【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】

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第一章

14 時は流れ

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驚きのあまり変な声がでてしまった。
 
私の王子様に、人生初のお姫様抱っこをされたのだった。
 
「マ、マティアス様!? 自分で歩けますから!」

「急ぎ専属医に連絡し、オリビアを診るよう伝えよ!」

「はい!かしこまりました!」
 
残った使用人が騎士団並みの敬礼を見せ、急いで屋敷に入っていった。結局マティアス様は、「君の大丈夫は聞かない……」と部屋まで降ろしては下さらなかった。



 
「もう痛まない……?」 ガウン姿のマティアス様が優しい声色で聞いてきた。
 
昼間とはまるで別人のような妖艶さを醸し出している。

「はい、だい……」
 
大丈夫と言いかけたところで、マティアス様の人差し指が唇に触れた。大丈夫とは言っちゃいけないらしい……。

「専属医に薬も頂きましたし、数日で赤みも消えるようです」
 
応急処置はしたが、冷やさなかったので腹部がやけどになり赤くなってしまった。
 
今日はお風呂に入れないので、侍女に体を拭いてもらった。
 
「ところで、どうして今日はこんなご帰宅が早かったのですか? 朝は何も言っていなかったので……。とても、驚きました」
 
マティアス様はさっと視線をそらした。
 
 「その……、エステル嬢の兄がたまたま王城に来ていて、今日二人がお茶会をすると聞いたんだ。……それで早退したんだ」
 
マティアス様にしては珍しく、視線が合わない。とても、ソワソワしているようにも見えて、また可愛いと思ってしまった。

本当に目が離せない……。

でも……。

「マティアス様……。毎週この曜日は午後から大事な会議がありましたよね……?」
 
つい秘書官補佐だったころの癖がでてきてしまう。そんな大事な会議に秘書官が出ないなど、ありえないのだ。
 
 「あぁ……、初めて欠席した……」

もしかしたら、エステル様と愛し合っていたことがバレてしまうと、焦ってこられたのかもしれない。

私などにそんな心配は不要なのに……。

好きなエステル様よりも、仮妻の私を優先してくれた。エステル様に申し訳ない気持ちと、でもうれしい気持ちが心の中で戦っていた。
  
私はマティアス様の首に両手をかけて、ぎゅっとした。自分から抱きしめたのは初めてで、胸の鼓動が早くなった。
 
「ありがとうございます。本当はすごくうれしかったんです。私の旦那様はなんてかっこいいんだろうって」
 
「そうでしょ?」と言ってマティアス様は私の背中に手をまわしてくれた。しばらくしてから、私は手を放してマティアス様の頬を両手で挟んだ。均等の取れた造形のマティアス様。そのスカイブルーの瞳を見る。
 
「でも、今回限りにしてくださいね。周りの方にご迷惑をかけてしまいますから……」
 
「あぁ、わかったよ、オリビア。もう愛しの妻に心配はかけない」

「はい……」

こんな私のことを愛しの妻と言ってくださって、ありがとうございます。私は心の中でお礼を言った。

 
                         ◇◇◇


結婚生活もあっという間に月日が流れ、一年がたった。
 
マティアス様は相変わらず忙しく、深夜に帰宅することも度々あった。夫婦で参加する夜会も、マティアス様が断って下さり、社交の場に出ることもなかった。

仮の妻なので、顔を出さない方が都合が良いのかもしれない。義母との関係も相変わらずで、エステル様と結託して嫌味を言われることも多々あった。
 
気にしないと言えば嘘になるが、関係構築を諦めてしまってからは気持ちが楽になった。
 
屋敷の女主人としての仕事を手伝わせてはもらえないので、何か仕事をさせてほしいとマティアス様にお願いした。
 
最初はゆっくりしていてと断られたが、私が引かなかったので、執事長の事務補佐をさせてもらっている。執事長は60歳でこの道45年の大ベテランだ。
 
話も面白く、何より義母側でないのが助かる。この執務室にいる限りは、義母と会うとこもないので、心のオアシスと化している。
 
 「…………っ」
 
 「どうされましたかな?」
 
執事長が丸眼鏡を上げながら心配そうに聞いてきた。
 
「あ…………、はい、いつもの鈍痛です」と、お腹をこすりながら答えた。

「あまり、ご無理されないで下さい……」と執事長が眉を下げた。
 
あれから妊娠に向けて薬を飲んだり、夫婦の務めを果たしたりと頑張ってきたが、妊娠は出来なかった。
 
そして私は29歳になった。義母からの妊娠はまだなのか、という圧力もあり、具合が悪くなることも増えた。
 
今日のように腹部に鈍痛が起きる事もしばしばだった。

私は健康には自信があった。文官時代に仕事も休んだことがないし、人よりも多く残業も引き受けてきた。それなのに、たった一年でこんな体が弱くなるなんて……。気持ちがたるんでしまったのかしら……。
 
私は気になっていた事もあり、マティアス様に許可を得て王都の叔母のもとを訪ねた。
 
もちろん侍女のアリスも来てしまうので、おおっぴらに病院には行けなかった。
 
叔母は母の妹で、母と同じく軽くなら体や薬を見る事ができる。そして叔母に言われた。
 
「これは精神的なものが原因とか、病とかではないかもしれない。何か外部からの力を感じると……」
 
私は普段飲むように渡されている薬をこっそり持ち出し、叔母に預けた。叔母にお願いして信用のある医者に薬を見てもらう事になった。

薬の結果は、手紙だと義母の手のものに見られてしまう可能性があるので、またしばらくしてから尋ねる予定だ。
 
やはりあの薬が何か関係しているのかもしれない……。
 
最近では私の顔色も悪く、マティアス様が心配している。公爵邸の専属医に診てもらって、薬は増えるがなかなか効き目がなかった。

怒ったマティアス様が専属医を問い詰めると、妊娠できない事での精神的不安が起因していると述べた。

私は反論したかったが、体が弱りそんな元気もなかった。

そしてそんな私を見たマティアス様が、一度私の実家でのんびりしてきてはどうかと提案してきた。

私は素直に甘える事にした。
 
執事長の執務室からの帰り、応接室から明かりが漏れ、ほんの少し扉が開いていた。

そのまま通り過ぎようとした時に、会話が聞こえた。

「結婚して一年経ちますのに、お子は授かりませんわね……」

「エステル嬢にも、お薬を手配してもらってるのに、申し訳ないわ……」

「そんな大奥様! 気にしないで下さい。私はマティアス様のお役に立てればうれしいのですから」

「でも……、最近のマティアス様は夜会にも参加されていませんわ。お忙しいのはわかりますが、心配です。オリビア様とも一度も同伴で出席されていませんよね」

私の胸がズキリと痛み、服の上から胸元を掴んだ。

 「そうみたいね。マティアスが全ての夜会を断っているらしいわ。あんな子が妻だなんて、恥ずかしくて一緒に行けないのでしょう……」

「まぁ、大奥様ったら……」 と二人はクスクスと笑った。
 
「本当にあなたがお嫁に来てくれれば、一番良かったのよ。まさかこんな邪魔が入るなんて!まったく憎たらしいわ! しかも、もう29歳ですって! 専属医の話では妊娠どころか不妊症じゃないかって言ってたわ」

不妊症……。つまり子供が出来ない体……。私が……?

だからこんなに努力しても出来なかったんだ。私は急に視界が暗くなった気がした。まるで井戸の底にいるかのように……。
 
「このままあの女に居座られては、マティアスが不幸だわ……」

 「大奥様……。わたくしに考えがありますわ」

 「離縁する理由が必要なら、作ればいいんですわ! もともと、下品な方ですもの! 他に男の人がいてもおかしくはないですわ!」

 「そうね、最近は時々王都に遊びに言っているようだし……」

 「えぇ、その既成事実を押えればいいのですわ!」

 「そうね、その手があったわね!」

 義母の声が弾んだ。

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