。

 隣をみると、ディートハルトも美しい石造みたいになって固まっていた。

 彼も予想が外れていたようだ。

 「アーシュレイのご実家、資金繰りが大変なようね。婚姻を結んだら、一定額の支援をするつもりよ。悪い話ではないのではなくて?」

 そうきたか……。

 実家の男爵家は、父が起こした事業が失敗して多額の借金をしている。少しずつ返しているがなかなか減らないのが実情で、このままでは弟が家督を継ぐときに借金も継がなければいけなくなる。

 「魔道具課の仕事も、家族行事に支障が出ないなら続けてもらっても構わないわ」

 えっ……。まさか仕事を続けてもいいなんて……、それで実家の借金もなくなって……。

 いい事ばかりじゃない……。

 ディートハルトを見ると、ふっと笑った。私が何を考えているのかがわかったようだ。

 彼は万年筆を手に取り、名前を記入した。

 そして笑顔でその紙を渡してきた。

 私も自分が発明したペンを握りしめ、そこに名前を記入した。

 
 ◇◇◇ 

 
「は?婚姻届を出した……?」

「そうなの、なりゆきで……」

 ボトッ……。食堂のテーブルで向かいに座るイヴェッタが、フォークに刺したエビフライを落とした。

「だって、婚約解消する!って息巻いてたじゃない!」

 そうなのだ。週末に入る前の夜、仕事終わりにイヴェッタにそう宣言して退社したのだ。それなのに、こんなことになってしまった……。

「はい、全くその通りで……」

「そんなにディートハルトと一緒になりたかったの? あんまり、そうは見えなかったけど……」

「えっ、じゃあ仕事は!?あんなに大変な思いしてやっと入ったのに……」

「そう!それなのよ!家族に迷惑をかけなければ、仕事を続けていいって言われたの。あと、実家の支援もしてくれるって……」

 それを聞いて、イヴェッタは「はぁ……」とため息をついた。

「家族に迷惑って、基準が曖昧だよね。でも、アーシュが決めたことだもんね。実家の事情もあるし……。貴族女性の社会進出って昨今言われてるけど、まだまだ古い考えは根強いしね。結婚しても働いていいなんて、確かにありがたいわよね」

「うん、本当に。絶対ダメって言われると思ったし」

「でも、お義母さん反対してたんじゃないの?」

「それもね、急に賛成って感じになっちゃって……。……孫の面倒が見たいって言われたの」

「は……?」

 イヴェッタが眉間に深いシワを刻み、嫌悪感丸出しの顔をした。

「何それ……、こっちは子供産む道具じゃないっつーの」

 イヴェッタが貴族女性らしからぬ悪態をつき、フォークを乱暴に使ってお皿をカンカンいわせながら生野菜を平らげた。


 ◇◇◇


 それから、両家の顔合わせや引越し、職場への挨拶、結婚式の準備、仕事と、一日24時間では足りないと泣きながら、毎日やることをひたすらこなしていった。

 結婚がこんなにパワーがいるものだとは思わなかった。

 もう、婚姻届を出してからの今日までの記憶が無い……。

 私はほぼ不眠状態で、結婚式当日を迎えたのであった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

政略結婚した夫に殺される夢を見た翌日、裏庭に深い穴が掘られていました

伊織
恋愛
夫に殺される夢を見た。 冷え切った青い瞳で見下ろされ、血に染まった寝室で命を奪われる――あまりにも生々しい悪夢。 夢から覚めたセレナは、政略結婚した騎士団長の夫・ルシアンとの冷えた関係を改めて実感する。 彼は宝石ばかり買う妻を快く思っておらず、セレナもまた、愛のない結婚に期待などしていなかった。 だがその日、夢の中で自分が埋められていたはずの屋敷の裏庭で、 「深い穴を掘るために用意されたようなスコップ」を目にしてしまう。 これは、ただの悪夢なのか。 それとも――現実に起こる未来の予兆なのか。 闇魔法を受け継ぐ公爵令嬢と、彼女を疎む騎士団長。 不穏な夢から始まる、夫婦の物語。 男女の恋愛小説に挑戦しています。 楽しんでいただけたら嬉しいです。

『あなたを捨てたのは、私です』 〜冷酷公爵を追い出した元恋人ですが、隠し子ごと溺愛されています〜

ria_alphapolis
恋愛
「あなたを捨てたのは、私です」 そう告げて、公爵である彼を追い出した日から数年。 私は一人で、彼との子どもを育てていた。 愛していた。 だからこそ、彼の未来とこの子を守るために、 “嫌われ役”になることを選んだ――その真実を、彼は知らない。 再会した彼は、冷酷公爵と噂されるほど別人のようだった。 けれど、私と子どもを見るその瞳だけは、昔と変わらない。 「今度こそ、離さない」 父親だと気づいた瞬間から始まる、後悔と執着。 拒み続ける私と、手放す気のない彼。 そして、何も知らないはずの子どもが抱える“秘密”。 これは、 愛していたからこそ別れを選んだ女と、 捨てられたと思い続けてきた男が、 “家族になるまで”の物語。

愛する女性を側室に望むのなら、いっそ私との婚約は解消してほしいのですが?

四折 柊
恋愛
公爵令嬢ジョゼフィーヌには好きな人がいた。その人は隣国の王子様リック。ジョゼフィーヌはリックと結婚したくて努力をしてきた。そして十六歳になり立派な淑女になれたと自信を得たジョゼフィーヌは、リックにプロポーズをしようとした。ところが彼に婚約者がいたことが発覚し悲しみに暮れる。今まで確認しなかった自分も悪いが、なぜかリックも家族もそのことを教えてくれなかった。そんなときジョゼフィーヌに婚約の打診が来た。その相手は自国のアルバン王太子殿下。断りたいが王命が下り仕方なく受け入れた。それなのに、ある日夜会でアルバンが可憐な令嬢に一目惚れをした。その後、アルバンはその令嬢を側室にしたいと望んだので、お互いのために婚約を解消したいと申し出たが拒絶されて……。ジョゼフィーヌの未来はどうなるのか?!

婚約者のいる運命の番はやめた方が良いですよね?!

水鈴みき(みすずみき)
恋愛
結婚に恋焦がれる凡庸な伯爵令嬢のメアリーは、古来より伝わる『運命の番』に出会ってしまった!けれど彼にはすでに婚約者がいて、メアリーとは到底釣り合わない高貴な身の上の人だった。『運命の番』なんてすでに御伽噺にしか存在しない世界線。抗えない魅力を感じつつも、すっぱりきっぱり諦めた方が良いですよね!? ※他サイトにも投稿しています※タグ追加あり

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

公爵家の養女

透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア 彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。 見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。 彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。 そんな彼女ももう時期、結婚をする。 数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。 美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。 国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。 リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。 そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。 愛に憎悪、帝国の闇 回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった―― ※月曜にから毎週、月、水曜日の朝8:10、金曜日の夜22:00投稿です。 小説家になろう様でも掲載しております。

素敵な人が私の婚約者ですか?すみません、他に好きな人がいる婚約者様とは将来を約束出来ませんので婚約破棄をお願いします。

クロユキ
恋愛
「あの…貴方は誰ですか?」 森の中で倒れていた私は婚約者のアレン様を私は覚えていません、記憶喪失だそうです。彼には別に好きな人がいたようなのです。私、マリーナ・クレールは婚約破棄をしました。 彼の事は覚えていませんので私の事は気にしないで下さい。 誤字脱字があります。更新が不定期ですがよろしくお願いします。

子供のままの婚約者が子供を作ったようです

夏見颯一
恋愛
公爵令嬢であるヒルダの婚約者であるエリックは、ヒルダに嫌がらせばかりしている。 嫌がらせには悪意しか感じられないのだが、年下のヒルダの方がずっと我慢を強いられていた。 「エリックは子供だから」 成人済みのエリックに、ヒルダの両親もエリックの両親もとても甘かった。 昔からエリックのやんちゃな所が親達には微笑ましかったらしい。 でも、エリックは成人済みです。 いつまで子供扱いするつもりですか? 一方の私は嫌がらせで寒い中長時間待たされたり、ご飯を食べられなかったり……。 本当にどうしたものかと悩ませていると友人が、 「あいつはきっと何かやらかすだろうね」 その言葉を胸に、私が我慢し続けた結果。 エリックは子供を作りました。 流石に目が覚めた両親とヒルダは、エリックと婚約破棄するも、今まで甘やかされたエリックは本当にしつこい。 ねえエリック、知ってる? 「私にはもっと相応しい人がいるのよ?」 非常識な婚約者に悩まされていたヒルダが、穏やかな結婚をするまでの物語。

処理中です...