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第一章
18 マティアスside①
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「マティアス様、郵便物置いておきますね」と秘書官補佐が机に手紙の束を置いていった。
「ああ、ありがとう」
ここの所激務が続いていて、何日も家にも帰れていない……。おとといオリビアが着替えを持ってきてくれて、本当に助かった。
顔も見られて嬉しかったのだが……、何か変だった……。初めてマティアスと読んでくれて、愛してると伝えてくれた……。すごく嬉しいはずなのに……、何か思い詰めていた……。
母と何かあったのか……。気のせいだと良いのだが……。
この激務があけたら、思いっきり甘やかしてあげたい。ただでさえ、母親との生活で窮屈さを感じているだろうから……。
手紙の束から見慣れた文字が見え、その手紙を手に取った。私は何か胸騒ぎがして、心臓の鼓動が早くなる。
この字は……、オリビアだ。私は手紙を開封した。
そこには一枚の便箋と何か書類のような物が入っていた。
目の前が真っ白になった……。
その書類を広げてみると、……離縁状と書かれていた。
どうして……。なぜ離縁状が……?なぜ……。
震える手で離縁状を広げれば、オリビアの所は全て記入済みになっていた。
あとは夫である私がサインし、神殿に提出すれば離婚が成立する。
何かの間違いではないかと、急いで便箋の方に目を通す。
『マティアス様
毎日、遅くまでお仕事お疲れ様です。ご飯はちゃんと食べていますか?夜はしっかり、寝ていますか?
最初に謝らせて下さい。
本当はもっと早く決断しなければいけなかったのに、遅くなってしまい申し訳ありません。
そして、私が酔った勢いで関係を持ってしまい……。マティアス様に責任を取らせてしまったこと、深くお詫び致します。本当に申し訳ありませんでした。
私にとってマティアス様は初恋でした。お恥ずかしいのですが、厳しい文官の仕事もマティアス様を遠くから見る事で耐えられました。そんな憧れのマティアス様と、期間限定でも一緒に暮らすことが出来て、本当に幸せでした。
妻の務めを果たせず、申し訳ありません。
でも、エステル様のことを想えば、ちょうど良かったのかもしれません。
皆様にご迷惑がかからないよう、私はこの国を出ます。
この手紙が届くころには、隣国に渡っているでしょう。どうぞ、ご安心下さい。
マティアス様とエステル様の幸せを、遠くからずっと祈っております。
本当にありがとうございました。
オリビア
追伸
ベッドサイドのテーブルの引き出しに、疲れの取れるハーブティーとお香が入っています。
良かったらお使いください』
読み終えたと同時に、顎から水滴が落ちシャツにシミを作った。涙がとめどなく流れていく……。
オリビアが国を出た……?そんな……、私の愛するオリビアが……。
◇◇◇
──6年前
夜の図書館は静かで好きだった。図書館はいつも静かなものだが、夜は更に静かで私にとって特別な場所だった。
私は王立学校を卒業してから周りの期待を背負い、がむしゃらに仕事をしていた。わからないことも多く、仕事が終わってからは図書館で調べ物をする日々。毎日遅くまで図書館にいる人はそうはいない。
彼女を除いては……。
彼女はオリビアという事務官らしい。年齢は三歳年上だが、最初見たときは年下だと思った。
周りにいる女性のように、着飾ることもせず、化粧っ気もない、香水も付けていない風変わりな令嬢だった。彼女は小柄で童顔な顔で、いつもブラウスにズボン、暗い色のカーディガンを着ている。
髪の毛は美しい茶色でまっすぐで長い。昼間見かける時は一つに結んでいるが、夜の図書館では髪を下ろしている。そんな姿を見れるのは自分だけだと、うれしく思っていた。
彼女は私より先に来ていて、閉館までいる。私はそんな彼女が気になり、いつからか目で追うようになった。
図書館の席も、彼女が見える席にしていた。時々うとうとしたり、真剣な顔をしたり、あくびをして周りをキョロキョロみたり……うれしそうにしたり……。
私は彼女を見る事が楽しみになっていた。
王立学校時代から、多くの女性から言い寄られてきた。しかし自分から好きになる人はおらず、付き合ったとしても長続きしなかった。
秘書官に昇進してからも、縁談の話が途切れなかった。仕事や縁談の疲労があっても、彼女を見ると自然と元気が出た。
食堂でもいつも後ろの端っこで一人で食べていて、その姿が小動物のようで愛らしかった。
「おまえ、またあの人見てるのかよ……」
学友で同期でもあるグレンが言った。同じ公爵家という事もあり、自然と仲良くなった。背も高く筋肉質で、同じ秘書官だが剣の使い手で、休憩時間によく手合わせをしている。赤毛の髪で、短髪で男らしいことから、結婚するまでは女性関係も派手だった。
「ああ……」
「あの人、年上だよな?あの人、なんて言われてるか知ってるか?」
「えっ?」
彼女の事が話題に上がっているのだろうか……。私のように想ってる人がいるのか……?
「婚期を逃して【終わった令嬢】って言われてるらしいぜ」
彼女は三歳年上だ。確かに令嬢の結婚適齢期はとうに過ぎている。しかし、男性ばかりの事務官でこんなに立派に働いているではないか。私は奥歯にグッと力が入った。
「えっ?何、マティアス怒ってるの?」
「いや……、そんなことは無い。ただ、皆見る目がないと思っただけだ」
「お前さぁ、そろそろ恋人か婚約者作ったら?お前の幼なじみの妹とはどうなの?いい感じまでいってるんだろ?」
幼馴染の妹のエステル嬢……。同じ公爵家で昔から親交があるから、母が婚約者にどうかと昔から推してくる。
公爵家なのだから、政略結婚が大前提だが……。私は結婚だけは好きな人としたいと思っている。
「結婚も悪くないぞ……。娼館に通わなくても、毎日……」と言ったところで、私の睨みに気づいた。
グレンはわかったよとそれ以上言わなかった。
グレンは昨年婚約者と結婚した。
「お前みたいに真面目や奴ほど、そういうのにハマると歯止めが利かなくなるんだよ……」
グレンが小声でそう呟いた。
「はぁ……」
私は溜息をついた。閨ごとに興味がないとは言わないが、グレンのようにはならないだろう。
そんな低俗なものに自分が支配されない自信がある。彼女に視線を戻すと、食堂のターラさんと話をしている。
普段と違い、ターラさんと話している時の彼女は良く笑い、天真爛漫だ。
そんな彼女を見るのが好きだった。私だけが知っている愛しい人……。
その時は仕事も充実していて、見ているだけで良かった。
一緒に仕事をするまでは……。
「ああ、ありがとう」
ここの所激務が続いていて、何日も家にも帰れていない……。おとといオリビアが着替えを持ってきてくれて、本当に助かった。
顔も見られて嬉しかったのだが……、何か変だった……。初めてマティアスと読んでくれて、愛してると伝えてくれた……。すごく嬉しいはずなのに……、何か思い詰めていた……。
母と何かあったのか……。気のせいだと良いのだが……。
この激務があけたら、思いっきり甘やかしてあげたい。ただでさえ、母親との生活で窮屈さを感じているだろうから……。
手紙の束から見慣れた文字が見え、その手紙を手に取った。私は何か胸騒ぎがして、心臓の鼓動が早くなる。
この字は……、オリビアだ。私は手紙を開封した。
そこには一枚の便箋と何か書類のような物が入っていた。
目の前が真っ白になった……。
その書類を広げてみると、……離縁状と書かれていた。
どうして……。なぜ離縁状が……?なぜ……。
震える手で離縁状を広げれば、オリビアの所は全て記入済みになっていた。
あとは夫である私がサインし、神殿に提出すれば離婚が成立する。
何かの間違いではないかと、急いで便箋の方に目を通す。
『マティアス様
毎日、遅くまでお仕事お疲れ様です。ご飯はちゃんと食べていますか?夜はしっかり、寝ていますか?
最初に謝らせて下さい。
本当はもっと早く決断しなければいけなかったのに、遅くなってしまい申し訳ありません。
そして、私が酔った勢いで関係を持ってしまい……。マティアス様に責任を取らせてしまったこと、深くお詫び致します。本当に申し訳ありませんでした。
私にとってマティアス様は初恋でした。お恥ずかしいのですが、厳しい文官の仕事もマティアス様を遠くから見る事で耐えられました。そんな憧れのマティアス様と、期間限定でも一緒に暮らすことが出来て、本当に幸せでした。
妻の務めを果たせず、申し訳ありません。
でも、エステル様のことを想えば、ちょうど良かったのかもしれません。
皆様にご迷惑がかからないよう、私はこの国を出ます。
この手紙が届くころには、隣国に渡っているでしょう。どうぞ、ご安心下さい。
マティアス様とエステル様の幸せを、遠くからずっと祈っております。
本当にありがとうございました。
オリビア
追伸
ベッドサイドのテーブルの引き出しに、疲れの取れるハーブティーとお香が入っています。
良かったらお使いください』
読み終えたと同時に、顎から水滴が落ちシャツにシミを作った。涙がとめどなく流れていく……。
オリビアが国を出た……?そんな……、私の愛するオリビアが……。
◇◇◇
──6年前
夜の図書館は静かで好きだった。図書館はいつも静かなものだが、夜は更に静かで私にとって特別な場所だった。
私は王立学校を卒業してから周りの期待を背負い、がむしゃらに仕事をしていた。わからないことも多く、仕事が終わってからは図書館で調べ物をする日々。毎日遅くまで図書館にいる人はそうはいない。
彼女を除いては……。
彼女はオリビアという事務官らしい。年齢は三歳年上だが、最初見たときは年下だと思った。
周りにいる女性のように、着飾ることもせず、化粧っ気もない、香水も付けていない風変わりな令嬢だった。彼女は小柄で童顔な顔で、いつもブラウスにズボン、暗い色のカーディガンを着ている。
髪の毛は美しい茶色でまっすぐで長い。昼間見かける時は一つに結んでいるが、夜の図書館では髪を下ろしている。そんな姿を見れるのは自分だけだと、うれしく思っていた。
彼女は私より先に来ていて、閉館までいる。私はそんな彼女が気になり、いつからか目で追うようになった。
図書館の席も、彼女が見える席にしていた。時々うとうとしたり、真剣な顔をしたり、あくびをして周りをキョロキョロみたり……うれしそうにしたり……。
私は彼女を見る事が楽しみになっていた。
王立学校時代から、多くの女性から言い寄られてきた。しかし自分から好きになる人はおらず、付き合ったとしても長続きしなかった。
秘書官に昇進してからも、縁談の話が途切れなかった。仕事や縁談の疲労があっても、彼女を見ると自然と元気が出た。
食堂でもいつも後ろの端っこで一人で食べていて、その姿が小動物のようで愛らしかった。
「おまえ、またあの人見てるのかよ……」
学友で同期でもあるグレンが言った。同じ公爵家という事もあり、自然と仲良くなった。背も高く筋肉質で、同じ秘書官だが剣の使い手で、休憩時間によく手合わせをしている。赤毛の髪で、短髪で男らしいことから、結婚するまでは女性関係も派手だった。
「ああ……」
「あの人、年上だよな?あの人、なんて言われてるか知ってるか?」
「えっ?」
彼女の事が話題に上がっているのだろうか……。私のように想ってる人がいるのか……?
「婚期を逃して【終わった令嬢】って言われてるらしいぜ」
彼女は三歳年上だ。確かに令嬢の結婚適齢期はとうに過ぎている。しかし、男性ばかりの事務官でこんなに立派に働いているではないか。私は奥歯にグッと力が入った。
「えっ?何、マティアス怒ってるの?」
「いや……、そんなことは無い。ただ、皆見る目がないと思っただけだ」
「お前さぁ、そろそろ恋人か婚約者作ったら?お前の幼なじみの妹とはどうなの?いい感じまでいってるんだろ?」
幼馴染の妹のエステル嬢……。同じ公爵家で昔から親交があるから、母が婚約者にどうかと昔から推してくる。
公爵家なのだから、政略結婚が大前提だが……。私は結婚だけは好きな人としたいと思っている。
「結婚も悪くないぞ……。娼館に通わなくても、毎日……」と言ったところで、私の睨みに気づいた。
グレンはわかったよとそれ以上言わなかった。
グレンは昨年婚約者と結婚した。
「お前みたいに真面目や奴ほど、そういうのにハマると歯止めが利かなくなるんだよ……」
グレンが小声でそう呟いた。
「はぁ……」
私は溜息をついた。閨ごとに興味がないとは言わないが、グレンのようにはならないだろう。
そんな低俗なものに自分が支配されない自信がある。彼女に視線を戻すと、食堂のターラさんと話をしている。
普段と違い、ターラさんと話している時の彼女は良く笑い、天真爛漫だ。
そんな彼女を見るのが好きだった。私だけが知っている愛しい人……。
その時は仕事も充実していて、見ているだけで良かった。
一緒に仕事をするまでは……。
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