白い結婚のはずでしたが、幼馴染の夫が離してくれません!

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】

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私達は離れていた時間を埋めるように、唇を重ねた。


そして、私の体をそっとディートハルトが倒してきた。


ディートハルトの体の重みを感じる。


ちゅっと、顔から下もキスをしてくれる。少し恥ずかしく、くすぐったかった。


もしかして、今日こそ初夜なのかな……。


そんなことを思っていると、ガバっと突然ディートハルトが起き上がった。


「ごめん!」そういったディートハルトは、脱いだ上着を持ちそのまま部屋を出て行ってしまった。


え……?え……?なにか謝って出て行ってしまった……。


何が起こったのか理解できず、茫然としてしまった。


下を見ると、乱れた衣服から下着がチラリと見えている。


そう、色気もなく少しよれた下着が。


やってしまった……。仕事に行くことばかりに気を使って、女性としての身だしなみにまで気を使っていなかった……。


こんな下着を見せて、ディートハルトに幻滅されてしまった……。


せっかく今までで一番進展していたのに……。


なんて事をしてしまったんだ!


次、どんな顔して会えばいいのよ……。

 

あたしは体をバタバタさせた後、盛大にダメ息をついて枕に顔をうめた。




◇◇◇



翌日、出勤すると何となく視線を感じた。


ああ、きっと昨日ディートハルトに抱っこされたのを見た人がいて、その噂をされているのかもしれない……。

 

疲れて帰ってきた騎士に、抱っこをさせる悪女とでも言われてるのだろう……。


昨日はあれから、眠れずけっきょく寝不足だ。


魔道具課に入ると、出勤している人はまばらだった。


イヴェッタはもう出勤していた。


「イヴェッタ、おはよう!」

 

「あら、お姫様、おはよう」


 イヴェッタはニヤニヤしながら、そう言った。


 私は顔がカッと熱くなったが、平静を装った。


「この歳で、お姫様もないでしょ」


 イヴェッタはふーんと言って、全く同感してない顔をした。

 

「でも、アーシュが机で寝ちゃってぜんぜん起きないとこに、ディートハルトが来てさ。そのままアーシュをお姫様抱っこして宿舎に行っちゃったから、みんな微笑ましく見ていたわよ」


「お姫様抱っこ……」


「討伐して帰ってきて、さらに逞しくなってたわね、ディートハルト。女性達が、王子様!って黄色声を上げてたわよ」


「ははは……」


 私はその様子を頭の中で映像化して、背中に嫌な汗をかいた。


「ディートハルトって、結婚しても人気あるわよね」


イヴェッタは感心するように言った。

 

「うん、そうだね……」


「所で、昨日今後の勤務形態って説明あった?」


 イヴェッタが「あっ!」と言って、重要なことを思い出したようだ。


「そうそう、所長から伝言を頼まれてたんだ。明日から1週間休んでいいって。ここの所、休みなんてなかったじゃない?特別休暇らしいわよ」


「まぁ、私は開発した魔道具の調子を見なきゃ行けないから明後日にはまた出勤だけどね……」


「それって、転移魔道具!?」


「あら、知ってたのね。ディートハルトから聞いたの?まだ、試作段階だったのに。お兄様が強制的に通しちゃったのよ。一応何度も試して大丈夫ではあったけどね……」


「私も見たい!!」


「ふふふ。あなたならそう言うと思ったわ。明後日の朝だから、一緒に行きましょ」


「その後って、仕事ある?」


「ないわよ。どうしたの?」


 私は周りをキョロキョロ見渡し、声が聞こえないか確認する。

 そして、イヴェッタに、近寄り小声で昨日の失態を話した。


「ふーん。なるほどね。ようするに、ディートハルトが気に入る下着を買いに行きたいと……」


 思ったよりも大きな声でイヴェッタが発言したため、急いでイヴェッタの口を手で塞いだ。


「こ、声が大きいわよ!!」


 でも、その通りなのだ。昨日、寄れた下着を見られ、せっかくのチャンスを棒に振ったのだから。親しき仲にも礼儀ありってやつだ。


「ぷはっ!苦しいわよ」そう言って、イヴェッタが手を払った。


「ごめん。付き合ってくれる?」


「まぁ、用事もないしいいわよ。たまにはデートしましょ」


 イヴェッタはにんまりした。


 王宮の入口の門のところで、イヴェッタと別れると「アーシュ!」と声をかけられた。


 馬車の中から、ディートハルトがでてきた。


「アーシュ、今帰り?」


「うん。ディートハルトは?」


「俺も……。アーシュを待ってた。一緒に帰ろう?今日は実家でいいんだよね?」

 

「うん……」


 何となく、目を合わせられなくて、伏し目がちに答えた。


もう、特別勤務は終わったので、宿舎での寝泊まりは終わったのだ。少し荷物が重かったので、馬車で助かった……。

 

でも、昨日のこともあって気まづい……。

 

 馬車で帰ればそんなに時間はかからないが、なんだか無言で時間がゆっくりに感じた。


伯爵家に帰るのに、何か忘れてる気がした……。


 なんだろう……。伯爵家で会う人……?


 あっ!お義母様からの手紙!!読んでなかった!!


 私はバッグをあけゴソゴソと中を探った。書類の中から、その手紙が出てきた。


 辺りを見ると、まだ読むだけの時間はありそうだった。


さっそく手早く手紙を開封して、便箋を開いた。


『アシュリーへ


 最近顔を見ていませんが、元気にしていますか?

 

 忙しくても、ちゃんと寝てご飯は食べてくださいね。


 今は討伐のこともあって、忙しいのは理解しています。討伐が終わったら、仕事中心から子作り優先にしてほしいの。


 仕事を許可したけど、こんなに働いていいなんて言ってないわ。

 

 あなた達は友人関係が長すぎました。なので、期限を設けます。


 ディートハルトが帰ってきて、一年しても子供が出来なかったら、ディートハルトとは夫婦としての縁がなかったことにしましょう。前のように友人に戻ってもらいます。


 その時は実家への支援金は返金不要です。


 冷たいようだけど、これも貴族の宿命なの。わかってね。

 では、早く討伐が終わることを祈っています。


 母より』


 えっ……。これって、つまり……。

 今から一年たっても、子供が出来なかったら離縁って事……?


「どうしたんだ?その手紙は?」

 

 隣に座っていたディートハルトが覗き込んできた。


 わたしは無言でその手紙を、ディートハルトに渡した。


 ディートハルトは無言で手紙を受け取り、そのまま読み始めた。

 

 ディートハルトはどう思ったのだろうか……。わたしは心配になり、胸の当たりをぎゅっと手で押さえた。


ディートハルトは表情を変えずに、その手紙を折りたたみ、胸ポケットに入れた。


「ディー……?」


私は不安になり、ディートハルトの顔を覗き込んだ。


ディートハルトは私の肩を抱き、自分の方へ引き寄せた。


座っていてもディートハルトの逞しい体が伝わり、触れている部分が熱くなる。


「母がごめん……。大丈夫。俺がそんな事させないから……。アーシュは気にしないで、今まで通り過ごして、ね?」


 そう言って、翡翠の瞳に見つめられると、うんとしか言えなかった。


 ディートハルトはあんまり、深くはとらえてないのかな。


 本当に大丈夫だろうか……。そんなことはさせないってことは、まだディートハルトにとって子供はいらないって意味なのかな……。騎士団の仕事も忙しそうだし……。


ガタン。


考えがまとまらない頭のまま、伯爵家に到着した。


先にディートハルトが降りて、私の降りるのを手伝ってくれた。


本当にスマートになんでもこなすなと、感心してしまう。


「兄さん!」


馬車の音を聞きつけた家族が、ディートハルトを出迎に来た。


「兄さん、おかえり!大変だったね、ケガとかしてない?」


義弟はディートハルトより2歳差で、少し身長が小さく、線が細い。翡翠の瞳と金髪は同じだが全く印象が違う。


彼は義父の執務を手伝いながら、週に半分は王宮で文官の仕事もしている。同じ王宮でも職場が離れている為、義弟とはほとんど顔を合わせた事がない。なので、あまり打ち解けていないのが実情だ。


「お義兄様、おかえりなさいませ。お無事で何よりです」


 

 義妹も義弟と同じ年の伯爵令嬢だ。私と違って、教養もあり淑女として完璧なしぐさを身に着けている。義母も義妹には一目置いていて、すぐに子供が出来たこともうれしかったようだ。


 人見知りの私にも優しくしてくれる、ありがたい存在なのだ。


 「ディートハルト、よく帰ってきた」

義父はほっとしたように、ディートハルトに話しかけた。顔を見るまで、安心できなかったのだろう。


 「ディートハルト、よく顔を見せて。少し痩せたんじゃない?しばらくはゆっくり出来るの?」


そう言って、義母がディートハルトの頬に触れた。その表情から、すごく心配していたんだと感じ取れた。

 

 「みんなただいま、そんなに質問攻めにしないで、元気だから。明日は休みだから、ゆっくり出来るよ」


 「兄さん、スティーブも大きくなったよ!抱っこしてあげて」


 義弟の子供のスティーブもすっかり大きくなり、ほっぺも手足もパンパンでどこも美味しそうだった。


 さすが美男子の家系だけあり、一歳弱にしてすでに顔が整っていて、天使の笑顔を振りまいていた。


 「おぉー!スティーブもおおきくなったなぁ~!」


 ディートハルトがスティーブを抱っこして、嬉しそうに高い高いをした。スティーブも怖がらずに、キャキャっと声を出して笑っている。


 なんて幸せな家族の絵なんだろう。そこに自分が入り込めておらず、孤独を感じた。


 ディートハルトも子供が好きそうなのに……。どうして?と問いかけたくなる自分がいた。そんな嫌味な自分が嫌になる。


 皆とは距離は近いはずなのに、すごく遠く感じた。


 そして義母と視線が絡み、その冷たい視線に手にじっとりとした汗をかいた。

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