思いの痛み

花魁童子

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  星と月の光が輝き、それらが自信に満ち溢れた頃、「人生」とは何かを頭の中で問うほど暇を弄ぶ。

 なぜ生きるという強制的な鎖に縛られないといけないのか。その鎖はいつ解放してくれるのだろう。

 もう願っても叶わないと後悔するところまで落ちた。


「どうして…。夢など抱かなければよかった」
 アネモネと同等に白く輝きを放ち、自信たっぷりと咲き誇る月は、僕の瞳をひどく浄化する。
 でもどうしてだろう。
 その瞳は逸らすこともつぶることも許さない。

  いや許す許さないのではない。
 本能が申している。人間は本能に抗うことができない。なぜなら、元々この世の人間は本能に従っていた。その従って任せていたものに抗うことはおろか、反発することも人間には不可能だ。

 本能とはそういうもの。
 だが今の者はそれに抗おうと必死だ。不可能だと言っているのにも関わらず…。

 僕もその一人だ。
 運命という性の本質に目を背け、恋人ではないと"あの男"を記憶を消そうと、どうにか必死だ。

  しかし「運命の番」は切っても切り離せない。
 本能で"あの男"を欲し会えないことを嘆く。

  ───だがの僕にも心に決めた人がいる…!

 恋人は別にいる。
 それもあちらからの誘いで、ほんの出来心にすぎない恋人が…。



  人はよく言う。
「運命の番から逃れる者はこの世に存在しない」


 学を修めたある学者が、そう自慢するようにテレビのインタビューで言っていた。しかし僕の考え上、本当に逃れられないのか? もしかしたら、僕にはできるのかもしれない。まるで中学生の反抗期と同じだ。

  本能に抗いたい。

 "あの男"が番など嫌だ。だが体は正直だ。
 甘く、特定の者が嗅げば幸せと欲求の沼に落とし酔わせる。



 昨夜もそうだった。
 今と同じく夜道に怖いという気持ちを抱きながら、スマホの小さな明かりを頼りにゆっくり歩いていると…。
  
 目の前には"あの男"が現れた。

 それも偶然かもしれない。

 暗闇から現れ、彼を見るなり僕の本能が暴走しだした。僕の意思とは関係なく突然に。
 突然来れば止めることはましてや、抑えることもできない。

 今さら後悔しても意味がない。そんなことは馬鹿でも分かる。

 しかし、後悔しないと自分を甘えてしまい、もう一度甘えれば元には戻れない。

 恋人に浮気だと言われても否定できないことを僕はした。

 自分が情けない。
 その時の僕は、心に痛みを感じながら夜道を思い鎖を引きずるように進みだした。

 そして、前からは感じたことのある甘いったるい匂いが全身を包み込む。
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