君を見つけたあの日から

花魁童子

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第三章

神様会議

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 外は暗いが社は明るいなぜなら、時間的には夕方なのに季節のせいで夜という認識に勝手にさせられたため。そのため、社内の光が暗い中注目されやすい。


 今日は、この色恋神社に四神が揃っている。睡蓮様はここの神なため、いつも通りの定位置にいる。そして机を囲むような形でほかの三人も座っている。


「では、四神の会を始めるよ~」
 睡蓮様の右手に座るラナンキュラスが仕切っている。今日の議題は、各々の眷属について仕事の共有と改善。
 俺は睡蓮様が俺のことを何と言うのか気になり、のぞき見をしている。
「じゃあ、まずは睡蓮ちゃんから!綾人くんの仕事と最近のことを教えて」
「いつも通りじゃ。仕事は早く完璧にこなしている。最近は何か隠し事をしているようで気になるくらいかのう」
 隠し事…それは以前、ラナンキュラスに相談したことについてだ。ラナンキュラスとの相談結果は、睡蓮様には絶対に言わないこと、そして悲しませないこと。最後の悲しませないは少し難しい。

「なるほどね、仕事を完璧にこなしていることは良いことだね。じゃあ、次は幸と厄は?」
 ラナンキュラス天才!さりげなく俺の隠し事から逸らしてくれた。

「「僕たちの眷属は、仕事はドジだけど、前向きに取り組む姿勢があって好き!」」
「そうなのね、前向きな気持ちは良いことだからその心を持ち続けることが大切ね」
 確かに俺には前向きな気持ちが少ないと感じるだからこそ、改善すべきだ。

「では、エヤミちゃんの眷属はどう?」
「ん~、掃除とか雑務はしっかりしてると思うけど、最近は引っ付き虫になっているのだ」
「ほう、引っ付き虫でも仕事はしっかりしていれば何も問題ないからばっちりね!」
 うっ、俺も最近は…いやずっと睡蓮様に引っ付いてばかりだ、改善が必要かもしれない。

「では、今出てきたこと以外に不安なところ、相談しておきたいところはない?」
「「「ん~」」」
 三人が声を揃えて考え込んだ。俺のダメなところ…睡蓮様と遊びすぎとか?睡蓮様も休みとか、俺がいない日も欲しいよな。

「あ~!そうじゃ。ラナンキュラスよ、先ほど言ったことじゃが、綾人が何か隠し事をしているようなのじゃ。お主はどう思う?」
 あぁ、さっきラナンキュラスが逸らしたのに~…。

「綾人くんの隠し事か…私はそうは思わなかったから気のせいじゃないかな?考えすぎも良くないかもしれないし、い、一旦本人に相談って形でもいいんじゃないかな?」
 ラナンキュラス、まじでナイス!
「そうか…ラナンキュラスも分からないのかありがとう」

「「僕たちの眷属が最近素っ気なくてどうしたんだろうって思っているんだ」」
「ん~、人間の気持ちはどうしても私たちじゃわからないことが多いのよね…。一旦様子見というのはどうかしら?」
「「分かった」」

 その後は他愛のない話ばかりをしていた。ひとまず俺は反省をしよう。睡蓮様に気づかれそうだし、引っ付き虫もよくない。
 お詫びとして四神に手料理を振舞った。栄養とか何が正しい組み合わせなのかわからないから、いろいろ出してみた。メインは油で揚げた唐揚げで、隠し味は麺つゆ!サクサクしている中にほんのりしょっぱさを混ぜることでおいしさを増した。汁物はわかめとブロックに切った豆腐をみそ汁として作った。そしてこの地域では人気の米である、蛇の目を使用している。だから、米粒一つ一つがキラキラしていて本当に七人の神様がいるようだ。食べるのが神様だけど…。

「美味しいぞ!綾人くん!」
「ラナンキュラス、食べるか喋るかどちらかにしてください」
「それ、澪ちゃんにも言われた!」
 高らかに笑うラナンキュラスは子どもその者。この町付近の神様は幼稚な神しかいないのか。と心の中でツッコミを入れて言うことを耐えた。

「「美味しい。この唐揚げ、ちょうどいいバランスで味が良い」」
 そりゃあ、料理を作るのは俺だけだし、睡蓮様は…控えめに言って下手。
 その言葉を考えた瞬間、睡蓮様から熱い眼差しが…ではなく、冷たく、何も言うなよ。と主張した眼差しが飛んできた。

 怖い…。でも可愛い。なんか小動物が威嚇しているみたいで微笑ましい。
「な!?綾人よ!もう考えるのやめい!頭の中に入ってくるのじゃ!」
「え!?そんなこと言われても…」
「やだぁ、いちゃいちゃしているわね!」
「「夫婦喧嘩なら他所でして」」
 みんなは興奮し、睡蓮様は怒る。ん~、考えるな、か。難しいな。
「じゃぁ、睡蓮様?大好きだよ!」
「なんじゃ急に!?」
「考えられなくなるから言葉で伝える!」
「な、なるほど…?」

 睡蓮様は可愛いな。ずっとこの時間が続けばどれほど良いものか…。






「花の香りが身を包む。そらに願おう。月明りに誘われて祈りを捧げましょう。ずっと見守ってくれる恋人きみに♪」

 朝の陽の光が、縁側で流れるような歌い方を持つ睡蓮様に優しく当たっている。その曲は睡蓮様の幼い声がしっかりと主旋律として似合う。

「睡蓮様、その曲はなに?」

「これか~?童が子どもの頃に合唱曲として歌いたかった曲じゃ。曲名は『花の妖精』じゃ。内容としては花の妖精少年の恋人によって自分を変えることができた。そして天、つまり死んだ君に祈り、感謝をする少年の物語」

 流暢に話す睡蓮様はなんだかすごく楽しそう。
「自分の人生を変えてくれたからこそ、少年は恋人に感謝を伝え、これまでのことを語る。いい内容じゃろ?」

「その曲が好きなんですか?」
 これほど流暢に話すということはおそらく好きなのか、思い出があるのか。はたまた…。

「この曲は童が生前のころ、学校で歌おうとしていたものじゃ」

 …歌おうと、かということは俺が考えた一番嫌な回答だ。つまり、生前に歌いたかったがなんかの理由で歌えなくなったのか。

「ごめん、話が重くなっちゃったね」
「よいよい、童はこの話をいつかしようと思っていたのじゃ」
「睡蓮様の過去?」

 睡蓮様の過去は気になるけど、嫉妬もするだろうし、重い話になる可能性もある。でも、気になることには変わりない。睡蓮様が話すのであれば俺はそれに答えるのみ。

「睡蓮様ってその曲のどこが好き?」
「そうじゃな。全部好きじゃが、強いて言うのであれば、この少年の思いが心に直接伝わってくる。歌っているとその情景が思い浮かんで泣けてくる。童はそこが好きじゃ」


「睡蓮様!俺は睡蓮様のそういう物事について真剣に考えるところが好き!大好き!」
「お主は、本当に童のことが好きじゃな」
 少し、笑いながら話す言葉にムカッとしつつ、お返しと言わんばかりの言葉を投げた。
「そうだよ!睡蓮様大好き!」
「そ、そうか!ありがとう」
 顔に出るほど驚愕を見せていたが、すぐに嬉しそうな顔に変化した。

「して、綾人よ。お主に頼みたいことがある。それは…」
 きた!これで…。

「以前、渡すことができなかったのじゃが、ラナンキュラスに渡してほしい巻物がある。これを持って行ってくれ」
「分かった!」
 これでもう、睡蓮様と今の姿で会うことはない。そのことを知っているからこそ、悲しい。覚悟はしていたがいざこうなると心が痛い。

 棚を開けるといつもと同じ睡蓮様の匂い。もう、家族と一緒に暮らしていた憎い匂いはしない。愛する匂いが充満する。でも、今はこの匂いが嫌だ。嫌いではないけど、どうしても拒んでしまう。
 着替えている中で何度も睡蓮様を見てしまう。音を立てずに茶を美味しく飲む睡蓮様。たまに窓越しに外を眺める睡蓮様。もうすべてが愛しく可愛い。

 身支度を済ませ、荷物は最小限持って巻物を懐に収めた。もう事前に巻物の中身はラナンキュラスに報告済みであるから必要はないけど、睡蓮様に悟られないように持っていく。
 社の障子を傷めずに優しく開けた。枯れた音が綺麗にされた社内とまだ昼の太陽に照らされた地面と自然に微かに流れた。

 身支度中に覚悟は決めた。

「睡蓮様、愛していますよ!」

 開けた障子の前に立つ睡蓮様に微かに伝わるように別れを告げた。しかし、睡蓮様は気づいてなさそう。やっぱりいつも言っていると疑問の一つも生まれないのか。寂しいけど、今はそれが一番。

「童も愛しているぞ」


 もう、睡蓮様の顔を見ると泣いてしまう。だから鳥居を抜けた階段は速足に。

 そして階段を降りた道で俺は…。




「綾人!おい、綾人!大丈夫か!?」
 重たく激しい痛みを感じるなか、好きな人の声が聞こえて目を開く。
「睡蓮様……」

「綾人…!すまない、童がおるはずなのに…お主をこんな目にあわせてしまって…」

 睡蓮様、それは違う!俺はリリー様からいただいた力で見たんだ。どう足掻いても何も変えることができない。決して睡蓮様のせいじゃない。俺の意志で動いたんだ。そこだけは勘違いしないでほしい…。

 しかし、綾人はその思いを伝えることも、いやそもそも声に出すことすらままならない。出せたとしても薄れゆく意識と喘いだ声のみ。

「…すい………ま、……………で…」
「もう話すな!綾人、休んでくれ」
 その後の記憶はない。いや、もう人間としては生きられないだろう。もうあの温かい睡蓮様の肌にも触れることができない。それは嫌だ。嫌だ!
 ずっと睡蓮様と居たい。
 でも、未来予知を見たとき、目を疑った。

 ──だって。



「綾人…すまない…綾人よ。愛しているぞ…ずっと。すまない。童の気持ちをもっと素直に言っていれば少なくとも今のような重い罪悪感に押し潰されることはないのに。すまない」

 睡蓮様が泣いている。慰めないと……。
「睡蓮様!もっと俺を愛してくれるの?」

 ぬるっと睡蓮様の背後に立ち、そう問いかける。
「?!?!綾人!?生きているのか?!でも体が…体が薄い。ゆ、幽霊なのか?」
 ああ、そっか。
 俺、死んだのか。でも未練があるから成仏できずに今ここに姿を現したのか。でもこれはいい。利用しよう。だって、祈っていた睡蓮様とずっと一緒に居ることができる。

「まあ、細かいことは置いといて」
「置くなー!」

「ふふ、でも俺は睡蓮様とまた、ずっと一緒に過ごせると思ったら嬉しいよ?」
「そ…そうか。……童も嬉しいぞ!」
 照れて顔が火照っている。かわいい。リンゴのように赤くなった顔に甘く暑い口づけを施す。

「な…なぜ、今なのじゃ!?」
 驚いてさらに顔が赤くなる。面白いしかわいい。
「今だからこそだよ~!」
 笑みを浮かべながら、赤らめて恥ずかしがる睡蓮様と顔を合わせる。
「睡蓮様!俺は死んでもあなたを愛していますよ」
「不穏なことを言うではない!」
 互いにクスクスと笑い合って、愛情を伝え合い、再び認め合った。
 
 綾人が幽霊になったことなど今はどうでもいい。それほど、互いに愛を認め合えたのだから関係はない。


 生前と何も変わらない夜明け。今日はいつもより早起きしたが、それよりもびっくりしたことがある。睡蓮様が俺よりも早く起きている。

 もしかして寝ていないんじゃないかと考えたがそれはすぐに否定した。なぜなら、今目の前に見える睡蓮様は、机に正座で座って、腕を乗せて考え込んでいるが、目は今にも眠そうに瞬きをしている。だから、二択に絞られた。俺を驚かせたくて早起きしたのか。はたまた、考え事があってあまり寝付けなかったのか。

 答えは後者だろう。
 なぜなら昨日、俺は死んだ。今後のことを考えているのかな。

 俺はそっと眠りかけている睡蓮様に優しく毛布を掛けた。
「…あ、綾人。おはよう」
「はい、おはようございます」
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